転生者がTS魔法少女になって頑張る話。   作:メルヘン侍

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プリンの回


第十話 君と食べる甘い名前

 プリンが“魔法少女プリン”としてこの家へ戻ってきてから、数日が経っていた。

 

 最初こそ大騒ぎだった。

 

 人型になったプリン。

 

 以前と変わらない距離感。

 

 そして、あなたがその度に真っ赤になって限界を迎えるせいで、家の空気は毎日のように騒がしかった。

 

 けれど、不思議とその生活にはすぐ慣れていった。

 

 朝になればプリンが隣にいて。

 ソファへ座れば自然と肩が触れて。

 

 夜になると、いつの間にか同じ空間にいる。

 

 そんな日常が、当たり前みたいになり始めていた。

 

 少なくとも今は、アーク側の大きな動きもない。

 

 短い平穏。

 

 だからこそ、家の中には少し穏やかな時間が流れていた。

 

 朝の光が、リビングへゆっくり差し込んでいる。

 

 静かな空気。

 テーブルの上には朝食。

 

 ルミナは紅茶を飲んでいて、ステラはまだ半分眠そうな顔でソファへ沈んでいる。

 

 あなたはぼんやりとテレビを眺めていた。

 

 その時。

 

「ノクス」

 

 静かな声が落ちる。

 

 あなたが顔を上げると、プリンがこちらを見ていた。

 

 白い髪。

 透き通るような肌。

 人形みたいに整った顔。

 

 相変わらず慣れない。

 

 しかも最近、普通に距離が近い。

 

 心臓に悪い。

 

「……何?」

 

 あなたが聞くと、プリンは静かに口を開いた。

 

「外出したいです」

 

「外出?」

 

「はい」

 

 小さく頷く。

 

 プリンからそういうことを言い出すのは珍しい。

 

 あなたが少し目を瞬かせていると、プリンは続けた。

 

「プリンを食べに行きたいです」

 

「…………は?」

 

 一瞬、意味が分からなかった。

 

「プリン?」

 

「はい」

 

「お前を?」

 

「違います」

 

 即答だった。

 

 ステラが吹き出しかける。

 

「待って、ちょっと面白い」

 

「いやだって紛らわしいだろ……」

 

 あなたが頭を抱えると、プリンは不思議そうに首を傾げた。

 

「じゃあ後で行くか?」

 

 あなたが何気なく言う。

 

 すると。

 

「はい」

 

 プリンが小さく頷く。

 

 それから。

 

「ノクスと二人で」

 

 空気が止まった。

 

「…………え?」

 

 ステラが固まる。

 

 ルミナも静かに顔を上げた。

 

 あなたは数秒遅れて理解する。

 

「二人?」

 

「はい」

 

 プリンは静かに頷いた。

 

「今回は、ノクスと二人がいいです」

 

 あまりにも自然な声だった。

 

 そこに照れも、躊躇いもない。

 

 だから余計に破壊力が高い。

 

「…………」

 

 ステラが完全に止まっていた。

 

 ルミナも珍しく無言だった。

 

 プリンはそんな二人を見て、小さく首を傾げる。

 

「何か問題がありますか?」

 

「「ある」」

 

 声が綺麗に重なった。

 

 あなたは反射的に顔を覆う。

 

 無理。

 

 朝から心臓がもたない。

 

 ステラが勢いよく立ち上がる。

 

「待って待って待って!!」

 

「なんで急に二人きりなの!?」

 

「必要だからです」

 

 プリンが即答する。

 

「ノクスが必要です」

 

「っ————」

 

 あなたの思考が止まる。

 

 ルミナが静かに目を細めた。

 

「……最近のプリン、強い」

 

「強いよぉ……」

 

 ステラが崩れ落ちる。

 

「急に恋愛強者になってる……」

 

「違います」

 

 プリンは静かに否定した。

 

「?」

 

「二人の方が良い気がしただけです」

 

