転生者がTS魔法少女になって頑張る話。   作:メルヘン侍

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結構脳死で書いてたりもするので、定期的に読み返して誤字脱字だったり違和感のある表現は修正した生きたいと思います。


第四話

 夢だ。

 

 あなたは、それをすぐに理解した。

 

 何度も見た。

 

 忘れたことなんて、一度もない。

 

 耳を裂くような爆発音。

 

 熱。

 

 煙。

 

 崩れ落ちる建物。

 

 悲鳴。

 

 倒れていく人間。

 

 伸ばされた手。

 

 届かなかった声。

 

 全部、鮮明だった。

 

 夢なのに、匂いまで思い出せる。

 

 焦げた空気。

 

 血の臭い。

 

 焼けた鉄。

 

 肺が潰れそうな熱。

 

 あなたは走っている。

 

 何かを叫んでいる。

 

 でも音が遠い。

 

 景色だけが異様にはっきりしている。

 

 誰かを助けようとしていた。

 

 必死に。

 

 夢の中のあなたは、迷いなく動いていた。

 

 怖かったはずだ。

 

 死にたくなかったはずだ。

 

 それでも止まらなかった。

 

 ヒーローになりたかったからか。

 

 誰かを救いたかったからか。

 

 そんなもの、もう分からない。

 

 ただ――見捨てたくなかった。

 

 その感情だけは、今でも残っている。

 

 視界が揺れる。

 

 熱で世界が歪む。

 

 伸ばした手。

 

 掴めなかった何か。

 

 そして、顔。

 

 救えなかった誰かの顔。

 

 泣いていたのか。

 

 笑っていたのか。

 

 もう曖昧なのに。

 

 その瞬間だけ、心臓に焼き付いている。

 

 あなたは夢の中で歯を食いしばる。

 

 助けられなかった。

 

 間に合わなかった。

 

 何もできなかった。

 

 それだけが、ずっと残っている。

 

 場面が切り替わる。

 

 白い天井。

 

 病院。

 

 静かな機械音。

 

 夢の中のあなたは、ぼんやり天井を見上げていた。

 

 身体が重い。

 

 喉が乾いている。

 

 でも、それより先に。

 

 理解してしまう。

 

 助からなかったのだと。

 

 自分ではない。

 

 “誰か”が。

 

 夢の中のあなたは、声を出そうとする。

 

 けれど喉が動かない。

 

 白い天井だけが視界に広がる。

 

 その光景を。

 

 あなたは今でも覚えている。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 あなたは勢いよく目を開けた。

 

「――っ!!」

 

 呼吸が荒い。

 

 胸が痛いほど上下する。

 

 全身が汗でびっしょりだった。

 

 嫌な熱が肌に張り付いている。

 

 夢。

 

 また、あの夢だ。

 

 爆発音。

 

 倒れる人間。

 

 白い天井。

 

 そして――救えなかった誰かの顔。

 

 あなたは荒い呼吸のまま額を押さえる。

 

「……は、ぁ……」

 

 心臓がうるさい。

 

 少しずつ。

 

 少しずつ現実感が戻ってくる。

 

 薄暗い天井。

 

 見慣れた部屋。

 

 自宅だ。

 

 そこで、あなたは一気に意識を覚醒させた。

 

「……っ、待て」

 

 最後の記憶。

 

 アーク。

 

 廃工場。

 

 わき腹を裂かれる感覚。

 

 ルミナ。

 

 プリン。

 

 あなたは反射的に起き上がろうとして――

 

「い゛っっ……!?」

 

 脇腹に激痛が走った。

 

 傷は塞がっている。

 

 でも痛みは普通に残っていた。

 

「くそっ……!」

 

 そこでようやく、自分が服を着替えさせられていることに気づく。

 

「は???」

 

 誰だ。

 

 誰がやった。

 

 いや待て。

 

 それより。

 

 ルミナは!?

 

 プリンは!?

