転生者がTS魔法少女になって頑張る話。   作:メルヘン侍

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先ほど気づいたのですが、戦闘前の口上と、回想の口上が別物になってました。ありえへん不覚です。反省。

それはそうと、1話で逆転される女♂


第七話

 時間は深夜。

 

 窓の外では、眠らない街の光が静かに瞬いていた。

 

 あなたは一人、リビングの窓際に立っている。

 

 ルミナは泣き疲れたあと、恥ずかしそうに「……おやすみなさい」と言って寝室へ逃げていった。

 

 あれからだいぶ時間も経っているし、もう寝ている頃だろう。

 

「……」

 

 あなたは夜景を見つめながら、これからのことを考える。

 

 ルミナは変わった。

 

 最近は笑うようになった。

 

 前みたいな、壊れそうな笑顔じゃなくて。

 

 ちゃんと年相応に笑う瞬間が増えた。

 

 それは、きっと良いことだ。

 

 でも、世界は何も変わっていない。

 

 アークは消えていない。

 

 むしろ、最近は数が増えている。

 

 出現頻度も、被害も、魔法少女たちの負担も。

 

 全部、悪化している。

 

「……」

 

 あなたが考え込んでいると。

 

 テーブルの上から、プリンがぴょこんと揺れた。

 

「最近は増えていますね」

 

「うおっ」

 

 思わず振り返る。

 

「急に会話入ってくんな」

 

「考えていたでしょう」

 

「……心読んだ?」

 

「相棒ですから」

 

 プリンがドヤ顔っぽく胸を張った。

 

 ちょっとうざい。

 

「いや絶対読んだだろ今」

 

「読んでません」

 

「間が怪しい」

 

「阿吽の呼吸です」

 

「便利な言葉で誤魔化すな」

 

 あなたが半目になると、プリンはぷるんと笑うように揺れた。

 

「しかし事実です」

 

「アーク出現率はこの数週間で増加傾向」

 

「特に夜間出現が増えています」

 

「……」

 

「今の魔法少女戦力では、いずれ限界が来ます」

 

 静かな声だった。

 

 ふざけているようで。

 

 時々プリンは、妙に現実を突きつけてくる。

 

 あなたは窓の外へ視線を戻した。

 

「……止まんねえな」

 

「はい」

 

「世界も」

 

「俺もな」

 

 プリンは少しだけ黙る。

 

 それから。

 

「止まる気、あります?」

 

「……ないな」

 

 即答だった。

 

 あなた自身、もう理解している。

 

 力を手に入れてしまった。

 

 守れなかったものへ手を伸ばせる可能性を。

 

 無力じゃなくなった実感を知ってしまった。

 

 だから、止まれない。

 

 止まりたくない。

 

「ルミナさんは止めたがっていますけどね」

 

「だろうな」

 

「どうします?」

 

「……どうもしない」

 

 あなたは小さく笑う。

 

「心配させるのは悪いけど」

 

「俺はたぶん、戦うのやめられねえよ」

 

 その目は、夜景の光を映しながらどこか危うく燃えていた。

 

「あなたが戦闘狂なのはさておき」

 

「誰がだ」

 

「自覚がないのが一番危険です」

 

「うるせえ」

 

 あなたが眉をひそめると、プリンは気にした様子もなく話を続けた。

 

「それより」

 

「わたしの能力について、少し説明しておきます」

 

「能力?」

 

「はい」

 

 プリンは静かに揺れる。

 

「わたしは“寄生型アーク”です」

 

「……寄生型、そういえばそうだったな」

 

 プリンは頷く。

 

「通常の寄生型アークは、他のアークへ寄生して生存します」

 

「同族に?」

 

「はい」

 

「アーク同士で魔力や情報を共有し、増殖するタイプですね」

 

「気持ち悪」

 

「わたしも本来ならそのはずでした」

 

 プリンは少しだけ間を置く。

 

「ですがわたしは、寄生ができなかった」

 

「……そうだったな」

 

「特異個体です」

 

 静かな声だった。

 

「他のアークへ接続できない」

 

「拒絶される」

 

「だから」

 

「わたしはアーク側からも異物なんです」

 

 あなたは少し黙る。

 

 プリンは続けた。

 

「当然、敵対視されます」

 

「普通のアークは、わたしを見つけ次第排除しようとする」

 

「だからわたしは」

 

「先に気づく必要があった」

 

「……」

 

「生き残るために」

 

 その言葉は妙に淡々としていた。

 

 当たり前のことを話すみたいに。

 

「結果として」

 

「わたしはアークの位置や魔力反応を感知できるようになりました」

 

「それがスマホの通知か」

 

「はい」

 

 最近、プリンはスマホへ直接アーク出現情報を表示するようになっていた。

 

 管理庁の情報網より早い時すらある。

 

「……便利すぎるだろ」

 

「生存本能です」

 

「切実だな」

 

「実際、死活問題でしたので」

 

