転生者がTS魔法少女になって頑張る話。   作:メルヘン侍

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展開が早い。


第二話 世界が見えない太陽はある

 その日の夜、あなたたちはいつものように家で過ごしていた。

 

 キッチンでは、ルミナが夕食を作っている。

 

 白いエプロン姿、長い青髪を後ろで軽くまとめながら慣れた手つきで包丁を動かしていた。

 

 雨音みたいに静かな動作は、見ているだけで妙に落ち着く。

 

 一方、リビングではプリンがソファに座ってテレビを眺めていた。

 

「現在、第三世代魔法少女ステラの人気は――」

 

「分析、露出頻度が高い」

 

「そりゃ人気者だしな……」

 

 あなたは苦笑しながら、洗濯物を畳んでいく。

 

 以前の自分なら、こんな生活は想像もしなかった。

 

 ルミナに会って、プリンに力を貰って、アークと戦うようになった。

 

 今の世界への不安も疑問も、消えたわけじゃないし、今だって燻る火はある。

 

 それでもこうして誰かと過ごす時間は、確かにあなたを救っていた。

 

「ノクス、お皿並べてもらえますか?」

 

「あ、うん」

 

 キッチンから、ルミナがこちらを見る。

 

 あなたは立ち上がり、食器棚へ向かった。

 

 その途中、プリンがぼそりと言う。

 

「完全に夫婦」

 

「やめろ」

 

「事実」

 

 即答、あなたが顔をしかめるとキッチンのルミナが少しだけ嬉しそうに目を細める。

 

 ……最近、隠すことはもうやめたらしい。

 

 そんなやり取りをしながら食事をして、テレビを見て、少しだけ笑って、静かに時間が流れていく。

 

 もう慣れた日常、帰る場所みたいになった三人の暮らしだった。

 

 「それも一旦、今日までか……」

 

 ぽつりと、あなたは呟いた。

 

 リビングには、テレビの音が静かに流れている。

 

 プリンはソファで丸くなりながら、ぼんやり画面を見ていた。

 

 ルミナは食後の片付けを終え、キッチンから戻ってくるところだった。

 

 その青い髪が、照明を受けて柔らかく揺れる。

 

 あなたは、そんな彼女の様子をうかがった。

 

 明日、あなたはステラのもとへ行く。

 

 同棲、仕事、必要なこと。

 

 そう説明は受けたし、ルミナも了承している。

 

 ……了承している、はずだ。

 

 けれど、やっぱり気になる。

 

 すると、ルミナはあなたの視線に気づいたらしい。

 

「どうしました?」

 

「……いや」

 

 あなたは少し迷ってから、小さく言う。

 

「その」

 

「大丈夫なのかなって」

 

「……私が?」

 

 こくりと頷く。

 

 ルミナは数秒だけ黙って、それから小さく息を吐いた。

 

「正直に言えば、嫌です」

 

「…………」

 

「かなり嫌です」

 

 ですよね。

 

 あなたは申し訳なくなるが、ルミナは怒っているわけではなかった。

 

 少し寂しそうに、でもどこか諦めたみたいに笑う。

 

「でも、ノクスは悪くないですから」

 

「秋葉さんが決めたことですし」

 

「それに」

 

 ルミナは、静かにこちらを見る。

 

「……ステラは、放っておけない子です」

 

 その声音は優しかったが、同時に心配の色も含んでいた。

 

 あなたは首を傾げる。

 

「そんなに危ない感じなの?」

 

「……うーん」

 

 ルミナは少し考えるように目を伏せ、静かに口を開く。

 

「魔法少女は皆、誰かに寄りかからないと生きていけないんです」

 

「…………」

 

「それを見つけないと、だめなんですよ」

 

 穏やかな声だけど、その言葉には妙な重みがあった。

 

 ルミナはソファへ腰掛けながら、続ける。

 

「家族でも、友達でも、恋人でも、なんでもいいんです」

 

 テレビの音だけが、静かに流れている。

 

 あなたは何も言えなかった。

 

 ルミナはそんなあなたを見て、少しだけ微笑む。

 

「私もそうでしたから」

 

「……え」

 

「ノクスに寄りかかって、やっと楽しく生きられるようになったんです」

 

 その言葉に、胸の奥が少し熱くなる。

 

 ルミナは、最初から強かったわけじゃない。

 

 綺麗で、優秀で、完璧に見える彼女も、本当はずっと壊れそうだった。

 

 あなたは今さらみたいに、それを理解する。

 

「だから」

 

 ルミナは静かに言った。

 

「ステラにも、多分必要なんです」

 

「……特に、あの子は」

 

 そこで言葉が止まり、沈黙。

 

 静かな部屋に、テレビの音だけが流れていた。

 

 ルミナは、何かを考えるように視線を落としたまま動かない。

 

 言うべきか、言わないべきか、そんな迷いが見えた。

 

 だが結局、彼女は小さく息を吐きそれ以上は何も言わなかった。

 

 きっと今はまだ、話すべきではないと思ったのだろう。

 

 あなたも無理に聞こうとはしなかった。

 

 代わりに、そっとルミナの隣へ座る。

 

 すると、ルミナは少しだけ驚いたあと静かに肩を預けてきた。

 

 細い重み、温かい体温、そのまま彼女は小さな声で呟く。

 

