後、そういえばなのですがルミナって一回も戦うところ書いてなくない?
翌朝
「ノクスちゃーん!!朝ですよー!!」
ばんばんばん、と勢いよく扉が叩かれる。
あなたは布団の中で顔をしかめた。
「……うるさ……」
「朝ですー!起きてくださーい!」
「まだ時間あるだろ……」
「ありますけど、お腹空きました!」
「それお前の都合だろ……」
一方、ベッドの端ではプリンが静かに告げる。
「現在時刻、午前六時二十分です」
「ノクスは睡眠不足気味なので、もう少し休息した方が効率的かと」
「プリンだけ優しい……」
あなたは重たい身体を起こしながら、小さく息を吐いた。
昨日は結局、なかなか寝付けなかった。
……いや、原因はかなり明確なのだが。
膝枕で、撫でて、真っ赤になって逃げていったステラ。
「…………」
思い返した瞬間、なんか気まずくなった。
自分でも、なんであんなことをしたのかわからない。
放っておけなかった、とは思う。
でも、距離感としては完全におかしい。
ルミナに知られたら絶対まずい。
「ノクスちゃーん!」
外から再び声が飛んでくる。
「起きてますかー!」
「起きてる……」
返事をすると、数秒後がちゃ、と扉が開いた。
「おはよー!」
そこに立っていたのは、既に制服姿のステラだった。
夕焼け色のポニーテール、太陽みたいな笑顔。
……そして。
目が合った瞬間。
「…………」
「……?」
何故かステラが固まって数秒、やがて彼女の顔がじわじわ赤くなっていく。
「どした?」
「っ、なんでもない!!」
勢いよく顔を逸らされた。
「……?」
あなたは首を傾げる一方、プリンは静かに分析していた。
「昨夜の膝枕を思い出している可能性が高いです」
「プリンちゃん!!?」
ステラが真っ赤になる。
「心拍数も上昇しています」
「わー!?言わないでぇ!?」
「え、そんな恥ずかしがることだったのか……?」
「するよ!?普通するからね!?」
ステラは顔を押さえながら叫ぶ。
「急にあんな優しくされたらびっくりするでしょ!?」
「……悪かった?」
「うっ」
するとステラが一瞬詰まった。
「……それは、その」
「別に嫌じゃなかったけど……」
「……?」
「わー!!今のなし!!」
ステラは耳まで真っ赤にしながらぶんぶん手を振る。
「と、とにかく朝ごはんです!!」
「ちゃんと作れるからね!」
「嫌な予感しかしない」
その数十分後。
「……なんで目玉焼きが黒いんだよ」
「えー?」
キッチンでは、ステラが真剣な顔でフライパンを見つめていた。
煙が出ている。
あなたは無言でフライパンを奪い取った。
「貸せ」
「あっ」
「火力強すぎ。油多すぎ。あと触りすぎ」
「料理って難しくない!?」
「お前が極端なんだよ……」
一方、プリンは静かに状況を見ていた。
「ステラの調理技能は壊滅的です」
「ひどい!?」
「事実です」
即答、あなたはため息を吐きながら冷蔵庫を開く。
「……今までどうやって生きてたんだ」
「管理庁!」
「万能ワードみたいに言うな」
「ほんとなんだよー!」
ステラは悪びれもなく笑う。
あなたは呆れながらも、慣れた手つきで調理を始めた。
卵を割り、味噌汁を温め、焦げたベーコンを避けながら新しく焼く。
すると背後から、感心したような声が聞こえた。
「……ほんと手際いいねぇ!」
「普通だろ」
「いやいや!絶対いいお嫁さんになれるタイプだ!」
「またそれか」
「ルミナちゃんも幸せ者だね!」
「だからそういう関係じゃ――」
「はいはい」
まったく信じていない顔、プリンも静かに補足する。
「ルミナとの同居後、ノクスの家事能力は向上傾向にあります」
「分析するな」
「事実共有です」
結局、朝食はあなたが全部作ることになった。
食卓へ並べると、ステラがぱっと目を輝かせる。
「わー!!すごい!」
「そんな大したもんじゃないだろ」
「いやすごいですよ!ちゃんと朝ごはんです!」
「お前今まで何食って生きてたんだ……」
「栄養バー!」
「終わってるな……」
プリンが静かに頷く。
「栄養状態の偏りも確認しています」
「プリンちゃん最近厳しくない!?」
「健康管理は重要です」
ステラはぶーぶー文句を言いながらも、嬉しそうに席へ座った。
「いただきます!」
元気よく手を合わせる。
その姿は、昨日の夜とはまるで別人みたいだった。
明るくて、騒がしくて、見ているだけで周囲まで引っ張られるような空気がある。
「……おいしい!」
ステラが目を輝かせる。
「美味しい!ほんと好き!」
「味噌汁だぞ?」
「ちゃんとしたご飯って感じする!」
