転生者がTS魔法少女になって頑張る話。   作:メルヘン侍

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第十四話 違和感

 最初に違和感を覚えたのはいつだっただろう。

 

 多分、本当に些細なことだった。

 

 だから最初は気付かなかった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「ノクス」

 

 ソファへ寝転がっていたあなたは顔を上げた。

 

「何だ」

 

 プリンが立っている。

 

 いつも通りだ。

 

 白い髪。

 整った顔。

 人形みたいな美少女。

 

 最近はもう見慣れてしまった。

 

「お茶です」

 

「ああ、ありがと」

 

 差し出されたカップを受け取る。

 

 プリンは小さく頷く。

 

 そして、そのまま離れていった。

 

「……?」

 

 あなたは瞬きをする。

 

 何だ今。

 

 以前なら隣へ座っていた。

 

 というか、勝手に膝へ乗っていた。

 

 今は違う。

 

 テーブルの向こう側へ座っている。

 

 別におかしなことじゃない。

 

 普通だ。

 

 普通なのだが。

 

 何となく引っ掛かった。

 

 だが、気のせいかもしれない。

 

 そう思って流した。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 次の日。

 

 ソファでテレビを見ていると、プリンが隣へ来た。

 

 来たのだが、少し距離がある。

 

 一人分くらい。

 

 妙な隙間。

 

 以前ならありえない距離だった。

 

 あなたは横目で見る。

 

 プリンは真剣にテレビを見ている。

 

 特に変わった様子はない。

 

「……プリン」

 

「はい」

 

「何かあったか?」

 

「ありません」

 

 即答。

 

「本当に?」

 

「本当です」

 

 それで会話終了。

 

 おかしい。

 

 何かがおかしい。

 

 だが、何がおかしいのか分からない。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 さらに数日後。

 

 朝。

 

 あなたが朝食を作っていると。

 

 プリンがやって来た。

 

「手伝います」

 

「助かる」

 

 いつものやり取り。

 

 何も変わらない。

 

 何も。

 

 本当に何も。

 

 変わっていないはずなのに、どこか違う。

 

 そんな感覚だけが残る。

 

「ノクス」

 

「ん?」

 

「卵です」

 

「ああ」

 

 受け取る。

 

 作業を続ける。

 

 会話終了。

 

 以前なら。

 

 もっと何か言っていた気がする。

 

 他愛もない話を。

 意味のない質問を。

 くだらないやり取りを。

 

 今は無い。

 

 静かだ。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 あなたはベッドへ寝転がりながら考える。

 

「……絶対何かあるよな」

 

 天井を見上げる。

 

 怒らせた覚えはない。

 喧嘩もしていない。

 

 何か言っただろうか。

 

 思い返す。

 

 分からない。

 

 全然分からない。

 

 だが、一つだけ確かなことがあった。

 

 最近のプリンは。

 

 少しだけ遠い。

 

 その距離が。

 

 何故だか妙に気になった。

 

 違和感は、気付いてしまうと目につく。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 休日だった。

 

 珍しく予定も無い。

 

 ルミナは任務。

 

 ステラは外出。

 

 家にはあなたとプリンだけだった。

 

 昼過ぎ。

 

 あなたはソファへ寝転がりながらゲームをしていた。

 

 静かだ。

 

 普段ならもっと騒がしい。

 

 そう思った時だった。

 

 視界の端に白い髪が映る。

 

 プリンだった。

 

 キッチンから戻ってくる。

 

 手にはジュース。

 

 そして、当然みたいにあなたの隣へ――

 

 来なかった。

 

 少し離れた一人用ソファへ座る。

 

「……」

 

 あなたは画面から目を離した。

 

 プリンは気付いていない。

 

 いや、気付いていて無視しているのか。

 

 どちらか分からない。

 

 ただ、やっぱり遠い。

 

 以前なら隣だった。

 

 それどころか肩が当たっていた。

 

 今は違う。

 

 不自然なくらい距離がある。

 

「プリン」

 

