転生者がTS魔法少女になって頑張る話。   作:メルヘン侍

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第五話 太陽は静かに翳っていく

 あれから数日

 

 あなたたちは、少し不思議なくらい穏やかな時間を過ごしていた。

 

 ルミナが関東へ戻るまでの間、四人で食事へ行ったり。

 

 ステラが「中部おすすめスポットツアー!」と騒いで、半日歩き回されたり。

 

 候補生たちから届いた大量のメッセージを見て、ステラが満足そうに笑ったり。

 

 その隣で、ルミナが自然な顔でノクスの隣を確保していたり。

 

「ノクス、こちら空いています」

 

「えっ、そこさっき私座ってなかった!?」

 

「気のせいでは?」

 

「絶対違うー!!」

 

 そんなやり取りを見ながら、テーブルの上ではプリンがもふっと丸くなっていた。

 

「ルミナ、独占欲増加傾向です」

 

「プリン?」

 

「事実共有です」

 

「怖っ!?」

 

 ステラが引きつり、あなたは呆れてため息を吐く。

 

 騒がしくて、でも悪くない日々だった。

 

 そして数日後、ルミナは関東へ戻っていった。

 

 駅のホーム、夕暮れの風が青い髪を揺らす。

 

「では、戻ります」

 

 静かな声、ルミナは小さくこちらを見る。

 

「ノクス」

 

「ん?」

 

「無茶はしないでください」

 

「毎回言うなそれ」

 

「毎回必要なので」

 

 即答、その横でステラがけらけら笑う。

 

「ルミナちゃんほんとお母さんみたい!」

 

「ステラもです」

 

「なんでぇ!?」

 

「突撃する癖を改善してください」

 

「うっ」

 

 図星、あなたは思わず吹き出した。

 

「二人とも怒られてんじゃねえか」

 

「ノクスが一番怒られてます」

 

「信用ねえなぁ……」

 

 電車がホームへ滑り込み、風が吹く。

 

 ルミナは最後に小さく目を細めた。

 

「……ちゃんと帰ってきてくださいね」

 

 静かな声だった。

 

 あなたは少しだけ苦笑する。

 

「わかってるよ」

 

 本当に心配性だな。

 

 そんなことを思いながら、去っていく列車を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、また三人の日常へ戻った、数日後の深夜。

 

 ステラの家は静かだった。

 

 時計は深夜二時を回っている。

 

 リビングには月明かりだけが差し込み、ソファではあなたが毛布にくるまって眠っていた。

 

 すると。

 

 もふっ。

 

「……ん」

 

 頬へ柔らかい感触に薄く目を開けると、白いマスコットが顔を覗き込んでいた。

 

 プリンだった。

 

 犬みたいな耳がぴくりと動き、猫みたいな尻尾がゆらゆら揺れている。

 

 あなたは眠そうに目を擦った。

 

「……プリン?」

 

「ノクス」

 

 いつも通り平坦な声。

 

「強大なアーク反応を検知しました」

 

 その瞬間、眠気が飛ぶ。

 

 あなたはゆっくり身体を起こした。

 

「規模は?」

 

「一体です」

 

 プリンはあなたの膝へ飛び乗る。

 

 小さな肉球が、軽く服を踏んだ。

 

「以前観測したメンシスの反応と酷似しています。力はそれほどではないですが」

 

「…………」

 

 空気が静まる。

 

 以前、プリンが見せた異常な警戒。

 

 あの強大なアーク、メンシス。

 

 蘇る記憶に、あなたは眉をひそめる。

 

「場所は?」

 

「中部第七区画方面」

 

「街外れか……人は?」

 

「いません。現在も断続的に出力変動中」

 

 妙だった。

 

 反応が安定していない。

 

 現れては消え、また現れる。

 

 まるで何かを探しているみたいに。

 

 あなたは舌打ちしながら立ち上がる。

 

「管理庁は?」

 

「現在確認中。警報には至っていません」

 

「気づいてねえのか……?」

 

「観測精度外の可能性があります」

 

 最悪だった。

 

 もし本当にメンシス級なら、被害は洒落にならない。

 

 あなたは壁へ掛けてあった上着を掴む。

 