そう言って本当に嬉しそうに笑っている
笑顔はやっぱり、太陽みたいだった。
*
朝食を終えた後
あなたたちは、そのまま管理庁中部支部に併設された育成機関へ来ていた。
広い廊下、白を基調にした清潔な施設内では小さな少女たちが朝の訓練を行っている。
走り込み、魔力制御、模擬戦、年齢はほとんどが小学生くらいで、高くても中学生程度。
まだランドセルが似合いそうな年齢の子たちが、“未来の魔法少女”として育てられている。
その光景に、あなたは少しだけ胸の奥が重くなる。
だが、そんな施設へステラが足を踏み入れた瞬間だった。
「――ステラさん!!」
空気が変わり、訓練していた候補生たちが一斉にこちらを見る。
そして次の瞬間。
「ステラさん来たー!!」
「おはようございます!!」
「ほんとに来てくれた!!」
ぱっと、場が明るくなる。
まるで曇り空に、一気に陽が差したみたいだった。
「おはよー!」
ステラは満面の笑みで、大きく手を振る。
その笑顔を見た瞬間、緊張していた空気が嘘みたいに柔らかくなっていく。
あなたは少し目を丸くした。
人気者というだけじゃなく、安心されている。
そんな感じだった。
「アオちゃん、今日はちゃんと朝ごはん食べたー?」
「食べました!」
「えらい!」
ステラは笑いながら、すれ違った小さな候補生の頭をぽんぽん撫でる。
「ミユ、また包帯増えてるー」
「うっ」
「無茶したでしょ?」
「……ちょっとだけ」
「ちょっとじゃない顔してる!」
ステラは困ったように笑いながらも、その声は優しかった。
「怪我隠しちゃだめだよ?」
「痛い時はちゃんと言う!」
「……はい」
名前を呼ばれた少女は、少し照れくさそうに笑った。
あなたは、その様子を見ながら思わず呟く。
「……全員の名前、覚えてるのか?」
「ん?」
ステラはきょとんとしてから、当たり前みたいに頷いた。
「覚えてるよ?」
「だって毎回会うし!」
「いや、人数かなりいるだろ……」
「でも忘れたら悲しいじゃん!」
そう言って笑う。
そこには、本当に打算がなかった。
自然に、呼吸みたいに、この子は人に優しくしている。
すると。
「ステラさん……」
小さな声に振り向くと、小柄な候補生の少女が立っていた。
制服の裾をぎゅっと握って、不安そうに俯いている。
「んー?」
ステラはすぐしゃがみ込んだ。
ちゃんと、その子と目線を合わせるために。
「どうしたの?」
「……今日の訓練、やりたくない、です……」
周囲の空気が少し静かになる。
多分、その子は何度か失敗しているのだろう。
けれどステラは、困った顔をしなかった。
むしろ、ぱっと笑う。
「大丈夫!失敗していいんだよ!」
「……え?」
「だって候補生だもん!」
あっけらかんと言った。
「いっぱい失敗して、いっぱい覚えるの!」
「私なんて昔、もっと酷かったし!」
「ステラさんが!?」
周囲がざわつき、ステラはけらけら笑った。
「壁壊したことあるし!」
「規模が大きい!?」
候補生たちが吹き出して、空気が一気に軽くなる。
そしてステラは、その少女の頭を優しく撫でた。
「大丈夫」
「ちゃんと見てるから」
「…………」
「だから安心して行っておいで!」
少女は目をぱちぱちさせて、小さく頷いた。
「……うん!」
さっきまで泣きそうだった顔は、笑顔になった。
あなたは、その様子を静かに見ていた。
――すごい。
素直に、そう思った。
ステラは特別なことをしていないし、大袈裟な言葉も使わない。
ただ笑って、隣に立って、背中を押しているだけ。
それなのに、周囲の空気ごと変えてしまう。
「ステラさん!」
今度は別の候補生たちが駆け寄ってくる。
「この前の大規模戦闘見ました!」
「最後の一撃、すっごかったです!!」
「ほんとー!?」
ステラは嬉しそうに笑う。
「ありがと!」
「でも真似しちゃだめだからね!」
「あれ結構無茶してるから!」
候補生たちがきゃっきゃと盛り上がる。
誰もが、ステラを見ていた。
憧れの目で、信頼の目で、希望を見るみたいに、その光景を見ながらあなたはふと思う。
ルミナとは、全然違う。
ルミナは静かな救いだった。
雨の中で、そっと隣に立ってくれるような人。
でもステラは違う。
この子は、もっと眩しい。
世界ごと照らしてしまうみたいな笑顔で。
無理やりでも、誰かを前へ向かせる。
本当に、“太陽”みたいだった。
「――ノクスちゃん!」
不意に、ステラがこちらを振り返る。
「ぼーっとしてる!」
「……してない」
「してたよー!」
ステラは楽しそうに笑いながら近づいてくる。