 プリンはさらりと言う。

 

 あなたは窓へ寄りかかったまま、小さく息を吐いた。

 

「……お前も大変だったんだな」

 

 すると。

 

 プリンが少しだけ止まった。

 

「……」

 

「なんだよ」

 

「いえ」

 

 どこか不思議そうに揺れる。

 

「普通はまず警戒すると思っていました」

 

「お前のこと?」

 

「はい」

 

「アークですし」

 

「寄生型ですし」

 

「危険存在ですし」

 

「……まあ」

 

 あなたは頭をかく。

 

「最初は意味わかんなかったけど」

 

「でも、お前が力をくれたのは事実だろ」

 

「……」

 

「俺、ずっと無力だったからさ」

 

 窓の外を見る。

 

 届かなかったもの。

 

 救えなかったもの。

 

 どうにもできなかった現実。

 

「だから」

 

「力をくれたことには感謝してる」

 

 プリンは黙っていた。

 

 しばらくして。

 

 小さく揺れる。

 

「……契約者は変です」

 

「お前にだけは言われたくねえ」

 

「普通はもっと疑います」

 

「今さらだろ」

 

 あなたは少し笑う。

 

「俺も十分イレギュラーだ」

 

 その言葉に、プリンはどこか納得したように静かに揺れていた。

 

「それで?」

 

 あなたは窓際にもたれたまま続ける。

 

「わざわざその話したってことは」

 

「理由あるんだろ」

 

 プリンは黙ってこちらを見た。

 

 その沈黙だけで、空気が少し変わる。

 

「……あります」

 

 静かな声、さっきまでの軽口が消えていた。

 

 あなたは目を細める。

 

「何だ」

 

 プリンは数秒言葉を選ぶように揺れた。

 

 そして。

 

「近いうちに」

 

「非常に強力なアークが来ます」

 

 部屋の空気が止まる。

 

「……強力って?」

 

「今までの個体とは比較になりません」

 

「は?」

 

「少なくとも」

 

「通常の第三世代魔法少女では対処困難です」

 

 あなたの表情が少し変わる、今の主力。

 

 管理庁の中核、その基準を超えるということだ。

 

「……なんでわかる」

 

「感知しています」

 

 プリンは即答した。

 

「ずっと」

 

「近づいてきている巨大な魔力反応を」

 

 その声には、珍しく緊張が混ざっていた。

 

「普通のアークではありません」

 

「おそらく、かなり古い個体です」

 

「古い?」

 

「はい」

 

「それに……」

 

 プリンが少し言い淀む。

 

「わたしは、あれを知っています」

 

「……は?」

 

 あなたが眉をひそめる。

 

 プリンは一瞬、何かを言いかけた。

 

「名称は――」

 

 そこで止まる。

 

「……いえ」

 

「まだ伏せます」

 

「なんでだよ」

 

「あなたが余計に突っ込むので」

 

「信用ねえなあ!?」

 

「実績があります」

 

 即答だった。

 

 あなたはぐっと詰まる。

 

 否定できない。

 

「ただ」

 

 プリンは真面目な声へ戻る。

 

「これは危険です」

 

「今までとは違う」

 

「あなたでも無傷では済みません」

 

「……」

 

「むしろ」

 

 プリンはじっとこちらを見る。

 

「死ぬ可能性があります」

 

 夜の部屋が静まり返る。

 

 でも、あなたは少しだけ目を細めた。

 

「そうか」

 

「反応が軽い」

 

「いや」

 

 あなたは窓の外を見る。

 

「止めなきゃいけねえだろ」

 

「……」

 

「こんなのが街に来たら」

 

「また誰か死ぬ」

 

 静かな声だった。

 

 でも、その奥には妙な執念が燃えている。

 

 プリンは少しだけ黙る。

 

「だからあなたは危ないんです」

 

「?」

 

「自分が壊れる前提で動くので」

 

 あなたは苦笑する。

 

「今さらだろ」

 

「今さらです」

 

 プリンは即答した。

 

 その声音には、少しだけ心配が混ざっていた。

 

 あなたはふと、プリンへ視線を向けた。

 

 いつもより落ち着きがない。

 

 微妙に揺れ方が硬い。

 

「……なあ」

 

「なんですか」

 

 少し間を置いて。

 

 あなたは正直に口を開く。

 

「最近アークが増えたのって」

 

「お前のせいか?」

 

 空気が止まった。

 

 プリンが固まり、あなたは続ける。

 

「最初に戦った鳥のアーク」

 

「あいつ、俺らの魔力見て妙に興奮してただろ」

 

 あの異様な反応。

 

 獲物を見つけた以上の、執着みたいな熱。

 

「最初は」

 

「単純に魔力が多いからかと思った」

 

「でも違った」

 

 あなたはこの数週間を思い返す。

 

 戦闘、アーク、殺し合い。

 

「魔力制御はもうできてる」

 

「無駄に漏らしてるわけじゃない」

 

