転生者がTS魔法少女になって頑張る話。   作:メルヘン侍

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新章です。何卒。


第四章 君の隣を譲れない
第一話 君と歩く朝が始まる


 四人での日常にも慣れてきた。

 

 最初は本当にどうなることかと思った。

 

 ルミナは距離が近い。

 ステラは遠慮がない。

 プリンは自由奔放。

 

 毎日心臓が忙しかった。

 

 だが、人間というのは慣れる生き物らしい。

 

 最近は少し余裕が出てきていた。

 

「ノクス」

 

 ソファへ座っていたあなたの隣へ、ルミナが腰掛ける。

 

 肩が触れそうな距離。

 

 以前なら意識していた。

 

 今も少しは意識する。

 

 だが、前ほどではない。

 

「何だ」

 

「紅茶」

 

「ありがとう」

 

 自然に受け取る。

 

 ルミナが少しだけ首を傾げた。

 

 その様子を見ていたステラが反応する。

 

「何か最近慣れてきてない?」

 

「何が」

 

「全部」

 

 ふわりと後ろから抱きつかれる。

 

 いつものことだった。

 

「重い」

 

「ひどい」

 

「事実だろ」

 

 そう言いながらも振り払わない。

 

 ステラは少し不満そうだった。

 

 以前ならもっと慌てていたのに。

 

 最近は普通に返される。

 

 それが少し面白くない。

 

「ノクス」

 

 今度はプリンだった。

 

「ん?」

 

「撫でてください」

 

「またか」

 

「またです」

 

 即答。

 

 あなたは苦笑する。

 

 頭を撫でる。

 

「これでいいか」

 

「もっとです」

 

「欲張りだな」

 

 言いながらもう一度撫でる。

 

 プリンは満足そうだった。

 

 それを見たルミナとステラが少しだけ不満そうな顔をする。

 

「何だよ」

 

「別に」

 

「何でもないですー!」

 

 絶対に別にではない。

 

 だが、深く考えないことにした。

 

 最近学んだ。

 

 こういう時は考えた方が負けだ。

 

 そんな時だった。

 

 端末が震える。

 

 画面を見る。

 

 送り主を見て。

 

 あなたは少しだけ眉をひそめた。

 

「秋葉さん?」

 

 珍しい。

 

 内容を開く。

 

『来い』

 

 短かった。

 

 相変わらずだった。

 

「何だそれ」

 

 思わず呟く。

 

 すると、三人の視線が集まった。

 

「秋葉さん?」

 

 ルミナが聞く。

 

「ああ」

 

「何かあったの?」

 

「知らん」

 

 あなたは立ち上がる。

 

「ちょっと行ってくる」

 

 それだけ言って玄関へ向かう。

 

「待って」

 

 ルミナの声に、振り返る。

 

「ん?」

 

「私も行く」

 

「何でだよ」

 

「何となく」

 

「却下」

 

 即答だった。

 

 ルミナがむっとする。

 

「じゃあ私」

 

 ステラが手を挙げる。

 

「もっと却下」

 

「何で!?」

 

「絶対面白半分だろ」

 

「否定できない」

 

 正直だった。

 

「では私が」

 

 プリンが言う。

 

「護衛として」

 

「秋葉のところに行くのに護衛はいらない」

 

「なるほど」

 

 納得された。

 

 あなたは苦笑する。

 

「すぐ戻る」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 三人とも返事をしない。

 

 何だその顔は。

 

 意味が分からない。

 

「じゃあな」

 

 そう言って玄関を出る。

 

 扉が閉まる。

 

 静寂。

 

 数秒後。

 

「むかつく」

 

 ルミナが呟いた。

 

「分かる」

 

 ステラが頷く。

 

「少し、分かります」

 

 プリンも頷く。

 

 三人とも不機嫌だった。

 

「秋葉さんだからって」

 

 ルミナが小さく呟く。

 

「一人で行くんだ」

 

「信用の差を感じる」

 

 ステラ。

 

「悔しいです」

 

 プリン。

 

 空気が重かった。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 秋葉の家へ着いたのは昼過ぎだった。

 

 第一世代の魔法少女。

 第三世代の統括。

 

 そんな肩書きを持つ人物の家にしては、妙に普通だ。

 

 高級ではある。

 

 だが、どこか生活感がある。

 

 だから不思議と落ち着く。

 

「ほら」

 

 湯気の立つカップが置かれる。

 

「どうも」

 

 あなたは受け取り、一口飲む。

 

「うまい」

 