その後ろには、候補生たち。
「この子がノクスちゃん!この前の戦闘でめちゃくちゃ暴れてた子!」
「言い方」
候補生たちが笑い出す。
「腕再生したんですか!?」
「痛くなかったって本当ですか!?」
「いや痛かったよ!?」
「でも最後まで戦っててすごかったです!」
「う……」
真っ直ぐ尊敬されると弱い。
あなたが困っていると、ステラが横でけらけら笑った。
「ノクスちゃん、褒められるの苦手なんだよねー!」
「うるさい」
「かわいい」
「なんでだよ」
また笑い声が広がる。
その輪の中心で、ステラは誰より楽しそうに笑っていた。
そして、あなたは理解する。
この場所には“ステラさんがいるから頑張れる”
そう思っている子たちが、たくさんいるのだと。
救われた子が、たくさんいるのだと。
彼女は第三世代最強で、誰からも愛される。
“太陽”なのだと。
*
育成機関での時間を終えた、その帰りだった。
管理庁中部支部の廊下を歩いていたステラが、不意に足を止める。
同時にぴこん、と施設内の大型モニターが赤く点滅した。
『中部第四区域にてアーク反応を確認』
『脅威判定、C+級』
『周辺魔法少女へ緊急出動要請』
無機質なアナウンスが、施設内へ響き、さっきまで賑やかだった候補生たちも一瞬だけ静まり返った。
だが。
「――よしっ!」
ステラは、ぱっと笑った。
その笑顔は、さっきまでと何も変わらない。
「行こっか、ノクスちゃん!」
「……ああ」
あなたは頷く。
けれど、隣のステラを見て少しだけ思う。
本当に切り替えが早い。
数秒前まで、小さな候補生たちに囲まれて笑っていたのに今はもう、“第三世代最強”の顔をしていた。
プリンが静かに告げる。
「現地までの最短ルートを表示します」
「移動支援を開始」
「助かる」
あなたたちはそのまま支部を飛び出した。
*
現場は市街地外れの工業区域だった。
崩れたコンテナ、割れた道路、遠くで警報が鳴っている。
一般人の避難は、すでに完了済みらしい。
カメラを構えた野次馬が見えるのは不快だが。
「対象確認!」
ステラが空を見上げると、そこにいたのは巨大な黒い塊だった。
獣とも虫ともつかない異形、複数の脚を道路へ突き刺しながら建物を軋ませている。
全身を覆う黒い外殻の隙間から、赤黒い光が脈動していた。
それが低い咆哮を響かせびり、と空気が震えた。
「うわ、でっか……」
あなたは思わず呟くと、隣でステラが笑った。
「大丈夫大丈夫!これくらいなら、二人で余裕だよ!」
その言葉と同時、ステラの身体が橙金の光へ包まれて魔力が弾ける。
次の瞬間、彼女はもう空へ飛び上がっていた。
「――っ、おい!?」
「先行くねー!!」
あまりにも躊躇がなかった。
空中でステラが星型の武器を振り抜く。
巨大なメイス、鈍器みたいな重量武装。
その先端へ、橙色の魔力が一気に収束する。
「はぁっ!!」
轟音、叩き込まれた一撃でアークの外殻が砕け散った。
衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。
だが次の瞬間、アークの尾のような器官が、横薙ぎに振るわれた。
「ステラ!」
あなたは反射的に叫ぶ。
「っとぉ!!」
ステラは笑いながら、その一撃を真正面から弾き返した。
無茶苦茶だった。
普通は避けるが、この少女は真正面から殴り返す。
そのまま回転、さらに追撃、空中で何度も武器を叩きつける。
戦い方が、かなり荒い。
しかし、火力が圧倒的だ。
ルミナみたいな精密さはないが、圧倒的に強い。
「っ……!」
あなたも地面を蹴った。
ピンクの魔力が右腕へ集束し、踏み込み。
加速してそのままアークの脚部へ拳を叩き込む。
衝撃、巨体がわずかによろめいた。
「ナイスー!」
上空からステラが笑う。
「ノクスちゃん、ほんと火力高いね!」
「そっちこそ!」
言い返した瞬間、アークの外殻が開いた。
赤黒い光が収束する。
「――来ます!」
プリンが警告する次の瞬間、熱線が放たれた。
地面を焼きながら一直線に薙ぎ払われる。
あなたは咄嗟に飛び退いた。
だが。
「危な――」
言いかけて、止まる。
ステラは避けずに、真正面から突っ込んでいた。
「おぉぉぉっ!!」
笑いながら、熱線へ向かって、星のメイスを振り上げる。
魔力が爆発し、橙色の閃光。
次の瞬間、熱線そのものが叩き砕かれた。
「は……?」
あなたは言葉を失う。
いや、強い。
めちゃくちゃ強い。
でも、今のは危険すぎる。
熱線の余波で、ステラの腕が少し焼けていた。
それでも本人は気にした様子もない。
