転生者がTS魔法少女になって頑張る話。   作:メルヘン侍

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第九話 ただいまの形が変わっていく

 数分後

 

 扉が開く音がした。

 

 あなたが顔を上げるより先に、小さな白い影がリビングへ戻ってくる。

 

 プリンだった。

 

 その後ろを、ソラリスが静かに歩いている。

 

「…………」

 

 プリンは数歩進んだところで、ぴたりと止まった。

 

 金色の瞳が、まっすぐこちらを見る。

 

 あなたはまだ、秋葉の隣へ寄りかかったままだった。

 

 頭には秋葉の手。

 

 ゆっくり髪を撫でられている。

 

 しかも、さっきのやり取りのせいで顔がまだ熱い。

 

「…………っ」

 

 一気に現実へ引き戻された。

 

「ち、違っ……!」

 

 反射的に身体を起こそうとする。

 

 けれど秋葉の手が普通に頭へ乗ったままだったせいで、変な動きになった。

 

「落ち着け」

 

 秋葉が平然と言う。

 

「落ち着かせていただけだ」

 

「その言い方がもう駄目なんだよ……!」

 

 あなたは真っ赤な顔で抗議する。

 

 恥ずかしすぎる。

 

 よりによって、このタイミングで戻ってこなくてもいいだろ。

 

 プリンは静かにこちらを見ていた。

 

 その視線が妙に落ち着いていて、逆に恥ずかしい。

 

 ソラリスも無言だった。

 

 ただ、金色の瞳が静かに細められている。

 

 何かを理解したみたいな顔だった。

 

「…………」

 

 やめてほしい。

 

 その“なるほど”みたいな空気。

 

「ノクス」

 

 プリンが、小さく名前を呼ぶ。

 

「な、何」

 

「顔が赤いです」

 

「うるさい!」

 

 即答だった。

 

 秋葉が横で小さく笑う。

 

「元気そうで何よりだ」

 

「誰のせいだと……!」

 

 あなたは顔を覆いたくなる。

 

 でも、プリンが戻ってきた安心感の方が大きくて、結局その場から離れられなかった。

 

「…………」

 

 プリンは静かにこちらを見ている。

 

 その金色の瞳が、ほんの少しだけ揺れた。

 

 秋葉へ寄りかかって。

 不安そうにして。

 撫でられて。

 

 顔を赤くしているあなた。

 

 たぶん、プリンは理解してしまった。

 

 自分が少し離れただけで、あなたが思っていた以上に不安定になることを。

 

「…………」

 

 小さく、プリンが目を伏せる。

 

 離れるべきだ。

 

 危険だから。

 合理的じゃないから。

 

 そう思っていた。

 

 でも、その“合理性”だけでは切り離せないくらい、ノクスはもう自分を求めている。

 

 それを、改めて実感してしまう。

 

「プリン?」

 

 あなたが不思議そうに呼ぶ。

 

 プリンは小さく身体を揺らした。

 

「……いえ」

 

 それだけ言って。

 

 静かにこちらへ歩いてくる。

 

 小さな足音。

 白い身体。

 見慣れた気配。

 

 それが近づいてくるだけで、胸の奥が少し落ち着いていく。

 

 プリンはソファの前で止まった。

 

 あなたを見上げる。

 

「戻りました」

 

 静かな声。

 

 その瞬間、あなたは反射みたいにプリンを抱き上げていた。

 

「わっ」

 

 珍しく、プリンが小さく声を漏らす。

 

 でもあなたは気にしない。

 

 そのまま胸元へ抱え込む。

 

「…………」

 

 温かかった。

 

 小さな体温。

 

 それだけで、胸の奥のざわつきが少し静かになる。

 

 プリンは最初こそ少し驚いていた。

 

 でも、抵抗はしなかった。

 

 むしろ、あなたの腕の中で小さく力を抜く。

 

「ノクス」

 

「……ん」

 

「私は、そこまで遠くへ行っていません」

 

「知ってる」

 

 掠れた声で返す。

 

「でも嫌だった」

 

「…………」

 

 プリンは何も言わない。

 

 ただ、静かに目を細めた。

 

「……本当に、最近甘えますね」

 

 プリンが小さく呟く。

 

 あなたの腕の中で、静かに体温を預けながら。

 

「うるさい……」

 

 掠れた声で返す。

 

 否定できないのが余計に悔しい。

 

 でも、プリンを抱えていると落ち着く。

 

 離したくない。

 

 その感覚だけは、どうしても隠せなかった。

 

 秋葉はそんな二人を見ながら、小さくコーヒーを飲む。

 

「まあ、病み上がりだからな」

 