 その言葉で。

 

 逆に、ルミナとステラの顔が引き攣る。

 

 理由を理解していない。

 

 でも本能だけで、“ノクスを独占したい”を選んでいる。

 

 それが分かってしまった。

 

「無自覚だこの子……!」

 

 ステラが頭を抱える。

 

 ルミナは静かな顔のまま、小さく息を吐いた。

 

「……強敵」

 

「やめろよその空気……」

 

 あなたが真っ赤な顔のまま呻く。

 

 すると、プリンが静かにこちらを見た。

 

「ノクス」

 

「……な、何」

 

「嫌ですか?」

 

 ほんの少しだけ、不安そうな声だった。

 

「二人は」

 

「っ……」

 

 その聞き方はずるい。

 

 あなたは数秒言葉に詰まって。

 

 それから、小さく視線を逸らした。

 

「……嫌じゃない」

 

 その瞬間。

 

 プリンが、ほんの少しだけ目を細めた。

 

 嬉しそうに見えてしまって。

 

 あなたの顔は、さらに赤くなるのだった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 休日の街は、人が多かった。

 

 駅前へ出た瞬間、ざわついた音が一気に押し寄せてくる。

 

 話し声。

 車の音。

 店から流れる音楽。

 甘い匂い。

 

 あなたはその中を歩きながら、小さく隣を見る。

 

「…………」

 

 やっぱり、まだ慣れない。

 

 プリンが普通に隣を歩いている。

 

 白い髪。

 華奢な身体。

 淡い色のワンピース。

 

 魔法少女姿ほど幻想的ではないけれど、それでも十分目立つ。

 

 というか、普通に可愛い。

 

 しかも本人に自覚がない。

 

「ノクス」

 

「っ、な、何」

 

 急に名前を呼ばれて肩が跳ねる。

 

 プリンは静かな顔のままこちらを見ていた。

 

「先程から三回、こちらを見ています」

 

「見てない」

 

「見ています」

 

 即答だった。

 

 あなたは思わず視線を逸らす。

 

 だって無理だ。

 

 隣を歩いているだけで心臓がうるさい。

 

 しかも今日は、二人きりだ。

 

 それを意識すると余計に駄目だった。

 

「……人、多いな」

 

 誤魔化すみたいに呟く。

 

 プリンは周囲を見渡した。

 

「はい」

 

「以前より、音が近く感じます」

 

「音?」

 

「人間の声です」

 

 プリンは静かに続ける。

 

「匂いも」

 

「温度も」

 

「以前より鮮明です」

 

 その声は落ち着いていた。

 

 でも、どこか少しだけ不思議そうにも聞こえる。

 

 人型になってから、プリンは時々こういうことを言う。

 

 以前より、世界を近く感じる、と。

 

「……疲れてないか?」

 

 あなたが聞く。

 

 プリンは小さく首を横へ振った。

 

「問題ありません」

 

 それから。

 

 ほんの少しだけ、こちらへ近づく。

 

「むしろ」

 

「ノクスが隣にいるので、落ち着いています」

 

「っ……」

 

 またそれだ。

 

 本人に自覚がないから余計に危険だった。

 

 あなたが赤くなって視線を逸らしていると。

 

「あれ、可愛くない?」

 

 近くを歩いていた女の子たちの声が聞こえた。

 

「やば、二人ともめっちゃ綺麗」

 

「仲良さそう〜」

 

「え、ああいう感じ好き……」

 

「っ————」

 

 あなたの思考が止まる。

 

 プリンは静かにそちらを見る。

 

「?」

 

 本当に意味が分かっていない顔だった。

 

「ノクス」

 

「な、何」

 

「何を評価されたのでしょう」

 

「聞くな……!」

 

 あなたが顔を覆う。

 

 プリンは少しだけ考えるみたいに黙った。

 

「容姿でしょうか」

 

「たぶん……」

 