「まだまだぁ!!」
そのまま再突撃、躊躇がない。
自分が傷つくことへの迷いが、妙に薄い。
その姿を見た瞬間、あなたの胸の奥が嫌な感じにざわついた。
――ああ、これか。
ルミナはずっと、こんな気持ちだったのか。
自分が無茶をするたび、傷つくたび。
あの子は、ずっとこういう気持ちで見ていたのか。
「ステラ!」
気づけば、叫んでいた。
「少し下がれ!」
「えー!?」
ステラが空中で振り向く。
「まだいけるよー!」
「そういう問題じゃない!」
「え?」
一瞬、ステラが少し目を丸くした。
だが次の瞬間、アークが再び咆哮し、大量の瓦礫が浮き上がった。
「っ、散弾来ます!」
プリンが即座に告げ、瓦礫の豪雨。
あなたは反射的に前へ出て、魔力を展開し叩き落とす。
だが数が多く、横を抜けた破片がステラへ迫る。
「甘ーい!」
ステラは笑いながら、それすらメイスで粉砕した。
だが、破片はステラの足を掠め血が出ている。
ステラは全く気にしていない。
豪快、本当に豪快だった。
「……っ」
胸が、ざわつく。
あなたはその戦い方が嫌だと思った。
強いのに、眩しいのに、見ていて怖い。
すると、アークの身体が大きく膨張した。
「ノクスちゃん!」
ステラの声。
「合わせるよ!」
「――ああ!」
あなたは地面を蹴り、魔力が右腕へ集中する。
一方、上空ではステラが星型メイスを大きく振りかぶっていた。
橙色の魔力が渦を巻く。
太陽みたいな光。
「せーのっ!!」
同時だった。
あなたの拳。
ステラの一撃。
ピンクと橙の魔力が、同時にアークへ叩き込まれる。
轟音、空気が震える次の瞬間、巨大な異形は完全に砕け散り、黒い残骸が崩れ落ちていく。
静寂、そして。
「っしゃー!!勝ちぃ!!」
ステラが満面の笑みで着地した。
汗だく、腕には小さな火傷、それでも太陽みたいに笑っている。
「いやー!いい連携だったね!」
「…………」
あなたはすぐ返事ができず、ステラは首を傾げる。
「ノクスちゃん?」
「……お前」
「ん?」
「もうちょい、自分大事にしろよ」
一瞬、ステラの表情が止まった。
ほんの、一瞬だけ。
だが次の瞬間には、またいつもの笑顔へ戻る。
「大丈夫大丈夫!」
彼女は明るく笑う。
「魔法少女だもん!」
その言葉は、この世界ではきっと正しい。
それでも、あなたはその言葉に納得は出来ない。
あなたはそれが許せなくて、魔法少女になったのだから。
*
アーク討伐を終えた後
周囲では野次馬が盛り上がり、管理庁の後処理班が慌ただしく動き始めていた。
そんな中でも、ステラはいつも通りだった。
「いやー!思ったより硬かったね!」
けらけら笑いながら、武器を肩へ担ぎ、橙金の髪が夜風に揺れる。
その右腕には小さな火傷、頬にも薄く擦り傷。
本人はまるで気にしていないだが、あなたは妙にそれが引っかかっていた。
「……プリン」
「はい」
「ステラの傷は、治せたりしないのか?」
あなたが小声で尋ねると、プリンは静かにステラを見る。
数秒の分析、そして首を横に振った。
「私の修復機能は、契約者であるノクス限定となります」
「……そうか」
「はい」
淡々とした返答。
一方、ステラはその会話を聞きながら笑っていた。
「えー?別にこれくらい平気だよ?」
「魔法少女なら普通普通!」
「普通でもだめだろ」
「え?」
本気でわかっていない顔に、あなたは小さく息を吐く。
「……ちょっと来い」
「へ?」
そのまま、あなたはステラの腕を軽く引いた。
「えっ、なになに!?」
「どこ行くの!?」
「いいから」
数分後、あなたたちは近くの小さな公園へ来ていた。
夜の公園で、街灯だけが静かに地面を照らしている。
人気はなく、あなたはベンチにステラを座らせた。
「ここで待ってろ」
「え?」
「動くなよ」
そう言い残し、あなたは近くのコンビニへ向かう。
一方、残されたステラはぽかんとしていた。
「……なにこれ」
「不明です」
プリンが静かに答える。
「しかしノクスは現在、やや怒っています」
「えっ」
「怒ってるの!?」
ステラが目を丸くし、プリンは小さく頷いた。
「ステラの負傷を軽視する態度に、不満を抱いている可能性があります」
「…………」
ステラは少しだけ黙り、やがて困ったように笑う。
「……変なの」
数分後、あなたは小さな袋を持って戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりー……って」
ステラは袋の中身を見て、目をぱちぱちさせる。
「消毒液?包帯?絆創膏?なんで?
