真・恋姫無双 華琳の兄は死神   作:八神刹那24

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第六話

Side:刹那

 

追跡部隊が敵の砦を発見したとの報告があった。

 

盗賊団の砦は、山の陰に隠れるようにひっそりと建てられていた。

 

許緒と出会った所からそんなに離れてはなかったが……こんな分かりにくい所では、よっぽどうまく探さないと見つからなかったに違いない。

 

もっとも俺は事前に地図で拠点となりそうな場所の候補はいくつか見つけておいた。

 

ただこの場所は見つかりにくいが、その分地の利を得ていない。山塞を築く場所としてはあまり適していないので第二候補だった。

 

まずは見つからないことを優先させるあたりが、素人に加え臆病ものだったということか。

 

「許緒、この辺りに他の盗賊はいるの?」

 

「いえ、この辺りにはあいつらしかいませんから、曹操さまが探している盗賊団っていうのも、あいつらだと思います」

 

「秋蘭、敵の数は把握できている?」

 

「はい。およそ七千との報告がありました」

 

七千ねぇ。盗賊がそれだけいるってことは、この辺りがいかに荒れているかものがたっている。

 

「我々の隊が三千程だから、二倍以上か。思ったより、大人数だな」

 

「曹進様がすでに確認している通り、連中は集まっているだけの烏合の衆。統率もなく、訓練もされていませんゆえ、我々の敵ではありません」

 

まったく大したことのない連中だったよ。

 

「けれど策はあるのでしょう?糧食の件、忘れてはいないわよ」

 

「無論です。兵を損なわず、より戦闘時間を短縮させるための策、すでに私の胸の中に」

 

「説明なさい」

 

「まず曹操様、曹進様は少数の兵を率い、砦の正面に展開してください。その間に夏侯惇、夏侯淵の両名は後方の崖、曹仁、曹洪の両名は側面の崖に残りの兵を二手に分け待機。

 

本隊が銅鑼を鳴らし、盛大に攻撃の準備を匂わせれば、その誘いに乗った敵は必ずや外に出てくる事でしょう。

 

その後、曹操様は兵を退き、十分に砦から引き離したところで……」

 

「私と姉者で背後からたたき…」

 

「私と煉華ちゃんで側面から叩くわけね」

 

「ええ」

 

ほぅ、俺だけじゃなく、華琳まで囮に使うとは大胆だな。

だが、春蘭が認めるかね?

 

「……ちょっと待て。それは何か?華琳様を囮にしろ、というわけか?」

 

「そうなるわね」

 

「何か問題が?」

 

「大ありだ!華琳様にそんな危険なことをさせるわけにはいかん!」

 

あーあ、やっぱりそうなるよね。ところで春蘭。俺はいいのか?

 

まぁいいか。

 

「なら、あなたには他に何か有効な作戦があるとでも言うの?」

 

春蘭にそんなこと態々聞くことないだろうに。

 

烏合の衆なら正面から突撃すれば良い、とか言うに決まっている。

 

「烏合の衆なら、正面から叩き潰せば良かろう」

 

「「「「「………」」」」」

 

……当たっても嬉しくないな。

 

「油断したところに伏兵が現れれば、相手は大きく混乱するわ。混乱した烏合の衆は寄り倒しやすくなる。曹操様の貴重な時間と、最も貴重な兵の損失を最小限にするのなら、一番の良策だと思うのだけれど?」

 

「な、なら、その誘いに乗らなければ?」

 

悪くない質問だが、春蘭の奴軍師相手に策の論議で勝てるつもりなのか?

 

「……ふっ」

 

「な、なんだ!その馬鹿にしたような……っ!」

 

春蘭。‘したような’じゃなくて完全に馬鹿にされているぞ。

 

「曹操様。相手は志も持たず、武を役立てることもせず、盗賊に身をやつすような単純な連中です。間違いなく、夏侯惇殿よりも容易く挑発に乗ってくるものかと」

 

「……な、ななな……なんだとぉー!」

 

うむ。まったく酷いこと言う奴だな。面と向かって言うことないのに。

 

「はいどうどう。春蘭。あなたの負けよ」

 

「か、華琳さまぁ~」

 

そもそも勝負にすらなっていないがな。

 

「……とはいえ、春蘭の心配ももっともよ。次善の策はあるのでしょうね?」

 

「この辺りで拠点になりそうな場所は地図で確認済みです。あの場所は発見されにくいですが、山塞としては地の利を得ていません。素人が作ったものなので簡単に潜入できます。万が一こちらの誘いにのらなかった場合は、砦をうちから攻め落とします」

 

最初から計画通りってわけか。用意周到だね。でもいいのか?あまり念密な

計画を立てすぎると、予想外の出来事が起きた時には割ともろいものだ……。

 