「そうか」

 

 秋葉は向かいへ腰掛けた。

 

 いつものように凛とした姿勢。

 背筋が伸びている。

 

 休日だというのに隙がない。

 

 しばらく他愛もない話をする。

 

 任務の話。

 最近の管理庁。

 ステラの暴走。

 プリンの奇行。

 

 秋葉も珍しく笑っていた。

 

 ふと、あなたは部屋を見回す。

 

「そういえば」

 

「何だ」

 

「ソラリスは?」

 

 秋葉の同居人。

 

 家に来ると大体いる。

 

 しかし、今日は見当たらない。

 

 秋葉は紅茶へ口を付ける。

 

「準備中だ」

 

「準備?」

 

「ああ」

 

「何の」

 

「秘密だ」

 

 即答だった。

 

「何だそれ」

 

「そのうち分かる」

 

 絶対ろくでもない。

 

 あなたは確信した。

 

 だが、これ以上聞いても答えないことも知っている。

 

 だから諦めた。

 

「で」

 

 あなたはカップを置く。

 

「本題は何だ」

 

 秋葉は少し黙る。

 

 そして、こちらを見る。

 

「学校へ行かないか」

 

「は?」

 

 思わず変な声が出た。

 

「学校」

 

「ああ」

 

「何で」

 

「何でとは」

 

 秋葉は呆れたような顔をした。

 

「お前」

 

「何だ」

 

「一応十八歳だろう」

 

「そうだけど」

 

「高校生だろう」

 

「そうだけど」

 

「なら学校へ行け」

 

 理屈だった。

 

 意味が分からない。

 

「いや」

 

 あなたは首を傾げる。

 

「行ってるぞ」

 

「月何回だ」

 

「……」

 

 沈黙。

 

「何回だ」

 

「覚えてない」

 

「そうか」

 

 秋葉は頷く。

 

 嫌な頷き方だった。

 

 完全に呆れている。

 

「お前な」

 

 秋葉はため息を吐く。

 

「学校は籍だけ置いておく場所じゃない」

 

「いや」

 

「魔法少女はそういう奴ばっかりだろ」

 

「だから問題なんだ」

 

 正論だった。

 

 珍しく。

 

 正論だった。

 

「最近は割と落ち着いている」

 

 秋葉が言う。

 

「それはまあ」

 

「なら少しは高校生をやれ」

 

 あなたは黙る。

 

 秋葉は続ける。

 

「友人を作れ」

 

「いるぞ」

 

「学校のだ」

 

「……」

 

「遊べ」

 

「……」

 

「青春しろ」

 

「最後おかしいだろ」

 

「おかしくない」

 

 真顔だった。

 

 腹立たしい。

 

 ものすごく腹立たしい。

 

 だが、秋葉は珍しく冗談ではなかった。

 

「ノクス」

 

「何だ」

 

「お前」

 

 少しだけ。

 

 優しい声になる。

 

「戦う以外の人生もある」

 

 あなたは言葉を失った。

 

 その言葉だけ。

 

 妙に心へ残ったからだ。

 

「だから」

 

 秋葉は紅茶を飲む。

 

「学校へ行け」

 

「命令?」

 

「提案だ」

 

「珍しいな」

 

「ああ」

 

 秋葉は少しだけ笑った。

 

「たまには上官らしくないこともする」

 

 何だそれ。

 

 そう思ったが、不思議と悪い気はしなかった。

 

 それに、秋葉の言うことにも一理ある。

 

 最近は比較的落ち着いている。

 

 任務はあるが、以前のように毎日命を削るような状況ではない。

 

 少なくとも今は余裕がある。

 

 そして、他の三人の顔が浮かぶ。

 

 ルミナは、お嬢様学校に籍はあるが、ほとんど通っていない。

 

 というか見たことがない。

 

 ステラも似たようなものだろう。

 

 あいつが真面目に授業を受けている姿は想像できない。

 

 そして、プリン。

 

「……」

 

 あいつはそもそも学校へ通ったことがない。

 

 人として生き始めてまだ日が浅い。

 

 常識は学んでいる。

 努力もしている。

 

 だが、人間社会そのものにはまだ慣れていない。

 

 そう考えると学校という環境は悪くない気がした。

 

 日常。

 普通の人間関係。

 

 プリンにとっても必要な経験かもしれない。

 

「考えてるな」

 

 秋葉が言う。

 

「まあな」

 

 あなたは紅茶を飲む。

 

「でも問題がある」

 