「ノクスも綺麗と言われていました」

 

「そこ拾わなくていいから……!」

 

 プリンは小さく首を傾げる。

 

 その仕草すら可愛いのが、本当にずるい。

 

 あなたが限界になりかけていると、不意に。

 

 プリンの指先が、そっとあなたの袖へ触れた。

 

「……プリン?」

 

「人が多いので」

 

 静かな声。

 

「はぐれないようにします」

 

 そう言いながら、プリンは当然みたいにあなたの服を掴む。

 

 距離が近い。

 

 しかも人混みのせいで、自然と肩まで触れる。

 

 あなたの顔がまた熱くなる。

 

「ノクス」

 

「……だから何」

 

「心拍数が上がっています」

 

「お前のせいだよ……!」

 

 プリンは数秒だけ黙った。

 

 それから、小さく瞬きをする。

 

「……そうですか」

 

 その声が少しだけ柔らかく聞こえて。

 

 あなたは余計に困るのだった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 駅前から少し離れた場所に、その店はあった。

 

 ガラス張りの、小さな喫茶店。

 

 落ち着いた音楽。

 甘い匂い。

 休日の昼下がりらしい、静かな空気。

 

 店員に案内され、窓際の席へ座る。

 

 向かい側にはプリン。

 

 白い髪が、柔らかな光を受けて淡く透けている。

 

 やっぱり、綺麗だった。

 

 あなたはメニューを開きながら、小さく息を吐く。

 

「……で、目的のプリンは?」

 

 プリンは静かにメニューを見る。

 

 それから、小さく指を止めた。

 

「これです」

 

 そこに載っていたのは、昔ながらの固めプリンだった。

 

 ガラス皿。

 カラメル。

 生クリーム。

 

 どこか懐かしい見た目。

 

「へぇ」

 

「案外普通なんだな」

 

「普通?」

 

「もっとすごいの選ぶかと思った」

 

 あなたが言うと、プリンは少しだけ首を傾げた。

 

「これは重要です」

 

「重要?」

 

「はい」

 

 静かな返答。

 

 その声はいつも通り落ち着いていた。

 

 でも、何故か少しだけ大切そうだった。

 

 やがて注文したものが運ばれてくる。

 

 プリンが、テーブルへ置かれる。

 

 その瞬間、プリンの視線が静かに止まった。

 

「…………」

 

 あなたは少しだけ、その横顔を見る。

 

 綺麗な顔。

 

 いつも通り無表情に近い。

 

 でも今は、ほんの少しだけ。

 

 何かを見つめているみたいだった。

 

「……そんなに好きなのか?」

 

 あなたが小さく聞く。

 

 プリンは数秒だけ黙った。

 

 それから、小さく首を横へ振る。

 

「好き、とは少し違います」

 

「?」

 

「私の最初の記憶に近いものです」

 

 あなたが少し目を瞬かせる。

 

 プリンは静かな声で続けた。

 

「私の意識が発生した直後」

 

「目の前に、ノクスと似た色の髪をした女性がいました」

 

「……俺と?」

 

 あなたが少し首を傾げる。

 

 プリンは小さく頷いた。

 

「はい」

 

「その女性は、私へこれを渡しました」

 

 白い指先が、目の前のプリンを示す。

 

「そして、“プリン”と呼称していました」

 

 静かな説明。

 

 まるで観測記録を読み上げるみたいに。

 

 でも、その瞳だけは少し柔らかい。

 

「だから私は、自分をプリンと名付けました」

 

「…………」

 

 あなたは少し黙る。

 

 不思議だった。

 

 プリンの“始まり”を聞いているのに。

 

 何故か、胸の奥が少し温かい。

 

 プリンはそんなあなたを静かに見ていた。

 

 それから、ほんの少しだけ目を細める。

 

「今思えば」

 

「こうしてノクスと一緒にプリンを食べているのは」

 

「運命だったのかもしれません」

 