 その時、ちらっと廊下の奥を見る。

 

 静かな暗闇、ステラの部屋だ。

 

 物音はしないから、まだ眠っているはずだ。

 

「……起こすか?」

 

 あなたが呟くと、プリンは数秒黙ったあと。

 

「推奨しません」

 

「理由は?」

 

「ステラの精神状態変動可能性を考慮」

 

「……?」

 

 意味深な言い方だった。

 

 だが今は考えている暇がない。

 

 あなたは小さく息を吐く。

 

「とりあえず行くぞ」

 

「了解しました」

 

 プリンがあなたの肩へ飛び乗る。

 

 軽い重み、白い尻尾がふわりと揺れた。

 

 あなたは静かに玄関の扉を開ける。

 

 深夜の空気は冷たかった。

 

 人気のない街、遠くで風が鳴っている。

 

 そしてその奥から、嫌な熱だけが微かに漂っていた。

 

 

 

*

 

 

 

 人気のない工業地帯の外れ。

 

 コンテナが並ぶ無機質な空間に、冷たい夜風だけが吹いていた。

 

 その中央で、あなたはゆっくり足を止める。

 

「……ここか?」

 

 隣では、プリンが小さく耳を揺らす。

 

「はい。この周辺から高濃度反応を検知しています」

 

 あなたは周囲を見回す。

 

 人の気配はない。

 

 警報もまだ鳴っていないらしく、静まり返っている。

 

 だが。

 

「……なんか、空気変じゃないか?」

 

 夜なのに、妙に暖かい。

 

 熱気、とまではいかない。

 

 でも、肌へまとわりつくような違和感がある。

 

 その時コンテナの隙間、暗闇の奥でぼう、と赤い光が揺れた。

 

「――っ」

 

 あなたは反射的に視線を向ける。

 

 そこにいたのは、獣型アークだった。

 

 狼に近い四足型、サイズ自体は中型程度。

 

 

 

 だが。

 

 その全身が、炎に包まれていた。

 

 赤い火の粉が、静かに夜空へ散っていく。

 

 奇妙なのは、周囲が燃えていないことだった。

 

 地面も、コンテナも、熱で溶けていない。

 

 まるで、その炎だけが異質な法則で存在しているみたいだった。

 

「……なんだよ、これ」

 

 あなたが眉をひそめると、プリンが静かな声で答える。

 

「通常個体ではありません」

 

「やっぱりか」

 

「以前観測したメンシスと、近似した波長反応を確認しています」

 

「……は?」

 

 思わず聞き返す。

 

 メンシス。

 

 あの異常存在。

 

 ただ強いだけじゃない、“何かがおかしい”アーク。

 

「つまり、こいつもあれと同類ってことか?」

 

「完全一致ではありません」

 

 プリンは金色の瞳を細める。

 

「ですが、極めて近い干渉痕があります」

 

「干渉痕?」

 

「何者かが、アークへ外部的に作用した可能性が高いです」

 

「そんなこと分かるのか……?」

 

「分かります」

 

 プリンがふんす、と胸を張った。

 

「高精度分析です」

 

「お前、ちょっと得意げだな?」

 

「当然です」

 

 どや顔だった。

 

 あなたは少しだけ呆れながらも、再び炎の獣へ視線を向ける。

 

 異様だ。

 

 強さそのものより、存在の気配が気持ち悪い。

 

 まるで、普通のアークへ無理やり別の何かを混ぜ込んだみたいな。

 

 その時、炎の獣がゆっくりこちらを見た。

 

 赤熱した瞳、次の瞬間地面が爆ぜた。

 

「来るぞ!」

 

「はい!」

 

 炎の獣が、一瞬で距離を詰める。

 

「速――っ!?」

 

 あなたは咄嗟に身体を捻る。

 

 直後、燃える爪が空を裂いた。

 

 熱風が頬を掠める。

 

 背後のコンテナへ衝撃が走り、鉄板が歪んだ。

 

「っ!!」

 

 あなたは即座に踏み込む。

 

 魔力が弾け、そのまま真正面から拳を叩き込む。

 

 炎の獣が吹き飛んだ。

 

