Side:賈詡(詠)
決戦前夜、私と月、恋、真夜、霞、音々音の六人は咲夜に大事な話があると集められた。
この六人に共通すること、それは咲夜が真名を預けた者である。
よほど大事な話なのだろう。
「こんなに忙しい時に集まってもらってすまなかったな」
「別に気にせんでええよ。大事な話なんやろ」
「ああ。お前達にどうしても話しておきたいことがあったんだ」
咲夜は落着いた声で話し始める。
「話と言うのは私のことだ。私には忠誠を誓った御方がいる。
その方は私の命の恩人だ。師であり兄のような存在でもある。
そしてその御方に命を捧げて仕えようと誓った義兄弟がいる、ということはなんとなく話したことがあったな」
確かにそんな話は聞いたことがあったわね。
あまり過去を話さない彼女が珍しく話してくれたことがあった。
普段は見たことがないような穏やかな表情をしていたので良く覚えている。
「私はその御方の命により官軍にいくことになった。なんでも私には将として優れた素質があるらしい」
確かに咲夜の将としての実力は高い。今の董卓軍で指折りの将だろう。
「私の受けた命は三つある。
武人として将として、己を磨け。
官軍の戦い方を学んで来い。
政治と言うものをみてこい。
以上の三つだ」
「初めの二つは分かりますが三つ目は?」
「真夜が疑問に思うのも分かる。
私も最初は何のことか分からなかった。
私は地方の小さな街の平民だったからな。政治のことなどまったく知らなかった。知る必要もないと思っていた」
「武官は政治のことなどあまり気にする必要はないと思いますが」
「そうだな、真夜。だが政治を司る者達が愚かだといかにくだらないかと知った。武官と文官の関係もな」
ここは国の中心だ。政治のもめごとなど日常茶飯事だ。
政治のありようをみるにはまさにうってつけの場所と言える。
文官と武人が対立することは珍しくない。
優先するものが違うのだからあわなくて当然だ。
「んで。その御方ちゅうのは誰だが教えてくれんるんか?」
「勿論だ。その御方の名は曹進。曹操の兄に当たるかただ」
「…曹進……」
恋が呟くように言う。
曹進。どこかで聞いたことがあるような。
……ああ、思い出した。
何年か前に当時、陳留の刺史に就任した者に反旗を企てていたものを一族全てを皆殺しにした男だ。
反旗を企てた一族を皆殺しにすること自体は珍しくはない。
しかしそれは皇帝やそれに近い位ものに対するものである。
たかが刺史が起こす事件にしては異例ともいえた。
確固たる証拠もあり、反旗を翻した場合の混乱、経済の打撃を考慮すれば百数十人の首が飛ぼうが構わない。
結果として規定の税が納められれば問題ない。と当時の官僚は判決し、処罰はなかった。
「一つ聞きたいのだけど、あなたは私達の情報を曹進の元に送っていたの?」
「いや、私は送っていないよ、詠」
「あなたのことだからこんな時に下らない嘘はつかないわね。信じてあげるわ」
「ありがとう」
「べ、別にお礼を言われることじゃないわよ!」
「なんや詠、てれとるんかいな」
「照れてなんかいないわよ!」
霞がにやにや笑っている。本当に照れてなんかいないんだから。
「咲夜。私はってことは、他に送っているものがいるという事ですか?」
「その通りだ、真夜。情報は私の姉と配下の者が行っている」
「ちょっと、今更だけどそんなことまで話して大丈夫なの?十常侍の配下の奴が聞いているかもしれないわよ」
「ふふ、本当に今さらだな。詠。勿論大丈夫だ。なぜなら」
「十常侍達は自分達が生き延びるための方法を探すので頭がいっぱいだから、他のものに構っている余裕はないわ」
私達の誰でもない者の声がいきなり聞こえた。
霞と真夜が瞬時に武器を構える。しかし二人とも驚きを隠し切れていない。
二人も声が聞こえるまで全く気がつかなったようだ。
恋だけ特別な反応がなった。気が付いていたのか?
「呂布殿には気付かれていましたか、流石ですね」
「はっきり人とは分からなかった。なんとなく何かがいる気がしただけ」
「いえいえ、それでも十分驚きですよ」
微笑んでいるので本当に驚いているのか分からない。
驚きのあまり気付くのが遅れたが、行き成り現れた女性は月の従者だった。
咲夜が困惑したような表情で女を見詰める。
「いいのよ、咲夜。あなたの大事なお友達だからね。ちゃんと挨拶しておこうとおもって」
なっ!咲夜の真名を。殺されるわよ!
「姉上がそうおっしゃるのであれば」
……あねうえ?……姉上!?
「初めまして、というのもへんなかんじですが。咲夜の義姉の公孫真と申します」