「秋葉さんが甘やかすから悪化したんだよ……」

 

「いい女だろう?」

 

「堂々と言うなよ……」

 

 あなたが半目になると、秋葉は少しだけ笑った。

 

 ソラリスは静かにその様子を見ていた。

 

 感情の読み取りづらい顔。

 

 けれど、ほんの少しだけ金色の瞳が細められている。

 

「……理解した」

 

 不意に、ソラリスが小さく呟く。

 

「何を」

 

 あなたが聞く。

 

 ソラリスは静かにプリンを見る。

 

「お前が離脱判断を迷う理由だ」

 

「…………」

 

 プリンは答えなかった。

 

 ただ、小さく目を伏せる。

 

「ノクスは既に、精神的接続を形成している」

 

「切断時の反動は想定より大きい」

 

「ちょっと待ってその言い方」

 

 あなたが眉を寄せる。

 

「人をシステムみたいに言うな」

 

「近いだろう」

 

「近くない」

 

「否定材料が薄い」

 

「うるさいな……」

 

 秋葉が小さく笑う。

 

「まあ実際、依存傾向はかなり強いぞ」

 

「秋葉さんまで!?」

 

「事実確認だ」

 

 あなたは思わずプリンを抱えたまま顔を伏せた。

 

 恥ずかしい。

 

 でも、その腕は離れない。

 

 プリンはそんなあなたを見て、小さく息を吐く。

 

「……ノクス」

 

「ん」

 

「苦しくないですか」

 

「全然」

 

「嘘です。かなり強いです」

 

「逃げないようにしてるだけ」

 

「逃げません」

 

 即答だった。

 

 あなたは少しだけ黙る。

 

 その言葉だけで、胸の奥が少し落ち着いてしまう。

 

 プリンは、そんなあなたを静かに見上げていた。

 

 その金色の瞳に映っているのは、たぶん合理性じゃない。

 

 離れるべきだ。

 

 危険だから。

 

 その判断は、今も変わっていないはずだった。

 

 でも、腕の中でこんなふうに安心した顔をされると決意が揺らぐ。

 

 それを、プリン自身が一番理解していた。

 

「…………」

 

 静かな空気だった。

 

 夕方の光が、ゆっくり部屋を染めていく。

 

 あなたはプリンを抱えたまま、小さく息を吐いた。

 

 さっきまでの不安は、まだ完全には消えていない。

 

 でも、少なくとも今、プリンはここにいる。

 

 それだけで十分だった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 夕方の光は、もうだいぶ赤くなっていた。

 

 大きな窓から差し込む色が、静かなリビングをゆっくり染めている。

 

「…………」

 

 あなたはまだ、プリンを抱えたままだった。

 

 小さな身体。

 柔らかな体温。

 

 それが腕の中へ収まっているだけで、胸の奥が少し落ち着く。

 

 プリンも抵抗しない。

 

 静かに、あなたへ身体を預けている。

 

 そんな空気を崩さないまま、秋葉がコーヒーカップを置いた。

 

「さて」

 

 落ち着いた声。

 

「そろそろ続きだな」

 

「…………」

 

 あなたは小さく顔を上げる。

 

 プリンも静かに目を伏せた。

 

 まだ終わっていない。

 

 それは分かっていた。

 

 離れるかもしれない話も。

 観測されている話も。

 

 全部、中途半端なままだ。

 

「プリン」

 

 秋葉が静かに呼ぶ。

 

「お前、“少し離れる”と言っていたな」

 

「はい」

 

 プリンは小さく頷く。

 

「正確には、観測対策です」

 

「観測対策?」

 

 あなたが眉を寄せる。

 

 プリンは静かに続けた。

 

「現在、外側からの観測反応が増加しています」

 

「このままノクスの近くへ留まり続ければ、座標固定が進みます」

 

「つまり?」

 

「位置を掴まれる、ということです」

 

 淡々とした説明。

 

 でも、その内容は重かった。

 

 ソラリスが静かに口を開く。

 

「現在のプリンは、“こちら側”へ馴染みすぎている」

 

「本来、外側の存在はもっと曖昧だ」

 

「だが、ノクスとの接続が強すぎる」

 

 金色の瞳が、静かにこちらを見る。

 

「結果として、外側から観測しやすくなっている」

 

「……俺のせい?」

 

「違います」

 

 プリンが即答する。

 

「接続自体は必要なものでした」

 

「問題なのは、現在その結び付きが想定以上に深くなっていることです」

 

「…………」

 

 あなたは小さく黙る。

 

 胸の奥が、また少しざわつく。

 

 “深くなっている”。

 

 それを言われると、最近の自分を思い出してしまう。

 