「寂しいです」

 

 あなたは、何も言えなかった。

 

 ただ離れないように、そっとその肩を抱き寄せた。

 

 静かな時間。

 

 少しだけ沈んだ空気が、リビングを包む。

 

 ――その数秒後。

 

「監視はします」

 

 プリンが突然言った。

 

「……へ?」

 

 あなたが振り向くと。

 

 プリンはソファの上で、無表情のままこちらを見ていた。

 

「ノクスが浮気しないか、監視対象に追加します」

 

「えっ」

 

「必要なら記録も取ります」

 

「やめて!?」

 

 あなたは思わず叫ぶ。

 

 だが、ルミナは否定しなかった。

 

「当然ですね」

 

「なんで!?」

 

 あなたはさらに動揺する。

 

 ルミナはあなたの肩へ寄りかかったまま、静かに続けた。

 

「私の告白を保留したまま他の女の子のところへ行くんですから」

 

「うっ」

 

 痛いところを突かれた。

 

 確かに、ルミナからの好意はもうどう考えても明確だった。

 

 なのにあなたはまだ、ちゃんと答えを返せていない。

 

 そんな状態で、別の女の子と同棲。

 

 字面だけ見ると最悪である。

 

「いやでも、仕事だし……!」

 

「ふふ」

 

 ルミナは小さく笑うが、その笑顔は妙に綺麗で少し怖い。

 

「ちゃんと帰ってきてくださいね?」

 

「はい……」

 

 反射的に頷いていた。

 

 一方、プリンは淡々と続ける。

 

「ステラとの接触頻度も確認し、共有も実施予定です」

 

「情報連携が早い……」

 

「当然です」

 

 プリンは機械的に答える。

 

 あなたは思わず頭を抱えた。

 

 明日からの生活に、早くも不安しかなかった。

 

 ――と。

 

 そこで、プリンがさらに追撃する。

 

「そもそも、ノクスは放置すると、女性を引っかける可能性が高いです」

 

「は!?!?」

 

 突然の言いがかりに、あなたは飛び上がった。

 

 だが、プリンは真顔のまま続ける。

 

「実例があります」

 

「ルミナ、ステラ、秋葉」

 

「増加傾向です」

 

「待って!?ステラと秋葉さんは違うから!」

 

 あなたは慌てて否定する。

 

 一方、ルミナは静かに目を細めていた。

 

「……確かに」

 

「なんで!?」

 

 味方がいない。

 

 プリンはさらに分析を続ける。

 

「あと、最近は私を撫でる頻度が減っています」

 

「…………へ?」

 

 あなたとルミナは、同時に目を丸くした。

 

 プリンは無表情のまま淡々と、本当に淡々と告げる。

 

「以前比で三二パーセント減少」

 

「測ってたの!?」

 

「当然です」

 

 プリンは即答した。

 

 ルミナが、思わず吹き出す。

 

「プリン、そういうの気にするんですね」

 

「私は家族ポジションなので、定期的な接触は必要です」

 

 機械みたいな口調なのに、妙に寂しそうだった。

 

 あなたは少し罪悪感を覚える。

 

「……ごめんな」

 

 そう言って、あなたはプリンの頭へ手を伸ばした。

 

 柔らかい感触、プリンは静かに目を細める。

 

「……許可します」

 

「上からだなぁ……」

 

 リビングに、小さな笑い声が広がる。

 

「それじゃあ」

 

 ルミナは、あなたへ身体を寄せたまま微笑む。

 

「私も、たくさんスキンシップしないとですね」

 

「……へ?」

 

 あなたは反射的に固まった。

 

 だが、ルミナは逃がしはしないとそっとあなたの腕へ抱きついてくる。

 

 甘い匂い、心臓が一気にうるさくなった。

 

「しばらく会えなくなりますし、魔力も、いっぱい貰っておきますね」

 

「っ……」

 

 静かなのに、妙に誘惑的で。

 

 普段の丁寧な口調なのに、どこか女王様みたいな余裕がある。

 

 完全に、あなたの反応を楽しんでいる顔だった。

 

「ちゃんと協力してくれますよね?」

 

「う……」

 

 断れるわけがない。

 

 というか、ルミナに近づかれるたび頭がぼうっとしていく。

 

 最近、本当に勝てなくなっている。

 

 ルミナはそんなあなたを見て、くすりと笑う。

 

「素直ですね」

 

「まるで従順なわんちゃんみたいです」

 

「ぅ……」

 

 反論できない。

 

 一方、プリンはソファの上から静かにこちらを見ていた。

 

「ノクス、完全に主導権を握られています」

 

「言わないで……」

 

 あなたは顔を真っ赤にしながら、ルミナへ抱き寄せられていく。

 

 そして、そんなあなたを見下ろすルミナはどこか満足そうに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 翌日 昼

 

 あなたはステラと共に、魔法少女管理庁・中部支部へ来ていた。

 

 管理庁本部とは違い、こちらはどこか開放的な雰囲気がある。

 

 白を基調とした広いロビー。

 

 大型モニターには、各地のアーク発生情報や魔法少女の活動映像が映し出されていた。

 

 職員たちも忙しそうに動いているが、本部ほど張り詰めた空気ではない。

 

 だが、そんな中でも。

 

「ステラちゃんだ!」

 

