夜の河川敷は静かだった。
街のネオンが川面に滲み、遠くではまだ大型ビジョンの音がかすかに響いている。
『本日の討伐MVPは――』
「うるさい」
あなたは即座に切った。
スマホの画面を伏せ、深くため息を吐く。
プリンがぴょこんと揺れ、お気に入りのトートバックの中から出てくる。
「情報収集は重要です」
「精神衛生の方が重要だ」
「現在のあなたの精神状態は平均より不安定です」
「誰のせいだと思ってる」
「世界です」
「お前だよ」
即答。
プリンは少しだけ嬉しそうに揺れた。
「意思疎通が円滑ですね」
「ぶん殴るぞ」
あなたはジャージの上着を引っ張る。
……いや“引っ張ろうとして止まる”。
変身解除の方法が分からなかった。
つまり今のあなたは、普通にピンク髪の魔法少女姿で河川敷に立っている。
最悪だった。
「なんで解除できないんだよ……」
「慣れてください」
「そのワード禁止」
プリンは沈黙する。
数秒後。
「禁止ワードを更新しました」
「会話AIみたいなノリやめろ」
川風が吹く。
スカートが揺れる。
「っ……!」
反射的に押さえる。
プリンがこちらを見る。
「人間の羞恥反応は興味深いです」
「うるさい」
「防御動作として合理的です」
「うるさい」
「ですが効率面では――」
「うるさい」
三連続。
プリンは少しだけしょんぼりしたように丸くなった。
その姿が妙に小動物っぽくて、腹立たしい。
あなたは河川敷の真ん中まで歩く。
夜風が肌に当たる。
生足が寒い。
「……で?」
あなたは腕を組む。
「魔法って何ができるんだよ」
プリンは即答した。
「はい」
「いや説明しろよ」
「現在、適合によって複数能力が解放されています」
「複数」
「はい」
「嫌な予感しかしない」
プリンはぴょこんと跳ねる。
「まず基本能力として、身体強化」
あなたは軽くジャンプしてみる。
次の瞬間。
「えっ」
景色が吹き飛んだ。
地面が一気に遠ざかる。
「うわあああああ!?」
十数メートル。
普通に飛んだ。
着地。
ズドン。
「っぎゃあ!!」
河川敷の土が爆ぜる。
衝撃が足から全身へ抜ける。
でも――壊れていない。
痛くない。
あなたは呆然と自分の脚を見る。
「……やば」
プリンが補足する。
「筋力・耐久・反応速度が大幅に上昇しています」
「いやそれ先に言え!!」
「学習効率を優先しました」
「雑!!」
あなたは土煙の中で咳き込む。
そのとき。
河川敷のベンチの近くで、カップルらしき二人がこちらを見ていた。
沈黙。
女性が言う。
「……今の見た?」
男性が言う。
「撮れた」
「やめろォ!!」
あなたは反射的に顔を隠す。
終わった。
SNSだ。
絶対SNSだ。
『謎のピンク魔法少女、河川敷で着地失敗』
最悪すぎる見出しが脳内をよぎる。
プリンは冷静だった。
「問題ありません」
「何が!?」
「現在のあなたは“新規魔法少女候補”として認識される可能性が高いです」
「それ問題大アリだろ!!」
あなたは頭を抱える。
プリンは続ける。
「ですが戦闘映像としての需要は高いと思われます」
「需要って言うな」
あなたは深呼吸する。
落ち着け。
まずは能力確認だ。
羞恥は後回し。
……後回しにしたところで消えないが。
「他には」
「はい。エネルギー操作」
「雑な説明しかできないのかお前」
「概念理解が早い方が実践向きです」
「絶対教育向いてないだろお前」
プリンは少しだけ得意そうに揺れた。
「よく言われます」
「誰に?」
「いません」
「怖いこと言うな」
あなたは手を前に出す。
「で、どうやる」
「イメージです」
「一番困るやつ来たな」
「おっぱいの間から外部へエネルギー流路を――」
「言い方ァ!!」
あなたは反射的に胸を押さえる。
プリンは不思議そうに首を傾げた。
「そこは現在あなたの主要出力器官ですが」
「説明が全部恥ずかしい!!」
河川敷にあなたの悲鳴が響く。
遠くのカップルがまだ見ていた。
もう帰りたい。
あなたは半ばヤケクソで手を突き出す。
「こうか!? こうだな!?」
瞬間。
光が弾けた。
ピンク色。
やたらキラキラしていた。
しかも。
ハート型だった。
沈黙。
「…………」
あなたはゆっくりプリンを見る。
プリンは言った。
「視覚的親和性を重視しました」
「殺す」
「高評価が期待できます」
「殺す!!」
放たれた光弾が河川敷の先で爆発する。
ドォン!!