 肩を探して。

 隣を探して。

 離れるだけで不安になって。

 

 さっきだって、少しいなくなっただけで落ち着かなかった。

 

 秋葉が静かに腕を組む。

 

「それで、対策っていうのは?」

 

 プリンは小さく息をするみたいに身体を揺らした。

 

「偽装処理です」

 

「私の観測波形を書き換えます」

 

「……そんなことできるのか?」

 

「一人では困難です」

 

 そこで、プリンがソラリスを見る。

 

「ですが、ソラリスの協力があれば可能です」

 

 ソラリスは静かに頷いた。

 

「私は元々、外側の存在だ」

 

「干渉は可能」

 

 秋葉が小さく息を吐く。

 

「つまり、一回向こう側へ行く必要があるってことか」

 

「はい」

 

 プリンの返答は静かだった。

 

 あなたの腕が、無意識に少し強くなる。

 

 プリンが小さくこちらを見上げた。

 

「……ノクス」

 

「どれくらい」

 

 掠れた声だった。

 

「どれくらい離れるんですか」

 

「数日程度を想定しています」

 

「数日……」

 

 短いはずだ。

 

 実際、長くはない。

 

 でも今のあなたには、その言葉が妙に遠く感じる。

 

 プリンは静かに続けた。

 

「今回は、最初から戻る前提です」

 

「処理終了後、必ず戻ります」

 

 その声は、前より少し柔らかかった。

 

 あなたを安心させようとしているのが分かる。

 

「勝手には消えません」

 

 静かな声。

 

「ちゃんと戻ります」

 

 あなたは少しだけ俯く。

 

 離れたくない。

 

 正直、今すぐ嫌だと言いたい。

 

 でもこれが、プリンが“消えないため”に必要なことなのも分かってしまう。

 

「…………」

 

 あなたが黙っていると、秋葉が小さく笑った。

 

「そんな顔するな」

 

「……してない」

 

「してる」

 

 即答だった。

 

「帰ってこなかったら、回収しに行く」

 

 落ち着いた声。

 

「その時は私も外側へ入る」

 

「秋葉さんまで軽く言わないでください」

 

「軽くはない」

 

 秋葉は平然と続ける。

 

「私は割と本気だ」

 

 ソラリスが静かに秋葉を見る。

 

「お前は本当に人間か?」

 

「戸籍上はな」

 

「意味が分からない」

 

「私も時々そう思う」

 

 そのやり取りに、少しだけ空気が緩む。

 

 あなたも小さく息を吐いた。

 

 プリンはそんなあなたを見上げている。

 

 金色の瞳。

 静かな視線。

 

 それから。

 

「ノクス」

 

「……ん」

 

「少しだけ、離れます」

 

 小さな声だった。

 

「ですが」

 

 プリンが、そっとあなたの服を掴む。

 

「戻ってきます」

 

 その言葉は、約束みたいだった。

 

 相変わらず、淡々としている。

 

 でも、前みたいな“合理性だけ”の響きじゃない。

 

 ちゃんと戻る。

 

 勝手には消えない。

 

 あなたへ向けて、そう伝えようとしているのが分かった。

 

「…………」

 

 あなたは小さく俯いたまま、プリンを抱える腕へ少しだけ力を込める。

 

 離したくない。

 

 今も普通に嫌だ。

 

 数日、と言われても長く感じる。

 

 でも、プリンが戻る前提で話していることだけは、少し救いだった。

 

「……絶対?」

 

 掠れた声。

 

 子供みたいな確認だった。

 

 でも、止められなかった。

 

 プリンは静かにこちらを見る。

 

「はい」

 

 迷いのない返事。

 

「必ず戻ります」

 

 あなたはその瞳を見つめ返す。

 

 金色の瞳。

 いつも通り静かな色。

 

 でも今は、その奥に少しだけ感情が見えた。

 

 離れたくない。

 

 たぶん、プリンも同じだった。

 

「…………」

 

 あなたはゆっくり息を吐く。

 

 それから、静かにプリンを胸へ抱き寄せた。

 

「じゃあ」

 

 小さく呟く。

 

「ちゃんと帰ってきてください」

 

「はい」

 

「絶対」

 

「絶対です」

 

 プリンは即答した。

 

 その声が妙に優しくて、胸の奥が少しだけ苦しくなる。

 

 秋葉は静かにその様子を見ていた。

 

 それから小さく息を吐く。

 

「出発はいつだ」

 

「本日中を予定しています」

 

「早いな……」

 

 あなたが思わず呟く。

 

 プリンは小さく目を伏せた。

 

「観測反応が増加しています」

 