「今日もかわいいー!」

 

「握手してください!」

 

 ステラだけは別格だった。

 

 支部へ入った瞬間から、周囲の空気が一気に明るくなる。

 

 職員、整備班、見学らしい子供たち。

 

 皆が自然と彼女へ視線を向けていた。

 

 ステラは慣れた様子で、笑顔のまま手を振る。

 

「はいはーい!」

 

「ちゃんと勉強するんだよー!」

 

 まるでアイドルだった。

 

 いや、この世界において魔法少女は実際アイドルみたいなものなのだろう。

 

 あなたはその光景を眺めながら、小さく息を吐く。

 

「……すごいな」

 

「ん?」

 

 隣を歩いていたステラが、こちらを見上げる。

 

 近くで見ると、やはり眩しい。

 

 夕焼け色のポニーテール、きらきらした瞳、太陽みたいな笑顔、ルミナとはまるで違う。

 

 同じ魔法少女なのに、纏う空気が正反対だった。

 

「まあねー!」

 

 ステラは得意げに笑う。

 

「第三世代最強ですから!」

 

 胸を張る姿は、本当に自信に満ちている。

 

 あなたとステラは、管理庁の用意した送迎車へ乗り込んでいた。

 

 黒塗りの大型車。

 

 防音性が高いのか、ドアが閉まると外の喧騒がすっと遠ざかる。

 

 運転席には職員らしき女性、車は静かに発進し中部支部を離れていった。

 

 窓の外では、昼の街並みが流れていく。

 

 巨大モニター、魔法少女の広告、ステラの笑顔。

 

 どこへ行っても、この世界は魔法少女で満ちていた。

 

 一方、当の本人であるステラは隣の席で気楽そうに足を揺らしている。

 

「いやー、同棲ってなんかどきどきするね!」

 

「こっちはまだ状況飲み込めてないんだけど……」

 

「えー?」

 

 ステラは楽しそうに笑う。

 

 その笑顔は本当に自然で、作り物には見えない。

 

 だからこそ、余計にわからなくなる。

 

 あなたは少し迷ってから、口を開いた。

 

「結局、なんで俺たちは一緒に住むことになったんだ?秋葉さん、全然説明してくれなかったし」

 

「んー」

 

 ステラは窓の外を見ながら、少しだけ考える。

 

 そして、あっさりと言った。

 

「私、ちょっと危ないから?」

 

「……は?」

 

 あなたが固まると、ステラは数秒だけきょとんとして次の瞬間、けらけらと笑い出した。

 

「冗談だよ!そんな顔しないでよー!」

 

「いや、びっくりするだろ……」

 

 あなたは胸を押さえながら息を吐く。

 

 だが、ステラはまだ笑っていた。

 

 そのまま、にやにやした顔でこちらを見る。

 

「でも安心して!私はルミナちゃんみたいに、簡単に堕とされたりしないからね!」

 

「っ――!?」

 

 あなたは盛大にむせた。

 

「な、何言ってんの!?」

 

「だって完全に相思相愛じゃん、二人とも」

 

「いやそれは……」

 

 言葉に詰まっていると、ステラは楽しそうに身を乗り出してきた。

 

「しかもルミナちゃん、最近めちゃくちゃ余裕あるよねー!前より表情柔らかいし!絶対ノクスちゃんのおかげだよ!」

 

「…………」

 

 否定はできない。

 

 実際、最近のルミナはかなり変わった。

 

 活動外では笑うことも増えたし、感情も隠さなくなった。

 

 何より、あなたへの好意をもう全く隠していない。

 

「ふふーん」

 

 ステラは面白そうに笑う。

 

「ルミナちゃんをあそこまでデレさせた男とか、かなりレアだよ?」

 

「一応女なんだが……」

 

「あ、ごめんごめん!」

 

 ステラは軽い調子で謝る。

 

 だが、次の瞬間彼女は少しだけ目を細めた。

 

「でもさ、ノクスちゃんってなんか変な引力あるよね」

 

「……引力?」

 

「うん」

 

 ステラは窓の外を眺めながら、ぽつりと言う。

 

「みんな、寄りかかりたくなる感じ」

 

「…………」

 

 

 その言葉が、何故だか少しだけ胸に引っかかる。

 

 だが次の瞬間、ステラはまたいつもの明るい笑顔へ戻る。

 

「――なんてね!それも冗談!」

 

「どこまで本気なんだよ……」

 

 あなたは疲れたように息を吐く。

 

 ステラはけらけら笑ったあと、窓へ頬杖をついた。

 

 そして今度は少しだけ、真面目な声で言う。

 

「本当の理由はねー、この前の強大なアークが関連してるの」

 

「……メンシスか?」

 

 あなたは表情を引き締めた。

 

 あの戦いは、今でも鮮明に覚えている。

 

 空を覆う異常な魔力、一瞬で破壊された土地、死の気配。

 

 ステラはそんなあなたを見ながら、静かに続ける。

 

「わかると思うけど、メンシスってちょっと特殊だったんだよね!」

 

「特殊?」

 

「うん!」

 

 ステラは軽い口調のまま、けれど瞳だけは真っ直ぐ前を向いていた。

 

「普通のアークって、もっと単純なの!暴れたら、壊したりするだけ!」

 

「でも、メンシスは違った」

 