 

 あなたの脳内で警報が鳴り始める。

 

 飛び起きようとして――

 

 その瞬間。

 

 自分の右手が、何かに掴まれていることに気づいた。

 

「……?」

 

 視線を落とす。

 

 そこには。

 

 ベッドに突っ伏すようにして眠っている少女がいた。

 

 青い髪。

 

 見慣れた顔。

 

 ルミナ。

 

 彼女は椅子に座ったまま、あなたの手を握って眠っていた。

 

 長い睫毛。

 

 静かな寝息。

 

 疲れ切った顔。

 

 けれど、どこか安心したみたいに力が抜けている。

 

 あなたの思考が、数秒止まる。

 

 そして。

 

「うわぁぁぁぁぁっっっ!?!?」

 

 叫んだ。

 

 全力で。

 

 ルミナの肩がびくっと跳ねる。

 

「ひゃっ!?」

 

 彼女も飛び起きた。

 

 数秒。

 

 二人で固まる。

 

 あなたはベッドの上。

 

 ルミナは椅子。

 

 手は繋がったまま。

 

 沈黙。

 

 そして。

 

「……」

 

「……」

 

 あなたの顔がみるみる赤くなる。

 

「な、なんでいるんだよ!?」

 

 ルミナも完全に目が覚めたらしく、慌てて手を離した。

 

「ち、違っ、これは……!」

 

「いや違わなくない!?」

 

「だってあなた倒れて……!」

 

「それは知ってる!!」

 

 混乱。

 

 脳が追いつかない。

 

 何がどうなってる。

 

 なんでルミナが家にいる。

 

 なんで手を握ってた。

 

 なんでこんな近い。

 

 あなたが混乱していると。

 

 部屋の隅から、のんびりした声がした。

 

「起きましたか」

 

 プリンだった。

 

 ソファの上でぷるんと揺れている。

 

 あなたは即座に指差す。

 

「お前ぇぇぇぇ!!」

 

「はい」

 

「何した!?」

 

「搬送です」

 

「説明になってねえ!!」

 

 あなたはベッドの上で半身を起こしたまま、プリンを睨みつける。

 

「なんで家にいるんだよ!? なんでルミナいるんだよ!? なんで俺寝てたんだよ!?!?」

 

「順番に説明します」

 

「今すぐしろ!!」

 

 プリンはぷるんと揺れた。

 

「まず、あなたは気絶しました」

 

「それは知ってる!」

 

「次に、ルミナがあなたを運びました」

 

「なんで!?」

 

「恩があるので」

 

 ルミナが気まずそうに視線を逸らす。

 

「……べ、別に良いでしょ?」

 

「良くないだろ!」

 

 あなたは即座にツッコむ。

 

「なんで敵地みたいなもんに単独で来てんだよ!? 危機感どうした!?」

 

「敵地……?」

 

 ルミナがきょとんとする。

 

「あなたの家ですよね……?」

 

「そうだけど!!」

 

 正論で返されると弱い。

 

 あなたが頭を抱えていると、プリンが淡々と続けた。

 

「なお、止血と応急修復は私が実施しました」

 

「……お前が?」

 

「はい」

 

 プリンは少しだけ胸を張るように揺れる。

 

「褒めても構いません」

 

「調子乗るなバカマスコット」

 

「正式名称はプリンです」

 

「知らん」

 

 即答。

 

 ルミナが二人を交互に見る。

 

 その顔は、完全に混乱していた。

 

「……えっと」

 

 恐る恐る口を開く。

 

「二人って、どういう関係なんですか?」

 

 空気が止まる。

 

 あなたとプリンが同時に視線を逸らした。

 

「……」

 

「……」

 

「なんで逸らすんですか」

 

 ルミナの声が真顔になる。

 

 まずい。

 

 非常にまずい。

 

 あなたは咳払いした。

 

「こ、こいつはその……」

 

「営業担当です」

 

「営業職かよ!! 噓つくな!!」

 

 反射でツッコむ。

 