「っ!?」

 

 あなたの手が止まる。

 

 顔が一気に熱くなる。

 

「お、お前な……っ」

 

「はい?」

 

 プリンは本当に分かっていない顔だった。

 

 あなたは思わず顔を逸らす。

 

 心臓がうるさい。

 

 運命とか、そんな言葉をその顔で言うな。

 

 プリンは不思議そうにこちらを見ていたけれど、やがて小さく視線を落とした。

 

 そして、静かにスプーンを取る。

 

 白いプリンを、小さく掬う。

 

 口へ運ぶ。

 

「…………」

 

 止まった。

 

 プリンは静かに瞬きをする。

 

 それから。

 

「……甘い」

 

 小さな声だった。

 

 でもその声音は、どこか少しだけ柔らかかった。

 

 あなたは静かにプリンを見る。

 

 プリンはもう一度、スプーンでプリンを掬った。

 

 ゆっくり味わうみたいに口へ運ぶ。

 

「……どうだ?」

 

 あなたが小さく聞く。

 

 プリンは数秒だけ考えて。

 

「美味しいです」

 

 静かな返答。

 

「ですが」

 

「?」

 

「想定していたより、少し違います」

 

「違う?」

 

 プリンは小さく頷いた。

 

「記録上は、もっと単純な味覚情報でした」

 

「甘い」

 

「柔らかい」

 

「それだけのはずでした」

 

 その声は落ち着いていた。

 

 でも、ほんの少しだけ自分でも不思議そうだった。

 

「……今は違うのか?」

 

 あなたが聞く。

 

 プリンは静かにこちらを見る。

 

 淡い瞳。

 

 その奥で、何かを考えている。

 

「はい」

 

「以前より、内部反応が大きいです」

 

「……何それ」

 

「よく分かりません」

 

 プリンは素直に言った。

 

「ですが」

 

「ノクスと一緒だからかもしれません」

 

「っ————」

 

 あなたが咳き込む。

 

「お、お前ほんとそういうの……!」

 

「?」

 

 本気で分かっていない顔だった。

 

 あなたは額を押さえる。

 

 心臓がもたない。

 

 すると、プリンがじっとこちらを見た。

 

「ノクス」

 

「……何」

 

「ノクスも食べますか?」

 

 そう言いながら。

 

 プリンは、自分のスプーンをこちらへ向ける。

 

「…………は?」

 

 一瞬、理解が止まった。

 

 銀色のスプーン。

 

 そこに乗った、小さなプリン。

 

 つまり。

 

 これ。

 

 あーんだ。

 

「っっっ!?」

 

 あなたの顔が一気に熱くなる。

 

「な、なんでそうなるんだよ!?」

 

「共有です」

 

 プリンは静かに答える。

 

「これは、私の最初の記憶に近いものです」

 

「だから」

 

「ノクスとも共有したいと思いました」

 

 あまりにも真っ直ぐだった。

 

 嘘も、照れも、駆け引きもない。

 

 ただ純粋に、そう思っている声。

 

 だから余計にずるい。

 

「っ……」

 

 あなたは数秒固まって。

 

 それから観念したみたいに、小さく口を開けた。

 

 プリンが静かにスプーンを運ぶ。

 

 甘い味。

 冷たい感触。

 カラメルの少し苦い香り。

 

「…………」

 

 あなたが飲み込む。

 

 すると、プリンが少しだけこちらへ近づいた。

 

「どうですか?」

 

「……甘い」

 

「はい」

 

 プリンが、小さく頷く。

 

 ほんの少しだけ。

 本当に少しだけ。

 

 嬉しそうに目を細めた。

 

「……良かったです」

 

その声は静かだった。

 

 でも、以前のプリンならきっとこんな風には言わなかった。

 

 あなたは小さく息を吐く。

 

 目の前のプリンを見る。

 

 白い髪。

 淡い瞳。

 静かな表情。

 