 車内が少し静かになる。

 

 エンジン音だけが、低く響いていた。

 

「“観測”してた!後はノクスちゃんのプリンちゃんを探してたのかな!」

 

「…………」

 

 あなたは無意識に息を呑み、ステラは続ける。

 

「だから秋葉さん、ちょっと焦ってるの!もし同じタイプがまた出たらまた狙われるかもしれないでしょ?」

 

「つまり、俺とプリンの保護と監視が目的ってことか?」

 

 右腕の再生、プリンの存在、メンシスからの反応。

 

 管理庁が警戒する理由としては、十分納得できる。

 

 だが、ステラは首を横に振った。

 

「もちろん、それもあるよ?」

 

「でも一番は別!」

 

 彼女はそう言って、シートへ背中を預ける。

 

 窓から差し込む光が、橙金の髪をきらきら照らしていた。

 

「ノクスちゃんって私と同じか、それ以上の魔法少女だから!」

 

 第三世代最強、管理庁のエース。

 

 それと同格、つまり魔法少女の中でもかなりの上澄みということだ。

 

「だからさ!もしまたメンシス級が出た時!別々に動くより、最初から組ませた方が早いじゃん?それが管理庁の結論!」

 

「……随分雑だな」

 

「秋葉さんだしねー!」

 

 それはちょっと納得してしまった。

 

 ステラは笑いながら続ける。

 

「まあでも!」

 

「まあでも!ノクスちゃん、本当に強いよねー!」

 

「私、正直ちょっとびっくりしたもん!」

 

「……そうか?」

 

「うん!」

 

 ステラはあなたを見る。

 

 そのきらきらした瞳が、ほんの少しだけ細まった。

 

「まあ普通、あんな戦い方しないけど!」

 

「死ぬの、怖くなかった?」

 

「…………」

 

 あなたは少しだけ黙る。

 

 当然、怖かった。

 

 右腕を失った瞬間なんて、本気で終わったと思った。

 

 けれど。

 

「……誰かがやんなきゃ駄目だろ」

 

 そう答えると、ステラは数秒だけあなたをじっと見つめた。

 

「……そっか!」

 

 彼女はまた笑う。

 

 太陽みたいな、眩しい笑顔。

 

 けれどその瞬間、あなたは何故か妙な違和感を覚えた。

 

 ステラは確かに、あなたを見ている。

 

 なのに、その視線はどこか自分ではない誰かを見ているような感覚があった。

 

「もう少しで着くよ!」

 

 ステラは窓の外を指差しながら、明るく言った。

 

 車はすでに、市街地から少し離れた高級住宅街へ入っている。

 

 広い道路、静かな街並み、いかにも管理庁上位魔法少女が住んでいそうな区域だった。

 

 一方、プリンはあなたの膝の上で静かに外を見ている。

 

「環境分析」

 

「平均所得、高水準」

 

「防犯設備も充実しています」

 

「なんでわかるんだよ……」

 

「観測です」

 

 いつものように淡々としていた。

 

「……そういえば」

 

 あなたはふと思い出したように口を開く。

 

「ステラの家族って?」

 

「あー」

 

 ステラは一瞬だけ空を見て、いつもの調子で笑った。

 

「魔法少女にはよくある話だけど!みんな死んじゃってます!」

 

「…………」

 

 あまりにも明るく言うものだから、逆に反応が遅れた。

 

「……悪い」

 

 あなたが謝るとステラはけろっとした顔で手を振る。

 

「気にしなくていいよー!」

 

「ほんとによくあることだから!」

 

 膝の上のプリンが、静かに補足した。

 

「正確には、家族を失った孤児の中から魔法少女適性がある者を管理庁庁保護下で育成するケースが多いです」

 

 淡々とした説明。

 

 けれど、その内容は重かった。

 

 ステラはそんな空気を振り払うように、ぱっと笑った。

 

「まあまあ!暗くならならないでよー!プリンちゃん、急に資料読み始めるのやめよ!」

 

「事実説明です」

 

「真面目だなぁ!」

 

 ステラはけらけら笑う。

 

 その笑顔は、本当に太陽みたいだった。

 

 だからこそ、逆に苦しく見える時がある。

 

「……でもさ」

 

 あなたは少し迷ってから言った。

 

「だったら別に、一緒に住む必要なくないか?組むだけなら、普通に連携すればいいだろ」

 

「……あー」

 

 ステラは納得したように頷く。

 

 そして次の瞬間、にぱっと笑った。

 

「私がルミナちゃん羨ましくて!ノクスちゃんと四六時中イチャイチャしたくなったの!」

 

「は!?」

 

 あなたは盛大にむせた。

 

「な、何言って――」

 

「警戒対象」

 

 プリンが即座に言う。

 

「ステラ、危険人物判定します」

 

「えー!?」

 

 ステラは楽しそうに笑った。

 

「冗談だってば!」

 

「でもルミナちゃんばっかずるいじゃん!」

 

「ノクスちゃん、最近よく話題の子で気になってたのに!完全に飼い慣らされてるし!」

 

「っ……!」

 

 あなたは言葉に詰まる。

 

 否定できないのがつらい。

 

 一方、プリンは静かに分析を続ける。

 

「ノクスは押しに弱い傾向があり、環境変化による流され率も高めです」

 