「先延ばしは推奨できません」

 

 合理的な答え。

 

 でも、ほんの少しだけその声が寂しそうに聞こえた。

 

「…………」

 

 あなたは何も言えなくなる。

 

 嫌だ。

 

 離れたくない。

 

 でも、止めるわけにもいかない。

 

 その感情が胸の中でぐちゃぐちゃに混ざる。

 

 すると、プリンが小さくあなたの服を引いた。

 

「ノクス」

 

「……ん」

 

「そんな顔をしないでください」

 

「してない」

 

「しています」

 

 即答だった。

 

 少しだけ、いつもの調子に近い。

 

 あなたは思わず小さく息を漏らす。

 

 プリンはそんなあなたを見て、ほんの少しだけ目を細めた。

 

「ちゃんと帰ってきます」

 

 もう一度。

 

 今度は、確認するみたいに繰り返す。

 

「だから、待っていてください」

 

 その言葉に、あなたは小さく黙り込む。

 

 待つ。

 

 たった数日。

 

 それだけなのに、今は妙に遠い。

 

 でも。

 

「……待ってます」

 

 ようやく、掠れた声で返した。

 

 プリンは静かに頷く。

 

 それから珍しく、自分から少しだけあなたへ擦り寄った。

 

 小さな頭が、胸元へ触れる。

 

 甘えるみたいな仕草だった。

 

 あなたは一瞬、目を見開く。

 

 プリンはそのまま、小さく呟いた

 

「少しだけ、我慢してください」

 

「ちゃんと、戻ってきます」

 

 やっと。

 

 あなたは少しだけ安心できた。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 数日後。

 

「……まだ帰ってこない」

 

 あなたはソファへ沈み込みながら、小さく呟いた。

 

 時計を見る。

 

 三分前にも見た。

 

 その前も見た。

 

 意味はない。

 

 分かっている。

 

 プリンは「数日」と言っていた。

 

 今日帰るなんて、一言も言われていない。

 

 でも落ち着かなかった。

 

「また玄関見てる……」

 

 呆れたような声。

 

 ステラだった。

 

 あなたの向かいでクッションを抱えながら、半目でこちらを見ている。

 

「見てない」

 

「見てたよぉ」

 

「気のせいだろ……」

 

「五回目くらいから数えるのやめたけど?」

 

 あなたはぐったりソファへ顔を埋める。

 

 否定できない。

 

 最近の自分、本当に分かりやすい。

 

 プリンがいないだけで、部屋が妙に静かだった。

 

 肩が軽い。

 

 膝の上が空っぽ。

 

 その感覚だけで、落ち着かない。

 

「……そんなに寂しいの?」

 

 ステラが少し笑いながら聞いてくる。

 

「別に」

 

「いや絶対寂しいじゃん」

 

「うるさい……」

 

 すると、窓際で本を読んでいたルミナが静かに口を開いた。

 

「ノクス、最近ずっと探してる」

 

「っ」

 

 あなたは思わず顔を上げる。

 

 ルミナは淡々とページをめくった。

 

「肩とか」

 

「隣とか」

 

「プリンがいた場所、無意識に見てる」

 

「……見てない」

 

「見てる」

 

 即答だった。

 

 しかも静かに刺してくる。

 

 あなたはそのままソファへ崩れ落ちた。

 

「……なんで二人ともそんな観察してくるんだよ」

 

「分かりやすいから?」

 

 ステラがけらけら笑う。

 

 ルミナは静かに紅茶へ口をつけた。

 

「でも、プリンが離れるの意外だった」

 

 ルミナが小さく呟く。

 

「ずっとノクスの隣いたのに」

 

「…………」

 

 あなたは少し黙る。

 

 最後のプリンを思い出す。

 

 戻る、と何度も繰り返していた。

 

 少しだけ甘えるみたいに擦り寄ってきた。

 

 その感触が、まだ残っている。

 

「……帰ってくるとは言ってたけど」

 

 小さく呟く。

 

 胸の奥が少しざわついた。

 

 その時だった。

 

 空気が揺れる。

 

「っ」

 

 あなたが勢いよく顔を上げる。

 

 部屋の中央。

 

 何もなかった空間が、ゆっくり歪んでいた。

 

 黒い亀裂みたいなものが開く。

 

 静かな熱。

 

 見覚えのある感覚だった。

 

「ソラリス……!」

 

 あなたが立ち上がる。

 

 亀裂の向こうから、黒い髪が現れる。

 

 ソラリスだった。

 

 相変わらず静かな顔で、こちらへ歩いてくる。

 

 そして、その隣にもう一人いた。

 

「…………」

 

 思考が止まる。

 