「応急処置」
あなたは当然みたいに答え、そのままベンチへ座る。
「腕出せ」
「いやいやいや!」
ステラが慌てた。
「こんなの別にいいって!」
「もう治るし!」
「治ってないだろ」
「でもこれくらい普通――」
「普通でもだめだ」
あなたは即答し、ステラが少しだけ言葉に詰まった。
あなたはそのまま、消毒液を開ける。
「しみるぞ」
「ちょ――っ、いたぁ!?」
ぴゃっとステラの肩が跳ねるが、あなたは容赦なく処置を続ける。
「暴れるな」
「だって痛いもん!」
「さっきもっと痛い攻撃食らってただろ」
「戦闘中はテンションでなんとかなるの!」
「なんだそれ……」
あなたは呆れながら、火傷へ丁寧に薬を塗っていく。
その手つきは意外と慣れていて、ステラはじっとその様子を見ている。
やがて、小さく呟いた。
「……ほんと変」
「何が」
「こんなの、初めてだから」
「…………」
あなたは答えず、包帯を巻く。
そして、最後に軽く結びながら言った。
「女の子なんだから、肌は大事にしろ」
「…………え」
ステラが固まった。
あなたは真顔だった。
「傷残ったら嫌だろ」
「いや……」
「え?」
ステラは本気で困惑していた。
理解できないものを見る顔。
「魔法少女って、そういうの気にするものなの?」
「気にするだろ普通!?」
「えっ」
「いや、だって戦うし……」
「怪我するし……」
「勲章みたいなものっていうか……」
「だめだろ」
あなたはまた即答する。
「身体大事にしろ」
「無茶しすぎなんだよお前」
「…………」
ステラは黙った。
街灯の光が、その横顔を照らしている。
そして、彼女は少しだけ視線を落としたあと小さく笑った。
「……ノクスちゃんってさ」
「ん?」
「なんか変なとこ、普通だよね」
「悪かったな」
「ふふ」
ステラは笑う。
その笑い方は、いつもの太陽みたいな笑顔より少しだけ静かだった。
あなたは気づかないまま、最後の絆創膏を貼る。
それから、ふと思い出したように言った。
「あと、明日ちゃんと管理庁で治療受けろよ」
「えー?」
ステラが露骨に嫌そうな顔をする。
「これくらいで?」
「これくらいじゃない」
「でも面倒だし……」
「だめだ」
即答、あなたは真顔のまま続ける。
「ちゃんと診てもらえ」
「後で悪化したらどうすんだよ」
「うぅ……」
ステラは困ったように唸るが、あなたは一切引かなかった。
じーっと見つめる。
数秒、先に負けたのはステラだった。
「……わかったよぉ」
「ちゃんと行けばいいんでしょー……」
どこか拗ねたように頬を膨らませる。
あなたはそこでようやく息を吐いた。
「最初からそうしろ」
「ノクスちゃん、意外と頑固……」
「お前が無茶するからだろ」
ステラはむぅ、と唇を尖らせるが、その横顔は少しだけ嬉しそうにも見えた。
一方、プリンは二人を見ながら静かに分析していた。
「ステラの心拍数上昇を確認」
「羞恥および情緒反応の可能性があります」
「プリンちゃん!?」
ステラが真っ赤になる。
あなたは意味がわからず首を傾げた。
「……?」
一方、ステラは顔を真っ赤にしたままプリンへ抗議していた。
「ち、違うから!?変なこと考えてないから!」
「現状、否定材料が不足しています」
「プリンちゃぁん!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐステラを見ながら、あなたはふと考える。
……なんか最近。
ルミナには揶揄われっぱなしなんだよな。
「わんちゃん」とか言われるし、反応を面白がられるし、気づけば主導権を握られてばかりだ。
だからだろうか、珍しくあなたの中に少しだけ悪戯心が芽生えた。
「……なあ、ステラ」
「へ?」
名前を呼ばれ、ステラがこちらを見る。
まだ少し赤い、あなたはなんとなく口元を緩めた。
「そんな照れるほど嬉しかったのか?」
「…………へ?」
一瞬、時間が止まった。
ステラが固まり、数秒遅れて。
「はぁぁぁ!?!?」
公園に絶叫が響いた。
「ち、違っ!?いや、えっ!?なに急に!?」
「別に照れてないし!?嬉しいとかじゃないし!?」
完全に大混乱だった。
あなたは思わず少し笑ってしまう。
「でも顔真っ赤だぞ」
「これはその!夜だから!」
「街灯で赤く見えるだけ!」
「街灯すごいな」
「うぅぅ~~っ!!」
ステラは両手で顔を隠す。
耳まで真っ赤であり、一方プリンは静かに分析する。
「ノクスの悪戯行動を確認。ステラは非常に照れています」
「やめて分析しないでぇ!?」
ステラが半泣きで叫ぶ。
あなたはそんな彼女を見ながら、なんだか少しだけ気分が軽くなっていた。