「データ化するな!」

 

「必要です」

 

 プリンは真顔だった。

 

 ステラはそんなあなたを見て、けらけら笑う。

 

「もう、ノクスちゃん反応おもしろーい!」

 

 楽しそうに笑うステラ。

 

 そして、車はそのままゆっくりと目的地へ到着した。

 

 結局、一緒に住む本当の理由は最後までよくわからないままだった。

 

 

 

*

 

 

 

 ステラの家へ到着した。

 

 広い、第一印象はそれだった。

 

 二階建て、セキュリティ完備、立地も良い。

 

 さすが管理庁トップクラスの魔法少女、待遇が違う。

 

「おじゃましまーす!」

 

「いやお前の家だろ」

 

 あなたが突っ込むと、ステラはけらけら笑った。

 

 その後、荷物を置き部屋を確認し、なんだかんだ問題なく時間は流れていった。

 

 ……のだが。

 

「これちゃんと洗ってないよな?」

 

「えへ!」

 

「誤魔化すな」

 

 あなたは頭を抱える。

 

 ステラは、壊滅的に家事ができなかった。

 

 料理、洗濯、掃除、全部だめ。

 

 特に料理は危険だった。

 

「なんでフライパン焦げるんだよ……」

 

「えー?」

 

「火力って強い方が早いじゃん!」

 

「極端なんだよ!」

 

 一方、プリンは静かに状況を観察している。

 

「ステラ、生存能力低めです」

 

「ひどい!」

 

「事実です」

 

 即答だった。

 

 あなたはため息を吐きながら、シンクへ向かう。

 

「……今までどうやって生活してたんだ?」

 

「あー」

 

 ステラはソファへ寝転びながら、悪びれもなく答えた。

 

「ほぼ管理庁で過ごしてた!」

 

「えっ」

 

「寝泊まりする日も多かったし!掃除とかも、たまに職員さんが来てくれてたから!」

 

「それで生きてこれたのか……」

 

 あなたは呆れながら部屋を見回す。

 

 ぱっと見は綺麗だが、よく見ると埃が溜まっている。

 

 忙しくて、最低限しか手が回っていない家だ。

 

 プリンも静かに頷く。

 

「清掃頻度が不足しています。衛生環境もやや悪化傾向です」

 

「うぐ……」

 

 ステラは少しだけ気まずそうに目を逸らした。

 

 あなたはその様子を見て、もう一度ため息を吐く。

 

 ……でも、嫌ではなかった。

 

 大怪我を負ってからら、ルミナが家事をやってくれることが多かったからだ。

 

 気づけば、かなり任せきりになっていた。

 

 だから、たまには自分がやろうという気持ちにもなる。

 

「……流石にこれはなぁ」

 

 あなたは袖をまくる。

 

「今日は俺がやるよ」

 

「えっ、いいの!?」

 

「その代わり、少しは覚えろよ?」

 

「が、頑張ります!」

 

 絶対覚えない顔だった。

 

 結局、あなたはエプロンを付け掃除機をかけ、洗濯を回し、キッチンを片付け、気づけば全部やっていた。

 

 一方、ステラはそんなあなたを見ながら、ソファの上で目を輝かせる。

 

「ノクスちゃん、お嫁さん力高すぎない!?」

 

「うるさい」

 

「これは依存形成の危険性があります」

 

 プリンが静かに言った。

 

「ステラが駄目になる可能性、高」

 

「もうなってる気がする……」

 

 あなたは疲れた顔で、山積みの洗濯物を見つめるのだった。

 

 そのまま、あなたは家事を進めていく。

 

 洗濯機を回し、掃除機をかけ、散らかった机を片付けていく。

 

 一方。

 

「むー……」

 

「なんでこんな難しいの……」

 

 ステラはリビングで、ぶーぶー文句を言っていた。

 

 現在、プリン指導のもと洗濯物の仕分けを行っている。

 

「白物と色物は分けてください」

 

「えー」

 

「全部一緒じゃだめ?」

 

「だめです」

 

「合理性がありません」

 

「厳しいー!」

 

 しかし、文句を言いながらもちゃんとやっているあたり真面目だった。

 

 あなたは少し笑って、そのまま別の部屋へ向かう。

 

 そこで、ふと壁に掛けられた写真が目に入った。

 

「……ん?」

 

 足が止まる。

 

 そこに写っていたのは、幼い頃のステラだった。

 

 今よりずっと小さく、髪も短い。

 

 だが、驚いたのはそこではない。

 

 今の姿からは想像できないくらい、不機嫌そうな表情をしていた。

 

 というより泣いた後なのだろうか、目元が少し赤くて口もへの字に曲がっている。

 

 盛大にぶすくれていた。

 

「……誰だこれ」

 

 思わず呟いてしまう。

 

 そして、その隣には一人の少女が立っていた。

 

 魔法少女姿。

 

 大人びた雰囲気。

 

 優しそうに笑うその少女へ、幼いステラはぴったり寄り添っている。

 

 家族だろうか。

 

 いや、それより。

 

 あなたはその顔に、妙な見覚えがあった。

 

「……あれ」

 

 どこかで見た気がする。

 

 確か、第二世代最強と呼ばれていた――

 

「ノクスちゃーん!」

 

 不意に、後ろからステラの声が飛んできた。

 