水柱が上がる。
夜空にピンクの粒子が舞う。
綺麗だった。
腹立つくらい綺麗だった。
あなたは頭を抱えた。
「なんで……なんでこんな“魔法少女です♡”みたいな演出なんだよ……」
プリンはきょとんとしている。
「重要です」
「何が」
「人類は“可愛い”を過小評価しています」
「今それ語る!?」
プリンは真面目だった。
「可愛いは警戒心を下げます」
「うん」
「親和性を生みます」
「うん」
「つまり合理的です」
「くそっ……ちょっと納得できるのが腹立つ……」
あなたはその場にしゃがみ込む。
スカートが広がる。
「うわぁ……」
羞恥が追撃してくる。
プリンが近づく。
「ですが」
「……なんだよ」
「あなたは、よく似合っています」
沈黙。
風が吹く。
数秒後。
「……プリン」
「はい」
「今すぐ川に投げ捨てられるか、自分で飛び込むか選べ」
プリンは少しだけ嬉しそうに揺れた。
「私たちの仲は深まっていますね」
「違う、殺意だ」
「話を戻します」
「おい」
「先ほどのは、基本的な放出操作のみです」
あなたは指の隙間から見る。
「……のみ?」
「はい。エネルギーは放出以外にも使用可能です」
「どういう意味だ」
プリンはぴょこんと跳ねながら説明を始める。
「あなたの魔力――正確には、私との接続エネルギーですが」
「言い方がちょっとキモい」
「現在それは身体外部へ流せます」
「うん」
「つまり、武器・衣服・物体へエネルギー付与が可能です」
あなたは少し固まる。
「……武器?」
「はい」
「待て」
嫌な予感がした。
「それって、もしかして」
「はい」
プリンは頷く。
「外部媒体を経由した場合、演出方向性を制御できます」
沈黙。
数秒。
あなたの顔がゆっくり上がる。
「……制御?」
「はい」
「つまり?」
「ハートやキラキラを減らせます」
沈黙。
あなたは無言で立ち上がる。
プリンを見る。
プリンも見返す。
「……プリン」
「はい」
「なんで先に言わなかった」
プリンは一切悪びれず答えた。
「観測したかったので」
「何を」
一拍。
「あなたの羞恥反応です」
沈黙。
風が吹く。
あなたのスカートが揺れる。
「…………」
プリンは続ける。
「非常に興味深い挙動でした」
「お前」
「はい」
「思ったより性格悪いな?」
プリンは首を傾げた。
「悪意はありません」
「好奇心で人を地獄に落とすタイプだこいつ!!」
あなたは頭を抱える。
プリンは真面目な声で続ける。
「人類の感情反応は重要な学習要素です」
「その学習対象から今すぐ降ろしてくれ」
「ですがあなたは反応が豊富です」
「嬉しくねえ!!」
プリンはぴょこんと跳ねる。
「特に羞恥状態では発声速度と語彙密度が上昇します」
「分析するな!!」
河川敷に叫びが響く。
プリンは少し満足そうだった。
その態度が腹立つ。
「……で」
あなたは深呼吸する。
「その“武器に流す”って具体的には?」
プリンは待っていましたと言わんばかりに説明を始める。
「エネルギー放出には“人格補正”がかかります」
「嫌な単語来たな」
「素手状態では、あなたの感情と適合性がそのまま演出に変換されます」
「つまり?」
「現在のあなたは“かわいい系魔法少女適性”が極めて高いです」
「聞きたくなかった」
プリンは続ける。
「ですが武器や装備を介すと、出力形式が固定化されます」
「……おお?」
「つまり演出を“武装側”へ逃がせます」
あなたの目が少し見開く。
「それって」
「剣なら斬撃演出」
「おお」
「銃なら射撃演出」
「おお!!」
「槍なら貫通特化」
「いいじゃん!!」
「大幅にハート発生率を低下可能です」
「神か?」
プリンは少し誇らしげに胸を張った。
「はい」
「違う」
即否定。
でも希望は見えた。
あなたは真剣な顔になる。
「つまり俺は、普通に戦える武器を使えばいいんだな?」
「はい」
「じゃあ最初からそうしろよ!!」
「羞恥反応の観測を優先しました」
「お前ほんとさぁ!!」
あなたは思わずプリンを掴もうとする。
しかしプリンはぴょこん、と回避した。
あなたはムカついた。
プリンは少し距離を取ってから、静かに言う。
「ですが」
「……なんだよ」
「現在のあなたは、かなり楽しそうです」
あなたは止まる。
「は?」
「先ほどまでより発声が安定しています」
「それは」
「怒っているだけですが」
あなたは口を開きかける。
閉じる。
……否定しきれなかった。