「なのに」

 

「異様に反応する個体が多い」

 

 それは偶然にしては多すぎた。

 

「それに」

 

 あなたは静かに続ける。

 

「アークが増え始めたのって」

 

「そもそも俺が魔法少女になってからだろ」

 

 プリンは答えない、沈黙。

 

 あなたは小さく息を吐く。

 

「理由まではわからねえ」

 

「でも」

 

「疑う理由には十分だ」

 

 静かな夜、プリンはしばらく黙っていた。

 

 やがて。

 

「……はい」

 

 小さく、認める声。

 

「無関係ではありません」

 

 あなたは目を細める。

 

「やっぱりか」

 

「ただ」

 

 プリンはすぐ続けた。

 

「わたしは、あなたを騙すつもりはありませんでした」

 

「……」

 

「巻き込むつもりも」

 

「利用するつもりも」

 

「本当に、なかった」

 

 その声はあまりにも弱々しい。

 

「理由はあります」

 

「アークが集まる理由も」

 

「私が狙われる理由も」

 

「全部」

 

「……でも、言えないのか」

 

 プリンは静かに揺れた。

 

「まだ」

 

「はい」

 

 短い返答。

 

 それ以上は踏み込めない空気だった。

 

 あなたは少しだけ考える。

 

 普通なら怒るべきなのかもしれない。

 

 騙されていると責めてもいい。

 

 実際、危険は増えた。

 

 ルミナも巻き込まれている。

 

 だけど。

 

「……ふーん」

 

 あなたは肩をすくめた。

 

 プリンが少し驚いたように揺れる。

 

「怒らないんですか」

 

「完全に嘘ついてた感じじゃねえし」

 

「……」

 

「それに」

 

 あなたは窓の外を見る。

 

「お前、わりと顔に出るからな」

 

「出てません」

 

「今もめちゃくちゃ気まずそうだぞ」

 

「気のせいです」

 

「絶対違う」

 

 プリンは少し黙る。

 

 そして。

 

「……契約者は甘いです」

 

「知ってる」

 

 あなたは苦笑した。

 

「でも」

 

「お前が隠してる理由くらいはわかる」

 

「?」

 

「今言ったら、俺が止まらなくなるんだろ」

 

 プリンが止まった。

 

 図星だった。

 

「……本当に」

 

「変なところで鋭いですね」

 

「褒め言葉として受け取っとく」

 

 深夜の静かな部屋。

 

 窓の外では、街の光がまだ消えていない。

 

 そして、近づいてくる何かを思いながら。

 

 あなたは静かに目を細めていた。

 

 そして、しおらしく黙り込んでいるプリンを見て、ふっと口元を緩める。

 

「……なんか」

 

「落ち込んでるお前、可愛いな」

 

「は?」

 

 プリンがぴたりと止まった。

 

「いや、だって」

 

「いつも偉そうなのに、今めちゃくちゃしおらしいし」

 

「そんなことありません」

 

「あるある」

 

 あなたは笑いながら、

 ひょいとプリンを抱き寄せた。

 

「……!?」

 

「よしよし」

 

「な、何を」

 

 そのまま頭を撫でる。

 

 優しく。

 

 くしゃくしゃと。

 

 プリンが完全に硬直した。

 

「契約者」

 

「なんですかこれは」

 

「愛でてる」

 

「やめてください」

 

「嫌です」

 

「即答……」

 

 しかも、あなたはちょっと楽しんでいた。

 

「お前、こういうの弱いんだな」

 

「契約者が距離感おかしいからです。私はアークです」

 

「今さらだろ」

 

「今さらです」

 

 認めた。

 

 しかも少しテンパっているのか、妙に声が機械的になっている。

 

「感情処理が追いついていません」

 

「ロボかお前」

 

「違います」

 

「でも今ちょっと電子音みたいだったぞ」

 

「気のせいです」

 

 若干早口だった。

 

 あなたは吹き出す。

 

 プリンは恥ずかしいのか、妙にぎこちない。

 

 でも逃げない。

 

 なんとなく、それが面白かった。

 

「それで」

 

 あなたはようやく話を戻した。

 

「敵はいつ来る」

 

 プリンは数秒沈黙してから答える。

 

「……三日後です」

 

「三日後か」

 

 あなたは軽く目を細める。

 

 そして。

 

「あぁ」

 

「それは好都合だな」

 

「?」

 

 プリンが不思議そうに揺れる。

 

「その日、ルミナいねえから」

 

「……ああ」

 

 思い出したようにプリンが頷く。

 

「第三世代特集の取材でしたか」

 

「らしいな」

 

 魔法少女管理庁へ、メディアが来る日。

 

 “第三世代魔法少女特集”。

 

 期待の新世代、人類の希望、人気特集。

 

 そんな感じの、いかにもな企画だ。

 

「しょうもな」

 

 あなたは率直に呟く。

 

「戦ってる奴ら追い回して何が楽しいんだか」

 