 コンテナへ激突し、鉄塊が大きく揺れる。

 

 しかし、炎は消えない。

 

 むしろ揺らめきながら膨れ上がる。

 

「うわ、しつこっ……!」

 

 獣が咆哮し、炎弾を撒き散らす。

 

 あなたは地面を蹴り、回避。

 

 爆炎が夜を赤く染めた。

 

「ノクス、右です」

 

「っ!」

 

 プリンの声。

 

 反射的に身体を引き直後、炎の獣が真横を通り抜けた。

 

「サンキュ!」

 

「戦闘補助は標準機能です」

 

「便利だなお前!」

 

 あなたは笑いながら再加速する。

 

 一直線、魔力が夜を裂いた。

 

 獣が迎え撃つように飛び込んでくる。

 

 炎とピンクが正面衝突。

 

 そして。

 

「――っ!!」

 

 あなたの拳が、獣の頭部へ直撃した。

 

 炎が大きく散る。

 

 次の瞬間、獣型アークの身体が砕け、黒い粒子となって夜へ溶けていく。

 

「……終わった、か」

 

 あなたは息を吐く。

 

 思ったよりは強くないが。

 

「……やっぱ変だったな」

 

 消えていく残火を見ながら、あなたは眉をひそめた。

 

 普通のアークとは、明らかに何かが違う。

 

 すると隣で、プリンが静かに呟く。

 

「問題は個体性能ではありません」

 

「ん?」

 

「“誰が干渉したのか”です」

 

「…………」

 

 その言葉で、空気が少しだけ冷えた気がした。

 

 メンシスに似た反応。

 

 アークへ外部干渉を行う何者か。

 

 まだ姿も見えない“それ”が、どこかにいる。

 

 夜風が吹く。

 

 消え残った炎だけが、静かに揺れていた。

 

 

 

*

 

 

 

 家へ戻った頃には、空が少し白み始めていた。

 

 玄関を開けると、静かな空気が迎えてくれる。

 

 リビングにも明かりはなく、家全体が眠っていた。

 

「……起きてないか」

 

 あなたが小さく呟くと、隣のプリンが耳を揺らした。

 

「現在時刻は午前四時十二分二十秒です」

 

「細かいな……」

 

 あなたは苦笑しながら靴を脱ぐ。

 

 廊下を歩き、途中でステラの部屋の前を通る。

 

 扉の向こうから、小さな寝息だけが聞こえてきた。

 

「…………」

 

 なんとなく安心して、そのままリビングへ向かう。

 

 ソファへ腰を下ろすと、一気に疲労が押し寄せた。

 

「はぁ……」

 

 プリンもぴょん、と隣へ飛び乗る。

 

 しばらく、静かな時間が流れた。

 

 時計の音だけが響く。

 

 だが、あなたの頭の中にはずっと残っていた。

 

 炎の獣。

 

 メンシスと似た反応。

 

 そして――。

 

「なあ、プリン」

 

「はい」

 

 あなたは少し迷ってから口を開く。

 

「……さっき、なんでステラを起こさなかったんだ?」

 

「…………」

 

 プリンが静かにこちらを見る。

 

 あなたは続けた。

 

「お前、わざとだろ」

 

「反応検知した時、ステラにも声かけられたはずなのに俺だけ起こした」

 

 プリンは数秒黙っていた。

 

 誤魔化すかと思った。

 

 でも。

 

「……高確率で、関係しているからです」

 

「何が?」

 

「今夜の個体へ干渉した存在です」

 

 プリンの金色の瞳が、静かに細められる。

 

「メンシスと同類の存在である可能性が高い」

 

「…………」

 

「そして、その存在は」

 

 一瞬だけ、プリンが言葉を止めた。

 

 あなたは自然と息を呑む。

 

「イグニスを殺害した個体と、同一である可能性があります」

 

「――っ」

 

 空気が止まった。

 

 あなたの表情が固まる。

 

「……は?」

 

 思わず漏れた声は、かなり低かった。

 

 プリンは静かに続ける。

 

「現段階では推定ですが、確率は高いです」

 

「いや待て、なんでお前そんなこと知ってんだよ」

 