けど、さっきまでの絶望感よりは、確かにマシだった。
戦える。
何かできる。
この世界に、抗えるかもしれない。
その感覚が、少しだけ胸の奥を熱くしていた。
プリンはそれを観察するみたいに見上げている。
「……お前さ」
「はい」
「本当にアークなんだよな?」
「はい」
「なんか思ったより」
あなたは少し迷う。
「……変なやつだな」
プリンは数秒止まった。
それから、ほんの少しだけ嬉しそうに揺れた。
「ありがとうございます」
「褒めてねえよ」
その瞬間だった。
――ゴォン。
空気そのものを叩くような低い轟音が、夜の街を震わせた。
河川敷の水面が揺れる。
遠くのビル群の間で、赤い警報灯が一斉に点滅し始めた。
『緊急警報――』
『アーク反応を確認――』
『第三区画上空に裂界発生――』
街のスピーカーから機械音声が流れる。
あなたは反射的に顔を上げていた。
空。
黒い裂け目。
空間を無理やり引き裂いたみたいな異常。
「……ついにきたか」
さっきまでのしょうもない会話が、一瞬で吹き飛ぶ。
胸の奥が冷える。
あのコンビニの夜。
ルミナの姿。
疲れ切った笑顔。
全部が一気に蘇る。
あなたは一歩踏み出す。
「行くぞ、初陣だ」
プリンがすぐに反応しなかった。
珍しかった。
あなたは振り返る。
プリンはじっと空を見ていた。
いつものぴょこぴょこした動きが止まっている。
「……プリン?」
一拍。
プリンは静かに言った。
「推奨しません」
あなたは目を瞬く。
「は?」
「現在のあなたは戦闘経験が不足しています」
「そりゃそうだろ」
「出力制御も不完全です」
「だから慣れるんだよ」
「死亡率が高いです」
その声は、いつもより少し硬かった。
あなたは少しだけ眉を上げる。
プリンは続ける。
「武装形成も未習得」
「うん」
「飛行制御も不安定」
「うん」
「近接戦闘技能ゼロ」
「言いすぎじゃない?」
でも。
そこであなたは気づく。
プリンが妙に落ち着かない。
尻尾みたいなものが、そわそわ揺れている。
「……お前」
「はい」
「もしかして心配してる?」
沈黙。
プリンは数秒止まった。
「合理的判断です」
「それ、はいって意味だろ」
「違います」
「声がちょっと速かったぞ今」
プリンは視線を逸らす。
逸らせる構造なのか分からないのに、なんとなく逸らした感じがした。
「あなたが死亡した場合、私も生存経路を失います」
「なるほど」
「はい」
「……それだけ?」
一瞬。
本当に一瞬だけ。
プリンの動きが止まった。
それから小さく言う。
「……それだけでは、ありません」
あなたは少し目を丸くする。
風が吹く。
警報音が遠くで鳴り続けている。
プリンは小さい声で続けた。
「あなたは、変です」
「悪口?」
「いいえ」
即答だった。
「他の人間と違います」
「何回も言うなそれ」
「普通、人間は私を見れば恐怖します」
「まあ普通そうだろうな」
「でもあなたは、怒りました」
プリンは静かに言う。
「ルミナを見て」
「……」
「世界を見て」
その声は、どこか不思議そうだった。
「だから」
一拍。
「壊れてほしくありません」
あなたは少し黙る。
胸の奥が、妙にくすぐったかった。
なんだこれ。
アークに心配されてる。
しかも結構ちゃんと懐かれてる気がする。
意味が分からない。
でも――悪くなかった。
あなたは思わず笑う。
「なんだよ」
「……結構かわいいとこあるじゃん」
プリンが止まる。
「かわいい」
「おう」
「私が」
「おう」
数秒の沈黙。
プリンはぷるぷる揺れ始めた。
「情報処理に問題が発生しています」
「照れてんのか?」
「違います」
「めっちゃ揺れてるぞ」
「内部演算です」
「便利ワードだなお前」
あなたはしゃがみ込み、プリンの頭らしき部分を軽く撫でた。
ぷに、と柔らかい。
プリンが完全停止する。
「…………」
「そんな固まる?」
「未確認挙動です」
あなたは少し笑う。
それから立ち上がった。
空を見る。
黒い裂け目は、もう広がり始めている。
時間がない。
あなたは深呼吸する。
「大丈夫だよ」
プリンを見る。
「死なねえから」
「根拠がありません」
「気合い」
「非合理的です」
「でも行く」
即答。
プリンはしばらく黙っていた。
それから、小さく跳ねる。
「……同行します」
「ん」
「全力で補助します」
「頼りにしてる」
プリンがまた少し固まる。
そして、小さく言った。
「はい」
あなたは走り出す。
スカートが翻る。