 見た目は綺麗なままなのに。

 

 少しずつ、表情が柔らかくなっている。

 

 そんな気がした。

 

「……お前、変わったよな」

 

 ぽつり、と思わず口から漏れる。

 

 プリンが小さく瞬きをした。

 

「変化していますか?」

 

「してる」

 

 即答だった。

 

「前のお前、もっと機械みたいだったし」

 

「機械ではありません」

 

「例えだよ」

 

 あなたが苦笑する。

 

 プリンは少しだけ黙った。

 

 それから静かに、窓の外を見る。

 

 人の流れ。

 笑い声。

 午後の光。

 

 その全部を眺めながら、小さく呟く。

 

「以前は、理解できませんでした」

 

「?」

 

「人間が、何故こういう時間を必要とするのか」

 

 プリンはゆっくり言葉を選ぶ。

 

「食事」

 

「会話」

 

「一緒に出かけること」

 

「非効率な行動が多い」

 

「まぁ否定はできないな……」

 

 あなたが苦笑すると、プリンは小さくこちらを見る。

 

「ですが」

 

「今は、少し分かる気がします」

 

「…………」

 

 あなたは静かにその言葉を聞く。

 

 プリンは、もう一度プリンを見る。

 

「これは、甘いだけではありません」

 

「ノクスと共有しているから、意味があります」

 

「っ……」

 

 またそれだ。

 

 心臓がうるさい。

 

 あなたが赤くなって視線を逸らすと、プリンはほんの少しだけ首を傾げた。

 

「ノクス」

 

「……何」

 

「やはり心拍数が上がっています」

 

「分かってるなら言うなよ……!」

 

「何故ですか?」

 

「恥ずかしいから!」

 

 あなたが勢いよく言う。

 

 するとプリンは、小さく止まった。

 

「……恥ずかしい」

 

 その単語を、確かめるみたいに呟く。

 

「はい」

 

「これは、恥ずかしいという感情ですか」

 

「そうだよ……」

 

「なるほど」

 

 プリンは静かに頷く。

 

 それから。

 

 ほんの少しだけ、あなたへ近づいた。

 

「では」

 

「私も、少し恥ずかしいのかもしれません」

 

「————っ」

 

 あなたの思考が完全に止まる。

 

 プリンはそんなあなたを見ながら、静かに目を細めた。

 

 窓の外から、柔らかな光が差し込む。

 

 甘い匂い。

 穏やかな空気。

 

 そして、初めて“幸福”を理解し始めた少女みたいに。

 

 プリンは、静かに笑っていた。

 

 それは本当に小さな変化だった。

 

 口元が少し緩むだけ。

 

 でも、以前のプリンを知っているからこそ分かる。

 

 今、目の前にいるこの子は。

 

 ちゃんと“楽しい”を知り始めている。

 

「…………」

 

 あなたは何となく視線を逸らす。

 

 胸の奥が少し落ち着かない。

 

 嬉しい。

 

 でも、それ以上に。

 

 プリンが笑っているのを見ると、妙に心臓が苦しくなる。

 

「ノクス」

 

「……何」

 

「顔が赤いです」

 

「お前のせいだよ……」

 

 あなたが呻くと、プリンは小さく瞬きをした。

 

 それからほんの少しだけ、また目を細める。

 

 その反応がずるい。

 

 結局、あなたは最後までまともにプリンの顔を見れなかった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 店を出る頃には、空は少しだけ橙色へ変わり始めていた。

 

 夕方の街。

 

 人通りはまだ多い。

 

 あなたは店の扉を押さえながら、後ろを振り返る。

 

「大丈夫か?」

 

「はい」

 

 プリンが小さく頷く。

 

 それから、少しだけ空を見る。

 

「今日は、良い日です」

 

「……大げさだな」

 

「事実です」

 

 静かな返答だった。

 

 でもその声は、どこか柔らかい。

 