「何だ」

 

「俺」

 

 少し言い淀む。

 

「魔法少女になってから学校行ってないんだよな」

 

 秋葉が瞬きをする。

 

「そうか」

 

「そうかじゃない」

 

 問題だった。

 

 今まではどうにかなっていた。

 

 任務。

 管理庁。

 

 色々理由もあった。

 

 だが、学校へ通うとなると話が変わる。

 

 女の姿で。

 普通に。

 学生として。

 

「……」

 

 想像してみる。

 

 無理だった。

 

 恥ずかしい。

 

 ものすごく。

 

「顔が面白い」

 

「うるさい」

 

 秋葉が少し笑う。

 

 腹立たしい。

 

「それに」

 

 あなたは続ける。

 

「今の学校どうするんだ」

 

「その辺は考えてある」

 

「は?」

 

 秋葉は当然のように言った。

 

「学校はこちらで用意する」

 

「用意するって何だ」

 

「そのままの意味だ」

 

 秋葉は紅茶を置く。

 

 そして、何でもないことのように告げた。

 

「四人で編入しろ」

 

「……は?」

 

「お前」

 

「ルミナ」

 

「ステラ」

 

「プリン」

 

 指を折りながら数える。

 

「四人まとめてだ」

 

「いや待て」

 

 話が飛んでいる。

 

「何でそうなる」

 

「面白そうだから」

 

「本音出たな?」

 

 即座に突っ込む。

 

 秋葉は否定しなかった。

 

 つまり本音だった。

 

「安心しろ」

 

 秋葉が言う。

 

「色々と都合のいい学校だ」

 

「その言い方が一番信用できない」

 

「失礼だな」

 

「失礼じゃない」

 

 断言した。

 

 だが、秋葉は気にした様子もない。

 

 むしろ少し楽しそうだった。

 

「詳しい話を聞くか?」

 

 その笑顔を見て。

 

 あなたは本能的に理解した。

 

 ろくでもないことになる。

 

 間違いなく。

 

 ろくでもないことになる。

 

 しかし、もう既に少し興味を持ってしまっている自分もいた。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 その後、色々と話を聞いたあなたは家へ戻った。

 

 玄関を開ける。

 

 すると予想通り。

 

 三人ともリビングで待っていた。

 

「おかえり」

 

 ルミナが本から顔を上げる。

 

「遅かったね」

 

 ステラはソファの背もたれから身を乗り出した。

 

「おかえりなさい」

 

 プリンもこちらを見る。

 

 どうやら本当に待っていたらしい。

 

「話がある」

 

 あなたがそう言うと、三人の視線が集まった。

 

 数分後。

 

 あなたは秋葉との会話を説明していた。

 

「つまり」

 

 ステラが頬杖をつく。

 

「学校へ行けってこと?」

 

「ああ」

 

「今更だね」

 

 ステラが苦笑する。

 

「そうだな」

 

 ルミナも頷いた。

 

「私も籍はあるし」

 

「私もあるよ」

 

 ステラも続く。

 

 反応は予想通りだった。

 

 魔法少女にとって学校は半ば形だけのものだ。

 

 だから二人とも驚いていない。

 

 あなたは少し考えてから口を開いた。

 

「でも悪くないと思う」

 

 三人がこちらを見る。

 

「最近は落ち着いてるし」

 

 少し言葉を探す。

 

 照れくさい。

 

 だが、誤魔化したくなかった。

 

「みんなには」

 

 一度息を吐く。

 

「普通の女の子としての幸せも感じてほしい」

 

 静かになった。

 

 ルミナが視線を逸らす。

 

 耳が少し赤い。

 

「……急にそういうこと言うのやめて」

 

「何でだよ」

 

「何でも」

 

 全然何でもではない。

 

 ステラも顔を隠していた。

 

「最近のノクスずるくない?」

 

「意味分からん」

 

「そういうところ」

 

 笑いながら言う。

 

 二人ともどこか嬉しそうだった。

 

 そして自然と、学校生活の話になる。

 

「ノクスと学校か」

 

 ステラが笑う。

 

「楽しそう」

 

「そうだね」

 

 ルミナも小さく頷く。

 

 普段は得られない日常。

 

 少しだけ期待しているのが分かった。

 

 ただ、一人だけ反応が違った。

 

「プリン?」

 

 あなたは気付く。

 

 プリンだけが黙っていた。

 

 少しだけ不安そうな顔。

 

「どうした」

 

「……大丈夫でしょうか」

 

