真・恋姫無双 華琳の兄は死神   作:八神刹那24

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第十四話

Side:凪

 

敵の本拠地を陥落させ、逃げる敵を掃討した。

 

我らの勝利だ。

 

刹那様の指示で倒した敵の武器を集める。

武器の材料の鉱物は食物と違い自分たちの手で作ることはできない。だからなるべく戦いのあとには回収することにしている。

具足などは死者へのせめても弔いのためそのままである。

 

三分の一ほどの糧食も無傷で残っている。これも頂いておく。

 

敵の主力部隊が引き返してくる可能性が高いので速やかに行われている。

 

 

一応手を組んでいる劉備軍にも分けた方が良いのか?

 

「刹那様、これらの物資は全て我らが頂くのですか?それとも劉備軍と分けるのですか?」

 

「当初は平等に分けるつもりでいたんだが……連中誰もいないな。とりあえず集められるだけ集めておく」

 

そうなのだ。この場に彼らがいれば私もそれほど迷わないのだが、劉備軍が一人もいないのだ。戦闘で披露しきって動けないのか?

 

「ま、連中にはここから糧食を運び込むことはできないだろうがな」

 

「なぜですか?我らのところもそうでしたが、義勇軍にとって糧食の確保は難しいものですよ」

 

こんなことは態々私が言わずとも、刹那様なら分かっているだろうが理由が思い当たらない。

 

「お前も分かっているだろうが、義勇軍に参加する者には、食べる為に参加した奴が多くいる。劉備のところも結構厳しいそうだったし、満足に食えているかも怪しいな。そんなところに大量の糧食をみたらどうなる?」

 

なるほど。歓喜のあまり統制を失う。事態の収拾がつく前に敵が来る可能性がある訳か。

 

「分かったみたいだな。つまりはそういうことだ。義勇軍ならではの問題だな」

 

武器と糧食の回収は粗方終わり、今は次の目的地に付いての説明だ。

 

西に渠帥の一人が率いる部隊があるのでそれを叩くことに決まった。

 

回収作業を開始いてから、もうすぐで二刻ほどだ。劉備軍は誰も来ない。

 

「さて、行ってくるかな。煉華、早苗、凪、行くぞ」

 

「「「はっ」」」

 

「こちらから向かわれるのですか?なにも刹那様自らいかなくても」

 

桂花様の言うことももっともだ。刹那様と劉備、北郷とでは身分も違うし、軍の規模も大きく違う。こないだとは違い、本来ならあちらが来るべきだろう。

 

「言っただろう。俺にとっちゃ劉備も北郷も今のところどうでもいい。連中が礼儀を知らないだろうがなんだろうがそれもどうでもいい。だが、劉備軍自体には少し用があるから行くんだよ」

 

刹那様が向こうの将である関羽に用があるのは聞いていたが、軍自体といった。何を考えているのだろう。

 

 

 

劉備軍の陣営に行くと兵達が疲労のため座り込んでいるものも多かった。

 

兵に来訪を告げる。兵が報告に行き、戻ってくると劉備達の元に案内した。

 

私はともかく刹那様には失礼であろう。本来なら向こうが来るところをこちらが出向いているのだ。自分達で出迎えに来るべきではないのか。

 

自称天の御遣いとやらは、こちらの常識などは知らないかもしれないが、周りの人間は何も言わないのか?

 

私がそんなこと思っていると。

 

「あいつは少し抜けているところがあるし、周りの影響も受けやすかったからな」

 

と、刹那様が苦笑いしながら言う。あいつとは関羽のことだろう。

 

案内されると、談笑している劉備達がいた。

 

呆れてものが言えない。

 

「やぁ、随分楽しそうだな。勝利の余韻に浸っていたのかな?」

 

「余韻に浸っていたんじゃなくて、これからどうしようかって悩んでいたら、いつのまにか笑いが起こってたて感じかな?」

 

「なんだいそれは?まあ仲が良いのは良いことだね」

 

「まぁね。俺たちにとっちゃこれが普通なんだけどね」

 

北郷は肩を竦めて答える。

 

「それより、これからどうするんだ?このままここにいるのはまずいんじゃないかな?」

 

「ほう。気が付いていたか」

 

「一応ね。……曹進たちはこれからどうするつもりなんだ?」

 

だからなんでそんなに無礼なんだ。せめて殿ぐらいつけろ。

 

刹那様ははなから相手にしていないので気にしていない。真面目な煉華様はどうかと思い、見てみると関心がないらしい。刹那様の護衛のために来たようなものだ。私達は見学だ。

 

「俺達はこれから西に向かい、渠帥の一人が率いる部隊を蹴散らすつもりだ」

 

「きょすい…ってなに?」

 

「あぅ、黄巾党の将軍みたいな人です」

 

後ろに控えていた子が主の無知に恥ずかしそうに答える。

 

組織の上に立つ者ならこの世界の知識の勉強もしておいた方が良いだろうに。

 

「なるほど。それじゃ結構強い敵なんじゃない?」

 

まるで、勝てるの?みたいな感じで聞いてくるのが気に食わない。

 

「黄巾党如き雑兵に我らが負けることはない」

 

流石に煉華様が口をはさむ。

 

「えーっと……」

 