「うわやっぱこれ恥ずかしいな!!」
「今さらです」
「うるさい!!」
河川敷を蹴る。
身体が軽い。
風が頬を叩く。
遠くで警報が鳴っている。
誰かが助けを求めている。
だからあなたは走る。
隣では、小さなアークがぴょこんぴょこん跳ねながらついてきていた。
理不尽で。
狂っていて。
どうしようもない世界。
でもこれからは一人じゃない――
そんな気がした。
*
夜の街を駆ける。
ビルの壁面モニターが一斉に緊急放送へ切り替わっていた。
『第三区画にアーク反応!』
『現在、第三世代魔法少女、ルミナが出動中!』
派手なエフェクト。
煽るようなBGM。
カウントダウン演出。
まるでスポーツ中継だった。
あなたはビルの壁を蹴って跳躍する。
身体が軽い。
普通なら不可能な距離を、一歩で飛び越える。
でも。
「……くそ」
気分は最悪だった。
交差点では人々が足を止め、空を見上げている。
「第三世代だって!」
「ルミナいるかな!?」
「配信始まったぞ!」
スマホ画面を向ける人。
笑っている人。
期待した顔。
その全部が、あなたの神経を逆撫でする。
「災害だぞこれ……」
思わず漏れる。
プリンが隣を跳ねながら答える。
「人類は危機を娯楽化する傾向があります」
「分析が冷静すぎる」
「歴史的にも一般的です」
「知りたくなかった事実ランキング上位だな」
大型モニターには、魔法少女たちのプロフィールが映っていた。
『本日の注目♡』
『第三世代エース・ルミナ!』
キラキラした演出。
笑顔の静止画。
好きな食べ物。
最近ハマってるもの。
ファンへのメッセージ。
あなたの顔が引きつる。
「なんで戦場行くやつのプロフィールがアイドル形式なんだよ……」
「親近感の演出です」
「嫌すぎる」
その瞬間、歓声が上がる。
「ルミナ来た!!」
空の向こう。
光が走る。
あなたは反射的に視線を向ける。
小さく見えた。
夜空を飛ぶ魔法少女。
ルミナ。
また戦っている。
あなたは奥歯を噛み締める。
プリンが静かにこちらを見る。
「怒っていますか」
「そりゃな」
「どこに対してですか」
あなたは数秒黙る。
世界。
システム。
観客。
全部だ。
でも、一番腹立たしいのは。
「……慣れてることだよ」
小さく吐き捨てる。
「誰も変だと思ってない」
プリンは少しだけ静かになった。
あなたは話題を切り替えるように言う。
「で」
「はい」
「武器の話だ」
プリンが少し跳ねる。
「武装形成ですね」
「その言い方ちょっとかっこいいな」
「はい」
「認めるんだそこは」
あなたはビルの屋上へ着地する。
夜風。
遠くの警報。
そして変わらず翻るスカート。
「……でさ」
「はい」
「エネルギー放出がダサいのって、“飛ばす”からなんだよな?」
「概ね正解です」
「つまり」
あなたは拳を握る。
「身体強化だけで殴れば、ハート減る?」
プリンは数秒考える。
「はい」
あなたの目が輝く。
「マジで?」
「近接体術主体であれば、演出はかなり抑制可能です」
「おお!!」
「内部循環型運用になります」
「急に専門用語」
「身体能力への直接還元です」
「つまり?」
「めちゃくちゃ強く殴れます」
「最高じゃん」
あなたは思わず笑う。
プリンは続ける。
「特にあなたは適合率が高いため、身体強化との相性が極めて良好です」
「よし」
あなたは拳を打ち合わせる。
「決めた」
「はい」
「俺、殴るわ」
プリンが止まる。
「……はい?」
「もういい」
あなたは真顔だった。
「ビームとか撃つと恥ずかしい」
「合理的理由です」
「剣も今から用意する時間ない」
「はい」
「ならもう肉弾戦だ」
プリンは少しだけ困惑したように揺れる。
「魔法少女としては珍しい戦闘スタイルになります」
「知るか」
あなたは拳を握る。
力が流れる感覚。
熱が身体の中を循環していく。
さっきの“外へ放つ”感覚とは違う。
もっと鋭い。
もっと直接的。
足元のコンクリートが小さく軋む。
プリンが分析するように言った。
「出力安定」
「ん」
「演出抑制確認」
「よし」
「ハート発生率、大幅低下」
「その報告いる?」
プリンは少しだけ残念そうに揺れた。
「ゼロではありません」
「なんでだよ!!」
「適性です」
「クソ仕様!!」
あなたは頭を抱える。
でも。
前よりマシだ。
かなりマシだ。
少なくともハート弾を撒き散らすよりは。
あなたは再び空を見る。
黒い裂け目。
光。
戦っている魔法少女たち。