「管理庁データベースを参照しました」

 

「さらっと言うな!?」

 

 あなたは思わず立ち上がった。

 

「いやいや待て、それ普通にアウトじゃないのか!?」

 

「何がです?」

 

「プライバシーの侵害だろ!?」

 

「調査活動です」

 

「言い換えても駄目だろ!」

 

 プリンはぷい、と視線を逸らした。

 

「必要な情報収集でした」

 

「絶対怒られるやつだぞそれ……」

 

「アクセス痕跡は残していません」

 

「余計悪いわ!!」

 

 あなたが頭を抱える。

 

 一方プリンは、なぜか少し得意げだった。

 

「高性能ですので」

 

「そういう問題じゃねえんだよ……」

 

 深いため息。

 

 だが、すぐにあなたの表情は戻る。

 

「…………」

 

 イグニスを殺した存在。

 

 その言葉が、ずっと頭へ残っていた。

 

 そして同時に理解する。

 

 だからプリンは、ステラを起こさなかった。

 

 もし本当に関係があるなら。

 

 ステラは、絶対に無理をした。

 

「……お前なりに気遣ったってことか」

 

「当然です」

 

 プリンは静かに答える。

 

「現在のステラは、冷静性を維持できる状態ではありません」

 

「……そんな風に見えたか?」

 

「はい」

 

 即答だった。

 

「イグニス関連へ強い執着と未練を確認しています」

 

「…………」

 

 あなたは黙る。

 

 それは、なんとなく分かっていた。

 

 明るく笑っているし、いつも元気だ。

 

 でも時々、ふとした瞬間だけ空っぽみたいな顔をする。

 

 まるで、止まれないから笑っているみたいに。

 

「……そっか」

 

 ぽつりと漏れる。

 

 プリンはそんなあなたを見ながら、小さく耳を揺らした。

 

「ノクス」

 

「ん?」

 

「あなたは、かなりステラへ感情移入しています」

 

「は?」

 

「放置すると危険傾向があります」

 

「なんだそれ」

 

 あなたは苦笑する。

 

「困ってるやつ放っとけないだけだろ」

 

「それが危険です」

 

「厳しいなぁお前」

 

「事実共有です」

 

「便利ワードにするなって」

 

 あなたが呆れると、プリンは小さく尻尾を揺らした。

 

 だが次の瞬間、その声音が少しだけ静かになる。

 

「……ですが」

 

「ん?」

 

「あなたがいた方が、ステラは壊れにくいとも判断しています」

 

「…………」

 

 あなたは少しだけ目を見開く。

 

 プリンはそれ以上続けなかった。

 

 ただ静かに、ソファの上で丸くなる。

 

 窓の外では、少しずつ朝焼けが広がり始めていた。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 翌日 昼前

 

 カーテンの隙間から差し込む陽射しが、リビングを明るく照らしていた。

 

「んぁー……」

 

 ソファの上で、ステラがぐったり伸びている。

 

 寝癖のついた橙色の髪。

 

 完全に休日モードだった。

 

「……だらけすぎじゃないか?」

 

 キッチンからあなたが呆れた声を投げる。

 

「休日だからいーのー……」

 

 ステラはクッションへ顔を埋めたまま、だらだら手を振った。

 

 一方プリンは、テーブルの上で優雅に丸くなっている。

 

「現在のステラは液状化しています」

 

「言い方」

 

「ぷりぃんちゃぁん……」

 

 ステラがじとっと睨む。

 

 あなたは苦笑しながら、皿をテーブルへ置いた。

 

「ほら、昼飯」

 

「おぉー!」

 

 一瞬で起き上がる。

 

「現金だなぁお前……」

 

「生きるためには必要だからね!」

 

「開き直るな」

 

 けらけら笑いながら、ステラが椅子へ座る。

 

 そのまま、ふとあなたと目が合った。

 

「――っ」

 

 なぜか固まった。

 

「……?」

 

 あなたは首を傾げる。

 

 最近、妙にこういう反応が多い。

 

 目が合うと逸らすし、距離が近いと変な顔をする。

 