 白い少女だった。

 

 雪みたいに淡い髪。

 短めのウルフカット。

 透き通るような白い肌。

 氷みたいに静かな水色の瞳。

 華奢で、小柄な身体。

 白を基調にした、繊細すぎるドレス。

 星や雪の結晶みたいな装飾が、光を受けて淡く煌めいている。

 

 まるで、人じゃなくて。

 

 冬そのものが形になったみたいだった。

 

 少女は静かにこちらを見る。

 

 その視線だけで、あなたの呼吸が止まりそうになる。

 

 見覚えがあった。

 

 その目だけは。

 

「……誰?」

 

 掠れた声が落ちる。

 

 少女は数秒だけ黙って。

 

 それから、小さく首を傾げた。

 

「プリンです」

 

 聞き慣れた声。

 

 でも、聞き慣れていない声。

 

「…………は?」

 

 間の抜けた声が落ちる。

 

 でも仕方なかった。

 

 理解が追いつかない。

 

 目の前にいるのは、どう見ても美少女だった。

 

 めちゃくちゃ可愛い。

 

「…………」

 

 あなたの思考が完全に止まる。

 

 横ではステラが数秒固まっていた。

 

 それから。

 

「えっ!?!?!?!?!?」

 

 爆発した。

 

「プリンちゃん!?!?!?」

 

「え、待って待って待って!!!」

 

「可愛っ!?!?!?」

 

「何これ!?!?!?」

 

 大騒ぎだった。

 

 ルミナも珍しく、本を持ったまま静止している。

 

 淡い青の瞳が、静かにプリンを見ていた。

 

「……綺麗」

 

 ぽつりと零れた声。

 

 それくらいしか出てこなかったみたいに。

 

 ソラリスだけは平然としている。

 

 静かにリビングへ入り、そのまま壁際へ寄った。

 

「処理は成功した」

 

「いや説明!!!」

 

 ステラが即座に突っ込む。

 

「何これ!?!?!?」

 

「プリンです」

 

 白い少女——プリンが静かに答えた。

 

「いやそれは分かるけど分からないよ!?」

 

 ステラが混乱している。

 

 あなたも同じだった。

 

 むしろ、まだ何も喋れていない。

 

「…………」

 

 プリンが静かにこちらを見る。

 

 金色——いや、水色に近い淡い瞳。

 

 でも、その視線だけは見覚えがあった。

 

 間違いなくプリンだった。

 

 するとプリンが、いつもみたいにこちらへ歩いてくる。

 

 静かな足音。

 白いドレスが揺れる。

 近づくたび、破壊力が増していく。

 

 あなたは固まったまま動けない。

 

 プリンはそのまま、あなたの目の前で止まった。

 

「ノクス」

 

 聞き慣れた声。

 

 でも見た目との破壊力が噛み合っていない。

 

 脳がバグる。

 

「戻りました」

 

 静かな声だった。

 

「約束通りです」

 

「…………」

 

 あなたの喉がひく、と動く。

 

 近い。

 

 近すぎる。

 

 しかもプリン、距離感が前と全く変わっていない。

 

 普通に近い。

 

 そのまま、あなたの服を小さく掴む。

 

「待っていてくれましたか?」

 

「っ……」

 

 顔が一気に熱くなる。

 

 無理だった。

 

 今の姿でその距離感は駄目だろ。

 

「ノクスちゃん顔真っ赤!!」

 

「うるさい!!!」

 

 ステラの野次が飛んでくる。

 

 ルミナは静かにプリンを見ていた。

 

 それから小さく呟く。

 

「……本当にプリン?」

 

「はい」

 

 プリンは静かに頷いた。

 

「現在は、人型固定状態です」

 

「固定……?」

 

 あなたがようやく声を絞り出す。

 

 プリンは静かに説明した。

 

「観測偽装処理の副作用です」

 

「曖昧性維持のため、外見情報を固定化しました」

 

「結果として、現在はこの姿で安定しています」

 

「つまり、しばらくその姿ってこと?」

 

 ステラが聞く。

 

「はい」

 

 即答。

 

 ステラが頭を抱えた。

 

「やば……」

 

「何が」

 

「ノクスちゃん絶対死ぬ」

 

「死なねえよ!!」

 

 即答した瞬間。

 

 プリンが静かにあなたを見上げる。

 

「ノクス」

 

「……な、何」

 

「そんなに変ですか?」

 

 小さく首を傾げる。

 

 その仕草が、あまりにも自然で。

 可愛すぎて。

 

 あなたは数秒、言葉を失った。

 

「…………」

 

 駄目だ。

 無理。

 

 脳が処理できない。

 