その中にルミナがいる。
あなたは静かに息を吐く。
「……待ってろ」
誰に向けた言葉か、自分でも分からなかった。
でも足は止まらない。
あなたは夜の街を蹴る。
ピンク髪を風になびかせながら。
ビルからビルへ飛び移る。
風が耳を裂く。
夜景が流れる。
身体強化だけに集中すると、確かに余計なキラキラ演出はかなり減っていた。
まだ時々、着地の瞬間に微妙なハート状の火花が散るが。
「なんで残留するんだよ……」
「根本適性です」
「呪いみたいに言うな」
あなたは屋上を蹴る。
その瞬間だった。
「待ってください」
プリンが急に真面目な声を出した。
あなたは足を止める。
「なんだよ」
プリンは珍しく、ぴょこぴょこしていなかった。
「重大な問題があります」
空気が少し変わる。
あなたは眉をひそめる。
「……何だ」
「あなた、まだ魔法少女名を決めていません」
沈黙。
風。
遠くの警報。
「…………は?」
「コードネームです」
「今それ!?」
あなたは思わず叫ぶ。
「アーク出てんだぞ!?」
「だからです」
プリンは真顔だった。
「あなたは現在、“未知の魔法少女”です」
「まあそうだな」
「つまり、極めて目立ちます」
「うん」
「そしてあなたの力は、本来の魔法少女システムと異質です」
あなたの顔から少しだけ色が消える。
プリンは静かに続けた。
「アーク由来だと判明した場合」
一拍。
「排除対象になります」
夜風が吹く。
あなたは無意識に口を閉じる。
確かに。
そうだ。
もしバレたら終わる。
人類側から見れば、あなたは敵そのものだ。
「……つまり」
「はい」
プリンは頷く。
「“魔法少女らしく振る舞う”必要があります」
「嫌な日本語だなぁ……」
「重要です」
「でも今そんなこと考えてる場合か?」
「あります」
プリンは即答した。
「現場では高確率で目撃されます」
「……あ」
「名乗りを要求される可能性があります」
「そんな戦隊ヒーローみたいな文化ある!?」
「あります」
「最悪だ!!」
プリンは淡々と説明する。
「魔法少女管理庁は戦闘データと活動個体を識別しています」
「うん」
「つまり名無しは逆に危険です」
「なんでだよ」
「不審者だからです」
「魔法少女にも職質概念あるの!?」
あなたは頭を抱える。
プリンは続ける。
「最低限、“既存システムに属する存在”として偽装してください」
「くそぉ……」
言ってることは正しい。
正しすぎて腹が立つ。
あなたは深くため息を吐いた。
「……で?」
「はい」
「どんな名前ならいいんだ」
プリンが少し揺れる。
「現在の外見と出力傾向から判断すると」
「嫌な予感」
「“キュア”系統との親和性が――」
「却下!!」
即答。
プリンが少しびくっとした。
「では“ハート”」
「却下」
「“ラブ”」
「却下」
「“ピーチ”」
「絶対嫌だ!!」
あなたは全力で拒否する。
プリンは不思議そうだった。
「なぜですか」
「恥ずかしいだろ!!」
「ですが視覚適合率は」
「うるさい!!」
あなたはその場で頭を抱えてしゃがみ込む。
スカートが広がる。
「もう最悪だこの格好……」
プリンがじっと見ている。
「……また観測してる?」
「はい」
「正直だなお前!!」
あなたは立ち上がる。
考えろ。
もっとこう。
かっこいいやつ。
ハートとかラブとかじゃないやつ。
強そうなやつ。
そして、アークっぽくないやつ。
「……ルミナみたいな感じか」
あなたはぽつりと呟く。
短くて。
象徴っぽくて。
少しだけ、希望を感じる名前。
プリンが頷く。
「コードネーム文化として一般的です」
「じゃあ……」
あなたは空を見る。
黒い裂け目。
光。
夜。
心臓が少し速い。
怖い。
でも。
止まる気は、もうなかった。
「……ノクス」
プリンが少し止まる。
「どういった意味でしょうか」
「夜って意味」
「現在状況と一致してますね」
「うるさい」
でも、なんとなくしっくり来た。
光じゃない。
希望の象徴でもない。
綺麗な存在でもない。
でも、夜の中で戦う名前としては悪くない気がした。
プリンは小さく跳ねる。
「登録名、“ノクス”を確認しました」
「登録って言うな」
「では次に名乗りポーズを――」
「いらねえよ!!」
あなたは即座に走り出す。
プリンが慌てて追いかける。
「ですが魔法少女文化では重要要素です!」
「知らん!!」
「第一印象は戦闘継続率に影響します!」
「営業職かよ!!」
――ドゴォン!!