「民衆需要です」

 

「嫌な言葉だなそれ」

 

 でも、今回ばかりは都合がいい。

 

 ルミナがいない。

 

 つまり、あなたが無茶をしても止める人間がいない。

 

 プリンはじっとこちらを見る。

 

「……ろくでもないことを考えていますね」

 

「失礼だな」

 

「図星です」

 

「まあ否定はしない」

 

 あなたは笑う。

 

 するとプリンは、少しだけ真面目な声になった。

 

「今回の相手は本当に危険です。」

 

「あなたでも死ぬ可能性があります」

 

 その言葉に、あなたは少しだけ黙った。

 

 そして、ふっと笑う。

 

「死なねえよ」

 

「……」

 

「約束したからな」

 

 脳裏に浮かぶ。

 

 泣きながら、あなたにしがみついていたルミナ。

 

 隣にいると。

 

 寂しくさせないと。

 

 笑わせると。

 

 あなたは確かに言った。

 

「だから」

 

「ちゃんと帰る」

 

「……契約者」

 

「心配すんな」

 

 あなたはプリンを軽く持ち上げた。

 

「お前も連れて帰る」

 

 プリンはしばらく黙っていた。

 

 そして。

 

 静かに揺れる。

 

「……了解しました」

 

 少しだけ、

 機械みたいな声。

 

「同行モードへ移行します」

 

「だからお前テンパると機械っぽくなるのなんなんだよ」

 

「仕様です」

 

「仕様なのかよ」

 

 あなたは思わず笑った。

 

 そして。

 

 優しくプリンを見て言う。

 

「よろしくな、相棒」

 

 その瞬間。

 

 プリンが完全に停止した。

 

「………………」

 

「おい?」

 

「……システム」

 

「感情負荷上昇」

 

「処理遅延発生」

 

「おい待て」

 

「照れてんのか?」

 

「否定」

 

「高速否定」

 

「これはただの内部エラーです」

 

「めちゃくちゃ動揺してるじゃねえか」

 

「違います」

 

「違います」

 

「違います」

 

「三回言った」

 

 プリンはぷるぷる震えていた。

 

 機械みたいな口調なのに、

 隠しきれないくらいには。

 

 ガチで照れていた。

 

 可愛い。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 二日間、あなたたちは珍しく平和に過ごしていた。

 

 もちろんアークは出現した。

 

 だが“何故か”、数が少なかった。

 

 ここ最近の異常な頻度が嘘みたいだ。

 

 ぽつぽつ現れては、あっさり片付く程度。

 

 おかげで。

 

「ノクス」

 

「今日は帰宅後すぐ休憩です」

 

「……わかってる」

 

「本当に?」

 

「たぶん」

 

「たぶん?」

 

「……善処します」

 

 あなたはルミナのお説教を、珍しく回避できていた。

 

 無茶をしていないからだ。

 

 できなかったというべきか。

 

 ルミナが同居してから、あなたの生活リズムは強制的に矯正されつつある。

 

「食事は?」

 

「食べた」

 

「お野菜は」

 

「……たぶん」

 

「たぶん?」

 

「……後で食べる」

 

 完全に飼い慣らされつつあった。

 

 プリンが横で呆れる。

 

「犬ですね」

 

「うるせえ」

 

「でも契約者、最近かなり従順です」

 

「誰のせいだと思ってんだ」

 

「ルミナです」

 

「即答かよ」

 

 ルミナは少し困ったように笑う。

 

 その笑顔は、前よりずっと自然だった。

 

 あなたはなんとなく安心する。

 

 こんな風に笑えるなら、少しくらい平和な時間があってもいい。

 

 ――まあ。

 

 明日、厄介事が来る予定なのだが。

 

 そして。

 

 その“強力なアーク”については、まだ管理庁側も感知していないらしかった。

 

「本当に気づいてないのか?」

 

 あなたがソファでだらけながら聞くと、プリンは小さく頷く。

 

「はい」

 

「現時点で管理庁の観測網に異常反応はありません」

 

「……なんでそんなことわかるんだよ」

 

「情報収集です」

 

「いやどうやって」

 

 プリンは少しだけ視線を逸らした。

 

「企業秘密です」

 

「絶対ろくでもないだろ」

 

「否定はしません」

 

「しろよ」

 

 あなたは呆れる。

 

 すると、ルミナが少し首を傾げた。

 

「でも、本当に不思議ですね」

 

「こんな規模のアークなら」

 

「普通、もっと早く警戒情報が出るはずなのに……」

 

「隠れてるんじゃねえの」

 

「……ありえます」

 

 プリンが静かに答える。

 

「知性の高い個体なら」

 

「観測を避けることもありますので」

 

 その言葉に、空気が少しだけ重くなった。

 

 だが、ルミナはまだ知らない。

 

 明日に“何か”が来ることを。

 

 あなたも、まだ言っていなかった。

 