 だって中身プリンなのに。

 プリンなのに。

 

 見た目の破壊力が強すぎる。

 

「……可愛い」

 

 気づけば、ぽつりと零れていた。

 

「っ」

 

 今度はプリンが少し止まる。

 

 その白い頬が、ほんの少しだけ赤くなった。

 

 ステラが爆発する。

 

「うわあああああ!!!!」

 

「両想い空間だこれ!!!!」

 

「違っ……!!!」

 

 あなたが真っ赤になる。

 

 でもプリンは、静かにあなたを見ていた。

 

 それから、ほんの少しだけ目を細める。

 

「……ありがとうございます」

 

 小さな声だった。

 

 でも、その声音は前よりずっと柔らかかった。

 

 ルミナが静かにプリンを見る。

 

「……その姿、魔力反応が魔法少女に近い」

 

 プリンは小さく頷いた。

 

「はい」

 

「現在は、人型戦闘形態へ固定されています」

 

 ステラが目を瞬かせる。

 

「え、じゃあ戦えるの!?」

 

「可能です」

 

 プリンは静かに答える。

 

「現在の私は、“魔法少女プリン”として行動可能です」

 

 その瞬間、部屋が少しだけ静かになる。

 

 あなたは、目の前の少女を見る。

 

 白いドレス。

 華奢な身体。

 静かな瞳。

 

 でも、その奥にある魔力だけは確かだった。

 

 ルミナやステラと同じ。

 

 “戦う側”の光。

 

「……プリンも、魔法少女になったのか」

 

 あなたが小さく呟く。

 

 プリンは数秒だけ黙って。

 

 それから静かに答える。

 

「ノクスの隣へ立つなら、この形が最適でした」

 

「…………っ」

 

 あなたの顔がまた一気に熱くなる。

 

 ステラが後ろで崩れ落ちた。

 

「重っっっっっ!!!!」

 

「愛が重いよこの子!!!!」

 

「うるさい!!!」

 

 あなたが真っ赤なまま叫ぶ。

 

 でもプリンは静かだった。

 

 まるで、何かおかしなことを言った自覚がないみたいに。

 

 そのまま、小さくあなたの袖を掴む。

 

「ノクス」

 

「……な、何」

 

「座ります」

 

「え」

 

 次の瞬間。

 

 プリンは当然みたいな動きで、あなたの隣へ座った。

 

 しかも近い。

 

 肩が触れる。

 白い髪が、ふわりと腕へかかる。

 甘い匂いがした。

 

「っ…………」

 

 無理。

 

 前までなら、小さいマスコット姿だった。

 

 だから距離感が近くても耐えられた。

 

 でも今は違う。

 

 超絶美少女が、以前と同じ距離感で隣にいる。

 

 心臓がおかしくなる。

 

「ノクスちゃん壊れそう」

 

「壊れてる」

 

 ステラとルミナが冷静に言う。

 

「壊れてない……」

 

「声震えてる」

 

 ルミナの指摘が鋭すぎた。

 

 あなたは思わず顔を覆う。

 

 すると、プリンが静かにこちらを見上げた。

 

「ノクス」

 

「……だから何」

 

「前より、少し距離があります」

 

「当たり前だろ!?」

 

 あなたは勢いよく顔を上げる。

 

「今のお前、自覚ある!?」

 

「あります」

 

「絶対ない!!!」

 

 ステラの笑い声が響く。

 

 ルミナも小さく口元を隠していた。

 

 珍しく、少し笑っている。

 

 プリンはそんな反応を見ても、あまり気にしていない様子だった。

 

 むしろ少しだけ不思議そうに首を傾げる。

 

「私はプリンです」

 

「知ってるよ!!」

 

「なら問題ありません」

 

「問題しかないんだよ……!」

 

 あなたは真っ赤な顔のまま呻いた。

 

 でも、隣に戻ってきた温度だけはちゃんと安心できた。

 

 肩へ触れる小さな熱。

 静かな気配。

 

 それが戻ってきただけで、胸の奥が少し落ち着く。

 

 プリンはそんなあなたを見て、静かに目を細めた。

 

「……ただいま、ノクス」

 

 その声は、とても柔らかかった。

 

「っ…………」

 

 あなたは完全に言葉を失っていた。

 

 無理だ。

 

 色々。

 

 処理が追いつかない。

 

 だってプリンなのに。

 

 プリンなのに、可愛すぎる。

 

 しかも距離感が以前と全く同じだ。

 

 肩が触れている。

 服を掴まれている。

 顔が近い。

 心臓に悪すぎる。

 

「ノクスちゃん、顔すごいことになってる」

 