すると、ステラが指の隙間からじとっとこちらを見る。
「……ノクスちゃんさぁ」
「ん?」
「絶対、今ちょっと楽しんでるでしょ……」
「まあ、少し」
「認めた!?」
あなたは肩をすくめる。
「いつもルミナにやられてるからな」
「あー……」
ステラは妙に納得した顔をした。
「ルミナちゃん、絶対強いよねそういうの」
「めちゃくちゃ強い」
「なんかわかる……」
ステラは遠い目をする。
だが次の瞬間、彼女はむっと頬を膨らませた。
「でもずるい!不意打ちじゃん今の!」
「お前が反応良すぎるんだろ」
「うっ」
痛いところを突かれたらしい。
ステラは言葉に詰まり、そのまま視線を逸らす。
その様子が面白くて、あなたはついもう一度口を開いてしまう。
「やっぱ嬉しかったんじゃ――」
「わーーーっ!!」
ステラが慌ててあなたの口を塞いだ。
「それ以上禁止っ!!」
「ノクスちゃん禁止ーーっ!!」
近い、顔がかなり近い。
慌てた勢いのまま飛びついてきたせいで、距離感が完全に壊れていた。
「…………」
「…………」
一瞬、沈黙し、ステラが自分の体勢に気づく。
あなたの肩へ手をつき、かなり近い距離で顔を見つめている状態。
「…………っ!!」
ぼんっ、と音がしそうな勢いでステラの顔が赤くなった。
「ち、違うからね!?今の事故だからね!?!?」
「誰も何も言ってないだろ」
「うぅぅぅぅ!!」
完全敗北だった。
プリンが静かに告げる。
「ステラ、からかい耐性が低めです」
「今日初めて知った……」
あなたが素直に感想を漏らすと、ステラは涙目で睨んできた。
「ノクスちゃんのばかぁ……」
涙目で睨んでくるステラ。
その顔を見た瞬間、あなたの中で妙な感情がむくむくと湧き上がった。
……なんだこれ。
めちゃくちゃ面白い。
太陽みたいに余裕たっぷりで、周囲を振り回して、きらきら笑っているステラが、今は完全にこっちに振り回されている上に、反応が全部わかりやすい。
あなたは、少しだけ口元を緩めた。
「……ステラ」
「な、なに……?」
警戒した声。
だが、その時にはもう遅く、あなたはそのまま軽く彼女の肩を引く。
「へっ――」
ぐい、と。
「きゃっ!?」
バランスを崩したステラの身体が、そのままあなたの方へ倒れ込む。
ぽす。
「…………」
「…………」
昨日と同じだった。
あなたの膝の上に、ステラの頭が綺麗に収まっている。
一瞬、完全停止、次の瞬間。
「はっ!?!?!?」
ステラが飛び上がりそうになる。
「ちょ、ちょっと待って!?!?」
「なにしてるのノクスちゃん!?!?」
「ここ公園!!」
「外!!」
「人来たら終わりだからぁ!!」
ものすごい勢いで暴れ始めた。
だが、あなたは逃がさない。
軽く肩を押さえ、そのまま膝枕を維持する。
「落ち着けって」
「落ち着けるわけないでしょ!?」
「昨日は部屋だったもん!!」
「今日はお外なのぉ!!」
顔が真っ赤だった。
耳まで熱そうなくらい赤く、一方プリンは静かに分析する。
「ステラ、現在極めて高負荷状態です」
「心拍数が危険域へ接近」
「プリンちゃん実況やめてぇ!!」
ステラが半泣きで叫ぶ。
あなたは、そんな彼女を見ながら、昨日と同じようにそっと頭へ手を置いた。
「っ……」
びくり、とステラの身体が震える。
柔らかい髪に、指先をゆっくり通していく。
「ノ、ノクスちゃん……?」
さっきまでの勢いが、少し弱くなっていた。
あなたは静かに撫で続ける。
そして、そっと彼女の耳元へ顔を寄せた。
「……今日も頑張ってたな」
「――っ」
ステラの呼吸が止まる。
あなたはそのまま、小さな声で続けた。
「候補生の相手も」
「戦いも」
「ずっと笑ってた」
「いい子。いい子。」
耳元へ落ちる声は優しく、静かに、まるで小さな子供を褒めるみたいに。
ステラの身体が、じわりと熱を持っていくのがわかった。
「っ、ぁ……」
声にならない声が漏れ、さっきまで抵抗していた力が少しずつ抜けていく。
あなたは気づいていない。
完全に無自覚だった。
ただ、頑張っている相手を労っているだけ。
されている側は、全然平気ではない。
「ノクスちゃん……」
掠れた声。
ステラはもう、まともにあなたの顔を見られていなかった。
視線がぐらぐら揺れ、耳まで真っ赤、呼吸も浅い、一方プリンは静かに告げた。
「ノクス」
「はい?」
「現在、ステラは心拍数が常軌を逸しています」
「なんだそれ」
「無自覚なのが最悪です」
「???」
意味がわからないとあなたは首を傾げるが、ステラは違った。
「~~~~っ!!」
限界だったのか、勢いよく身体を起こす。
「も、もう無理!!」
「帰るっ!!」
「え?」