 言えばきっと、この平和は終わるから。

 

 

 

*

 

 

 

 家へ帰る。

 

 そして、ご飯を食べる。

 

 最近では、それが妙に当たり前になっていた。

 

「はい、ノクス」

 

 ルミナが料理をテーブルへ並べる。

 

 白いご飯、味噌汁、焼き魚。

 

 そして、野菜。

 

「……」

 

 あなたは真顔になった。

 

「ちゃんと食べてくださいね」

 

「……努力はする」

 

 ルミナがじーっと見る。

 

 その視線を受けながら、あなたはそっと箸を動かした。

 

 自然な動作で、極めて自然に、ピーマンを皿の端へ避難させる。

 

「ノクス」

 

「……」

 

「ノクス?」

 

 低い声、あなたは視線を逸らした。

 

「いや、ほら」

 

「順番ってあるだろ」

 

「最後に食べようとしてた」

 

「ピーマンだけ?」

 

「……」

 

 ルミナがじっと睨む。

 

 あなたも無言で対抗する。

 

 数秒、先に負けたのはあなただった。

 

「……食えばいいんだろ」

 

 ものすごく嫌そうな顔で、ピーマンを口へ放り込む。

 

「にが……」

 

「子供ですか」

 

「うるさい」

 

 プリンが横で呆れていた。

 

「契約者、味覚年齢が低すぎます」

 

「お前は食わねえだろ」

 

「わたしは高次存在ですので」

 

「便利だなお前」

 

 そんな、いつも通りの食事。

 

 少し騒がしくて、でもどこか安心する時間。

 

 その最中だった。

 

「……」

 

 ふと。、ルミナがこちらをじっと見ていることに気づく。

 

「……なんだよ」

 

 あなたが聞くと、ルミナは少しだけ目を細めた。

 

「ノクス」

 

「ん?」

 

「何か隠してますよね」

 

「ぶっ」

 

 思わず変なタイミングで味噌汁を飲みかけた。

 

「げほっ……な、なんでそうなる」

 

「わかります」

 

「怖」

 

「最近、少し変です」

 

 ルミナは真っ直ぐこちらを見る。

 

「考え事も多いですし」

 

「プリンとも妙にこそこそしてますし」

 

「あと」

 

 一拍。

 

「二日前くらいから、なんだか少し優しいです」

 

「なんだその分析」

 

「違いますか?」

 

「……」

 

 図星だったあなたは視線を逸らす。

 

 すると、ルミナがさらにじっと見る。

 

「やっぱり何かありますね」

 

「いや」

 

「その」

 

「……別に」

 

 誤魔化そうとする。

 

 だが、ルミナの視線が鋭い。

 

 めちゃくちゃ鋭い。

 

 しかし今回は、プリンも珍しく協力的だった。

 

「ルミナ」

 

 プリンが静かに口を挟む。

 

「契約者は最近、健康的な生活を強いられているので」

 

「精神的ダメージが蓄積しています」

 

「誰のせいだと思ってんだ」

 

「野菜です」

 

「野菜に罪を押し付けるな」

 

 ルミナが少し呆れたように笑う。

 

「本当にそれだけですか?」

 

「……それだけだ」

 

「本当に?」

 

「本当に」

 

 あなたはなんとか平静を装う。

 

 プリンも横で頷いた。

 

「はい」

 

「契約者は最近、ピーマンへの恐怖で情緒不安定です」

 

「話盛るな」

 

「事実です」

 

「違う」

 

 ルミナはまだ少し疑っていた。

 

 でも、最終的には小さく息を吐く。

 

「……なら、いいですけど」

 

 完全には納得していない顔だった。

 

 あなたは内心、冷や汗をかいていた。

 

 すると、ルミナがふっと目を細める。

 

「……ノクス」

 

「ん?」

 

「今、焦ってるでしょ」

 

「っ」

 

 あなたは思わず止まった。

 

 その反応を見て、ルミナが小さく笑う。

 

「やっぱり」

 

「え、いや」

 

「わかりやすいですよ?」

 

「ノクス、隠し事すると目が泳ぎますし」

 

「あと、ちょっと早口になります」

 

「うっ」

 

「それから誤魔化そうとすると、急にぶっきらぼうになります」

 

「分析やめろ」

 

「今も焦ってますね」

 

「……」

 

 また、あなたは視線を逸らした。

 

 すると、ルミナが楽しそうに笑う。

 

「ふふっ」

 

「……なんか最近、お前ちょっと意地悪になってない?」

 

「ノクス相手限定です」

 

「限定かよ」

 

 しかも即答だった。

 

 あなたはさらに焦る。

 

 プリンが横でぼそっと呟く。

 

「契約者、完全に追い詰められています」

 

「誰のせいだと思ってんだ」

 

「日頃の行いです」

 

「敵しかいねえ」

 

 あなたが項垂れると、ルミナは少しだけ困ったように笑った。

 

 そして。

 