 プリンは真顔だった。

 

「嘘ではありません。契約締結業務を担当しています」

 

「言い方!!」

 

 ルミナが完全に困惑している。

 

「契約……?」

 

「あっいや違っ」

 

「はい。契約しました」

 

「お前は黙れ!!」

 

 あなたは思わず枕を投げた。

 

 プリンがぴょこんと避ける。

 

「暴力です」

 

「うるさい!!」

 

 脇腹が痛む。

 

「い゛っ……!」

 

 あなたが顔をしかめると、ルミナが即座に立ち上がった。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 距離が近い。

 

 青い髪が揺れる。

 

 あなたは反射で身を引こうとして、さらに傷が痛んだ。

 

「いっっっだ!?」

 

「動かないでください!」

 

「お前も近い!!」

 

「心配してるんです!」

 

 即答だった。

 

 その勢いに、あなたの方が止まる。

 

 ルミナははっとしたように口を閉じた。

 

「……あ」

 

 顔が赤くなる。

 

 視線が泳ぐ。

 

「その……」

 

 言葉に詰まる。

 

 あなたも、急に何を言えばいいか分からなくなった。

 

 沈黙。

 

 妙に静かになる部屋。

 

 その空気を。

 

 プリンが、のんびり壊した。

 

「なお、ルミナはあなたが起きるまで約七時間ここにいました」

 

「七時間!?」

 

 あなたが叫ぶ。

 

 ルミナも叫ぶ。

 

「ぷ、プリン!?」

 

「事実です」

 

「言わなくていいです!!」

 

 ルミナの顔が真っ赤になる。

 

 あなたの脳が処理を拒否する。

 

「いや待て七時間!? 何してた!?」

 

「……見てました」

 

「何を!?」

 

「あなたを」

 

「なんで!?」

 

「心配だったので……」

 

 最後だけ小さかった。

 

 あなたは言葉に詰まる。

 

 ルミナは完全に俯いていた。

 

 耳まで赤い。

 

 プリンが静かに補足する。

 

「あと三回くらいあなたの額に触れて熱を確認していました」

 

「やめろ情報追加ァ!!」

 

 あなたは頭を抱えた。

 

 なんだこれ。

 

 なんなんだこの空間。

 

 命懸けで戦った翌日に発生していい空気じゃない。

 

 すると。

 

 ルミナが、小さな声で言った。

 

「……だって」

 

 あなたがそちらを見る。

 

 彼女は視線を逸らしたまま、ぽつりと続けた。

 

「あなた、無茶するから」

 

 その一言で。

 

 あなたの頭の中にあった騒音が、一瞬だけ静かになった。

 

「……」

 

 ルミナは視線を合わせない。

 

 ただ、自分の膝の上で指をぎゅっと握っていた。

 

「急に出てくるし」

 

 小さな声。

 

「いきなり庇うし」

 

 少し震えている。

 

「最後なんて、避けられたのに」

 

 あなたは反射的に言い返そうとして。

 

 止まった。

 

 避けられた。

 

 それは事実だ。

 

 あの一撃。

 

 まともに踏み込んだのは、自分の意思だった。

 

 ルミナを戦わせたくなかった。

 

 あのぼろぼろの状態で、また前に立たせたくなかった。

 

 だから、無理やり終わらせた。

 

 あなたが黙っていると、ルミナがぽつりと続ける。

 

「……死ぬかと思ったんです」

 

 その声は、戦場で聞いたどの声より弱かった。

 

 あなたは思わずそちらを見る。

 

 ルミナは俯いたままだった。

 

「あなたが」

 

 静かな部屋。

 

 その言葉だけが、やけに鮮明に響く。

 

 あなたは喉の奥が詰まる感覚を覚える。

 

 何か言わないといけない気がした。

 

 でも、うまく出てこない。

 

「……悪かった」

 

 やっと出た言葉は、それだった。

 

 ルミナが少しだけ目を見開く。

 

 たぶん、もっと軽く返されると思っていたのだろう。

 