 昨日なんか、肩が軽く触れただけで「ひゃっ!?」とか変な声を出していた。

 

「……ステラ、お前最近なんか変じゃないか?」

 

「へっ!?」

 

 びくぅっ、と肩が跳ねた。

 

「な、なにが!?」

 

「いや反応」

 

「変な声出すし、目逸らすし、顔赤いし」

 

「っっ!!」

 

 ステラの顔が一気に熱くなる。

 

「き、気のせいじゃないかなー!?」

 

「いや絶対違うだろ」

 

「違います」

 

 プリンが即答した。

 

「プリンちゃん!?」

 

 ステラが悲鳴を上げ、プリンは平然としていた。

 

「ステラは現在、ノクスへ対して情緒不安定傾向があります」

 

「やめてぇ!!」

 

「えぇ……?」

 

 あなたは困惑する。

 

 情緒不安定ってなんだ?熱でもあるのか?

 

「ほんと大丈夫か?」

 

 あなたが額へ手を伸ばす。

 

「っ!?」

 

 ぴたり。

 

 額へ触れた瞬間、ステラの身体が完全に停止した。

 

「熱は……ない、か?」

 

「…………」

 

 無反応で固まっている。

 

「ステラ?」

 

「~~~~っ!!」

 

 次の瞬間。

 

「ち、近い近い近い!!!」

 

 ステラが椅子ごと後退した。

 

 がたーんっ!!

 

「うおっ!?」

 

「な、なに急に触るの!?」

 

「いや熱あるのかと……」

 

「普通触る!?」

 

「え、触らない?」

 

「触らないよ!!」

 

 ステラが真っ赤な顔で叫ぶ。

 

 一方あなたは本気で分かっていない顔だった。

 

 その横で、プリンが静かに呟く。

 

「距離感が終わっています」

 

「最近みんなそれ言うな……」

 

「改善推奨です」

 

「なんでだよ」

 

「危険なので」

 

「???」

 

 意味がわからない。

 

 一方、ステラは顔を押さえていた。

 

「うぅぅ……無理……」

 

「何が?」

 

「無自覚ぅ……」

 

「だから何がだよ」

 

 あなたは本気で困惑している。

 

 するとステラが、じとーっとこちらを見た。

 

「ノクスちゃんってさぁ……」

 

「ん?」

 

「絶対モテるタイプだよね」

 

「は?」

 

 予想外すぎて変な声が出た。

 

「いやいやいや」

 

「どこが?」

 

「そこだよ!!」

 

 ステラがばんばん机を叩く。

 

「そういうとこ!!」

 

「意味わかんねえ!」

 

 あなたが抗議する。

 

 一方プリンは、こくこく頷いていた。

 

「ステラの意見へ同意します」

 

「お前まで!?」

 

「ノクスは無意識に好感度を稼ぎます」

 

「ゲームみたいに言うな」

 

「しかも自覚がありません」

 

「そんなわけないだろ」

 

「あるよ!!」

 

 ステラが食い気味に叫ぶ。

 

 そして数秒後、自分で何を言ったのか理解して固まった。

 

「…………あ」

 

 しん、と空気が止まる。

 

 あなたは瞬きをした。

 

「……ステラ?」

 

「な、なんでもない!!」

 

 ステラが勢いよく顔を逸らす。

 

 耳まで真っ赤だった。

 

 あなたは少し黙ったあと、ふっと笑う。

 

「……お前、ほんと最近変だな」

 

「うぅぅぅ……」

 

「もしかして俺のこと意識してたりする?」

 

 軽い冗談だった。

 

 いつものノリ。

 

 でも。

 

「っっっ!!!!?」

 

 ステラの顔が一瞬で爆発した。

 

「な、なななななっ!?」

 

「えっ」

 

 予想以上の反応に、あなたが逆に引く。

 

「いや、冗談なんだけど……」

 

「~~~~っ!!」

 

 ステラは顔を押さえたまま、ソファへ突っ伏した。

 

「む、無理……」

 

「重症です」

 

 プリンが冷静に診断する。

 

「何が起きてるんだ……?」

 

 あなただけが、本当に何も分かっていなかった。

 

「む、無理……」

 

「重症です」

 