空気が震える。
今までより近い。
何かがおかしい。
あなたは反射的に顔を上げる。
光と煙。
それに混ざる、複数の悲鳴。
街の空気が変わっていた。
ざわついている。
プリンも静かになった。
「……出力反応、増大」
「強いのか?」
「はい」
その声は低かった。
あなたは奥歯を噛む。
また爆発音。
ビルの窓ガラスが震える。
嫌な予感がした。
ルミナ。
脳裏に浮かぶ。
疲れ切った顔。
笑っていた少女。
あなたは舌打ちする。
「くそ、急ぐぞ」
「待ってください」
プリンが呼び止める。
「まだあります」
「今度はなんだ!」
プリンは数秒黙った。
それから。
「名乗りです」
「後だ後!!」
「戦闘中の初接触で必要になる可能性があります」
「だから後!!」
「提案があります」
あなたは走り出しかけた足を止める。
嫌な予感しかしない。
プリンは静かに言った。
「現在のあなたの外見・適性・人格傾向を統合分析した結果」
「人格傾向って言うな」
「最適な初動名乗りを構築しました」
「絶対嫌だ」
「聞くだけでも」
「聞くだけな」
プリンは小さく跳ねる。
そして。
あなたの耳元で、その“名乗り”を囁いた。
沈黙。
数秒。
「……………………」
あなたの顔が真っ赤になる。
「……………………プリン」
「はい」
「お前、俺に死ねって言ってる?」
「いいえ」
「こんなの口にした瞬間社会的に終わるだろ!!」
「ですが魔法少女文化との親和性は極めて高いです」
「最悪だ!!」
あなたは頭を抱えてしゃがみ込む。
しかも。
悔しいことに。
語感が良かった。
テンポも良かった。
妙に完成度が高かった。
「なんでこんな無駄な才能あるんだよお前……」
「観測の成果です」
「クソが……」
その瞬間、空が揺れた。
轟音。
今度は、明確に違った。
――悲鳴。
そして。
光が落ちる。
あなたの瞳が見開く。
「あれ……」
遠く。
ビル街の向こう。
魔法少女の光が、一瞬だけ大きく乱れた。
落ちたように見えた。
空気が凍る。
プリンが静かに言う。
「……状況悪化」
あなたは数秒黙る。
それから、深く息を吐いた。
「……わかった」
プリンがこちらを見る。
あなたは顔をしかめたまま言う。
「それ使う」
プリンが止まる。
「確認します」
「確認するな」
「本当に?」
「うるさい」
恥ずかしい。
死ぬほど恥ずかしい。
絶対言いたくない。
でも今は、そんなこと言ってる場合じゃない。
あなたは拳を握る。
身体強化。
熱が巡る。
視界が鋭くなる。
「行くぞ、プリン」
プリンは数秒黙っていた。
それから、小さく跳ねる。
「はい、ノクス」
あなたはビルを蹴った。
夜空へ跳ぶ。
スカートが翻る。
ピンク髪が風を裂く。
遠くでは戦闘音が鳴り続けている。
そしてあなたは――
人生で一番恥ずかしい名乗りを胸に抱えたまま、戦場へ向かった。
*
夜空を、青い光が裂く。
ルミナは高速でビル群の間を駆け抜けながら、鋭く息を吐いた。
風圧で青い髪が流れる。
街のネオンが、その姿を一瞬だけ幻想的に照らしていた。
地上から歓声が聞こえる。
「ルミナだ!」
「第三世代きた!!」
「勝ったなこれ!」
スマホのカメラが向く。
配信。
実況。
期待。
全部、視界の端に映る。
ルミナはそれらを無意識に処理しながら、空を睨んだ。
いた。
アーク。
鳥のようなシルエット。
だが、“鳥”というには形状が不安定すぎる。
羽だったものが途中で腕に変わり、嘴が裂け、そこから黒い粒子が零れている。
空そのものが軋んでいた。
ルミナは眉をひそめる。
――おかしい。
それが最初の感想だった。
アーク出現には、通常“前兆”がある。
空間歪曲。
魔力ノイズ。
感知波形。
魔法少女たちはそれを察知し、先回りする。
だから避難も間に合う。
だから迎撃できる。
でも今回は違った。
突然、現れた。
感知が空白だった。
まるで。
“最初からそこにいた”みたいに。
「……何これ」
小さく呟く。
その瞬間。
鳥型アークが羽を振るった。
黒い羽根が散る。
次の瞬間、それが全部“弾丸”になる。
ルミナは反射的に回避した。
――ドドドドドッ!!
後方のビル壁面が吹き飛ぶ。
ガラスが砕ける。
悲鳴。
ルミナの目が鋭くなる。
「下がって!」
地上へ叫ぶ。
同時に光を放つ。
青白い閃光が羽根を撃ち落とす。
爆発。
夜空に光が散る。
地上から歓声。
「うおおお!!」
「ルミナ強ぇ!!」
その声に、ルミナの胸が少しだけ冷える。
違う。
今のは危なかった。
普通なら死んでいた。
でも観客は“映像”として見ている。
ルミナは唇を噛む。
それでも表情は崩さない。
崩せない。
カメラが回っている。
第三世代エース。
みんなの希望。
それが“ルミナ”だ。
弱い顔は見せられない。
鳥型アークが鳴いた。
――ギィイイイイイ。
耳障りな音。
空気が歪む。
ルミナの肌が粟立つ。
嫌な感覚だった。
出力が読めない。
動きも妙だ。
通常のアークより、“ズレ”が大きい。
「……なんで」
思考する。
だが時間がない。
アークが突っ込んでくる。
速い。
「っ!」
ルミナは空中で体をひねる。
青い光刃が走る。
片翼を切断。
黒い液体が散る。
普通ならこれで怯む。
でも、アークは止まらなかった。
「……!」
次の瞬間。
衝撃。
ルミナの身体が吹き飛ぶ。
ビル壁面へ激突。
――ドォン!!