 ステラがにやにやしながら覗き込んでくる。

 

「うるさい……」

 

「いやでもこれ無理だってぇ」

 

 ステラはプリンを見る。

 

 白い髪。

 幻想みたいな雰囲気。

 整いすぎた顔。

 

 しかも本人は無自覚。

 

 ステラは数秒黙って。

 

 それから勢いよく立ち上がった。

 

「待って!!」

 

「何」

 

「急にメインヒロインみたいになってる!!!」

 

「…………?」

 

 プリンが小さく首を傾げる。

 

 分かっていない。

 

 本当に分かっていない顔だった。

 

「前までマスコットだったじゃん!?」

 

「現在は人型です」

 

「そういう話じゃないよぉ!!!」

 

 ステラが頭を抱える。

 

「可愛いし距離近いしノクスちゃんデレデレだし!!」

 

「デレてない!!」

 

「いや真っ赤じゃん!!」

 

「うるさい!!!」

 

 あなたが叫ぶ横で、ルミナは静かにプリンを見ていた。

 

 淡い青の瞳。

 

 その視線は静かだったけれど、少しだけ鋭い。

 

「…………」

 

 ルミナは小さく視線を落とす。

 

 プリンの手。

 

 あなたの服を掴んでいる。

 

 距離が近い。

 

 近すぎる。

 

「……距離近い」

 

 ぽつり、と。

 

 小さな声が落ちた。

 

「え?」

 

 あなたが振り向く。

 

 ルミナは静かな顔のまま続けた。

 

「ノクス、赤くなりすぎ」

 

「いやだって……!」

 

「前より動揺してる」

 

 正論だった。

 

 何も言い返せない。

 

 プリンはそんなルミナを見て、小さく瞬きをする。

 

「問題がありますか?」

 

「ある」

 

 即答だった。

 

 ルミナは静かにあなたの隣へ移動してくる。

 

 そのまま、当然みたいにあなたの腕へ触れた。

 

「っ」

 

 あなたが固まる。

 

 ルミナは平然としていた。

 

「私も隣にいる」

 

「いや、急に何……!?」

 

「プリンだけずるい」

 

 静かな声。

 

 でも、ほんの少しだけ不満そうだった。

 

 ステラがその光景を見て、数秒固まる。

 

 それから。

 

「待って待って待って!!!」

 

 今度はステラまで飛び込んできた。

 

「私だけ置いてかれてるじゃん!!」

 

「なんでそうなる!?」

 

「だってライバル増えてるし!!!」

 

「増えてない!!」

 

「増えてるよぉ!!!」

 

 そのまま、ステラまであなたの反対側へ座る。

 

 距離が近い。

 近すぎる。

 

 あなたは完全に挟まれていた。

 

「…………」

 

 プリンは静かにその光景を見ている。

 

 数秒。

 

 それから、小さく首を傾げた。

 

「なぜ対抗していますか?」

 

「「ライバルだから」」

 

 ルミナとステラの声が綺麗に重なった。

 

 今度はプリンが止まる番だった。

 

「…………?」

 

 本当に理解していない顔。

 

 あなたは顔を覆いたくなる。

 

「やめろよお前ら……」

 

「だってぇ」

 

 ステラがあなたへ寄りかかってくる。

 

「プリンちゃん急に強すぎるんだもん」

 

「……強い」

 

 ルミナも小さく頷いた。

 

 プリンはまだよく分かっていない様子で、静かにあなたを見る。

 

「ノクス」

 

「……何」

 

「私はいつも通りですが」

 

「それが問題なんだよ……!」

 

 あなたの悲鳴みたいな声が、部屋へ響いた。

 

 ステラは顔を引きつらせ、ルミナは完全に呆れている。

 

 プリンだけが、本気で何が問題なのか分かっていない顔だった。

 

 その時、玄関のチャイムが鳴った。

 

「ん?」

 

 ステラが顔を上げる。

 

 あなたも少しだけ首を傾げた。

 

 こんな時間に来客。

 

 すると、少ししてから玄関の向こうで聞き慣れた声がした。

 

「秋葉だ。入るぞ」

 

「あ、はい」

 

 あなたが返事をすると、扉が開く。

 

 数秒後、秋葉がリビングへ入ってきた。

 

 黒いコート姿。

 

 相変わらず雰囲気が強い。

 

「近くまで来たから様子見に来た」

 

 そう言いながら、秋葉は自然な足取りでリビングへ入ってくる。

 

 そして。

 

「…………」

 

 止まった。

 

 視線が、まっすぐプリンへ向く。

 

 白い髪。

 小柄な身体。

 幻想みたいな白いドレス。

 