 プリンが冷静に診断する。

 

「何が起きてるんだ……?」

 

 あなただけが、本当に何も分かっていなかった。

 

 ステラはソファへ顔を埋めたまま、じたじた暴れている。

 

「もうやだこの家ぁ……」

 

「ステラは現在、感情処理能力が低下しています」

 

「実況しないでぇ!!」

 

 プリンはテーブルの上でふんす、と胸を張った。

 

 犬みたいな猫みたいな白い身体。

 

 短い尻尾がぱたぱた揺れている。

 

 あなたは呆れながら頭を掻く。

 

「お前ら最近ほんと騒がしいな……」

 

 その時だった。

 

 ぴんぽーん。

 

 インターホンが鳴り、動きが止まる。

 

「……誰だ?」

 

「宅配?」

 

「本日は注文履歴を確認していません」

 

 あなたは立ち上がり、玄関へ向かった。

 

 がちゃり、と扉を開けるとそこに立っていたのは。

 

「休日に悪いわね」

 

 黒髪を後ろでまとめた、スーツ姿の女性。

 

 鋭い目元に隙のない立ち姿。

 

 あなたは少し目を丸くする。

 

「……秋葉さん?」

 

「久しぶり、ではないわね」

 

 柴咲秋葉。

 

 第三世代統括責任者。

 

 そして、あなたの直轄上司。

 

 何度も顔を合わせている相手だった。

 

「なんでここに?」

 

 問いかけると、秋葉は静かに視線を横へ向けた。

 

 リビングの奥、そこではプリンがすっと目を逸らしている。

 

「…………」

 

 あなたは嫌な予感がした。

 

「プリン」

 

「なんでしょう」

 

「お前、何した?」

 

「秋葉へ連絡しました」

 

「どうやって」

 

「ノクスのスマートフォンを使用して」

 

「勝手に!?」

 

 ステラが勢いよく顔を上げた。

 

「えっ、怖っ!?」

 

 あなたも思わず叫ぶ。

 

「ロックかかってただろ!?」

 

「顔認証でしたので」

 

「寝てる間に使ったな!?」

 

 プリンはふふん、と得意げだった。

 

「高性能です」

 

「褒めてねえよ!!」

 

 一方、秋葉は小さくため息を吐く。

 

「“至急来てください”って急に送られてきた時は、流石に何事かと思ったわ」

 

「文面まで勝手に!?」

 

「あと、犬のスタンプ付きだった」

 

「誰の趣味だそれ!」

 

「プリンです」

 

「お前ほんと自由だな……!」

 

 ステラが思わず吹き出した。

 

「あははっ……!」

 

 だが、その笑いは途中で止まる。

 

 秋葉と目が合ったからだ。

 

「……ステラ」

 

「な、なに?秋葉ちゃん」

 

 さっきまで騒いでいたステラが、少しだけ背筋を伸ばす。

 

 秋葉は静かに家の中を見回した。

 

 生活感のあるリビング、ソファ、散らかったクッション。

 

 そして、その空間へ自然に溶け込んでいるノクス。

 

「……へぇ」

 

 秋葉が小さく笑う。

 

「思った以上に馴染んでる」

 

「何がだよ」

 

 あなたはキッチンへ向かいながら適当に返す。

 

「お茶でいいか?」

 

「ありがと」

 

 秋葉はソファへ腰掛けた。

 

 一方ステラは、まださっきの流れで落ち着いていない。

 

「…………」

 

 ちら、とノクスを見る。

 

 自然にエプロンを着けてお湯を沸かしている。

 

 完全に同棲の空気だった。

 

「っ……」

 

 また変な感じになって、慌てて顔を逸らす。

 

 その様子を見て、秋葉は完全に察した顔をした。

 

「なるほどねぇ」

 

「な、なにが……?」

 

 秋葉は、からかうように目を細める。

 

「あなたもノクスにやられちゃったの?」

 

「…………へ?」

 

「堕とされちゃったの?」

 

「~~~~っ!?!?」

 

 ステラの顔が一気に真っ赤になる。

 

「ち、違っ、違います!!!」

 

 勢いよく否定する声が、部屋中へ響いた。

 