「……仕方ないですね」

 

「?」

 

「今回は」

 

「ごまかされてあげます」

 

 その言葉に、あなたは目を瞬かせた。

 

「……いいのか」

 

「はい」

 

 ルミナは静かに頷く。

 

「ノクスが言いたくないなら」

 

「きっと理由があるんでしょうし」

 

「……」

 

「でも」

 

 ルミナは少しだけ真面目な顔になる。

 

「無理だけは、しないでください」

 

 その声は優しかった。

 

 だからこそ、胸が少し痛んだ。

 

 あなたは誤魔化すように、残っていたピーマンを口へ放り込む。

 

「にが……」

 

「話逸らしましたね」

 

「うるさい」

 

「にが……」

 

「話逸らしましたね」

 

「うるさい」

 

 あなたが不機嫌そうに言うと、ルミナはくすっと笑った。

 

 そして。

 

「……じゃあ」

 

「?」

 

「ごまかされてあげるので」

 

 一拍。

 

「ご褒美ください」

 

「は?」

 

 あなたは思わず変な声を出した。

 

 ご褒美?誰に?なんで?

 

 混乱していると、ルミナがこちらへ手招きする。

 

「ノクス、こっち」

 

「……何する気だ」

 

「いいから」

 

 少し楽しそうな声、嫌な予感しかしない。

 

 だが、ここで拒否するとまた追及されそうだった。

 

 あなたは警戒しながら近づいた。

 

「……で?」

 

「ん」

 

 次の瞬間。

 

 ぐいっ。

 

「うおっ!?」

 

 腕を掴まれる。

 

 そのまま。

 

 あなたの身体は、ルミナの膝の上へ収まっていた。

 

「…………は?」

 

 理解が追いつかない。

 

 だが、物理的には非常にしっくりきてしまっていた。

 

 あなたは身長が低い。

 

 150センチ程度。

 

 一方、ルミナは170センチ近い。

 

 だから、こうして座らされると割とすっぽり収まる。

 

「……」

 

「……」

 

 数秒、あなたの思考が停止した。

 

 後ろから、ルミナの体温が伝わる。

 

 柔らかい。

 

 近い。

 

 近すぎる。

 

「る、ルミナさん?」

 

「なんですか?」

 

「近い」

 

「そうですね」

 

「なんで平然としてんだよ」

 

 あなたが動揺している間にも。

 

 ルミナは普通に箸を持つ。

 

 そして。

 

「はい、あーん」

 

「…………」

 

 あなたの脳が再停止した。

 

「いや待て」

 

「なんで?」

 

「ご褒美です」

 

「誰への!?」

 

「私へのです」

 

「理屈がわからん!」

 

 しかし、ルミナは妙に満足そうだった。

 

「ほら」

 

「あーん」

 

「いや子供じゃ」

 

 そこで、ルミナがじっと見る。

 

「食べないんですか?」

 

「……」

 

 圧。

 

 妙な圧がある。

 

 しかも逃げようにも、体勢的に逃げにくい。

 

 プリンが横でぼそっと言う。

 

「完全に飼われていますね」

 

「うるせえ……」

 

 あなたは観念した。

 

 恥ずかしさで死にそうになりながら、口を開ける。

 

「……あー」

 

 ルミナが嬉しそうに笑った。

 

「はい、よくできました」

 

「なんだこれ……」

 

 しかも、食べさせられたのは野菜だった。

 

「にがっ!?」

 

「ちゃんと食べて偉いですね」

 

「罠じゃねえか!!」

 

 ルミナが楽しそうに笑う。

 

 最近、この女はあなたの扱いに慣れてきていた。

 

 あなたは当然、抵抗する。

 

「ちょ、待て」

 

「自分で食える」

 

「さっき野菜避けてましたよね」

 

「うっ」

 

「はい、あーん」

 

「だから子供扱いすんなって……!」

 

 だが、逃げようにも後ろから抱き込まれている状態なので動きづらい。

 

 それに。

 

「……っ」

 

 柔らかい感触が背中に当たる。

 

 近い、近すぎる。

 

 ルミナは背が高い。

 

 だから自然と、あなたを包み込むような体勢になる。

 

 結果、胸の感触がめちゃくちゃ伝わる。

 

(やばい)

 

 あなたの思考がぐらつく。

 

 ドキドキどころではない。

 

 なんというか、変な気分になる。

 

 落ち着かない、頭が熱い。

 

 しかも、ルミナの匂いが近い。

 

 シャンプーの甘い香り、柔らかい声、体温、全部近い。

 

「ノクス?」

 

「……」

 

「食べないんですか?」

 

「いや、その」

 

 あなたは完全に挙動不審だった。

 

 そんなあなたを見て、ルミナは少しだけ目を細める。

 

 そして、耳元へ顔を寄せた。

 

「……ちゃんと食べないなら」

 

 囁く、甘く、静かな声で。

 

「私があなたを食べてしまいますよ?」

 