 あなたは振り返る。

 

 すると、廊下の向こうからステラがこちらを覗いていた。

 

「お風呂先入っていいよー!」

 

「あ、ああ」

 

「頑張って掃除したから!」

 

「……お前が?」

 

「うん!」

 

 ステラはえへんと胸を張る。

 

「ちゃんと浴槽も洗いました!」

 

「プリンちゃん監修で!」

 

「補助しました」

 

 プリンが静かに補足した。

 

「ステラ単独では、洗剤使用量が過剰でした」

 

「えっ、だっていっぱい入れた方が綺麗になるかなって!」

 

「極端なんだよ……」

 

 あなたは呆れながらも、少しだけ笑ってしまう。

 

 その様子がいつも通りすぎて、あなたは一旦考えるのをやめた。

 

 写真から視線を外し、そのまま浴室へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 夜

 

 ステラとの一日目を終えたあなたは、与えられた寝室にいた。

 

 広い部屋だった。

 

 管理庁が用意した来客用なのか、必要な家具は一通り揃っている。

 

 ベッド、机、棚。

 

 生活するには十分すぎるほどだ。

 

 窓の外では、街の灯りが静かに瞬いている。

 

 一方、プリンはベッドの端でいつものようにじっとしていた。

 

「……静かだな」

 

「現在、休息時間です」

 

「そういう問題じゃないんだけど」

 

 あなたは苦笑する。

 

 だが、その笑みもすぐに消えた。

 

 頭の中に、昼間見た写真が浮かぶ。

 

 幼いステラ、そして隣にいたあの魔法少女。

 

「……第二世代最強」

 

 確か、どこかで見たことがある。

 

 ニュース映像、管理庁の記録映像今から数年前だ。

 

 歴代でも最高クラスと呼ばれた、伝説的な魔法少女。

 

 名前は――

 

「未確認情報への過剰思考を確認」

 

 プリンが静かに言った。

 

「考えすぎは非効率です」

 

「……まあな」

 

 あなたはベッドへ倒れ込む。

 

 天井を見上げながら、小さく息を吐いた。

 

 ステラは明るい、眩しいくらいに。

 

 誰からも好かれて、笑って、人気者で。

 

 でも時々、ほんの一瞬だけ、その笑顔の奥が見えなくなる。

 

 今日の車の中もそうだった。

 

 あなたを見ながらまるで、別の誰かを見ているみたいな顔をした。

 

「……気のせい、か」

 

 そう呟く。

 

 だが、胸の奥に残った違和感は消えなかった。

 

 不意にこんこん、と部屋の扉が軽く叩かれた。

 

「……ん?」

 

 あなたが身体を起こすと、扉の向こうから聞き慣れた明るい声がした。

 

「ノクスちゃーん!起きてるー?」

 

「……起きてるけど」

 

「入っていい?」

 

 少しだけ間が空く。

 

 あなたは無意識に、ルミナとの生活を思い出していた。

 

 夜、部屋、女の子、嫌な予感しかしない。

 

 一方、プリンは静かに告げる。

 

「警戒推奨」

 

「いやお前絶対面白がってるだろ」

 

「否定しません」

 

 こいつ正直すぎる。

 

「……入っていいぞ」

 

 そう返すと、扉がゆっくり開いた。

 

 そこに立っていたのは、パジャマ姿のステラだった。

 

 大きめのTシャツに、短いジャージ。

 

 高い位置で結んでいた髪も下ろされていて、昼間より少し幼く見える。

 

「やっほー!」

 

「どうしたんだよ」

 

「えへへ」

 

 ステラは悪びれもなく部屋へ入ってくる。

 

 そして、当然みたいにベッドへ腰掛けた。

 

「いやーなんか今日!一人で寝るの寂しくて!」

 

「帰れ」

 

「即答!?」

 

 ステラはショックを受けた顔をする。

 

 だが、あなたは真顔だった。

 

「ルミナに殺される」

 

「大丈夫大丈夫!ばれなきゃセーフ!」

 

「アウトなんだよ!」

 

 一方、プリンは静かに口を開く。

 

「既に記録中です」

 

「やめろ」

 

「情報共有準備完了」

 

「早い!」

 

 ステラはけらけら笑った。

 

 その笑顔は、本当に楽しそうだった。

 

 でも次の瞬間、彼女はふっと力を抜く。

 

「……冗談だよ」

 

「ただ」

 

 ステラは少しだけ視線を落とした。

 

「久しぶりに……家にいるって感じしたから」

 

「…………」

 

 その言葉だけ、妙に静かだった。

 

 昼間みたいな、明るい演技が混ざっていない。

 

 あなたは何も言えなくなる。

 

 ステラはそんな空気を誤魔化すみたいに、すぐ笑った。

 

「だからちょっと話したくなっただけ!」

 

「……そっか」

 

 それ以上、追及はできなかった。

 

 それから三人は、そのまま雑談を始めた。

 

 ステラはベッドへ座り込み、あなたは壁へ背を預け、プリンは相変わらず静かにベッドの端へ座っている。

 

「しかしノクスちゃん。今日めちゃくちゃ働いてたよねー!」

 

「誰のせいだと思ってんだ」

 

「えへ!」

 

「誤魔化すな」

 

 ステラは楽しそうに笑う。

 

