Side:高順(真夜)
虎牢関は奇襲成功により盛り上がっていた。
夜のうちに出撃し、闇の中で潜伏をすませる。
敵は人数で劣っており、敗戦直後のこちらから仕掛けてくるなど予想もしていなかったようだ。
攻撃開始も敵が食事を始めるゆるみきった時を狙った。
殆どの部隊がろくに迎撃態勢もとれず翻弄されただけだ。
だが無理をすればこちらも被害が出るので、相手の損害は全軍で五千弱ぐらいだろう。
霞を中心に散々挑発をしたので、短絡的な袁家の二人が怒りにまかせて無謀な力攻めをしてくるはずだ。
周りの諸侯も力押しをせざる得なくなる。
作戦通りにことは運んでいるが私はあまり喜ぶ気分ではなかった。
「なんや真夜。浮かない顔しとるで?」
「ええ、私はあなたほどうまくいきませんでしたので」
私は霞や他のものに先程のことを話すことにした。
私は左翼の中腹に展開していた公孫賛の陣営を襲った。
噂に聞く白馬軍団に興味があったからだ。
精強と言われるだけあって、急に対する反応もそれなりに良かった。
しかしそこまでだった。
まとまろうとするところに突っ込むと容易に崩れ、ろくに陣形を組めなった。公孫賛が必死にまとめようとしていたが出来ずにいた。
他に比べれば良い方だが、脅威は感じられなかった。
期待外れに若干気を落ちしたが、公孫賛の首を取れる隙を見つけ、公孫賛目掛けて突っ込んでいった。
白馬軍団を蹴散らし、あと一歩で首を取れそうなところで邪魔が入った。
人馬共に黒の鎧を着込んだ百騎程の騎馬隊だった。
その騎馬隊の見事な動きに目を奪われた。
公孫賛のことなど一瞬で忘れ、その百騎に向かった。
動きを封じるために囲みこもうとするがなんなく突きぬかれる。
百騎が突き破った隙間に千騎が突っ込み我隊は分断されていった。
不利を悟り、隊をまとめ退却してきた。
あちらも公孫賛を守りに来ただけだったようで追撃はなく、我軍の犠牲も皆無だった。
「それはきっと曹操軍の曹仁騎馬隊と黒龍騎だな」
「ああ、聞いたことあるで。最近名が売れ出した部隊やな」
咲夜と霞も同じ考えのようだ。
「しかしお前がろくに戦いもせず、力の差を感じるほどなのか?」
「ええ」
咲夜の質問を肯定する。
「あの騎馬隊に対抗できるのは私の隊では五百騎もいないでしょう。黒龍騎にたいしていえば三十騎程が良いところですかね」
「だが曹仁騎馬隊は一軍を上げて最優先に兵馬共に優れたものをまわして作っている部隊だ。お前と霞の部隊には基本的に良馬をまわしているとは、最優先って訳じゃないからな」
「せやな。咲夜の言う通り、負けた!とかあんま思わん方がええかもしれんで。最終的にうちらが勝てばええんや」
咲夜と霞の言う事も分かる。
しかし私はあの騎馬隊に対する思いを捨てることはできない。
黒龍騎の先頭を走り、華麗な指揮を執るあの将ともやりあってみたい。
「霞。お願いがあります」
「なんや?」
「次に野戦をやることがあれば曹仁騎馬隊はゆずって貰います」
「貰いますって、それ頼みとちゃうやんか。まあ別にええで。うちは他の相手見つけるわ」
霞はため息を吐きつつ了承してくれ、他の皆も認めてくれた。
「せやけど、なんで曹操は公孫賛を助けたんや?」
「それは地理的なことを考えれば当然なのです!」
音々音が霞の疑問に答える。
董卓を打ち破った後は群雄割拠が本格的に始まる。
曹操の北には袁紹がいる。現在圧倒的な力をもっている。
その袁紹にすぐに攻められれば、最近力を付けてきているとはいえ曹操では絶望的だ。
そこで重要なのが幽州を治めている公孫賛だ。
袁紹が先に公孫賛を攻めてくれれば、その間に曹操は時を得られる。
仮に先に曹操を攻めてきたとしても、公孫賛は義理堅いので命を助けられた恩を返すため、北から袁紹に圧力をかけるはずだ。
「うちらにもう勝った気でおるんは気に入らんな」
「まっ、実際あちらの方が有利ではあるがな。先の先まで見据えて行動するのは基本だろ」
「恋殿がいる限り負けるはずがないのです!」
「確かにな。だが何も起きなければいいのだがな」
音々音の発言に咲夜が若干の皮肉をこめた返答をする。
確かに我々には大きな問題を抱えている。
この度の騒動の元凶ともいえる者達。
十常侍だ。
奴らが大人しくしてくれれば良いのだが……。