「分かったわ。なら、この策で行きましょう」

 

「華琳様っ!」

 

「これだけ勝てる要素の揃った戦いに、囮の一つもできないようでは……この先の覇道など、とても歩めないでしょうよ」

 

「その通りです。ただ賊を討伐した程度では、誰の記憶にも残りません。ですが、最小の損失で最高の成果を上げたとなれば曹孟徳の名は天下に広がりましょう」

 

「な、ならば……せめて、華琳様の護衛として、本隊に許緒をつけさせてもらう!それも駄目か?」

 

さっき俺の命令を無視して、突っ込んだから少し弄っておくか。

 

「それはつまり、俺では華琳の護衛をとしては不足ということか?」

 

「なっ!そ、そういうつもりではなくてですね……。っ!刹那様はむしろ護衛される側の立場ではないですか!!」

 

「だがお前はさっき俺には護衛なんて必要ないから、俺を無視して敵に突っ込んでいったのではなかったのか?」

 

「っ!?そ、そ、それは……」

 

困ってる、困ってる。これだけ反応が良いといじりがいがあるというものだ。

 

「はい、そこまで。刹那、あまり春蘭で遊ぶのは勘弁してあげて。春蘭も反省しているだろうし」

 

「りょ~かい」

 

この程度のことなら反省してもすぐに忘れそうだがな。

 

 

 

 

 

 

結局、許緒を本隊におき、春蘭がその分暴れまわるこということでまとまった。

 

秋蘭。がんばって春蘭が途中で我慢できずに敵の脇腹辺りで突っ込むなんてことは防いでくれ。まぁ、そうなってもそれほど被害はでないが少ないに越したことはない。

 

 

「あの!曹進様!」

 

「ん?許緒か。どうかしたか?」

 

許緒は若干顔を赤らめ、恥ずかしそうにしている。

 

「さっきはみっともない所をみせてすみませんでした!!」

 

「……みっともなくないさ。泣きたくなったら、また俺のところに来ればいい。俺の胸なんかでいいのならいくらでも貸してやる。だからもう一人でしょい込むなよ」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

豪傑といっても、まだまだ子供だ。甘えられる相手は一人でもいたほうが良い。

 

「そういえば、華琳の護衛をすることになったのだな」

 

「はい。たいやく、だそうです」

 

「ああ、大役も大役だ。なんせ華琳は俺達の君主だ。その華琳を守る仕事なんだからな」

 

「そう……ですよね。ボクなんかで大丈夫でしょうか…」

 

確かに華琳の護衛は大役だ。いきなりやらせるのは少々酷かもしれない。だが…

 

俺は膝を折り、目線を許緒に合わせ両肩に手を置き、話す。

 

「なぁ許緒。ちょっとだけ俺の話を聞いてくれないか」

 

「は、はい」

 

「子供の頃から華琳の周りは敵だらけだった。今は幾分少なくなったとはいえまだいる。華琳が心の底から信頼できるのは俺、春蘭、秋蘭、煉華、紅の五人くらいだ。

 

だがな、華琳が歩んで行く道は厳しい。敵をどんどん増やしていくだろう。あいつには一人でも多くの信頼できる人間がそばにいてほしい。お前もその一人になってもらいたい。

 

今は不安だらけかもしれないが、村の仲間を守るために一人で頑張れたんだ。やってくれないか?」

 

「……わかりました!曹操さまのことはボクが守って見せます!!」

 

「そうか、ありがとうな。俺が死んでもお前がいてくれれば安心だな」

 

「っ!死ぬだなんて言わないでください!」

 

俺の何気ない一言に許緒が声を上げる。

 

「……覚悟を言っただけだ。華琳を守る為なら俺は……」

 

「曹進さまが死んじゃったら、きっと曹操さまは悲しみます!妹を悲しませるお兄ちゃんなんていて良いはずがありません!守るのなら最後まで守り抜いてください!!」

 

俺は許緒の言葉で自分が何処かで弱気になっていたことに気がついた。

確かにこの子の言う通りだ。死んで守れるのは一回限りだ。守るって決めたのなら最後まで守り続けないとな。

 

「決めた!曹操さまも曹進さまも、みーんなボクが守ってみせます!!」

 

「お前が俺達をか?」

 

「そうです!世界中のみんなは無理だけど、ボクが大切に思っている人達は必ず守ってみせます」

 

許緒の力強い目に俺は確信した。この子なら華琳の護衛を任せられる。

 

「そうか。なら、お前に期待させてもらうかな」

 

「お任せください!」

 

許緒の返事に頷き、その場を離れる。

 

数歩進んだところで振り返り、許緒にいってやった。

 

「許緒。お前が俺達を守ってくれるというのなら、俺もお前を守ってやる」

 


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