ステラはそのまま真っ赤な顔で立ち上がる。
だが数歩進んだところで、ぴたりと止まった。
背を向けたまま、小さな声で呟く。
「……そういうの、ずるいから」
「…………?」
あなたが首を傾げる中、ステラはもう振り返らないまま早足で歩き出してしまう。
一方、プリンは静かに結論を出していた。
「ノクス」
「なんだよ」
「ルミナが危機感を抱く理由を理解しました」
「は?」
意味がわからないまま、あなたはステラを追いかけた。
公園の出口へ向かって、小走りで逃げていく橙金の背中。
「ちょ、待てって!」
「待たない!」
ステラは振り返りもせず叫ぶ。
耳まで真っ赤だった。
「ノクスちゃん距離感おかしいもん!」
「いや、そんなつもりじゃ――」
「膝枕はだめでしょ!?しかも公園で!?人いたらどうするの!?」
「……悪かったって」
「絶対反省してないー!!」
半泣きみたいな声だったが、その反応が妙に面白くてあなたは少しだけ笑ってしまう。
するとステラがさらに顔を赤くした。
「笑った!今笑ったでしょ!?」
「いや、なんか反応が新鮮で……」
「うぅ~~~!!」
ステラは両手で顔を押さえる。
普段、あれだけ余裕そうに人をからかってくるくせに、自分がされる側になると本当に弱い。
やがてステラは、観念したみたいに立ち止まった。
「……もう帰る」
「はいはい」
「子供扱い禁止」
「してないって」
「してる!」
むっと頬を膨らませるステラに、あなたは苦笑しながらその隣へ並んだ。
夕方の公園、西日が街を橙色に染めている。
その色は、不思議とステラによく似合った。
しばらく無言で歩いていた。
「……ノクスちゃんってさ」
ステラがぽつりと呟いた。
「なんでそんな、放っておけないの?」
「……ん?」
「ルミナちゃんにもそうだったじゃん」
「私にもそう」
ステラは前を向いたまま、小さく笑う。
「普通さ、昨日みたいなことしないと思うんだよね」
「……膝枕?」
「それも」
ステラは少しだけ肩をすくめた。
「怪我した魔法少女なんて、別に珍しくないし」
「みんな普通に“お疲れ様です!”で終わるから」
「…………」
「なのにノクスちゃん、説教するし」
「“女の子の肌は大事にしろ”とか言うし」
「そりゃ言うだろ……」
「変なんだよなぁ」
ステラはくすっと笑う。
「魔法少女相手に、そういう怒り方する人あんまりいないよ?」
あなたは少しだけ黙る。
管理庁の職員も、候補生たちも、街の人たちも。
魔法少女が傷つくことを、“そういうもの”として受け入れている。
血を流しても、身体を壊しても、命を削っても、それがヒーローだと皆が思っている。
でも。
「……嫌なんだよ」
「え?」
「傷、残るの」
あなたは小さく息を吐いた。
「お前せっかく綺麗なんだから、怪我増やすな」
「…………っ」
ステラの肩がぴくりと震える。
数秒遅れて、かぁっと顔が赤くなった。
「な、なにそれ!?」
「いや本当のことだろ」
「さらっと言うなぁ!?」
ステラは頭を抱える。
「やっぱり変!ノクスちゃん絶対変だから!」
「そこまで言われるほどか……?」
「言われるよー!!」
ステラはわーわー騒ぐが、その声はどこか楽しそうだった。
あなたはそんな彼女を見ながら、ふと今日の戦闘を思い出す。
星型のメイスを振り回しながら、真正面からアークを叩き潰していた姿。
躊躇のない踏み込み、腕の傷も無視した戦い方、血が流れても笑いながら前へ出る姿。
「…………」
あれは、危なかった。
実力はあるし、第三世代最強の名は伊達じゃない。
でも、強いから平気とは思えなかった。
むしろ強いからこそ、自分を雑に扱っているように見えた。
――そこで、不意に脳裏へ青い少女の顔が浮かぶ。
『ちゃんと帰ってきてくださいね?』
『寂しいです』
『無茶しないでください』
雨みたいに静かな声。
戦うたび、傷つくたび、ルミナはいつもあなたを止めようとしていた。
あの時は正直、「心配性だな」くらいにしか思っていなかった。
でも今は、少しわかる。
もし目の前で、ステラが笑いながら壊れていったら。
それは多分、かなり嫌だ。
「……ノクスちゃん?」
ステラが不思議そうにこちらを見る。
あなたは少しだけ視線を逸らした。
「……ルミナが怒る理由、わかったかも」
「え?」
「いや、なんでもない」
あなたは苦笑する。
ステラはきょとんとしていたが、やがてふっと笑った。
「なにそれー!変なの!」
「うるさい」
軽口を返しながらも、胸の奥には妙な感覚が残っていた。
誰かが自分を雑に扱う姿を見るのは、思ったより苦しい。
二人が住宅街へ戻った時、夕日はもう沈みかけていた。
ステラはそこでふと思い出したように口を開く。