 あなたが少し照れながら歩き出すと。

 

 不意に指先へ、小さな感触が触れた。

 

「っ」

 

 あなたが肩を跳ねさせる。

 

 プリンの手だった。

 

 白くて、小さな指。

 

 そのまま当然みたいに、あなたの手へ重なっている。

 

「…………え?」

 

 思考が止まる。

 

 プリンは静かな顔のまま答えた。

 

「人が多いので」

 

「はぐれ防止です」

 

「いやそれ今日二回目……!」

 

「効果的です」

 

 真顔だった。

 

 あなたは顔を覆いたくなる。

 

 でも、振り払う気にはなれなかった。

 

 プリンの手は少し冷たい。

 

 でも、繋いでいるうちに少しずつ熱が混ざっていく。

 

 プリンはその感触を確かめるみたいに、小さく指を動かした。

 

「……温かいです」

 

 ぽつり、と小さな声。

 

 あなたは少しだけ視線を落とす。

 

 繋がった手。

 離れていない指先。

 

 胸の奥が、また少しだけうるさくなる。

 

「ノクス」

 

「……何」

 

 プリンは少しだけ考えるみたいに黙った。

 

 それから、静かな声で言った。

 

「私は」

 

「今日を、長く記録したいと思っています」

 

「…………」

 

 あなたは言葉を失う。

 

 プリンは続ける。

 

「プリンは甘かったです」

 

「街は騒がしかったです」

 

「ノクスは、ずっと赤かったです」

 

「最後いらないだろ……!」

 

「ですが」

 

 プリンが小さくこちらを見る。

 

「一番強く残っているのは」

 

「ノクスと一緒だったことです」

 

「っ————」

 

 駄目だ。

 

 本当に心臓がもたない。

 

 あなたが真っ赤なまま固まっていると、プリンは少しだけ首を傾げる。

 

「ノクス」

 

「……何」

 

「また来ましょう」

 

 静かな声だった。

 

 でも、その言葉は以前よりずっと温かく聞こえた。

 

「……ああ」

 

 あなたが小さく頷く。

 

 するとプリンは、ほんの少しだけ嬉しそうに目を細めた。

 

 繋いだ手は、最後まで離れなかった。

 

 夕焼けの色が薄くなる頃。

 

 あなたたちは家へ戻ってきていた。

 

 玄関の扉を開ける。

 

「ただいま……」

 

 すると、リビングの方からものすごい勢いで足音がした。

 

「おかえり!!!」

 

 ステラだった。

 

 勢いよく飛び出してきたそのままの速度で、ぴたりと止まる。

 

「…………」

 

 視線が落ちる。

 

 あなたとプリンの手。

 

 まだ、繋がったままだった。

 

「…………」

 

 空気が止まる。

 

 あなたは数秒遅れて気付いた。

 

「っ!?」

 

 慌てて手を離そうとする。

 

 でも。

 

 プリンが自然に握り直した。

 

「待って」

 

 ステラが真顔になる。

 

「今離そうとしたよね?」

 

「違っ……!」

 

「ノクスは逃げようとしました」

 

 プリンが静かに補足する。

 

「プリンちゃん!!?」

 

 ステラが崩れ落ちる。

 

 そのまま床へ膝をついた。

 

「終わったぁ……」

 

「何が!?」

 

「デートイベントが強すぎるよぉ!!」

 

 あなたの顔がまた赤くなる。

 

 無理だ。

 

 今日ずっとこれだ。

 

 リビングの奥から、ルミナが静かに出てきた。

 

「おかえり」

 

「……ただいま」

 

 ルミナの視線も、すぐに二人の手へ落ちる。

 

 静かな沈黙。

 

「…………そう」

 

 小さな声だった。

 

 でも、ほんの少しだけダメージを受けているのが分かる。

 

 あなたは妙に罪悪感を覚えた。

 

「いやこれ、その……!」

 