 一方その頃、あなたはキッチンで普通にお茶出しの準備をしていた。

 

「ステラー、お菓子いるかー?」

 

「い、いらない!!」

 

「なんでキレてんだ……?」

 

 聞いていなかったようだ。

 

 一方、ステラは顔を真っ赤にしたままクッションを抱き締めている。

 

「うぅぅ……」

 

「重症ですね」

 

 プリンが冷静に頷いた。

 

「他人事みたいに言うなプリンちゃん……!」

 

「事実共有です」

 

「その言葉便利だと思ってるでしょ!?」

 

 秋葉はそんなやり取りを見ながら、くすくす笑っていた。

 

「いやぁ、面白いなここは」

 

「空気が甘ったるい」

 

「馬鹿にしてる?」

 

「まさか」

 

 ステラがじとっと返す。

 

 その時、あなたがお茶を持って戻ってきた。

 

「ほら」

 

 テーブルへカップを置く。

 

「熱いから気をつけろよ」

 

「あ、ありがと……」

 

 ステラは受け取るだけでまた少し赤くなる。

 

 秋葉がにやにやしていた。

 

「……なんなんだほんと」

 

 あなたは納得いっていない顔でソファへ座る。

 

 そして、ふとプリンを見る。

 

「で?秋葉を呼んだ理由は?」

 

 空気が少しだけ変わった。

 

 プリンは静かに答える。

 

「昨日出現したアークについて」

 

 そして、短く続ける。

 

「及び、魔法少女イグニスについてです」

 

「…………」

 

 その名前が出た瞬間。

 

 ステラの表情が、ほんの少しだけ止まった。

 

 

 

*

 

 

 

 数秒、沈黙が流れる。

 

 先ほどまでの軽い空気は、もうなかった。

 

 ステラも、秋葉も、何も言わない。

 

 ただ静かに、プリンを見ている。

 

 そしてプリンが、ゆっくり口を開いた。

 

「昨夜、ノクスと共に未確認アーク反応地点へ向かいました」

 

 淡々とした声。

 

「現場に存在したのは、通常個体に分類される獣型アーク」

 

 プリンの耳が小さく揺れる。

 

「しかし、対象は炎属性の魔力を異常増幅されていました」

 

 秋葉の目が細くなる。

 

「……増幅?」

 

「はい」

 

「メンシスと同系統の力です」

 

 空気が少し重くなる。

 

 あなたはソファへ深く座り直しながら続けた。

 

「ただ、似てるだけだ。アーク自体は普通だったし、強化されてただけらしい」

 

「はい」

 

 プリンが頷く。

 

「知性・侵食速度・自己進化反応は低水準ですが、外部干渉痕が存在しました」

 

 秋葉が静かに腕を組む。

 

「つまり“誰か”が、アークへ力を与えている?」

 

「可能性が高いです」

 

 その答えに、部屋が静まり返る。

 

 ステラだけが、少し俯いていた。

 

「…………」

 

 脳裏に焼き付いた光景が蘇る。

 

『ステラ!大好き!』

 

「っ……」

 

 無意識に、指へ力が入った。

 

 あなたはそれに気づきかけたが、その前に秋葉が口を開く。

 

「それで、なんでイグニスの名前が?」

 

 プリンは数秒黙り、そして答える。

 

「昨夜、私は管理庁データベースへアクセスしました」

 

「おい」

 

 あなたが即座に突っ込む。

 

「普通に機密侵害だろそれ」

 

「緊急性を優先しました」

 

「便利だなお前その言葉」

 

 プリンは軽く咳払いみたいな動きをしてから続けた。

 

「イグニス殉職の際の戦闘記録を見ました。そして、干渉した魔力波長は同じものであると結論づけました」

 

 ステラの肩が、小さく震える。

 

「は…………」

 

 声が掠れる。

 

 プリンは静かに告げた。

 

「イグニスを殺害した存在と、昨夜アークへ干渉した存在は、同類である可能性が高いです」

 

「……いや待て」

 

 あなたは眉をひそめる。

 

「それ、イグニスを調べる理由になってなくないか?」

 