「あ、そうだ!今日は私が夜ご飯作るね!」
「やめろ」
「即答!?」
「家が燃える」
「失礼な!?」
ぎゃーぎゃー騒ぐステラの姿は、いつもの太陽みたいだった。
明るくて、騒がしくて、見ているだけで周囲まで笑顔にする。
*
帰宅してからも、それは変わらなかった。
「だから火力は弱めだって!」
「えー!?でも強い方が早いじゃん!」
「またフライパン焦がす気か!?」
「今回はいけるってー!」
キッチンから、ばたばたと騒がしい音が響く。
あなたは慌ててコンロの火を弱めながら、大きくため息を吐いた。
「お前ほんと極端なんだよ……」
「ノクスちゃんが慎重すぎるの!」
「普通はそうなんだって」
一方、プリンは冷静に状況を分析していた。
「ステラさんの料理成功率、依然として低めです」
「プリンちゃん厳しい!」
「事実です」
淡々とした返答。
ステラはぶーぶー文句を言いながらも、結局は大人しくあなたの指示に従っている。
その様子が、少しだけ面白かった。
結局、夕食は途中からあなたがほとんど作ることになった。
ステラは横で野菜を切ったり皿を並べたりしていたが、危なっかしくて見ていられない。
「ちょ、猫の手!」
「えっ、こう!?」
「違う切れる切れる!!」
「きゃー!?」
騒がしい、本当に騒がしい。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
食事中も、ステラはずっと喋っていた。
今日会った候補生の話、管理庁のイベントの話、最近支部で流行っているお菓子の話。
ころころ話題を変えながら、楽しそうに笑っている。
その笑顔を見るたび、あなたは昼間の光景を思い出した。
候補生たちへ囲まれていた姿、小さな魔法少女たちの名前を一人ずつ呼んでいたこと。
泣きそうだった子の頭を撫でて、笑わせていたこと。
皆が、ステラを見ると安心した顔をしていた。
「……ほんと人気者なんだな」
ぽつりと呟く。
「ん?」
ステラがきょとんとこちらを見る。
「いや、なんでもない」
「なにそれー?」
ステラは不満そうにしながらも、すぐまた笑った。
明るくて、眩しくて、太陽みたいな笑顔。
きっと誰が見ても、“ステラ”だった。
笑って、照らして、期待される“ステラ”で居続ける。
それが当然みたいだからこそ。
夜になり、静まり返った家の中でたった一人、ベランダへ立つその背中はひどく静かに見えた。
*
風呂を終えたあなたは、濡れた髪をタオルで拭きながら廊下を歩く。
リビングの灯りは落ち、プリンはソファの上で待機状態。
「ステラは?」
「ベランダです」
静かな返答、あなたは何となく窓の方を見る。
そこには、夜風に吹かれる橙金の髪があった。
「…………」
ステラは、空を見上げていた。
昼間みたいな騒がしさはないし、笑いもせずただ静かに、夜空を眺めている。
あなたは声をかけようとして――止まった。
彼女の手に、一枚の写真が見えたからだ。
小さな頃のステラ、今よりずっと幼い顔。
そして、その隣には今のステラのように笑う一人の魔法少女。
「…………」
第二世代最強の魔法少女イグニス
四年前の大規模戦闘で死亡した、伝説の魔法少女。
ステラは、その写真を静かに見つめていた。
昼間、候補生たちへ向けていた笑顔とは違う。
でも、別人というわけじゃない。
これもきっと、“ステラ”なのだと思った。
誰にも見せていないだけで、太陽の光が届かない場所に、ずっと置いていた顔。
やがて、ステラの唇が小さく動く。
「……絶対に」
夜風が吹き、橙金の髪が静かに揺れた。
「見つけるから」
その声は小さかったけど、不思議なくらい強かった。
祈りみたいに、誓いみたいに。
あなたは、その背中を静かに見つめる。
何を探しているのか、誰を追っているのかは、まだわからない。
でも、あの笑顔の奥に燃え続けている何かがあることだけは、なんとなく理解できた。
すると不意に。
「……ノクスちゃん?」
ステラが振り返る。
どうやら、こちらの気配に気づいていたらしい。
数秒だけ目を丸くして、次の瞬間にはいつもの笑顔を浮かべた。
「お風呂あがったのー?」
「……ああ」
「どうしたの?ぼーっとして」
「別に」
あなたは少しだけ視線を逸らす。
ステラはそんなあなたを見て、くすっと笑った。
「変なの」
そして何事もなかったみたいに、部屋へ戻ってくる。
その笑顔は、やっぱり太陽みたいで。
だけど今のあなたには、太陽の光の奥で彼女が何かを燃やし続けているように見えた。
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