「ああ、紹介していなかったね。彼女は曹仁。曹操軍最強の騎馬隊を率いている。君が気になる子が牛金。もう一人の子は楽進だ。二人とも将来有望な子たちだ」

 

刹那様に有望と言われると嬉しい。早苗も恥ずかしそうにしている。

 

「なら曹仁さんに一言申し上げる。……戦いって観念だけでやっていたら必ず負けるよ?」

 

「なんですってーーー!?何様よ、あんた!!」

 

早苗が声を上げる。無理もない。

 

早苗は同じ騎馬隊の者として煉華様をここの底から尊敬し、目標にしている。あのような男に馬鹿にされて黙っていられるはずがない。

 

煉華様は気にしていないようだ。

 

「落ちつけ早苗。何を言われても冷静に対処しろ」

 

「ぐっ、分かりました」

 

「北郷君の言うことも尤もなことだ。……で、その有難いご助言の裏には、何があるんだい?」

 

「あら。やっぱりわかる?」

 

「分からないと思われていたのなら、それは俺に対しての侮辱以外の何物でもないな」

 

「流石に分からないとは思っていないけどね。……俺達から一つ提案があるんだけど……」

 

「ほう、聞こうか」

 

「あのね、曹進さん。黄巾党との戦いが終わるまで、私達と一緒に行動しませんか?」

 

「俺達が提供出来るのは兵と、それを率いる将。……関羽や張飛の力はその目で見ただろう?」

 

確かにあの二人は強い。なぜ彼女者たちが、あのような者に仕えるのか謎である。

 

「良く言うだろう?一頭の獅子に率いられた百頭の羊は、一頭の羊に率いられた百頭の獅子に勝るって」

 

「ふむ?そんな言葉は初耳だね。……しかし良いたいことがどういうことかは良く分かる」

 

刹那様はおかしそうに笑いながら言う。

 

それもそうだろう。北郷は関羽達を獅子。義勇兵を羊に例えているつもりなのだろう。しかし私達から言わせれば、北郷、劉備が羊。関羽達が獅子だ。それを分かっていないようだ。

 

「……良いだろう。君達の提案、受けてもいい。ただし期間は次の渠帥を倒すまでだ。その後俺達は一旦城に戻るからな。それにそれ以上やっても俺達には利点が少ない。

 

それで…こちらが提供するのは兵糧でいいのかな?」

 

「……正解」

 

「あぅ……お見通しだったんだ」

 

「君達の軍には何が一番足りないのか……それを考えれば、この答えが導き出されるのは当然のことだよ」

 

やはり兵糧不足は深刻な問題なのかもしれない。

 

「むぅ……そこまで見透かされていたのなら、駆け引きなんて意味ないなぁ。……じゃぁ改めて。兵糧と武器と防具と、あと資材とかも頂戴」

 

なっ、なんだと!?

 

「ご、ご主人様、開き直ったねぇ」

 

開き直ったねぇ、じゃない!厚かましいにも程がある。

 

「全部ばれているんなら、遠慮したって仕方がないだろ?……貧すれど、心を錦で飾っていれば構わないさ」

 

 

……もう限界だ。

 

「……刹那様、申し訳ございません。最早我慢の限界です」

 

私は一歩、二歩と前に歩いていき、刹那様の前に出た。

 

「貴様いい加減にしろ!この間からの刹那様に対する無礼は、刹那様が止めるから我慢してきたが最早我慢の限界だ!!!!」

 

私の突然の行為に皆驚いているようだが構うものか!

 

刹那様に叱られるにしても、言いたいことは言わせてもらう。

 

「兵糧だけならまだしも、武器に防具に資材、すべて欲しいとはどういうつもりだ!!」

 

「っ足りないんだからしょうがないだろう!こっちは今、足りなくて困っているんだ!!そっちは余っているんだから、少しぐらい分けてくれたっていいだろうが!!」

 

「黙れ!!貴様、兵糧や武器が勝手に湧いて出てくるとでも思っているのか!!

刹那様、華琳様、桂花様は勿論、多くの文官たちが寝る間も惜しんで試行錯誤しているんだ!

少しでも経費を削り、浮いた資金で兵糧や武器などを買っている!

我ら兵たちも戦のたびに倒した敵の武器を回収している!

皆必死になってやっているんだ!

それを、余っているから寄こせだと!

ふざけるな!!!」

 

言いたいことは言った。あとはどうにでもなれ。

 

私の頭にそっと手が置かれた。温かくて大きな手だ。

 

「ありがとう、凪。お前がそう思ってくれるだけで、俺達は報われる」

 

刹那様は私に優しく囁きかけてくれる。

 

「……申し訳ございません。身勝手なことをしてしまいました」

 

「そうだな。だが、俺達のことを思って怒ってくれんだ。ありがとう」

 

あまり優しくしないでください。優しくされると涙が出てきそうです。

 

「もう言いたいことは全部言ったな?」

 

「……はい。申し訳ございません」

 

「大丈夫。後は俺がうまくやっておくから気にするな。大丈夫だから、な。後ろに行っていろ」

 

私は頷き、なんとか歩いて、早苗の背中に隠れた。いろんな意味で恥ずかしくて顔を上げられない。

 

 


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