Side:―――――
周辺の諸侯がいくつか一斉に反旗を翻した。諸侯達の軍をまとめ指揮しているのは張邈(ちょうばく)だった。
張邈は可も不可もない平凡な将だった。
しかし自分を大きく見せようとするところがあった。
張邈は自分の待遇に納得していなかったのだ。
いつか自分の元を去るとは思っていたが、このような大規模な謀反を起こすとは華琳は想像もしていなかった。
張邈は小心者だ。このような大規模なことを決行する根性はない。いや、それ以前にこのような計画を練れるような頭もない。
誰かが裏で糸をひているはずだ。
しかし今はそれを考えている時ではなかった。
華琳は全軍に通達した。
進軍の早い曹仁騎馬隊を始め、全体の騎馬隊の半分を先行させる。
残りの騎馬隊を本隊の先頭、陶謙軍牽制のための殿に配置する。
歩兵はひたすら駆けに駆け抜ける。
城の守備として老練の将である張喚が指揮をとっているとはいえ、相手の数が多すぎる。
華琳は何度も舌打ちをし、拳を握り締めた。
どうして兄や詠の進言を聞いておかなかったのだろうか。
Side:恋
私は自身の武器である方天画戟を部屋から持ち出し家を出ようとしていた。
城が敵の攻撃を受ける。しかも守備の兵の数は多くはない。
このままでは敗戦は濃厚だった。
しかし自分が出れば必ず勝てる、と言うほど自信家ではなかった。
だがこのまま何もしないでじっと待っていることなどできはしなかった。
ここはとても素晴らしい所だった。
母は自分の力を利用とする下種なものたちの相手をすることもなくなり、毎日子供達と楽しそうにしていた。
母の優しい笑みをみるのが大好きだった。
私自身にとってもここは新鮮だった。
今まで武器をとり、ひたすら敵を殺してきただけの自分がここには存在しなかった。
家事や店の手伝いをし、空いた時間は子供達と遊んだ。
店の裏は訓練場になっており、子供達に護身の為の訓練していた。
中には兵に志願する者もいて、実際に兵になったものいるらしい。
私が自身を鍛えるために調練したことは此処に来て一度もないが、歳の高い子の相手も偶にしていた。
赤兎も此処の暮らしが気に入ったようだ。
孤児院の子供達は直ぐに懐き、店の客の子供や女性にもいつしか人気者になっていた。
曹進には感謝してもしきれなかった。
自分達をこのような幸せに暮らせる場所に連れてきたくれたのだ。
今がその恩を少しでも返す時だ。
しかし城壁に向かおうとすると呼びとめられた。
朱嫂と朱賛だった。
「そんな物騒なものを持って何処に行くきだい?」
「敵が来る。恋も戦う」
私は朱嫂の質問に答える。
朱嫂は腕を組み、眉を寄せて難しい顔をしていた。
「悪いけどそれは認められないねぇ」
朱嫂が言ったことが理解できなかった。
「…………どうして?」
「あんたは曹進様と‘戦わない’ことを条件で此処に来たんだ。ここであんたが戦場に行ったら曹進様は約束を守れなかったことになっちまう」
「……違う。恋は自分でちゃんと考えて、戦うこと決めた。無理やり戦わされる訳じゃない」
「それは違うな、呂布」
朱賛は私の言ったことを否定した。
「敵が攻めてきたから、母や大事なものを戦うために戦う。これは選択したとは言えない。戦うしかないと思ってしまうからだ」
朱賛の言う事は難しい。
「今は民からの義勇兵の募集もでていない。とにかくあんたは大人しくここで待ってな。子供達の傍にいてやっておくれ」
そう言うと二人は城壁の方に歩きはじめた。
「何処行くの?」
「別に戦に参加しに行く訳じゃないから安心しな」
「ほっておくと死に急ぐ老いぼれがいるのでな、少し釘を刺しに行くだけだ」
そう言うと二人は歩いて行った。