 珍しく弱気な声だった。

 

「何が」

 

「学校です」

 

 プリンは膝の上で手を握る。

 

「友達もいません」

 

「何をするかも知りません」

 

「それに」

 

 言葉が止まる。

 

「ノクスと離れる時間も増えます」

 

 小さな声だった。

 

 あなたは少し考える。

 

 確かに、プリンにとって学校は未知の世界だ。

 

 しかも今までは大体一緒にいた。

 

 不安になるのも当然だった。

 

「それなんだが」

 

 あなたは頭を掻いた。

 

「もう一つ話がある」

 

 三人がこちらを見る。

 

 そして。

 

「学年は同じじゃない」

 

 空気が止まった。

 

「……え?」

 

 ルミナが瞬きをする。

 

「俺は三年」

 

「うん」

 

「ルミナとステラは二年」

 

「は?」

 

 二人同時だった。

 

 そして。

 

「プリンは一年」

 

 沈黙。

 

 一秒。

 二秒。

 

「嫌です」

 

 プリンが即答した。

 

「早いな」

 

「嫌です」

 

 本気だった。

 

「何で別なんですか」

 

「知らん」

 

「絶対秋葉さん」

 

 ステラが断言する。

 

「それはそう」

 

 あなたも否定できない。

 

「待って」

 

 ステラが立ち上がる。

 

「何でノクスだけ三年なの?」

 

「年齢」

 

「そんな真面目な理由ある?」

 

「あるだろ」

 

 ルミナも少し不満そうだった。

 

「普通に嫌なんだけど」

 

「私も」

 

「お前らな」

 

 思わず苦笑する。

 

 だが、一番深刻なのはプリンだった。

 

 しょんぼりしている。

 

 どう見ても落ち込んでいた。

 

 どうやら説得には少し時間がかかりそうだった。

 

「プリン」

 

「嫌です」

 

 もう一度。

 

 今度はさらに強く。

 

 本気だった。

 

「何で」

 

「嫌だからです」

 

 珍しく感情的な返答だった。

 

 プリンは膝の上で手を握りしめる。

 

「一年は嫌です」

 

「俺に言うな」

 

「ノクスと同じが良いです」

 

 真っ直ぐだった。

 

 あまりにも。

 

 躊躇も遠慮もない。

 

 その言葉に。

 

 少しだけ胸が跳ねた。

 

 不意打ちだった。

 

 だが。

 

 そんなことを表へ出すわけにもいかない。

 

「プリン」

 

「嫌です」

 

「まだ何も言ってない」

 

「説得されます」

 

「当たり前だろ」

 

 プリンは不満そうだった。

 

 本当に不満そうだった。

 

 今にも頬を膨らませそうなくらい。

 

「知らない人ばかりです」

 

 ぽつりと零れる。

 

「知らない場所です」

 

「友達もいません」

 

「だから」

 

 赤い瞳がこちらを見る。

 

「一緒に居てほしいです」

 

 真っ直ぐだった。

 

 だから困る。

 

 こうも真っ直ぐ言われると少し照れる。

 

「……」

 

 あなたは咳払いをした。

 

 そして頭を掻く。

 

「プリン」

 

「はい」

 

「友達作れ」

 

「嫌です」

 

「即答するな」

 

 ルミナとステラが吹き出した。

 

 だが、あなたは続ける。

 

「俺達以外の友達だ」

 

「……」

 

「色んな奴と話せ」

 

「色んな奴と仲良くなれ」

 

「その方が」

 

 少し考える。

 

「この世界にもっと馴染める」

 

 プリンは黙る。

 

 あなたは続けた。

 

「お前はまだ知らないことが多い」

 

「学校もそうだ」

 

「人間もそうだ」

 

「だから」

 

 ゆっくり言う。

 

「俺達以外の友達を作れ」

 

 プリンは視線を落とした。

 

 少しだけ考えている。

 

 まだ納得はしていない顔だった。

 

「でも」

 

 小さく呟く。

 

「離れます」

 

「離れない」

 

 即答する。

 

 プリンが顔を上げた。

 

「登下校は一緒だ」

 

「……」

 

「朝も会う」

 

「……」

 

「昼休みだって会える」

 

「……」

 

「帰る家も同じだ」

 

 そこでようやく。

 

 プリンの表情が少し緩んだ。

 

「本当ですか」

 

「ああ」

 

「毎日ですか」

 

「ああ」

 

「約束ですか」

 

「約束だ」

 

 プリンはしばらく黙った。

 