「はい」

 

「そこ座るのか」

 

「はい」

 

 即答。

 

「何で」

 

「ソファだからです」

 

「そうだけど」

 

 正論だった。

 

 正論だったが違う。

 

 絶対違う。

 

 あなたはゲーム機を置いた。

 

「怒ってる?」

 

「怒っていません」

 

「じゃあ何だ」

 

「何でもありません」

 

 会話終了。

 

 怪しい。

 

 怪しすぎる。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 夕方。

 

 今度は確信した。

 

 夕食の準備中だった。

 

 あなたが野菜を切っている。

 

 その横でプリンが皿を並べる。

 

 以前なら、もっと近かった。

 

 肩が触れるくらい。

 

 何なら邪魔なくらい近かった。

 

 今は違う。

 

 微妙に距離がある。

 

 半歩。

 

 本当に半歩。

 

 けれど。

 

 その半歩が妙に遠い。

 

「プリン」

 

「はい」

 

「俺なんかした?」

 

 包丁を動かしながら聞く。

 

「していません」

 

「いやしただろ」

 

「していません」

 

 即答だった。

 

 だが、絶対何かある。

 

 確信した。

 

 あなたは思わずため息を吐いた。

 

「分かんねぇ……」

 

 小さく呟く。

 

 すると。

 

 その声が聞こえたのか。

 

 プリンが一瞬だけこちらを見た。

 

 何か言いたそうな顔。

 

 でも、結局何も言わない。

 

 そのまま視線を逸らした。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 あなたはベッドへ寝転がっていた。

 

 眠れない。

 

 原因は分かっている。

 

 プリンだ。

 

「……何なんだよ」

 

 天井へ向かって呟く。

 

 怒らせた覚えはない。

 

 喧嘩もしていない。

 

 なのに、避けられている。

 

 いや、避けられているというより。

 

 距離を取られている。

 

 そんな感じだった。

 

 そして、考えていて気付く。

 

 最近、自分もプリンへ触っていない。

 

 頭を撫でていない。

 抱き上げていない。

 膝へ乗せてもいない。

 

 前は普通だった。

 

 当たり前みたいにやっていた。

 

 でも、いつからだろう。

 

 やらなくなった。

 

 理由は分かる。

 

 分かるからこそ。

 

 余計に頭が痛かった。

 

「……まさか」

 

 嫌な予感がした。

 

 だが、まだ確信はない。

 

 明日聞こうと思った。

 

 ちゃんと逃げずに聞こうと。

 

 そう決めて目を閉じた。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 次の日。

 

 夜だった。

 

 ソファへ座る。

 

 テレビは消えている。

 

 時計の音だけが聞こえる。

 

 向かい側にはプリン。

 

 白い髪が揺れる。

 

 相変わらず少し遠い。

 

 だから、今日は逃げないと決めていた。

 

「プリン」

 

「はい」

 

 顔が上がる。

 

 赤い瞳。

 

 いつも通り。

 

 けれど、どこか元気がない。

 

「話がある」

 

「はい」

 

「最近変だろ」

 

 沈黙。

 

 プリンは瞬きをした。

 

 一回。

 

 二回。

 

「変ではありません」

 

「変だ」

 

 即答する。

 

「変じゃないなら」

 

 あなたは少し肩をすくめる。

 

「何で最近そんな遠いんだ」

 

 言葉にすると、思った以上に寂しかった。

 

 自分でも驚く。

 

 プリンが少し目を伏せる。

 

 そして。

 

「分かりません」

 

 小さな声だった。

 

「分からない?」

 

「はい」

 

 プリンが膝の上で手を握る。

 

 珍しい仕草だった。

 

「最初は」

 

 言葉を探すように。

 

「気のせいだと思いました」

 

 あなたは黙って聞く。

 

「でも」

 

「最近ずっとです」

 

 少しだけ俯く。

 

「ノクスが」

 

 そこで声が止まる。

 

 そして。

 

「触ってくれません」

 

 静かな声。

 