 あなたは頭を掻いた。

 

「その……」

 

 言葉を探す。

 

「お前来るって聞いて」

 

「……はい」

 

「また無理して戦う気なんだろうなって思って」

 

 ルミナの肩が少し揺れる。

 

「なんか、それが」

 

 あなたは顔をしかめる。

 

 うまく説明できない。

 

「嫌だった」

 

 ルミナが、ゆっくり顔を上げた。

 

 青い瞳が、まっすぐこちらを見る。

 

 あなたは少しだけ視線を逸らす。

 

「……お前、ボロボロだっただろ」

 

「魔法少女なので」

 

「そういうのだよ」

 

 思わず強く返してしまう。

 

 ルミナが少しだけ息を呑む。

 

 あなたはそのまま続けた。

 

「なんでそんな当たり前みたいに言うんだよ」

 

「……」

 

「痛いのも、怖いのも、死にそうなのも」

 

 前世の夢が頭をよぎる。

 

 倒れる人間。

 

 白い天井。

 

 救えなかった誰か。

 

 あなたは眉を寄せる。

 

「慣れるなって言っただろ」

 

 部屋が静かになる。

 

 ルミナは、何も言わない。

 

 でも、その目だけが少し揺れていた。

 

 プリンが空気を読まずに言った。

 

「なお、あなたも大概です」

 

「うるさい」

 

「あなたは初戦闘で自爆気味の相打ちを実施しました」

 

「言い方」

 

「客観評価です」

 

 プリンはぷるんと揺れる。

 

「ルミナだけを注意する資格は薄いかと」

 

「ぐっ……」

 

 正論。

 

 最悪だ。

 

 あなたが顔をしかめると、ルミナが小さく吹き出した。

 

「ふふ……」

 

 小さい笑い声。

 

 戦闘中の営業スマイルじゃない。

 

 本当に、自然に漏れた笑いだった。

 

 あなたは少し目を丸くする。

 

 ルミナも、自分で笑ったことに驚いたみたいに瞬きをした。

 

「……ごめんなさい」

 

「いや」

 

 あなたは少しだけ肩の力を抜く。

 

「別にいいけど」

 

 するとルミナは、少し迷ったあと。

 

 小さく言った。

 

「……でも」

 

「?」

 

「来てくれて、うれしかったです」

 

 今度こそ、あなたは完全に黙った。

 

 ルミナは恥ずかしそうに視線を逸らす。

 

「その……」

 

「誰かが助けに来るなんて、思ってなかったので」

 

 あなたの胸の奥が、少しだけ痛んだ。

 

 それは傷の痛みじゃない。

 

 もっと別のものだった。

 

 あなたは言葉を探す。

 

 でも、その前に、プリンが静かに言った。

 

「なお、あなたはルミナを“お姫様抱っこ”していました」

 

「ぶっ――!!」

 

 あなたが盛大にむせる。

 

 ルミナが固まる。

 

「……え?」

 

「落下保護時および搬送時、非常に丁寧に保持していました」

 

「プリン!!!!」

 

 あなたが叫ぶ。

 

 ルミナの顔が一瞬で真っ赤になる。

 

「えっ、あ、あれってそういう……!?」

 

「違う!! 緊急対応!!」

 

「でも大事そうに抱えていました」

 

「実況するなァ!!」

 

 ルミナが両手で顔を覆う。

 

「~~~~っ!!」

 

 耳まで赤い。

 

 あなたも死ぬほど恥ずかしい。

 

 プリンだけが満足そうにぷるんと揺れていた。

 

 

 

*

 

 

 

 あなたとルミナの叫びが重なったあと。

 

 部屋には、気まずすぎる沈黙が落ちた。

 

 プリンだけが満足そうにぷるぷるしている。

 

 絶対あとで説教だ。

 

 しかも長時間。

 

 あなたがそんなことを考えていると、ルミナがこほん、と小さく咳払いした。

 

「……そ、その」

 