 その笑顔を見ると、なんだか強く言いづらかった。

 

「でも本当に助かったよ!家こんな綺麗になったの久しぶり!」

 

「それ、割とやばいだろ」

 

「大丈夫大丈夫!管理庁の人たち、たまに掃除してくれてたし!」

 

「他人任せすぎる……」

 

 プリンが静かに補足する。

 

「管理庁職員からの評価」

 

『ステラの部屋清掃任務は高難度』

 

「そんな評価あるの!?」

 

「存在します」

 

 プリンは淡々としていた。

 

 ステラはベッドへ倒れ込みながら、ぶーぶー文句を言う。

 

「だって忙しいんだもん!」

 

「アーク討伐!取材!イベント!配信!帰ったら寝る!」

 

「アイドルかよ……」

 

「実際そんな感じ!」

 

 ステラは胸を張る。

 

 この世界の魔法少女は、本当に芸能人みたいな扱いなのだろう。

 

 すると、ステラがふとあなたを見る。

 

「ノクスちゃんってさ、生活力高いよねー!」

 

「そうか?」

 

「うん!料理できるし!掃除もできるし!すっごいちゃんとしてる!

 

「まあ……最低限くらいはな」

 

 あなたが肩をすくめると、ステラは感心したように頷く。

 

「いいないいなー!!」

 

「ノクスちゃんと結婚したら絶対幸せだよね!」

 

「なんでそうなるんだよ!?」

 

「だって尽くしてくれそう!あと押しに弱い!」

 

「最後いらないだろ!」

 

「重要項目です」

 

 プリンが即座に同意した。

 

「ノクスは流されやすい傾向があります」

 

「お前ほんと最近容赦ないな!?」

 

 ステラはけらけら笑う。

 

 その笑い声が、静かな部屋へ広がっていく。

 

 ひとしきり騒いだあと。

 

 部屋には、穏やかな空気だけが残っていた。

 

 ステラはベッドへ寝転がったまま、天井をぼんやり見上げている。

 

 プリンは静かに待機状態、窓の外では夜の街明かりが淡く揺れていた。

 

 そんな中ふとステラが小さく息を吐く。

 

「……いいなぁ。ルミナちゃん」

 

「……?」

 

 あなたは顔を上げた。

 

 ステラは笑っていなかった。

 

 いや、正確には笑おうとしている。

 

 いつもの癖みたいに。

 

 でも、今だけはその笑顔が少し弱かった。

 

「羨ましい」

 

 ぽつりと落ちたその声は、先ほどまでの冗談には聞こえなかった。

 

 軽口ならもっと明るい、もっとふざけている。

 

 けれど今のそれは、胸の奥から零れた本音みたいだった。

 

 あなたは少しだけ黙る。

 

 ステラはそんな空気を誤魔化すように、へらっと笑った。

 

「あはは、変なこと言っちゃった!」

 

「忘れて――」

 

 最後まで聞かず、あなたは静かに立ち上がる。

 

「……ノクスちゃん?」

 

 ステラが不思議そうにこちらを見る。

 

 あなたは何も言わないまま、そのまま彼女へ近づいた。

 

 一歩、また一歩、ベッドのそばまで行く。

 

 そして、そっとステラの肩へ触れた。

 

「え」

 

 ステラの身体がぴくりと揺れる。

 

 明らかに動揺していた。

 

 けれど、あなたはそのままゆっくり彼女を引き寄せる。

 

「ちょ、ちょっと待って!なになに!」

 

「ノクスちゃん!?」

 

 混乱した声。

 

 だが、あなたは構わずベッドへ腰掛けた。

 

 そしてぽす、と。

 

 ステラの頭を、自分の膝の上へ乗せる。

 

「…………え」

 

 一瞬、時間が止まったみたいだった。

 

 ステラは完全に固まる。

 

 大きな瞳を見開いて、瞬きすら止まっていた。

 

 膝枕、そう呼ばれるやつだ。

 

 自分でも、何をしているのかわからなかった。

 

 ただ、さっきの声を聞いて放っておけなかった。

 

 それだけだった。

 

 あなたは、何も言わなかった。

 

 ただ、膝の上へ乗せたステラの頭をそっと撫でる。

 

 優しく、ゆっくり。

 

 指が、橙金の髪をすり抜けていく。

 

「っ……!?」

 

 ステラの肩が跳ねた。

 

「ちょ、ちょっと待って!?なにこれ!?ノクスちゃん!?」

 

 完全に混乱していた。

 

 さっきまでの余裕なんて、どこにもない。

 

 顔を真っ赤にして、視線をぐるぐるさせている。

 

「これだめでしょ!?絶対だめなやつ!ルミナちゃんに怒られるって!浮気だよ!」

 

「浮気判定だよこれぇ!?」

 

 一方、プリンは静かに分析していた。

 

「現状、ノクスからの接触です」

 

「責任割合、ノクス側が高め」

 

「プリンちゃんまで冷静に状況整理しないで!?」

 

 ステラは半泣きみたいな声を出す。

 

 けれど、あなたは気にしなかった。

 

 ただ静かに、彼女の頭を撫で続ける。

 

 あなたの願いは、ずっと同じだ。

 

 苦しんでいる人を、放っておけない。

 

