真・恋姫無双 華琳の兄は死神   作:八神刹那24

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第二十三話

Side:刹那

 

凪が敵兵より連絡文書を見つけたことにより、急きょ軍議が開かれた。

 

文書の地図の場所に偵察に出した兵の報告と物資の輸送経路を照らし合わせたところ、敵の本拠地で間違いないようだ。

 

張三姉妹の姿も確認されている。

 

なんでも三人の歌を全員が取り囲んで聞いているらしい。しかも異様に盛り上がっているとのことだ。

 

偵察に出た兵の見解では、黄巾党の士気高揚の儀式ではないかとのことだ。

 

確かに演奏や歌には人の心を動かすことができる。興奮や安らぎを与えてくれる。

 

俺も兵の心の洗濯のために、たまに兵舎などで小規模な演奏会などを開いたりしている。

 

兵達にはなかなか好評のようだ。

 

主催者の俺も一応やった方が良いのかと思い、一時期学んだこともあった。

 

結果としては大勢の前で演奏する程までには腕前は上がらなかった。

 

華琳達には好評のようでたまにせがまれて演奏してやる。

 

そういえば以前演奏会に連れて行った時に、早苗がまた謎の言葉を使っていたな。

 

早苗の方を見ると何か思いついたようだが、迷っている。

 

「早苗、今の話を聞いて何か思い浮かんだか?」

 

早苗は急に俺に話を振られ戸惑っている。

 

「かまわん。何か思いついたのなら話してみろ」

 

「……えっと、なんかライブっぽいなって」

 

「らいぶ?」

 

春蘭が問う。

 

 

早苗の説明によると、俺の開く演奏会のかなり大掛かりなもののようだ。

 

意気高揚のために歌ねぇ。

 

俺以外にもそういったことを考える奴もいるんだな。

 

俺の時は華琳に提案したところ、兵の気が緩むのでは、と難色を示した。

 

試験的にやってみたところ、効果はあったので定期的にやっている。

 

 

 

まあ何ともあれ、敵の本拠地、張三姉妹の居場所も分かった。

これは千載一遇の好機。

 

決戦だな。

 

 

 

 

Side:張梁(人和)

 

「れんほーちゃーん。おーなーかーすーいーた」

 

「はいはい……。そんなに言わなくても分かっているわよ」

 

「人和。わたし、もうこんな所いたくないわよ。ご飯も少ないし、お風呂だってちょくちょく入れないし……何より、ずーっと天幕の中で息がつまりそう!」

 

「それも分かっているわよ。でも仕方ないでしょ…。曹操ってやつに糧食焼かれちゃったんだから」

 

………はあ。

 

まったくこの姉達には困ったものだわ。

 

上の姉は天然。下の姉はわがまま。私がしっかりするしかないじゃない。

 

でもこんな面倒な姉達でも私にとっては大切な家族なのよね。

 

姉さん達の軽はずみな言葉によって、ここまで事態が大きくなるなんて予想外も良い所よ

 

私達の名を遣って好き放題やっている連中までいるし。

 

「張角様!張宝様!張梁様!」

 

「……どうかしたの?」

 

「はい。西方を追われた新たな会員が、合流したいと来ているのですが……どうしましょう?」

 

どうするって、入れないわけにはいかないでしょう。

 

今はなんとか中心の部隊はまとまっているが、いつ崩壊してもおかしくない。

 

正直こうなってしまった以上、とっととこいつらと分かれてしまいたいとも思う。

 

しかしここで何かあれば、連中の怒りの矛先が私達に向けられないとも限らない。

 

それだけは絶対に避けないと。

 

仕方なく、今来た連中も受け入れることにした。

 

まったく、少しは今の食糧状況を考えてそっちで断りなさいよ。

 

案の定、装備も食糧もない、たかりに来た連中だ。

 

姉二人は文句言うばっかりで役には立たない。

 

そういう私もここまで成功できたのは、この太平要術のおかげなんだけどね。

 

 

 

 

 

 

「張角様!張宝様!張梁様!」

 

「なに?慌てているわね」

 

「すみません!しかし急用だったもので……」

 

「何なのー?」

 

「敵の奇襲です。各所から、火の手が!」

 

敵の奇襲ですって!?

 

どうしてこの場所が分かったのよ。

この場所に到着したのは一昨日なのよ。

 

とにかく兵に火を消させないと。って無駄に増えすぎているせいで、指揮系統がめちゃくちゃ。まともな命令ができやしない。

 

兵には手の空いている者が火を消すように命じ、他の者には敵の攻撃の警戒を命じる。

 

ここが潮時ね。この混乱を逆に利用させてもらう。

 

私達は三人で一からやり直すことにした。

 

私達三人がいれば何度でもやり直せる。

 

 

 

 

 

ここまでくればもう安全でしょう。

 

戦の声も大分小さくなった。

 

あの人たちには悪いと思っている。でも私達も限界だった。

 

あのままあの生活を続けていたら、近いうちに私達が心を壊していたかもしれない。

 

天和姉さんも地和姉さんも肩の荷が下りて喜んでいる。

 

今度こそ歌で大陸の一番になろうと誓う、まさにその時声を掛けられた。

 

「こんな天気の良い日に何しているんだい?お嬢さん方。散歩かな?」

 

若い男だ。横に女の子もいる。

その後ろに二十人ほどが並んでいた。

 

いつからいたのか分からなかった。

 

こいつらから逃げるのは流石に無理そうね。

 

……ここまでかと諦めようとしたその時。

 

「張角様!!」

 

「てめぇーら!俺達の張宝ちゃんに何しようとしてんだっ!!」

 

五十人ぐらいの一団が駆けつけてきてくれた。

 

「……逃げた主をなお庇うか。なかなか見上げた根性だが……」

 

「……邪魔だな。やれ」

 

「はっ!」

 

男の言葉と同時に女の子と背後の兵が一斉に味方に襲いかかる。

 

三倍近い人数なんてまったく関係ない。一瞬にして味方は殺されていた。

 

「……な、何なのよあれ」

 

地和姉さんが震える声で呟く。

 

逃げられるかと思ったが味方は一瞬して敗れ、男は私達から一時も眼を放さなかった。

 

「さて……お前達が張三姉妹だな。うちのお姫様がお前達に会いたいらしい。悪いが俺達と一緒に来て貰うよ」

 

諦めるしかないわね。先程の光景を見たので姉さん達も諦めたようだ。

 

「分かったわ。投降しましょう」

 


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