「なんだよ」

 

 ルミナは少し視線を泳がせる。

 

 どこか迷っている顔だった。

 

「一つ……聞いてもいいですか?」

 

「内容による」

 

「あなたって」

 

 一拍。

 

「……女の子、ですよね?」

 

 あなたの思考が止まる。

 

 心臓が跳ねた。

 

「は?」

 

 ルミナは慌てて手を振る。

 

「い、いや、その! 変な意味じゃなくて!」

 

「十分変だろ!!」

 

「だ、だって!」

 

 ルミナはあなたを指差す。

 

「見た目は完全に女の子ですし!!」

 

「うるさい!!」

 

「でも部屋は男の人の部屋で!!」

 

 あなたの動きが止まる。

 

 ルミナは困惑したまま続けた。

 

「服も男性物しかないし……」

 

 視線が、あなたの着ているオーバーサイズシャツへ向く。

 

 それだけで羞恥がぶり返した。

 

「しかも、その……」

 

「言うな」

 

「サイズ感が……彼シャツみたいというか……」

 

「言うなぁぁぁ!!」

 

 あなたは頭を抱えた。

 

 なんでこんな地獄みたいな会話になってるんだ。

 

 するとルミナが、少しだけ真面目な顔になる。

 

「あと……」

 

「……?」

 

「あなたの声」

 

 どきり、とした。

 

「最初に会った時の、あの人に少し似てる気がして」

 

 空気が止まる。

 

 コンビニ。

 

 あの夜。

 

 ルミナを支えた時。

 

 あなたの脳裏に、一瞬で記憶が蘇る。

 

 まずい。

 

 かなりまずい。

 

 あなたは反射的に咳払いした。

 

「あー……気のせいじゃないか?」

 

「でも」

 

「ほら、変身すると声変わるとかあるだろ」

 

「ありますけど……」

 

「あと今ちょっと喉やってるし」

 

「喉……」

 

「戦闘で」

 

「そ、そうですよね!」

 

 押し切った。

 

 割と勢いで。

 

 ルミナは納得しかけている。

 

 よし。

 

 いける。

 

 あなたは畳みかけた。

 

「そもそも男が魔法少女になるわけないだろ」

 

 その瞬間。

 

 プリンがぽつりと言った。

 

「理論上は可能です」

 

「黙れ!!」

 

 全力ツッコミ。

 

 プリンはぷるんと揺れる。

 

「事実の提示ですが」

 

「今それ言うな!!」

 

 あなたは必死に誤魔化す。

 

「こいつ変なことばっか言うから気にすんな!」

 

「は、はい……?」

 

 ルミナは少し混乱しながらも頷いた。

 

 どうやら完全には疑っていない。

 

 助かった。

 

 あなたは心の底から安堵する。

 

 ――危なかった。

 

 本当に危なかった。

 

 しかし。

 

 ルミナはまだ少しだけあなたを見ていた。

 

 じーっと。

 

「……なんだよ」

 

「いえ」

 

「だからなんだよ」

 

 ルミナは少しだけ笑う。

 

「なんとなく」

 

「?」

 

「あの人に似てるなって思って」

 

 その言葉に。

 

 あなたは、一瞬だけ言葉を失った。

 

 胸の奥が少しだけ変な音を立てる。

 

 でも、今それを言うわけにはいかなかった。

 

 だからあなたは、わざとぶっきらぼうに言う。

 

「気のせいだろ」

 

 ルミナは小さく笑った。

 

「……そうかもしれません」

 

 あなたは再び布団から顔を出した。

 

「……で」

 

「はい?」

 

「今の俺、どういう扱いなんだ」

 

 それは確認しておきたかった。

 

 ルミナは少し真面目な顔になる。

 

「現在は――“正体不明の未登録魔法少女”です」

 

「……ふーん」

 

 あなたは思ったより冷静だった。

 

 ルミナが少し意外そうな顔をする。

 

「あまり驚かないんですね」

 