 あなたの隣へぴったり座っている超絶美少女。

 

 数秒の沈黙。

 

 それから秋葉は、小さく息を吐いた。

 

「……随分変わったな」

 

「現在、人型固定です」

 

 プリンが静かに答える。

 

 秋葉は数秒だけプリンを見て。

 

 それから、ゆっくりあなたへ視線を移した。

 

「で」

 

「何」

 

「なんでお前はそんな真っ赤なんだ」

 

「うるさい!!!」

 

 即答だった。

 

 ステラがまた爆笑する。

 

「秋葉さん聞いてよぉ!」

 

「プリンちゃん急に強くなりすぎたの!!」

 

「強い?」

 

「顔が!!距離感が!!存在感が!!!」

 

「なるほど」

 

 秋葉が妙に納得した顔をする。

 

 やめてほしい。

 

 その理解の速さ。

 

 秋葉はそのままソファの後ろへ回る。

 

 そしてぽん、と。

 

 当然みたいにあなたの頭へ手を乗せた。

 

「っ」

 

 あなたが肩を跳ねさせる。

 

「顔熱いぞ」

 

「だから触るなって……!」

 

「落ち着かせてやってる」

 

「またそれ言う……!」

 

 ステラが「なんで!?」みたいな顔をする。

 

 ルミナは静かに秋葉を見る。

 

 そして。

 

「……距離近い」

 

 小さく呟いた。

 

「ん?」

 

 秋葉が視線を向ける。

 

 ルミナは静かな顔のまま続けた。

 

「秋葉さんも」

 

「私も、とは?」

 

「ノクスとの距離」

 

 静かな指摘だった。

 

 でも、ちょっとだけ刺々しい。

 

 秋葉は数秒だけ黙って。

 

 それから、小さく笑った。

 

「嫉妬か?」

 

「っ……」

 

 ルミナがわずかに言葉を詰まらせる。

 

 珍しい反応だった。

 

 ステラが即座に割り込む。

 

「いや嫉妬するでしょこれぇ!!」

 

「プリンちゃん強いのに秋葉さんまで!!」

 

「ノクスちゃん囲われてるじゃん!!」

 

「囲われてねえよ!!」

 

 あなたのツッコミが飛ぶ。

 

 しかし誰も聞いていない。

 

 プリンだけが静かに首を傾げていた。

 

「……?」

 

 本当に理解していない顔。

 

 秋葉はそんなプリンを見て、少しだけ目を細める。

 

「お前、自覚ないタイプか」

 

「自覚?」

 

「その見た目でノクスへあの距離感やってる自覚」

 

「必要距離です」

 

 即答だった。

 

 秋葉が吹き出す。

 

 ステラが崩れ落ちる。

 

 ルミナは静かに目を伏せた。

 

 あなたは顔を覆った。

 

「もう無理だ……」

 

 秋葉はそんなあなたを見ながら、面白そうに小さく笑う。

 

「大変だな、お前」

 

「他人事みたいに言うな……!」

 

 すると不意に、秋葉の手があなたの頬へ伸びた。

 

「っ?」

 

 逃げるより先に。

 

 両側から、そっと顔を挟まれる。

 

「……秋葉さん?」

 

 大きな手だった。

 

 そのまま軽く固定される。

 

 近い。

 

 秋葉の整った顔が、そのまま真正面から覗き込んできた。

 

 落ち着いた瞳。

 余裕のある表情。

 年上の女の人特有の、逃がさない空気。

 

 あなたの心臓が一気に跳ねる。

 

「んー……」

 

 秋葉はそのまま、まじまじとあなたの顔を見る。

 

 観察するみたいに。

 

 あなたは完全に固まっていた。

 

「顔真っ赤だな」

 

「だ、だから……っ」

 

「プリン相手だと分かりやすい」

 

「うるさい……!」

 

 恥ずかしすぎる。

 

 しかも顔を挟まれているせいで逃げられない。

 

 ステラが後ろで悲鳴みたいな声を上げる。

 

「秋葉さん強すぎるってぇ!!!」

 

 ルミナの視線も、少し鋭くなっていた。

 

 プリンだけが静かにその光景を見ている。

 

 それから、プリンがそっとあなたの反対側の腕へ抱きついた。

 

「ノクスは、私の隣です」

 

 静かな声。

 

 空気が止まる。

 

「…………は?」

 

 今度は秋葉が止まる番だった。

 

 ステラが爆発する。

 

 ルミナが完全に固まる。

 

 そしてあなたは。

 

 本日何度目か分からない限界を迎えていた。

誰が好き?

  • ノクス
  • ルミナ
  • ステラ
  • プリン
  • 秋葉
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