「っ!!?」

 

 あなたの心臓が跳ねた。

 

 思考停止、完全停止。

 

 しかも、その言い方がずるい。

 

 普段より少し低い声。

 

 冗談っぽいのに、妙に色気がある。

 

 あなたは思わず振り返る。

 

 すると、すぐ近くにルミナの綺麗な顔があった。

 

「~~っ」

 

 心臓がおかしくなる。

 

 あなたの中身は男だ。

 

 のはずなのに。

 

 何故か。

 

 胸がきゅうっと締め付けられる。

 

 まるで。

 

 恋する乙女みたいに。

 

「な、な、な……」

 

 言葉も出ない。

 

 さっきまで男っぽく喋っていたのに。

 

 今は完全に、可愛い女の子みたいな反応になっていた。

 

 ルミナが少し驚く。

 

「……ノクス?」

 

「顔、真っ赤ですよ?」

 

「うる、さい……」

 

 声は弱く、全然迫力がない。

 

 プリンが横で静かに呟いた。

 

「契約者」

 

「完全敗北です」

 

「黙れぇ……」

 

プリンの茶々にも、あなたはまともに反論できなかった。

 

 声が弱く、全然いつもの勢いがない。

 

 そんなあなたを見て、ルミナが楽しそうに笑った。

 

「ふふっ」

 

「照れちゃって可愛いですね」

 

「……っ」

 

「しかも」

 

 ルミナはさらに顔を寄せる。

 

 あなたの耳元で、くすぐるみたいに囁いた。

 

「口調、女の子になってますよ?」

 

「!?」

 

 あなたは硬直した。

 

「い、いや」

 

「なってな」

 

「なってます」

 

 即答だった。

 

「いつも男の子みたいに喋るのに」

 

「恥ずかしくなると、ちゃんと女の子になっちゃうね」

 

「~~っ」

 

 やめてほしい。

 

 その指摘は本当にまずい。

 

 自覚してしまうから。

 

 しかも、ルミナは完全に面白がっていた。

 

「可愛いですね、ノクス」

 

「うぅ……」

 

 もうまともに反論できない。

 

 頭が熱い、近い、恥ずかしい。

 

 逃げたい、でも逃げられない。

 

 そして、ルミナは最後の追撃みたいに。

 

 耳元へ唇を寄せ、甘く囁いた。

 

「……可愛いわんちゃんね」

 

「っ!!」

 

 その瞬間、あなたの脳が痺れた。

 

 何も考えられない。

 

 ルミナはまるで女王様みたいだった。

 

 余裕たっぷりで、綺麗で、あなたを完全に追い詰めている。

 

 そして、ルミナは楽しそうに箸でピーマンを持ち上げた。

 

「ノクス」

 

「……っ」

 

「ピーマン、ちゃんと食べれる?」

 

 あなたは反射的に返事をしようとした。

 

「た、食べ――」

 

 だが。

 

 ぐいっ。

 

「っ!?」

 

 ルミナの指が、あなたの顎を持ち上げる。

 

 強引じゃない。

 

 でも逆らえない。

 

 そのまま顔を近づけられる。

 

 青い瞳が、すぐ近くにあった。

 

「返事は?」

 

 ルミナが微笑む。

 

 そして、甘く命令するみたいに囁いた。

 

「……ワン、でしょ?」

 

「~~っ!!」

 

 頭が真っ白になる。

 

 羞恥、敗北感。

 

 なのに、逆らえない。

 

 あなたは震えながら口を開いた。

 

「……わ、ワン……」

 

 一瞬、部屋が静かになる。

 

 そして、プリンが耐えきれなくなった。

 

「契約者」

 

「完全に飼い犬です」

 

「も、もうやだぁ……」

 

 

 

*

 

 

 

 深夜、静かな部屋。

 

 ルミナはもう寝室へ行っていた。

 

 あれから何度も「あーん」をされた。

 

 野菜を食べさせられ、散々からかわれ、満足したのかルミナは上機嫌のまま「おやすみなさい」と寝に行った。

 

 残されたあなたはというと。

 

「…………」

 

 ソファへ顔を埋めていた。

 

 まだ恥ずかしく、思い出すだけで無理だ。

 

『ワン、でしょ?』

 

「っ~~~~!!」

 

 あなたはクッションへ顔を押し付けた。

 

 やばい、あれはやばい。

 

 完全に押し切られた。

 

 しかも、自分でも意味がわからないくらい逆らえなかった。

 

「……なんなんだよあいつ」

 

 ぼそっと呟く。

 

 最近のルミナは、明らかに余裕がある。

 

 前みたいな張り詰めた感じが減った。

 

 笑うし、甘えるし、からかうし、そして何よりあなたへの距離が近い。

 

「近すぎるだろ……」

 

 後ろから抱き込まれた感触を思い出す。

 

 柔らかかった、温かかった、匂いも近かった。

 

「うぅ……」

 