「なんでそこ繋がるんだよ」

 

 プリンは静かにあなたを見た。

 

 そして、当然みたいに答える。

 

「秋葉が、私たちを同棲させたからです」

 

「…………は?」

 

 あなたが固まる。

 

 一方秋葉は、静かに目を細めた。

 

「……優秀だな、プリン」

 

「ありがとうございます」

 

 秋葉はソファへ深く腰掛け直す。

 

 空気が少し変わる。

 

 さっきまでの軽さが消え、統括責任者としての顔になる。

 

「ノクス」

 

「……なんだよ」

 

「お前たちはあの日、あの場所でメンシスと遭遇し、撃退したな」

 

「…………」

 

「あれは、普通じゃない」

 

 秋葉は断言した。

 

「お前たちは我々より早くアークを感知したからこそ、あそこで戦えたのだろう?」

 

 秋葉は見抜いていた。

 

「だから考えた」

 

 秋葉の視線が、静かにステラへ向く。

 

「ノクスたちは、また強大なアーク出現する際、最初に感知する可能性が高い。」

 

「だったら、横へ置くべきなのは誰か」

 

 数秒、沈黙。

 

「…………」

 

 ステラの肩が、小さく揺れる。

 

 秋葉は続けた。

 

「メンシスみたいな存在と再接触するなら、イグニスを殺した側へ繋がる可能性もある。だから、ステラをノクスと一緒にした」

 

 静かな声だったが、その言葉は重かった。

 

 あなたはゆっくり秋葉を見る。

 

「……最初からそこまで考えてたのか?」

 

「仕事だからな」

 

 秋葉は短く答える。

 

 あなたは、ゆっくり秋葉を見る。

 

「……最初からそこまで考えてたのか?」

 

「仕事だからな」

 

 秋葉は短く答え、その声音は淡々としている。

 

 でも、冗談ではないとわかる声だった。

 

「…………」

 

 あなたは少しだけ考える。

 

 頭の中で、昨日の炎のアークを思い出す。

 

「……それで」

 

 あなたは口を開く。

 

「なんで今その話をした?」

 

「あと、俺たちは何をすればいい」

 

 部屋が静かになる。

 

 数秒の沈黙、その後答えたのはプリンだった。

 

「理由は単純です」

 

 小さな身体が、静かにあなたを見る。

 

「そのアークが、そろそろこちらに来るからです」

 

 プリンは平然としている。

 

「待て」

 

 あなたは眉をひそめる。

 

「なんでお前、そんなこと――」

 

 そこまで言って、止まる。

 

 プリンは、ずっと普通じゃなかった。

 

「…………」

 

 あなたは小さく息を吐いた。

 

「……いや、いい」

 

「前も言ったけど、嫌なら無理に話さなくていい」

 

 プリンが少しだけ目を瞬く。

 

 あなたは頭を掻いた。

 

「知ってることは知ってるんだろうなってのは、もうわかってるし」

 

「今はそっちより、どうするかの方が大事だ」

 

 プリンは数秒黙ったあと、小さく頷いた。

 

「了解しました」

 

 一方、秋葉は黙ったままだった。

 

 腕を組み、視線を落とし、何かを考えている。

 

 管理官としてか、あるいはそれ以外か。

 

 読めない顔だった。

 

 そして。

 

「……プリンちゃん」

 

 今までとは違う、静かな声。

 

 あなたはそちらを見る。

 

 俯いていたステラが、ゆっくり顔を上げていた。

 

「…………」

 

 空気が変わる。

 

 いつもの笑顔がない。

 

 明るさもない。

 

 そこにいたのは、魔法少女ではないステラ。

 

 太陽みたいな少女ではなく、何かを追い続けている人間の顔。

 

 橙色の瞳が、まっすぐプリンを見ている。

 

「知ってるんだよね」

 

 静かな声。

 

「そのアークのこと」

 

 プリンは答えない。

 

 ステラは続ける。

 

「イグニスを殺した奴について」

 

 部屋が、しん、と静まり返った。

 

 あなたは初めて見る。

 

 こんな真剣な顔のステラを。

 

「教えて」

 

 その声の中に、太陽はいなかった。




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