「むしろ好都合だ」

 

「え?」

 

 あなたは天井を見上げる。

 

 管理庁。

 

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 人気投票。

 

 応援。

 

 歓声。

 

 戦う少女たち。

 

 全部、頭の中に浮かぶ。

 

「登録されたら、そっち側に入れられるだろ」

 

 あなたは低く言った。

 

「“魔法少女”っていうシステムの中に」

 

 ルミナが少しだけ黙る。

 

 あなたは続けた。

 

「管理されて」

 

「期待されて」

 

「笑えって言われて」

 

「戦えって言われる」

 

 部屋が静かになる。

 

 あなたは拳を握った。

 

「……ああいうの、嫌なんだよ」

 

 吐き捨てるみたいな声だった。

 

「俺は別に、拍手されたくて戦ったわけじゃない」

 

「ヒーロー扱いされたいわけでもない」

 

 思い出す。

 

 街頭ビジョン。

 

 歓声。

 

 “ルミナ出動!”

 

 あの音。

 

 あの空気。

 

 あれが嫌だった。

 

 だから。

 

「未登録のままでいい」

 

「そっちの方が楽だ」

 

 あなたはそう言った。

 

 ルミナは少し驚いた顔をしていた。

 

 そして、小さく視線を落とす。

 

「……変ですね」

 

「何が」

 

「普通、魔法少女になったら」

 

 一拍。

 

「認められたいって思う人が多いので」

 

 その声は静かだった。

 

 経験談みたいだった。

 

 あなたは少しだけ目を細める。

 

「お前は?」

 

「……え?」

 

「認められたかったのか」

 

 ルミナが止まる。

 

 言葉に詰まる。

 

 少しだけ困ったように笑った。

 

「どうでしょう」

 

 曖昧な返事。

 

 でも。

 

 少しだけ間を置いてから、ぽつりと続ける。

 

「……誰かに、“頑張ったね”って言ってほしかったのかもしれません」

 

 その言葉は妙に小さかった。

 

 あなたは一瞬だけ黙る。

 

 その笑い方が、少しだけ危うく見えたからだ。

 

 でもルミナはすぐにいつもの顔へ戻る。

 

「変な話ですよね」

 

「……別に」

 

 あなたはぶっきらぼうに返した。

 

 それ以上は聞かなかった。

 

 聞くべきじゃない気がした。

 

 だから代わりに言う。

 

「俺は嫌だ」

 

「“魔法少女だから”って理由で戦うのは」

 

 ルミナが小さく目を見開く。

 

「……」

 

「俺は、俺が許せないから戦う」

 

「それだけで十分だ」

 

 その言葉は、少し乱暴で。

 

 でも妙に真っ直ぐだった。

 

 ルミナはしばらく黙っていた。

 

 それから、小さく笑う。

 

「……やっぱり、あの人に似てます」

 

「まだ言うのか」

 

「なんとなくです」

 

 あなたは小さくため息をついた。

 

 すると横で、プリンがぷるんと揺れる。

 

「なお未登録状態の維持には注意が必要です」

 

「現実に戻すな」

 

「魔力が派手すぎます」

 

「うっ」

 

「あと口上もかなり目立ちます」

 

「それ考えたのお前だろ!!」

 

 即ツッコミだった。

 

 プリンは悪びれない。

 

「印象形成は重要です」

 

「営業職か!!」

 

「認知度は生存率に影響します」

 

「だからってあんなキラキラしたやつあるか!!」

 

 あなたの脳裏に蘇る。

 

『――ひ、人々の夜を照らす、愛と反逆のトワイライト・ブレイカー……!!』

 

「うわぁぁぁ思い出した!!」

 

 あなたは布団へ顔を埋めた。

 

 死にたい。

 

 ルミナがとうとう吹き出す。

 

「ふふっ……」

 

「笑うなよ……」

 

「だって」

 

 ルミナは肩を震わせながら言う。

 

「未登録でいたいのに、やってることが派手すぎるんですもん」

 

