連合軍による汜水関の攻撃が開始された。
劉備軍が罵声を浴びせ続けている。
汜水関を守る将は三人。
華雄、張遼そして徐晃である。
徐晃。真名は咲夜。
青髪の長髪を左右でまとめている。
眼つきは鋭く威圧感あふれる。他人に厳しく、自分にはさらに厳しい。
調練は苛烈で兵の中には恐れるものも少なくない。だがそれ以上に部下に親身に接していたために人望が厚い。
武器:双鞭
Side:咲夜
劉備軍の罵声が始まりもうそろそろ二刻といったところか。
もっとも霞が必死に止めているので、なんとかもっている感じだが。御苦労なことだ。
「離せ張遼!あれほど虚仮にされて、黙っているなど私にはできん!」
「まちってば!あんなん見え透いた手ぇや!それに乗ってもーたら、それこそ敵の思うつぼやで!」
「くっ……だが、今まさに奴らは私達の武を愚弄しているのだぞ!それを許せるとでも言うのか!」
「許せん。許せんよ!せやけどうちらはなんとしても汜水関を守らんとアカンねん!
そのためやったら罵声ぐらいいくらでも耐えたる!だからお前も堪えてくれ!」
「くっ……うぁぁぁ!」
相変わらず熱いねぇー。
「はぁーまったく。咲夜あんたからもなんかゆうたってや」
「ん?」
「ん?やらへん!一緒にこの馬鹿止めてんか」
「あーー。華雄、気にするな」
「だーー!なんやそれ!もうちょいなんかあらへんのか!」
と言ってもなぁ。私からすればお前らが熱くなりすぎなんだよ。
この程度の罵声なんか分かり切ったことだろうに。
それに私のことを何も知らない連中に何と言われようと関係ない。
戦場では常に冷静であれ。こんなことは常識だ。
華雄はともかく霞は分かっているはずなのだが、あいつはそばに燃えている奴がいると、一緒に燃える奴だからな。華雄に影響されているようだ。
私は逆に冷静になるのだがな。
さらに一刻ほど過ぎた頃、敵に動きがあった。
孫策が前に出てきた。
孫策って確か昔、華雄がずたぼろに負けた孫堅の娘だったよな。
……あれ?もしかして不味くないか。
案の定、孫策は孫堅の名を出し、華雄が激情する。
なんとか霞が抑えたがあともうひと押し来れば耐えられまい。
私が説得に参加しても効果はないだろうしな。
……出撃の用意をしておくか。
敵が軍を寄せてきた。
完全に駄目だなこれは。
馬鹿丸出しの華雄の部下までもが華雄を刺激し、ついに華雄が出撃した。
「あーあ。ついに出るか」
「そないに落着いている場合とちゃうで!うちらも出な!」
「見捨てればいいんじゃないか?あいつは馬鹿だが実力はある。敵将の首をいくつかとってくれるかもしれんぞ?」
「あほいいなや。将が討たれれば指揮に影響がでるのはこっちも同じや」
「まっ、そうなんだがな。あの馬鹿の尻拭いのために戦うのもな、気が進まん」
「咲夜はほんまどうでもええ奴には厳しいな。ならあんたは出んでええよ。うちだけでもでる」
「私も出るさ。すでに出撃の準備は済ませてある」
「何でや?今、気が進まんってゆうてたやんか」
「あいつの為には気が進まんが、友のお前の為ならばやらない訳にはいくまい」
「……あんたのそういうとこうちは大好きやよ」
「ならお前はとっととあの馬鹿を連れ戻して来い。お前の背中は私が何があろうと死守する」
「うっしゃー!気合入れていくでぇ!」
霞が部下を連れて馬鹿を連れ戻しに行った。
敵軍の左翼の絶妙な場所に進んできた部隊がいた。
……曹操軍か。
ここの生活もそろそろ潮時のようだな。