Side:賈詡(詠)
十常侍の連中が暴走したことによって、かなり危険な状況になるところだった。
どこかの馬鹿が連中につまらないことをふきこんだのだ。
『董卓の首を差し出せば、貴方達の命と今後の地位を約束しましょう』と。
汜水関を落とされたという状況にうろたえていた連中はその言葉に飛び付いた。
我が身可愛さに奴らは散々利用してきた月(董卓)を切り捨てようとした。
幸い危険を察知した侍女が機転を利かせて月を逃し、すぐに恋達が戻って来てくれたのでだいじには至らなかった。
しかしその後の展開はまずいことになった。
虎牢関を落とした連合軍はその勢いのまま洛陽にまで攻めてきたのだ。
いきなり虎牢関が無人になるというあり得ない状況だ。
本来なら敵の罠を考慮して慎重に進軍してくる事を予想していたので非常にまずい。
満足な準備も出来ずに包囲されてしまった。
洛陽は決して守備に向いている街ではないのだ。
袁紹がこちらの事情を把握していたとは思えない。私が考えていた以上に馬鹿だったということか。
しかし理由はどうあれ最上の結果を出したことも事実。この運、奴もまた天下の英傑の一人だということなのか……。
Side:咲夜
攻城戦が始まって十日が過ぎた。
連合軍の昼夜をとはず行われ、皆の疲労も厳しいものになってきた。
「うぉはよー」
いかにも眠そうな声で霞が朝の挨拶をする。
「ああ、おはよう」
霞とは対照的に華雄は相変わらず元気のいい返事だ。
「…………ぐぅ」
「れ、恋殿―!おきてくだされー!」
「…………眠い」
気持ちは良く分かるぞ、恋よ。
まったく、私もまだまだこの程度のことで満足に眠れんとは。このようなことではあの方に会わす顔がない。
月はろくに寝ることもできずに体調を崩し寝込んでいる。無理もない。
「…………むにゃ」
ふらふらと恋が歩きだした。
「おいこら、呂布。何処に行く気だ」
「…………布団」
「寝るなーー!!」
「つか、華雄は元気ええなぁ……。夜もしっかり寝られとるん?」
まったくだ。こいつどういう神経しているんだ。
「当り前だろう。いつ如何なる時でも安眠できてこそ、一流の武人というものだ!」
っ!!まさか‘あの’華雄にそのようなことを言われる日が来るとは。
私は‘あの’華雄にも劣る武人だということか……。
私はあまりのことに膝を突く。
「いやー、咲夜。そない落ち込むことないやろ。そないなこというたらうちも恋も二流やんか。あいつが図太いだけや」
霞の言葉で我に返った。どうやら思っていた以上に疲労していたようだ。
「決戦……しかないわね」
詠の言葉で全員の目つきが変わる。……訂正。恋とねねがすでに落ちていた。
恋達はそのまま寝かしておくことにした。決戦となれば恋の仕事は山ほどあるからな。
霞と詠が明日の決戦に向けて作戦を練ることになった。
私と真夜、華雄は物資の確認や隊の見回りをすることにした。
決戦と決まったので華雄も大人しくするようなので心配はないようだ。
……今夜、あいつらに全てを話す時が来たか。
<おまけ>
そういえば真夜のやつ一言もしゃべらなかったな。
私は真夜の顔を覗き込むと驚愕の事実が発覚した。
こいつ目を開けたまま寝ていやがる。
あまりに普段通りの凛々しい姿だったので気が付かなかった。