 そして、少しだけ安心したように息を吐く。

 

「……なら」

 

 まだ少し不満そうな顔。

 

 けれど、先ほどよりずっと穏やかだった。

 

「頑張ります」

 

 そう言ってそっとあなたの服の裾を掴んだ。

 

 離したくないと言うように。

 

 その仕草に、ルミナとステラが何とも言えない顔をしていた。

 

「私も嫌」

 

 不意にルミナが言った。

 

 あなたは振り返る。

 

「何が」

 

「離れるの」

 

 平然とした顔。

 

 だが、耳だけ少し赤い。

 

「今更だろ」

 

「今更でも」

 

 小さく言う。

 

「嫌なものは嫌」

 

 珍しく頑固だった。

 

 すると。

 

「分かる」

 

 ステラも乗っかる。

 

「私も寂しい」

 

「お前絶対面白がってるだろ」

 

「半分くらい」

 

「正直だな」

 

 思わず苦笑する。

 

 だが、その笑顔の奥に本音があることも分かった。

 

 結局、三人とも同じなのだ。

 

 学校より。

 友達より。

 学年より。

 

 ノクスと離れることを気にしている。

 

「お前らな」

 

 思わずため息が漏れる。

 

 嫌な気はしなかった。

 

 むしろ、少しだけ嬉しい。

 

 あなたは手を伸ばした。

 

 まずルミナ。

 

 青い髪を優しく撫でる。

 

「っ」

 

 肩が跳ねた。

 

 次にステラ。

 

「えへへ」

 

 分かりやすく笑う。

 

 最後にプリン。

 

 気持ち良さそうに目を細めた。

 

 そして、三人まとめて見回す。

 

「学校が変わっても、生活が変わっても」

 

「大切なものは変わらないだろ?」

 

 言いながら、少しだけ笑う。

 

「毎日会うし、家も同じ。別にどこか行くわけでもない」

 

 誰も何も言わない。

 

 ただ、三人とも顔が赤かった。

 

「……そういうの」

 

 ルミナが小さく呟く。

 

「本当に急に言う」

 

「自覚ないでしょ」

 

 ステラも顔を逸らす。

 

「ずるいです」

 

 プリンまで同意した。

 

「何でだよ」

 

 意味が分からない。

 

 本当に意味が分からない。

 

 でも、三人ともどこか嬉しそうだった。

 

 その顔を見て、まあいいかとあなたは思う。

 

 きっと、学校が始まっても。

 

 この騒がしい日常は変わらないのだろうから。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 時は流れ、編入前日の夜。

 

 家の中は静かだった。

 

 ルミナも。

 ステラも。

 

 既に自室へ戻っている。

 

 明日は早い。

 

 当然だった。

 

 あなたも寝ようと思い、本を閉じる。

 

 照明を落とそうとした時だった。

 

 こんこん。

 

 控えめなノック。

 

「どうぞ」

 

 扉が開く。

 

 入ってきたのはプリンだった。

 

 理由は聞かなかった。

 

 聞くまでもない。

 

 顔を見れば分かる。

 

 無表情。

 

 いつも通り。

 

 だが、それでも分かる。

 

 不安なのだ。

 

 明日から始まる学校生活が。

 知らない人達が。

 知らない環境が。

 

 怖いのだろう。

 

「入れよ」

 

 あなたが言う。

 

 プリンは小さく頷き、ベッドの横へ腰掛けた。

 

 肩が触れそうな距離。

 

 静かな時間だった。

 

「眠れないのか」

 

「少し」

 

 素直な返事。

 

「大丈夫だよ」

 

 あなたは言う。

 

「友達できるかなとか」

 

「上手くやれるかなとか」

 

「そういうのはみんな思う」

 

 プリンは黙って聞いている。

 

「俺だって不安だ」

 

「ノクスもですか」

 

「当たり前だろ」

 

 苦笑する。

 

「魔法少女になってから初登校だぞ」

 

 プリンが少しだけ笑った。

 

 だが、まだどこか不安そうだった。

 

 視線が揺れている。

 

 そして、不意に服の裾が引かれた。

 

 よくする仕草。

 

「プリン」

 

「はい」

 

「大丈夫だ」

 

 プリンは何も言わない。

 

 ただ聞いている。

 

「最初はそんなもんだ」

 

 あなたは少し笑う。

 

「帰ってきたら話聞いてやるよ」

 

 プリンが瞬きをする。

 

「楽しかったことでも」

 

「嫌だったことでも」

 

「何でも」

 