 責めるような響きはない。

 

 ただ、事実を並べるみたいに。

 

「頭も撫でてくれません」

 

「抱き上げてくれません」

 

「膝にも乗せてくれません」

 

 一つずつ。

 

 一つずつ。

 

 数えるみたいに。

 

「前はありました」

 

「今はありません」

 

 あなたは何も言えない。

 

 全部、事実だったから。

 

「だから」

 

 プリンが顔を上げる。

 

 その顔は少し不安そうだった。

 

 初めて見る顔だった。

 

「私が何か失敗したのだと思いました」

 

 胸が痛くなる。

 

 そうか。

 

 違ったのか。

 

 拗ねていたわけじゃない。

 怒っていたわけでもない。

 

 ただ、不安だったのだ。

 

「嫌われたのだと思いました」

 

 小さな声だった。

 

 本当に。

 

 小さな声だった。

 

 その言葉を聞いて。

 

 あなたは思わず頭を抱えた。

 

「それはない」

 

 即答だった。

 

 考えるより先に口から出た。

 

「絶対にない」

 

 プリンが目を丸くする。

 

「じゃあ何故ですか」

 

 真っ直ぐな質問だった。

 

 逃げ道がない。

 

 あなたは深く息を吐いた。

 

 そして、観念した。

 

「……それは」

 

 言いづらい。

 

 死ぬほど言いづらい。

 

 だが、ちゃんと言わなければいけない。

 

 そう思った。

 

「お前」

 

「はい」

 

「人型になっただろ」

 

「なりました」

 

「だからだ」

 

 プリンが首を傾げる。

 

 全く分かっていない顔だった。

 

 だろうなと思う。

 

 だから余計に言いづらい。

 

「その」

 

 あなたは視線を逸らした。

 

「女の子だろ」

 

 プリンが瞬きをする。

 

「はい」

 

「だからだよ」

 

「?」

 

 駄目だ。

 

 伝わっていない。

 

 あなたは深く息を吐く。

 

 そして、半ばやけくそで言った。

 

「前みたいに気軽に触れないんだよ」

 

 プリンが固まる。

 

「……触れない?」

 

「ああ」

 

「何故ですか」

 

 真顔だった。

 

 本気で分かっていない。

 

 あなたは頭を抱えたくなる。

 

「何故って……」

 

 言わせるな。

 

「お前が女の子だからだ」

 

 沈黙。

 

 プリンが停止する。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 少しずつ、顔が赤くなっていく。

 

 耳まで。

 

 分かりやすいくらいに。

 

「女の子」

 

「うん」

 

「私を」

 

「うん」

 

「女の子として見ている」

 

 確認するみたいな声だった。

 

 あなたは視線を逸らす。

 

「そういうことになる」

 

 居たたまれない。

 

 死ぬほど恥ずかしい。

 

 だが、嘘は言っていない。

 

 実際そうだった。

 

 プリンが綺麗だと。

 可愛いと。

 女の子だと。

 

 そう認識してしまった。

 

 だから、前みたいにできなくなった。

 

 自然に頭を撫でることも。

 抱き上げることも。

 膝へ乗せることも。

 

 少しずつ、避けていた。

 

 そして、そこでようやく気付く。

 

「……あ」

 

 小さく声が漏れた。

 

 プリンが顔を上げる。

 

「ノクス?」

 

 あなたは黙った。

 

 思い出していた。

 

 プリンだけじゃない。

 ルミナも。

 ステラも。

 

 最近ずっとそうだった。

 

 ルミナが隣へ来る。

 照れる。

 逃げる。

 

 ステラが抱きついてくる。

 焦る。

 振り払う。

 

 プリンが近付いてくる。

 意識する。

 距離を取る。

 

 そんなことばかり繰り返していた。

 

 自分では、恥ずかしかっただけだ。

 

 照れていただけだ。

 

 そう思っていた。

 

 でも、相手から見たらどうだ。

 

 勇気を出して近付いたのに。

 