「うるさい……」

 

 あなたは枕へ顔を押しつける。

 

 しかしその姿を見ながら。

 

 ルミナは少しだけ、安心したように笑っていた。

 

 あなたはルミナが笑う姿をみて、少し安心した。

 

 

 

 そして、それじゃあ、と。

 

 あなたは布団から半身だけ起こし、頭をかいた。

 

「……泊まってけよ」

 

「……えっ」

 

 ルミナの肩がぴくっと跳ねる。

 

 あなたはできるだけ平静を装いながら続けた。

 

「いや、時間見ろよ」

 

 時計はとっくに深夜を回っていた。

 

 外ではまだ討伐番組の再放送が流れているらしく、遠くで歓声みたいな音が聞こえる。

 

「今から帰すの、普通に危ないだろ」

 

「で、でも……」

 

 ルミナは明らかに動揺していた。

 

 耳が少し赤い。

 

 あなたはそこで、妙なことを考える。

 

 ――なんでこいつこんな恥ずかしそうなんだ。

 

 いや、そりゃまあ異性の家に泊まるのは普通そうか。

 

 でも今の自分は。

 

 あなたは自分の身体を見る。

 

 ピンク髪。

 

 華奢な身体。

 

 どう見ても少女。

 

 つまり。

 

「……大丈夫だ」

 

「な、何がですか」

 

「今の俺、完全に魔法少女だから」

 

「はい?」

 

「犯罪感が薄い」

 

「どういうことですか!?」

 

 即ツッコミだった。

 

 ルミナが顔を真っ赤にする。

 

 プリンが横でぷるんと揺れる。

 

「法的判定は不明です」

 

「お前は黙ってろ」

 

「はい」

 

 素直だ。

 

 素直なのが腹立つ。

 

 あなたはため息をつきながら立ち上がる。

 

 まだ少し身体が重い。

 

 けれど動けないほどではない。

 

「ほら」

 

 クローゼットを開ける。

 

 適当にシャツを引っ張り出してルミナへ投げた。

 

「着替えろ」

 

「え」

 

「制服ボロボロだろ」

 

 実際、ルミナの戦闘服はかなり傷んでいた。

 

 ところどころ裂け、煤け、血の跡まで残っている。

 

 ルミナはシャツを受け取ったまま固まる。

 

「……男物」

 

「他にねえよ」

 

「そ、それはそうですけど……」

 

 視線が泳ぐ。

 

 あなたは首をかしげた。

 

「なんだよ」

 

「い、いえ……」

 

 ルミナはシャツを胸元でぎゅっと抱えた。

 

 その仕草が妙に女の子っぽくて、あなたは逆に困る。

 

 いや待て、困るのはこっちじゃない。

 

 なんで自分が男物シャツ渡してドキドキしてるんだ。

 

 意味が分からない。

 

 あなたは頭を抱えたくなる。

 

 プリンがぼそっと言う。

 

「なおサイズ感的にかなり煽情的になるかと」

 

「実況すんな」

 

「事実です」

 

「黙れ」

 

 ルミナがさらに赤くなる。

 

「……き、着替えてきます」

 

「おう」

 

 逃げるように別室へ向かうルミナ。

 

 その背中を見送りながら、あなたは深く息を吐いた。

 

「……なんだこれ」

 

「青春イベントですか?」

 

「違う」

 

 即答。

 

 数分後。

 

 戻ってきたルミナを見て、あなたは固まった。

 

「…………」

 

 オーバーサイズのシャツ。

 

 細い脚。

 

 袖から少しだけ覗く白い指。

 

 髪をほどいたせいで、いつもの“第三世代のエース”感がかなり薄れている。

 

 というか、普通に年頃の女の子だった。

 

 ルミナも気まずそうに視線を逸らす。

 

「……み、見ないでください」

 

「いや無理だろ」

 

「無理って言わないでください!」

 

 プリンがぷるぷる震える。

 