コンクリートが砕ける。
歓声が、一瞬だけ止まった。
ルミナは咳き込む。
痛い。
肺が焼ける。
でも、地上には人がいる。
避難しきれていない。
ルミナはすぐに立ち上がる。
インカムが騒ぐ。
『ルミナ! 大丈夫!?』
「平気です」
即答。
反射みたいな返事。
本当は平気じゃない。
でも、言えない。
言った瞬間、不安が広がる。
それは“ダメ”だ。
ルミナは再び飛び上がる。
青い光が夜空を裂く。
地上からまた歓声。
「立った!!」
「いける!!」
「ルミナー!!」
その声が、今日は妙に遠かった。
ルミナはアークを睨む。
鳥型。
異常個体。
感知不可。
そして強い。
嫌な予感が消えない。
胸の奥で警鐘が鳴っている。
それでも戦うしかない。
だってここは自分の担当地区だから。
ルミナは深く息を吸う。
そして、いつものように笑顔を作った。
たとえ誰も、その笑顔の意味を知らなくても。
ルミナは笑う。
口角を上げる。
呼吸を整える。
空中で姿勢を制御する。
それはもう反射だった。
訓練より先に身体へ刻み込まれた、“魔法少女の振る舞い”。
『ルミナ立て直しました!』
実況が叫ぶ。
歓声が返ってくる。
ルミナはその声を聞きながら、どこか遠い場所のことみたいに感じていた。
笑顔。
なぜ笑うのか。
昔は考えたこともあった気がする。
でも今は、もう分からない。
ただ、“そうするもの”だから笑う。
魔法少女は笑う。
怖くても。
痛くても。
息が苦しくても。
笑う。
それが正しい姿だから。
それが求められているから。
鳥型アークが再び鳴く。
耳障りな音。
空間が震える。
ルミナの背筋に冷たいものが走った。
怖い。
その感覚だけは、どれだけ慣れても消えなかった。
戦闘のたびに思う。
死ぬかもしれない、と。
今日こそ終わるかもしれない、と。
でも。
その恐怖を口にする方法を、もう忘れてしまった。
言っても意味がないから。
みんな怖い。
みんな戦う。
だから、自分も戦う。
それだけだった。
地上から声が飛ぶ。
「ルミナー!!」
「頑張れー!!」
「負けるなー!!」
熱。
期待。
信頼。
その全部が、ルミナには時々“重い光”に見えた。
応援されるたび、少しだけ息が詰まる。
でも同時に。
それを失うことも怖かった。
期待されなくなるのが怖い。
必要とされなくなるのが怖い。
戦えなくなるのが怖い。
だから。
笑う。
だから。
戦う。
理由なんて、もう曖昧だった。
正義感なのか。
使命感なのか。
義務なのか。
惰性なのか。
分からない。
でも一つだけ確かなことがある。
自分は魔法少女だ。
なら、戦わなければならない。
ルミナは空を蹴る。
青い光が尾を引く。
アークの爪が迫る。
回避。
反撃。
衝撃。
腕が痺れる。
強い。
このアークは、明らかにおかしい。
でも、逃げられない。
だって地上には人がいる。
街がある。
カメラがある。
観客がいる。
そして。
“ルミナ”がいる。
だから彼女は笑う。
意味が分からなくても。
自分が壊れかけていても。
怖くても。
歓声に怯えていても。
戦う。
魔法少女だから。
それだけを、彼女はずっと教えられてきた。
肩が重い。
腕が上がらない。
魔力出力はとっくに危険域へ入っている。
ルミナは苦く笑う。
「……ほんと、ブラックだなぁ」
小さく呟く。
返事はない。
鳥型アークが空を裂く。
速い。
さっきよりさらに。
ルミナは反応しきれず、防御を展開する。
――バキィン!!