「はぐれ防止です」

 

 プリンが即答する。

 

「帰り道も人が多かったので」

 

「便利ワードみたいに使うなよそれ……!」

 

 あなたが呻く。

 

 ルミナは静かな顔のまま、プリンを見る。

 

「……楽しかった?」

 

 小さな問い。

 

 プリンは少しだけ考えて。

 

 それから、静かに頷いた。

 

「はい」

 

 短い返事。

 

 その声は、以前よりずっと柔らかい。

 

 ルミナが小さく目を細める。

 

 ルミナも気付いた。

 

 プリンが変わってきていることに。

 

 ステラが床から顔だけ上げる。

 

「……で?」

 

「プリンちゃん、どうだったの?」

 

 プリンは小さく瞬きをする。

 

「プリンは、美味しかったです」

 

「それは知ってる!」

 

 ステラが即座にツッコむ。

 

 プリンは少しだけ考えるみたいに黙った。

 

「ですが」

 

「一番強く記録へ残っているのは」

 

 プリンの視線が、そっとあなたへ向く。

 

「ノクスと一緒だったことです」

 

「っ————」

 

 あなたが固まる。

 

 ステラが完全に崩れ落ちた。

 

「重いぃぃぃぃ!!!」

 

 ルミナも静かに視線を逸らす。

 

「……強い」

 

「だから何なんだよその評価……!」

 

 あなたが真っ赤なまま叫ぶ。

 

 でも、プリンはそんな反応を見ても不思議そうに首を傾げるだけだった。

 

「?」

 

 本当に、自覚がない。

 

 それが一番ひどい。

 

 そして、プリンは自然な動作であなたの隣へ座った。

 

 肩が触れ、近い。

 

 あなたの顔がまた熱くなる。

 

 プリンは静かにこちらを見上げた。

 

 それから、ほんの少しだけ目を細める。

 

「……今日は、良い日でした」

 

 その響きは、温かかった。

 

 あなたは数秒だけ黙って、小さく笑う。

 

「……そっか」

 

 プリンは、静かにあなたの肩へ寄りかかった。

 

 まるでそこが当然みたいに。

 

 ステラが後ろで頭を抱える。

 

「もう完全にメインヒロインなんだけどこの子……」

 

 ルミナも小さく息を吐いた。

 

「……強敵」

 

「だから何なんだよその評価……!」

 

 あなたの叫び声が響く。

 

 プリンは静かな顔のまま、あなたの隣へ寄り添っていた。

 

 その表情は、満ち足りていた。




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人よりちょっとハッピーエンドへの拘りが強いだけの平凡な男子高校生である俺は、ある日不思議な夢の中で超常的存在からお告げを受け、目覚めると大好きな魔法少女アニメの世界へ招かれていた。▼ウッヒョヒョイ聖地巡礼だぜー! などと喜んだのも束の間、原作よりも遥かに強化された敵との戦いで大ピンチに陥っている魔法少女たちの姿を目撃してしまう。▼その時不思議なことが起こった…


総合評価:482/評価:8.13/連載:25話/更新日時:2026年05月02日(土) 19:00 小説情報

魔法少女の幼馴染(♂)、悪の魔法少女に改造されてしまう(作者:偽りの名つむぎん)(オリジナル現代/冒険・バトル)

 白銀アオイは魔法少女の幼馴染だ。ある日、魔族に襲われて死んだ白銀アオイは、卑弥呼という組織に悪の魔法少女として改造されてしまう。▼ 死んだし、大した目的もないから、悪の魔法少女ムーブしまくるか!!▼ そんな軽いノリで悪の魔法少女ムーブを始めたら、魔法少女は曇るわ、脳を焼かれるわ、おまけに物語の本筋まで変わっていくわ。▼ 自分が世界に大きな影響を与えていると…


総合評価:1574/評価:8.12/連載:11話/更新日時:2026年03月21日(土) 20:00 小説情報


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