 沈黙。

 

 数秒。

 

 そして。

 

「……それでも不安です」

 

 小さな声だった。

 

 弱音だった。

 

 珍しい。

 

 本当に珍しかった。

 

 だから、あなたは少し考える。

 

 そして。

 

「よし」

 

 身を乗り出した。

 

 プリンがきょとんとする。

 

「ノクス?」

 

「おまじない」

 

「おまじない?」

 

「ああ」

 

 軽く、おでこへ口付ける。

 

 一瞬だった。

 

 触れるだけ。

 

 それだけ。

 

 沈黙。

 

「……」

 

「……プリン?」

 

 反応がない。

 

 固まっていた。

 

 完全に思考が停止している。

 

 みるみるうちに顔が赤くなる。

 

「だ、大丈夫です」

 

「全然大丈夫そうに見えないんだが」

 

「大丈夫です」

 

 声が震えていた。

 視線も合わない。

 落ち着きもない。

 

 明らかに大丈夫ではない。

 

「効いたか?」

 

 あなたが聞く。

 

 すると、プリンは顔を伏せたまま。

 

「ずるいです」

 

 小さく呟いた。

 

「何が」

 

「そういうの」

 

 それ以上は言わない。

 

 言えない。

 

 だが、さっきまでの不安そうな顔は消えていた。

 

 代わりにプリンは少しだけあなたの肩へ寄り掛かる。

 

「……頑張ります」

 

 ぽつりと呟く。

 

「おう」

 

「友達も作ります」

 

「おう」

 

「学校も頑張ります」

 

「偉いな」

 

 頭を撫でる。

 

 すると、プリンは少しだけ笑った。

 

 本当に少しだけ。

 

 そして。

 

「毎日一緒に登校してください」

 

 真剣な声だった。

 

 あなたは笑う。

 

「当たり前だろ」

 

 その返事を聞いて。

 

 ようやくプリンは安心したように目を細めた。

 

 明日から色々変わる。

 

 けれど、きっと大丈夫だ。

 

 そんな気がした。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 そして、編入当日。

 

 事件は起きた。

 

 校門をくぐる。

 

 朝の喧騒。

 見知らぬ生徒達。

 久しぶりの学校。

 

 少しだけ緊張しているプリン。

 周囲を観察しているルミナ。

 既に何か面白いことを探しているステラ。

 

 そして、そんな三人を見ながらあなたは思う。

 

 意外と何とかなるかもしれない。

 

 そんなことを考えていた。

 

「あ、あの!」

 

 声。

 

 男子生徒だった。

 

 見知らぬ顔。

 

 顔を真っ赤にしている。

 

 嫌な予感がした。

 

 ものすごく、嫌な予感がした。

 

「魔法少女のノクスちゃんですよね!?」

 

 終わった。

 

 直感した。

 

「俺と付き合ってください!」

 

 校門前。

 

 大声に、周囲の生徒達が振り返る。

 

 空気が止まる。

 

「…………」

 

 沈黙。

 

「…………」

 

 男子生徒。

 

「…………」

 

 あなた。

 

 そして。

 

「…………」

 

 空気が冷えた。

 

 物理的に。

 

 いや、気のせいじゃない。

 

 冷えた。

 

 まずい。

 

 そう思った時にはもう遅かった。

 

 左にはルミナ。

 

 綺麗な笑顔なのに、凄く怖い。

 

 右にステラ。

 

「へえ」

 

 笑っているが、目だけ笑っていない。

 

 そして、後ろにプリン。

 

 無表情なのに、めちゃくちゃ怒っている。

 

「ノクス」

 

 ルミナが呼ぶ。

 

「何」

 

「知り合い?」

 

「知らない」

 

 本当に知らない。

 

「そう」

 

 怖い。

 

「へえ」

 

 ステラが続く。

 

「初登校だよね?」

 

「そうだな」

 

「なのに告白されるんだ」

 

「俺に言うな」

 

 そして。

 

 ぐいっ。

 

 袖を引かれる。

 

 プリンだった。

 

「ノクス」

 

「何だ」

 

「断ってください」

 

 即答。

 

「いや、まだ返事してない」

 

「断ってください」

 

 圧が強い。

 

 男子生徒が青ざめている。

 

 周囲もざわついている。

 

 あなたは思う。

 

 学校生活。

 

 始まって五分も経っていない。

 

 なのに、もう帰りたい。

 

 そんな不安だけが、凄まじい圧と共にあなたへ降り掛かっていた。




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