真・恋姫無双 華琳の兄は死神   作:八神刹那24

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第十三話

Side:関羽

 

伝令として来たのはあの時の少女だ。

なぜ彼女を寄こしたのだ?これではまた北郷殿が絡んで話しが進まないではないか。

 

「あ、君は!」

 

予想通り北郷殿は少女の姿を確認すると、一目散に質問しようとする。

 

「君に聞きたいことがあるんだ。何で君はあのことを」

 

「北郷殿、今は戦闘前の大事な時です。個人的な要件なら後にしてもらいたい」

 

きっぱりと北郷殿を拒絶した。

少女はうろたえていた先ほどとは打って変わり、実に堂々としていた。

 

なるほど。伝令など本来なら兵に任せればいいものだが、態々将校の彼女を送り、はっきりと拒絶の意思を示すか。

 

「それはないだろ!俺にとっては重要なことなんだ!」

 

「あなたにとって重要なことかどうかは問題ではない。あなたも一人の主導者というのであれば、自分の立場をもう少し考えてもらいたい」

 

少女の正論にたじろぐが、まだ食い下がろうとする。

 

「北郷殿、その者の申す通りかと。今は戦のことに集中してください」

 

私まで向こうに同意したので諦めたようだ。

 

しかし今のやり取りの最中、桃香様をはじめ皆おろおろしているばかりだった。本当に大丈夫なのだろうか?

 

「それでは作戦を伝えます。劉備軍は横隊を組み、号令と共に敵陣に向けて突撃してください。我らは後方より弓による援護の後、直ぐに後を追います」

 

なるほど。我らはまさに生きた的、囮役といったところか。

 

「やったー!鈴々先陣っ!」

 

「……っと、ちょっと待て鈴々!俺たちが先陣ってそんな無茶な!」

 

「そうだよ!私達の戦力じゃ、敵さん相手に時間稼ぎにもならないよ!」

 

「ええ、その考えもごもっともです。しかしこの命令も曹進様にお考えあってのこと」

 

我らに敵の目を惹きつけさせ、その隙に敵の兵糧を焼く。敵は混乱に陥り、その混乱に乗じて一気に総攻撃をかけ、敵を殲滅する。

 

兵糧が焼けなければ我らにとっては致命的だな。

 

「その特殊部隊とやらは確実に成功するのですか?」

 

「勿論。我が軍の精鋭ならば」

 

私の問いに応える彼女からは微塵の揺らぎも感じられない。

相当その達を信頼しているのだろう。

 

「……分かったよ。なら曹進さんを信じて、なんとか時間を稼いでみる」

 

「宜しくお願いします。では!」

 

役目を終え、彼女は陣地に戻って行った。

 

 

 

我軍ははっきり言って精強とは程遠い。まず武装が貧弱すぎる。武器、武具を買う金など当然ない。敵を倒し、武器などを回収してなんとかやっている。

 

問題はそれだけではない。兵の質だ。

世直しのために集まった同士などと言っているが、半分以上の者は食うに困った者たちだ。

 

我らに選ぶ余裕はないので、よほど酷いもの以外は受け入れている。

 

そのような者たちに調練を厳しくすればどのようになるか。

当然逃げ出す。

 

一人でも多く欲しい時なので、調練は厳しくしないでくれと、桃香様と北郷殿は言う。

 

言いたいことも分かるが、これでは賊徒に比べ多少まし。といった程度だ。

 

思う存分調練をし、鍛えあげた兵を指揮して戦をしたいものだ。

 

 

 

戦闘が開始された。

 

敵は我らの数に油断しきっていた。

 

私は偃月刀を振りまわした。五人、十人と敵を打ち倒していく。味方は小さく固まって、崩れていない。押しまくった。敵を断ち割り、反転し、さらに敵を崩そうとした。

 

だが数が違いすぎる。敵は圧倒的な量で押し潰そうとしてくる。

 

私は前に出た。偃月刀で切り倒したが、戟の反撃はそれより強烈だった。

押されている。

退がるな、と叫んでも、敵の力は強くなるばかりだった。

 

このままでは崩される。

何度も、私は前に出たが、敵は崩れなかった。

 

味方の方が、ばらつき始めている。何をやっても、敵はただ押してきた。

 

 

敵の陣地から黒煙が上がったのが見えた。

特殊部隊が成功したようだ。

敵が突然の出来事に同様している。

 

ここが好機だ。私は突撃命令を出した。

しかしこちらも消耗しきっていたので勢いに乗れない。

敵がこちらに対応してきた。敵の圧力が戻った。

 

一人で敵の中央に駆けこもうとしたが、十数本の戟に遮られた。

 

「愛紗、支えきれないのだ!」

 

返り血で赤く染まった鈴々が、叫び声をあげた。

 

敵陣地の騒ぎがどうなっているかも、確かめる余裕などなかった。すでに全身が、汗と血にまみれている。息も上がってきていた。

 

ここで負けるのか、信じられない思いで、私は倒されていく味方を見ていた。

 

不意に、これまでにない衝撃が戦場を走った。地響きがする。敵が崩れていく。敵が二つに割れ、そこから騎馬隊が飛び出してきた。

 

「曹操軍が誇る最強の騎馬隊の力を奴らに見せつけてやるぞ!」

 

私の前を、指揮官の女性の馬が駆け抜けた。女性の槍に、敵の兵が突き上げられ、次々に宙に舞い上がる。反転してきた女性が、まだ小さく固まっている右翼の一部を、瞬時に粉砕した。

 

騎馬隊は、胸のすくような動きをしている。

五隊に分かれ、さらに二十隊ほどに分かれる。花が開いたように、私には見えた。それから、その花が小さく縮まっていく。敵を断ち割り、また花が開く。

 

騎馬隊の動きに見とれている私に、敵の戟が迫ってくる。

 

しまった!私は自分の失態を悔いる。なんとか防ごうとしたが間に合わない。

 

死を覚悟した。

 

敵の戟が止まった。敵の首が斬り飛ばされていた。

 

「これでお前を助けたのは二度目だな。さて、おしゃべりは後だ。敵は崩れているぞ。一気に攻めたて、殲滅する!」

 

 

 


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