青い障壁が砕けた。
「っ……!」
衝撃。
身体が吹き飛ぶ。
ビルへ激突。
コンクリートが砕ける。
肺から空気が押し出される。
痛い。
視界が揺れる。
その瞬間。
――ブツン。
街頭ビジョンの映像が消えた。
近くの電光掲示板も落ちる。
光が途切れる。
街が、一瞬だけ暗くなった。
ルミナは瓦礫の中でぼんやり思う。
中継、切れたんだ。
でも、すぐに聞こえてきた。
「ルミナー!!」
「頑張れー!!」
「立ってー!!」
応援の声。
下からたくさん。
途切れない。
ルミナは目を閉じる。
……呪いみたいだ。
そう思った。
期待。
信頼。
希望。
全部が重い。
立たなきゃいけない。
笑わなきゃいけない。
負けちゃいけない。
だって、魔法少女だから。
ルミナはぼんやり思う。
……もう、このまま立ち上がれなくてもいいかな。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
そんな考えが浮かんでしまった。
その瞬間。
鳥型アークが突っ込んできた。
追撃。
避けられない。
「――ぁ」
衝撃。
視界が白く弾ける。
次の瞬間。
身体がビルの外へ投げ出されていた。
落ちる。
夜景が遠ざかる。
風が耳を裂く。
ルミナはぼんやり空を見る。
ああこれ、死ぬんだ。
妙に冷静だった。
ニュースになるのかな、と思う。
『第三世代魔法少女ルミナ、戦闘中に――』
追悼番組。
特集。
SNSトレンド。
それから、新しい子が入る。
そういう仕組み。
自分も何度も見てきた。
だから、分かる。
落ちながらなぜかあのコンビニの出来事を思い出した。
『……死ぬなよ』
あのお兄さん。
変な人。
怒ってた人。
魔法少女を見て“かわいそう”って顔をした人。
ルミナは小さく目を見開く。
あれ、嬉しかったな。
初めてだった。
戦力じゃなくて。
英雄じゃなくて。
“自分”を心配されたの。
胸が、ぶわってなった。
泣きそうになった。
でも、魔法少女だから泣かなかった。
笑わなきゃいけなかったから。
ちゃんとしてなきゃいけなかったから。
でも、本当はすごく、すごく嬉しかった。
ルミナは落ちながら、小さく思う。
……もう一回、会いたかったな。
ちゃんと話してみたかった。
名前、聞かれた時。
なんでちょっと嬉しかったんだろう。
なんで、あんなに怒ってくれたんだろう。
分からない。
でも、知りたかった。
風が強くなる。
地面が近づく。
ルミナは静かに目を閉じた。
怖い。
でも、少しだけ疲れた。
だから、そのまま落ちていった。
――ふわり。
落下の衝撃が、来なかった。
代わりに感じたのは、誰かの腕。
温かい。
しっかりと、自分を抱えている感触。
ルミナの意識がゆっくり浮上する。
……おかしい。
ぼんやりした頭で思う。
応援要請は間に合わなかったはずだ。
今日は別区画でも同時発生している。
支援戦力は足りない。
そう聞いていた。
だから助けなんて、来るはずがない。
ルミナはゆっくり目を開ける。
夜風。
流れる街明かり。
目の前に、ピンク色の髪が揺れていた。
「……え」
思わず声が漏れる。
少女だった。
自分と同じくらいの年齢に見える。
いや、少し下にも見える。
肩で揺れるピンクのボブ。
やわらかそうな髪。
光を反射する大きな瞳。
びっくりするくらい、可愛い。
ルミナは数秒、思考が止まる。
その少女は空中を飛んでいた。
片腕でルミナを抱えたまま。
もう片方の手には、淡い光。
身体強化型。
でも、見たことがない。
こんな魔法少女。
そして何より。
抱え方が妙だった。
戦場で負傷者を運ぶというより。
壊れ物を扱うみたいに、やたら丁寧だった。
ルミナは瞬きを繰り返す。
「……だ、れ」
掠れた声。
すると、ピンク髪の少女がこちらを見た。
そして、一瞬だけものすごく嫌そうな顔をした。
何かを覚悟する顔。
人生終わった、みたいな顔。
「……っ」
少女の頬が赤い。
なぜか知らないけど、すごく赤い。
そして、震える声で、決死の勢いで。
名乗った。
「――っ、え、えっと……!」
夜風が吹く。
街の炎が揺れる。
遠くでアークが咆哮する。
なのにその少女は、戦場とは別方向の極限緊張をしていた。
「わ、私は……!」
ぎゅっと目をつぶる。
半分やけくそみたいに叫ぶ。
「――ひ、人々の夜を照らす、愛と反逆のトワイライト・ブレイカー……!!」
「――魔法少女、ノクスです!!」
数秒、沈黙。
ルミナは瞬きをした。
「……ノクス?」
「うわあああああああ!!」
少女――ノクスが突然叫ぶ。
「やっぱ恥ずかしい!! 無理!! なんだこれ!!」
空中で暴れかける。
危ない。
ルミナは反射的にしがみついた。
「ちょ、落ちる!」
「すみません!!」
即謝罪。
でもそのあとも、ノクスは真っ赤だった。
「くっそプリン!! 後で覚えてろ!!」
誰かへの私怨が漏れている。
ルミナは呆然とする。
なんだこの子。
アークの目の前なのに、戦場なのに。
目の前の少女は、恥ずかしさで限界になっていた。
普通じゃない。
でも、ルミナはふと気づく。
この子。
自分を助けるために飛び込んできたんだ。
それを理解した瞬間。
胸の奥が、じんわり熱くなった。
ノクスはまだ赤面したまま叫んでいる。
「いやほんと無理だろこれ!! 初対面で名乗るタイプの名前じゃないだろ!!」
ルミナはその顔を見て。
気づけば、小さく笑っていた。
本当に久しぶりに。
自然に、笑えていた。
可愛いのが好きです。
18は欲しいか?
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よこせ
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いらぬ
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どちらでも