 あなたは再び顔を埋めた。

 

 すると、横からプリンが呆れた声を出す。

 

「契約者」

 

「情けない声が漏れています」

 

「うるせえ……」

 

「完全敗北した犬の鳴き声でした」

 

「忘れろ」

 

「録音済みです」

 

「消せぇ!?」

 

 プリンは少し楽しそうだった。

 

 あなたは半泣きで項垂れる。

 

 すると、プリンがじっとこちらを見る。

 

「……もしかして契約者」

 

「なんだよ」

 

「そういう素質があるのでは?」

 

「は?」

 

「いわゆる」

 

 一拍。

 

「ドMというやつです」

 

「違ぇよ!!」

 

 あなたは即座に顔を上げた。

 

「どこをどう見たらそうなる!」

 

「非常に嫌そうにしながら」

 

「最終的に全部従っていました」

 

「ぐっ」

 

「しかも途中から若干嬉しそうでした」

 

「そんなわけあるか!」

 

「では“ワン”はなんだったのです?」

 

「やめろぉ!!」

 

 あなたはクッションを投げた。

 

 プリンはひらりと回避する。

 

「図星ですか?」

 

「違う!」

 

「でも逆らえませんでした」

 

「違うんだよあれは!」

 

「ルミナが強すぎたんだよ!」

 

「なるほど」

 

「責任転嫁ですね」

 

「うるせえ!!」

 

 プリンは完全に面白がっていた。

 

 あなたは再びソファへ沈む。

 

 だが、そんな風に騒ぎながらも。

 

 心のどこかでは、ルミナが笑うようになったことを嬉しいと思っている自分もいた。

 

 ……それはそれとして。

 

「最近のルミナ、強くないか……?」

 

「はい」

 

 プリンは即答した。

 

「完全に契約者の扱いを理解し始めています」

 

「やめろ怖い」

 

「なお今後さらに悪化する可能性があります」

 

「なんで予測できるんだよ」

 

「ルミナが楽しそうなので」

 

「最悪だ……」

 

 あなたは深く項垂れる。

 

 そして、静かな夜の部屋で。

 

 明日来る“敵”のことを、一瞬だけ忘れていた。

 

 

 

 だが、あなたはすぐに表情を切り替えた。

 

 さっきまでの騒がしい空気を、静かに押し込める。

 

「……プリン」

 

「はい」

 

「例のアーク」

 

「動きは?」

 

 プリンも空気を読むように、真面目な声へ戻った。

 

「変化ありません」

 

「予定通り」

 

「明日、来ます」

 

 静かな返答、部屋の空気が少し冷える。

 

 あなたはソファへ背を預けながら、小さく息を吐いた。

 

「……なぁ」

 

「なんですか」

 

 あなたは少しだけ笑う。

 

「今日のルミナ」

 

「可愛かったな」

 

「……」

 

 一瞬、プリンが無言になる。

 

 犬みたいな、猫みたいな、なんとも言えない顔がじーっとこちらを見た。

 

「それはどちらかというと」

 

「契約者の方では?」

 

「うるさい」

 

「完全に犬でした」

 

「忘れろ」

 

「録音済みです」

 

「ほんと消せよそれ……」

 

 あなたは顔をしかめる。

 

 だが、すぐにその表情を消した。

 

「……でも」

 

 静かな声。

 

「俺」

 

「ああいうルミナを守りたいんだよ」

 

 プリンが黙り、あなたは窓の外を見る。

 

「笑っててほしい」

 

「幸せそうにしててほしい」

 

「普通に飯食って」

 

「普通に笑って」

 

「変なことで調子乗って」

 

「そういうのでいい」

 

 ルミナはようやく、少しずつ変わり始めた。

 

 ずっと張り詰めていた少女が、最近やっと年相応に笑うようになった。

 

 だから。

 

「……明日は」

 

「絶対、一人で戦いたい」

 

 あなたは静かに告げる。

 

「ルミナには来てほしくない」

 

「協力してくれ」

 

 プリンはしばらく黙っていた。

 

 珍しく、迷うみたいに。

 

「……契約者」

 

「今回は本当に危険です」

 

「知ってる」

 

「死ぬ可能性も」

 

「死なねえって」

 

 あなたは笑う。

 

「約束したからな」

 

 寂しくさせない。

 笑わせる。

 隣にいる。

 

 あなたはそう言った。

 

 だから、絶対に帰る。

 

 プリンは小さく揺れる。

 

 そして。

 

「……わかりました」

 

「任せてください」

 

 少し心配そうにしながらも、プリンは頷いた。

 

「ちゃんとサポートします」

 

「おう」

 

「なので死なないでください」

 

「努力はする」

 

「その言い方不安です」

 

 あなたは少し笑う。

 

 プリンも小さく揺れる。

 

 そして、静かな夜の中。

 

 明日来る戦いへ向けて、二人は静かに覚悟を固めていた。




私の性癖は満たされつつあります。

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