 避けられる。

 逃げられる。

 距離を取られる。

 

 それを繰り返されたら、不安になるに決まっている。

 

 プリンみたいに、嫌われたと思ってもおかしくない。

 

 胸の奥が少し痛んだ。

 

 秋葉の言葉が頭を過る。

 

『今のお前は三人のことを大切に思っている。それで十分だ』

 

 あの時はそう思った。

 

 けれど、多分それだけじゃ駄目なんだ。

 

 大切に思うなら、ちゃんと伝えなければいけない。

 向き合わなければいけない。

 

 逃げるだけじゃなくて。

 

「ノクス」

 

 プリンの声で我に返る。

 

 赤い顔のまま、不安そうにこちらを見ていた。

 

 だから、今度は視線を逸らさなかった。

 

「嫌いになったわけじゃない」

 

 真っ直ぐ言う。

 

「むしろ逆だ」

 

 プリンが目を丸くする。

 

「大事だから困ってる」

 

 言った瞬間。

 

 死ぬほど恥ずかしかった。

 

 だが、今だけは逃げなかった。

 

 プリンはしばらく何も言わない。

 

 そして、安心したように笑った。

 

「そうですか」

 

 その笑顔を見て、あなたはようやく肩の力を抜いた。

 

 安心したような。

 少し照れたような。

 

 そんな笑顔だった。

 

 だから、胸の奥が少し痛んだ。

 

 こんな顔をさせるつもりじゃなかった。

 不安にさせるつもりもなかった。

 

 ただ、自分が恥ずかしくて照れていただけだった。

 

 その結果がこれだ。

 

 プリンが自分を嫌われたと思うくらいには、距離を取ってしまっていた。

 

「……悪かった」

 

 気付けば言葉が出ていた。

 

 プリンが瞬きをする。

 

「何がですか」

 

「色々」

 

 正直に言う。

 

「ちゃんと見てなかった」

 

 プリンは何も言わない。

 

 ただ聞いている。

 

「自分のことばっかりだった」

 

 恥ずかしい。

 照れる。

 

 どうしよう。

 

 そんなことばかり考えていた。

 

 でも、相手のことを考えていなかった。

 

 その結果、プリンを不安にさせた。

 

「だから」

 

 あなたは少し迷う。

 

 それでも、今度は逃げなかった。

 

「撫でてもいいか」

 

 プリンが固まった。

 

「……はい?」

 

「いや」

 

 言った後で恥ずかしくなる。

 

 何だその聞き方。

 

 だが、もう遅い。

 

「前みたいにとはいかないけど」

 

「その」

 

 視線を逸らしながら続ける。

 

「少しずつ慣れる」

 

 沈黙。

 

 長い沈黙。

 

 返事がない。

 

 失敗したかと思った。

 

 だが。

 

「……はい」

 

 小さな声。

 

 プリンも真っ赤だ。

 

 だから。

 

 あなたは苦笑する。

 

 こっちだけじゃなかったらしい。

 

 手を伸ばす。

 

 一瞬だけ迷う。

 

 けれど、今度は止まらなかった。

 

 そっと、白い髪へ触れる。

 柔らかい。

 指が沈む。

 

 ゆっくり撫でる。

 

 一度。

 二度。

 三度。

 

 プリンは何も言わない。

 

 ただ、少しずつ目を細めていく。

 

 気持ち良さそうに。

 安心したみたいに。

 

 昔と同じ顔だった。

 

 その顔を見て、あなたは少し笑う。

 

 こんなことで良かったのか。

 

「……ノクス」

 

「ん?」

 

「嬉しいです」

 

 小さな声だった。

 

 本当に小さな声。

 

 でも、確かに聞こえた。

 

 だから、あなたはもう一度だけ。

 

 優しくその頭を撫でた。

 

 今度は逃げないように。

 

 ちゃんと向き合えるように。

 

 そう思いながら。

誰が好き?

  • ノクス
  • ルミナ
  • ステラ
  • プリン
  • 秋葉
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