真・恋姫無双 華琳の兄は死神   作:八神刹那24

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第三話

Side:周瑜

 

汜水関に到着し、再び軍議が開かれた。

 

はりきっているのは袁紹のみで、他の諸侯達は気だるそうにしている。

 

汜水関攻略は公孫賛と劉備が先陣だったな。

 

公孫賛はともかく、劉備の軍は兵はもちろん兵糧さえ足りていなかった。

 

だがうまいこと袁紹をたぶらかし、両方手に入れていた。

 

来た当初の状況から考えても、最初から他のものを頼るつもりだったはずだ。

 

まったく、迷惑な話だな。

 

これから起きる戦乱の世を勝ちあがる為、諸侯達は力を蓄えている。

この連合もそれぞれ思惑立ってのことだ。

他人の世話をしている余裕など皆ないはずだ。

だが袁紹は現在、他を圧倒している。兵糧と五千の兵など易いものだろう。

袁紹相手に要求するとは、度胸が良いのか、はたまた唯の馬鹿なのか見極めないとな。

 

「えーと、袁紹さん。汜水関を攻略する作戦があるって本当ですか?」

 

「勿論ですわ。この私自ら考えておきましたわ」

 

「それで作戦は?」

 

「雄々しく、勇ましく、華麗に進軍、ですわ♪」

 

場が静まり返る。

 

我耳を疑いたくなるようなことを堂々と言い放った。

 

皆が呆れた顔になっていた。

 

そこに一つの拍手が起きた。

 

「素晴らしい。流石は袁紹殿だ。真に素晴らしい作戦かと」

 

そう言い放つ男の名は曹進。色々と曰くつきの男だ。

 

「おーほっほっほっ、あなたのような無能なかたがこの素晴らしき作戦を理解できるとは意外でしたわね。見直してあげますわ」

 

「光栄です」

 

頭を下げる曹進に袁紹はますます気を良くする。

 

「おや、北郷殿。随分と難しい顔をしているがまさか袁紹殿の作戦の真意を理解していないのかな?」

 

芝居かかった大げさな身振りを加えながら曹進が言う。

茶番だが袁紹相手ではちょうど良いと言える。奴もそのつもりなのだろう。

 

「私は嘘が苦手なので正直に話そう。我らは皆、それぞれ思惑がありこの連合に参加している。

そのような連中に、袁紹殿がいかに素晴らしい綿密な作戦を立てたとしても、皆が本当に動くとは思えん。

必ず、自身が得をするように抜け出す輩が出てくるはずだ。

そこで袁紹殿は大まかな作戦のみたて、後は各々が臨機応変に対応できるようにされたのだ」

 

「そ、その通りですわ。流石は曹進さん。華琳さんも優秀な兄君も持たれ幸運でしたわね」

 

ふん。ものは良いようだな。袁紹にそのような考えがあるとは到底思えん。

 

実際袁紹がもっとも驚いた顔をしていた。

 

だが確かに、ああだこうだと、決められるよりはよほどましだな。

 

しかし嘘が苦手だと?どの口でいうのだか。

 

 

 

軍議が終わると私は曹進の元を尋ねた。一度話をしておきたいと思っていたのだ。むこうも同じことを思っていたらしく、すぐに席を用意された。

 

「初めまして曹進殿。周瑜と申します」

 

「曹進です。態々お越しいただけるとは嬉しいですな。まずが一杯いかがかな?」

 

「頂きましょう」

 

曹操が近年、急激に勢力を拡大できたのはこの男の働きが多いだろう。

蛟という強力な闇の部隊を有し、闇の仕事を一手に請け負っている。

闇の仕事ゆえ、世間に広まることはないが間違いなく曹操軍の裏の権力者だ。

 

曹操が表で覇道を歩めるのは、曹進が汚れ役を一手に引き受けているからである。

その関係は私と雪蓮と同じだった。

 

私が作り上げた闇の部隊『致死軍』とは今のところ本格的な対決は起きていないが、牽制し合っているというところだ。

 

話したことは闇の戦いのどころか連合の話題も出なかった。

幼き頃の日々、母のことなど、たわいない話ばかりだ。かなりの苦労を耐えてきたようだ。そのあたりは雪蓮と似ているな。

 

やはり話術は相当なものだ。真面目な話、辛い話、ふざけた話、どれをとっても退屈など感じず、聞き入ってしまう。人を惹きつける方法を熟知している。

聞き手としても優秀だ。思わずいらないことまで喋りそうになることが何度もあった。

 

「さてと、そろそろ引き揚げさせて頂きましょうか」

 

「大したおもてなしもできず申し訳ありませんでした」

 

「なんの。とても有意義な時間でした」

 

 

 

私と奴は似ているかもしれないな。

 

私は雪蓮に、奴は曹操に天下を取られせてやりたい。

その為にはどんな汚い手段も使おう。

上に立つ者を決して汚してはならない。汚れるのは自分の役目だ。

 

 

仕える主が同じであればさぞ、気が合う親友になれただろう。私は本気でそう思った。

奴にも言ってみたところ、『私も同じことを考えていました』などと言ってきた。

 

曹進。なにかと興味をかきたてられる男だ。

 

私はお前が気に入ったぞ。

 

 

 

 

Side:孫策

 

冥琳がようやく戻ってきたと思ったら、やたらと機嫌が良い。

 

「どうしたのよ?ご機嫌じゃない。良いことでもあった?」

 

「いや、曹進という男、思っていた以上に面白い男だった」

 

「ふ~ん。何、ひょっとして好きになっちゃた訳?」

 

「……どうだろうな」

 

あら?茶化したつもりだったのに悩まれちゃったわ。

 

……え?本気で?

 

「男に恋をしたことがないので良く分からんが、恋ではないだろうな」

 

本当でしょうね?敵同士の恋愛なんて物語だけの話にしてよね。

 

「なら、あいつをどうしたいのよ?」

 

「そうだな……。私の前にひざまづけてやりたいな」

 

「……わぁ――お」

 

「ふふっ、冗談だ」

 

なんにしてもこれほど上機嫌の冥琳を見るのも久しぶりだ。

 

曹進ねぇ。私は曹操とやりあいたいと思って、あの子ばかりみていたけどそれほどの男だったとはね。

 

親友の恋なのか分からないけど、欲しいのは確かのようね。なら曹操に勝った時には曹進は殺さないであげるわ。

 

 

 


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