真・恋姫無双 華琳の兄は死神   作:八神刹那24

47 / 81
第十三話

Side:焔

 

俺はずっと母親と二人で生きてきた。父は小さい頃に徴兵され、そのまま戦で死んだらしい。

 

字は読めないが力だけは人一倍あった。似たような歳の連中が遊んでいる間に俺は石を切って運ぶ仕事をしていた。

最初は上手くできなくて、怒鳴られていたばかりだった。だがある時こつのようなものを掴んだ。

それで俺は周りの大人より早く正確に切れるようになった。

 

ある日から役人がきて俺たちの給金を全額払わなくなった。役人にはむかえばどうなるかぐらいは知っていたので必死に我慢した。我慢もそう長くは続かなかった。

 

金を払わないので、このままでは死んでしまうと母が訴えると、男は母を殴りやがった。

 

俺は怒りで頭が真っ白になった。

気がつくと男はいくつもの肉片に変わり果てていた。

 

母が俺の手をひき走り出した。

俺達は役人から逃げる日々が始まった。

 

山で食糧を見つけながら旅を続けたが、母が限界に来た。

 

直ぐに俺は馬に乗っている若い男を見つけた。どうやら一人旅のようだ。

 

俺は男の前に躍り出た。

 

「馬と金。あと食糧もあるだけだせ!」

 

男が俺を見詰めてくる。何かひきつけられるような何かが感じられた。

 

「唯の賊じゃないみたいだな。そんなに慌ててどうしたんだ?」

 

声が、心にしみこんでくるように、低く落ち着いていた。

 

思わず素直に話しそうになったが、なんとか止められた。

 

こいつに言ったところでどうにもならん。貰うものを貰うしかないのだ。

 

もう一度言おうとした時、嫌な予感がした。

 

俺は急いで母の元に駆けだした。

 

母が休んでいた場所に虎がいた。

 

血の臭いがする。

 

辺りに血が飛び散っている。

 

あった。

 

ははであったものがころがっていた。

 

虎が今度は俺を喰おうと襲いかかってきた。

 

俺は怒りのままに暴れた。何が何だか分からないまま暴れた。

 

 

 

気がつくと虎は頭を潰されて死んでいた。

 

虎は随分小さい気がする。若い。いやまだ子供だったのかもしれない。

 

こいつも生きるのに必死だったのだと思うと、殺したのが可哀想に思えた。

 

 

悲しいと感じるより、寂しくてしょうがなかった。

 

たった一人の家族を失った。心の支えを失った。一人ぼっちになった。

 

寂しさはやがて恐怖に変わった。

 

いやだ。ひとりはこわいよ。だれかそばにいてよ。

 

死んだら母に会えるかな?

 

一人は嫌だよ。怖いよ。

 

死ぬのってどんなのかな?

 

死ぬのも怖いよ。

 

でもこのまま一人で死ぬのはもっと怖い。

 

でも今より楽だよね。楽になれるよね。

 

 

俺が自分の胸に小刀と突き刺そうとした時、殴られた。

 

さっきの男だ。

 

男は俺のことを見詰めている。

 

「死ぬのか?自分で死ぬのか?死ぬ気なら何故虎を殺した。奴は生きようとしていた」

 

そうだな。森で獲物を仕留めるのは大変だろう。少しとはいえ体験した俺には良く分かる。

兎をみつけて狩るより、動けない母を喰う方が簡単だ。

 

男が俺の肩に手を置いた。

 

「俺も母が先に死んだ。生きている時も守ってあげることができなかった。お前と俺は似ている。しかしお前の悲しさも恐怖も完全はわからないかもしれん。泣いていいんだぞ。思いっきり泣け、いつまでも俺が傍にいてやる」

 

涙があふれてきた。泣い。ただひたすら泣いた。

 

俺の両肩に置かれた手がとても温かかった。

 

 

「あんたに一つ訊きてえ」

 

「なんだ?」

 

「死ぬのは、つらいのか?」

 

「つらくはない、と俺は思っている。死ぬとはただ土にかえるだけだ」

 

「ほんとうか?」

 

「俺はそう思っている。つらいのは残された人間の方だ」

 

「俺はつれえよ」

 

「残されたからだ。俺もつらかった。だがな、それが生きると言う事なんだ」

 

「俺は母になにをしてやれる?」

 

「なにも、なにひとつとしてできない。だから残されたものはつらいんだ」

 

 

男は立ち上がり母を埋めるための穴を掘るから手伝えと言ってきた。

 

俺は穴を掘り、母を埋めてやった。これで完全に土にかえったのだ。

 

虎の方はどうするか聞いてきた。俺は虎も土に埋めてやった。

 

 

「さてと、お前これからどうするんだ?まぁ、何も思いつかないだろうな。これも何かの縁だ。少し俺に付いてこい。少しぐらい面倒見てやるよ」

 

俺は何をすればいいのか分からず、男に付いていくことにした。

 

男は曹進と名乗った。

 

曹進は陽が出ている間は兎を簡単に取る方法や食べられる植物など、自然で生きていく術を教えてくれた。

夜は夜空を見ながら色々なことを語った。曹進は月や星が輝いている夜空が好きらしい。空なんてなんの興味もなかったが、気がつけば俺も好きになっていた。

 

俺は曹進に救われた。

 

 

十日程経ったある日、曹進が分かれると言って来た。

 

俺は母の死を乗り越え、一人で生きていく術も身に付けた、と。

 

だが俺はもっと曹進といたい、話したかった。

 

「一緒に連れて行ってくれるのなら、俺の命は、どう使ってくれてもいい。あんたのためならなんだったてやる。だから連れて行ってくれ」

 

「自分の言っていることが分かっているのか?俺が死ねと言えば黙って死ななければならい。殺せと言えば罪もない赤子も殺さなくてはならないんだぞ?」

 

「できるさ。俺は曹進さんに命だけじゃなくて、心も救われた。俺にはあんたが全てだ。あんたの命令なら何だってできる」

 

曹進はため息をし、苦笑いした。

 

「やれやれ、お前も相当物好きだな。楽じゃないぞ、俺に付いてくるのは」

 

「一緒に付いて行っていいのか?」

 

「いいぞ、付いてこい」

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。