 ルミナを助けた時もそうだったし、それは今も変わっていない。

 

 だから、あなたは小さく息を吐いて。

 

 膝の上で固まっている少女へ、静かに囁いた。

 

「……頑張ってて、偉いな」

 

「――っ」

 

 その瞬間、ステラの身体がびくりと震えた。

 

 騒いでいた声が、一瞬だけ止まる。

 

 あなたはそのまま、ぽつりと言った。

 

「昼に見たんだ」

 

「……え?」

 

「写真」

 

「お前が、小さい頃の」

 

 ステラの身体が、ぴたりと固まる。

 

「…… 隣にいた人、知ってるの?」

 

 いつもの明るい声じゃなかった。

 

 少しだけ、掠れている。

 

 あなたはゆっくり頷く。

 

「イグニス、だろ」

 

「…………」

 

 沈黙、数秒、部屋から音が消えた。

 

 プリンすら、何も言わない。

 

 やがて、ステラは小さく笑った。

 

「そっか、まあ、有名人だもんね」

 

 その笑い方は、少しだけ寂しかった。

 

 あなたは静かに続ける。

 

「第二世代最強」

 

「炎の魔法少女」

 

「四年前の大規模戦闘で、皆を守った英雄」

 

「ニュースでもずっとやってた」

 

 当時を思い出す。

 

 毎日のように流れていた映像、燃え盛る炎、笑いながら戦う少女。

 

 掲示板でも、ニュースでも。

 

 みんながその名前を叫んでいた。

 

「……俺でも覚えてる」

 

 そう言うと、ステラは少しだけ目を細めた。

 

「そっかぁ」

 

 その声は、どこか嬉しそうだった。

 

 あなたは撫でる手を止めない。

 

 そして、静かに尋ねた。

 

「……あの人」

 

「お前の、なんなんだ?」

 

 あなたが問うと、ステラはすぐには答えなかった。

 

 膝の上で、静かに目を伏せる。

 

 部屋に沈黙が落ちる。

 

 数秒、もっと長かったかもしれない。

 

 やがて、ステラは小さく息を吐いて困ったように笑った。

 

「……早いよ、ノクスちゃん」

 

「……?」

 

「まだ一日しか経ってないのにさ」

 

 彼女はあなたを見上げる。

 

 いつもの、からかうような笑み。

 

 けれどその奥には、少しだけ動揺が混ざっていた。

 

「私に興味津々じゃん」

 

「別にそんなんじゃ――」

 

「えー?」

 

「写真見ただけで気にして」

 

「頭なでなでして」

 

「急に優しくして」

 

「これもう完全に気になる女の子への態度では?」

 

「違う」

 

 あなたは即答し、ステラが少し目を丸くする。

 

「……接した時間とか、関係ない」

 

 あなたは静かに言う。

 

「一日とか、一週間とか、そんなのどうでもいい」

 

「…………」

 

「ただ」

 

 そこで、あなたは少しだけ言葉を探した。

 

 うまく説明できない。

 

 でも、気持ちははっきりしていた。

 

「お前の助けになりたい」

 

 ステラの瞳が揺れる。

 

 あなたはそのまま続けた。

 

「お前が苦しんでるのは、嫌なんだよ」

 

「…………っ」

 

 ステラが息を呑む。

 

 膝の上で、彼女の指先が少し震えた。

 

「無理して笑ってんなら」

 

「せめて今くらい、休め」

 

 そう言って、あなたはもう一度優しく彼女の頭を撫でた。

 

 ステラは何も言わなかった。

 

 ただ静かに、あなたの膝の上で目を伏せている。

 

 あなたも、それ以上は何も言わない。

 

 ただ優しく、ゆっくり、頭を撫で続けた。

 

 指先が、柔らかな髪を梳いていく。

 

 何分も、何分も、部屋にはもう小さな衣擦れの音しかなかった。

 

 プリンも珍しく、何も言わない。

 

 静かな夜だった。

 

 やがて、不意にステラが身体を起こす。

 

「ステラ?」

 

 あなたの膝から離れ、少しだけ距離を取る。

 

 そのまま、ステラはこちらを見た。

 

 不機嫌そうに、むすっとした顔で。

 

「……もう寝る」

 

 ぽつりと、それだけ呟く。

 

 いつもの元気さは、どこにもなかった。

 

 太陽みたいな笑顔も、騒がしい声も、全部消えている。

 

 代わりにそこにいたのは。

 

 耳まで真っ赤にして、顔もりんごみたいに赤く染めて。

 

 どうしていいかわからなくなっている、一人の少女だった。

 

 あなたはそんなステラを見て、少しだけ目を瞬く。

 

 一方、プリンは静かに分析していた。

 

「心拍数上昇を確認」

 

「羞恥反応の可能性、高」

 

「言うなぁ!?」

 

 ステラが即座に叫ぶ。

 

 その声だけは、少しいつもの調子に戻っていた。

 

 けれど、彼女はすぐ顔を逸らし。

 

「……おやすみ!」

 

 半ば逃げるように部屋を出て行った。

 

 扉が閉まり、静寂。

 

 そして、あなたの膝の上にはまだほんのりと、彼女の体温だけが残っていた。




ほどほどに満足。

誰が好き?

  • ノクス
  • ルミナ
  • ステラ
  • プリン
  • 秋葉
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