「非常に健康的な反応です」

 

「お前ほんと黙れ」

 

 あなたは額を押さえる。

 

 心臓がうるさい。

 

 なんなんだこれ。

 

 戦闘中より緊張するんだけど。

 

 ルミナも落ち着かないのか、視線をあちこち泳がせていた。

 

 ただ、ふと部屋の隅に視線を向けたあと、小さく止まる。

 

 棚に置かれた古いマグカップ。

 

 読みかけの本。

 

 雑に積まれた生活用品。

 

 そこにあるのは、普通の生活だった。

 

 ヒーローでも。

 

 魔法少女でもない。

 

 誰かの日常。

 

 ルミナは少しだけ目を細める。

 

「……なんか、不思議です」

 

「何が」

 

「ノクスさんって」

 

 一瞬、あなたの心臓が止まりかける。

 

「……普通なんですね」

 

 あなたは内心で安堵した。

 

 バレてない。

 

 あのコンビニの男と、ノクスが同一人物だとは思われていない。

 

 ルミナの中では“ノクス”は突然現れた謎の魔法少女のままだ。

 

 あなたは咳払いする。

 

「そりゃ普通だろ」

 

「でも、もっとこう……」

 

「こう?」

 

「ミステリアスな秘密組織とか……」

 

「なんでだよ」

 

「だって未登録であんな強くて」

 

 ルミナは少し困ったように笑う。

 

「もっと特別な人かと思ってました」

 

 あなたは少しだけ黙った。

 

 特別、そんなものではない。

 

 ただ、見ていられなかっただけだ。

 

 でも、その言葉は飲み込む。

 

「……普通だよ」

 

 代わりにそう返す。

 

 ルミナは小さく頷いた。

 

「はい」

 

 その返事は、なぜか少しだけ嬉しそうだった。

 

 

 

 そして、その夜。

 

 あなたは全然眠れなかった。

 

 隣の部屋にルミナがいる。

 

 その事実だけで脳が落ち着かない。

 

 しかも今の自分は魔法少女形態。

 

 余計に脳が混乱する。

 

「……寝れねえ」

 

「ルミナも寝ていません」

 

 プリンがぼそっと言う。

 

「なんで分かる」

 

「気配です」

 

 耳を澄ます。

 

 確かに隣から、わずかに寝返りの音がする。

 

 あなたは天井を見上げた。

 

 

 

 そして隣の部屋では。

 

 ルミナが布団を頭まで被りながら、じっと天井を見つめていた。

 

 眠れない理由は分かっている。

 

 隣の部屋に、ノクスがいるからだ。

 

 今日会ったばかりの、正体不明の未登録魔法少女。

 

 無茶苦茶で、怒ってばかりで。

 

 なのに、自分を助けるために迷わず傷ついた子。

 

 ルミナは布団を少しだけ握る。

 

(……変なの)

 

 そう思う。

 

 自分は今まで“守られる側”になったことなかった。

 

 魔法少女だから。

 

 強いから。

 

 みんなに期待される側だから。

 

 だから、誰かが自分のために怒ってくれて。

 

 誰かが自分を死なせたくないって顔をして。

 

 誰かの家で、こうして普通に休ませてもらっていることが。

 

 なんだか、妙に落ち着かなかった。

 

 でも同時に、胸の奥が少しだけ温かかった。

 

 安心している。

 

 そう気づいてしまう。

 

 今まで、こんな感覚は一度もなかった。

 

 戦闘が終わっても、歓声を浴びても、勝利を祝われても。

 

 心はずっと、張りつめたままだったのに。

 

 今は違う。

 

 静かだった。

 

 安心すると思えた。

 

 それが少しだけ、嬉しい。

 

 ルミナは小さく目を閉じる。

 

(……ほんと、変)

 

 そう思いながら。

 

 結局。

 

 ドキドキしすぎて、一睡もできなかった。




評価・感想お待ちしております。

また、掲示板回については試しに書いて良い感じだったら投稿します。

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