真・恋姫無双 華琳の兄は死神   作:八神刹那24

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第五話

Side:愛紗

 

先行していた煉華から華琳様のもとに伝令が到着した。

 

敵軍三万が妨害してきたとのことだった。

 

被害を覚悟で突破することはできるが、その敵が本隊に追撃軍になったら面倒であった。

 

煉華達先行の騎馬隊を当てる方法しかなかった。

 

華琳達本隊は進軍速度をさらに上げた。

 

兵の中には倒れるものも出始めたが緩めるわけにはいかなった。

 

私は刹那様と共に本隊の後方で指揮をとっていた。

 

山間を通る時、私は不意にいやな気がした。

 

横から五千程の敵が駆けだしてくるのが見えた。

 

敵はそのまま本隊の前方に襲いかかった。

 

罠だ。

 

前方に襲いかかった敵とは反対から更に五千が私のいる後方に襲いかかってきた。

 

挟撃のかたちになり、危険だ。

 

相手は一万と少ないが、こちらひたすら駆け、疲弊している。

 

速く城に向かわなければと焦りもあった。

 

とにかく敵を倒すしかないと判断し、交戦している場に向かおうとした時、信じられない光景を見た。

 

一千の騎馬隊が真直ぐに華琳様の隊に突っ込んでいった。

 

騎馬隊の旗、見たことがあった。

 

『華』

 

あれは華雄の旗だった。

 

華琳様に襲いかかった敵兵が、瞬時に宙に舞い上がった。

 

季衣が先頭で敵を薙ぎ払っている。

 

親衛隊が押し寄せる騎馬を止めた。

 

五人、六人と、季衣は突き崩した。

 

季衣の勢いに気圧されるように、騎馬の勢いが止まっていた。

 

ほかの者も、それぞれ決死でぶつかっている。

 

敵の騎馬が季衣に襲いかかって行った。

 

華雄だった。

 

華雄が季衣に襲いかかった。

 

その時、華雄達とは反対の斜面から襲いかかってくる騎馬隊が現れた。

 

斜面を下る勢いをつけた坂落としだった。

 

先頭にいるものをみて、血が引いた。

 

張飛だった。

 

何故張飛がこんな所にいる?

 

張飛の前に流琉が飛び出し、受け止めるが、勢いの付いた張飛の攻撃を耐えられず、馬から落とされた。

 

私は張飛の姿を認めた瞬間に、馬腹を蹴っていた。

 

いくら精鋭を集めた親衛隊といえ、張飛を抑えることは難しい。

 

平常時ならまだしも、疲労、連続した奇襲で普段通りの力が無い今は不可能だろう。

 

しかし私より先に飛び出していたものがいた。

 

黒い大きな汗血馬。刹那様と愛馬の紅蓮だった。

 

少し遅れ、焔と瑠璃が後に続く。

 

刹那様の紅蓮は曹操軍の中でも五本の指に入るほどの名馬だ。

 

刹那様と二人との距離は少しずつ離れていった。

 

 

 

Side:華琳

 

流琉が張飛に斬られ、馬上から叩き落とされた。

 

それを眼の端で捕えていたのだろう、季衣が叫ぶ。

 

いけない。目の前の敵から注意をそらすなんて。

 

華雄は当然、季衣の隙を見逃さなかった。

 

華雄の攻撃で季衣の身体が馬上から消えた。

 

張飛が自分目掛けて御押し寄せてくる。

 

兵が張飛の前に飛び出すが、一瞬で倒される。

 

全身に恐怖が込み上げてくる。

 

あふれ出しそうな恐怖を抑え、武器を構える。

 

張飛が目の前に迫り、武器を振りかざす。

 

その瞬間、一つの影が私と張飛の間に割って入ってきた。

 

それは幼い頃から見続けてきた大きな背中。

 

いつも自分を守ってくれた優しい兄の背中だった。

 

 

 

 

 

 

<回想>

 

幼かった私でも自分と兄が置かれている環境を少しは理解できた。

 

そして思った。

 

自分がいるせいで大好きな兄は辛い思いをしている。

自分さえいなければ兄が息子として周りからも認められ、おば様と共に幸せに暮らしていけると。

 

私はある日、屋敷を抜け出し、街をで、山に入った。

 

何処か遠くに行ってしまおうと思ったのだ。

 

しばらくすると持ってきていた水と食料が無くなった。

 

幼い女の子の持てる量など僅かなものだ。

 

森には自然の恵みが豊富にある。

 

しかし屋敷で何不自由なく暮らしてきた私にはどうすることも出来なかった。

 

のどが渇き、空腹が襲う。

 

いや、それ以上に一人ということに寂しく、恐怖が込み上げてきた。

 

当たりもすっかり暗くなり、暗闇で恐怖が増す。

 

私は泣いていた。

 

怖かった。

 

寂しかった。

 

助けて。

 

助けて、お兄ちゃん。

 

「やっと見つけたぞ、華琳」

 

バッと顔を上げると優しくほほ笑む兄の顔があった。

 

兄が目の前にいることが信じられなかった。

 

兄の手が顔に伸び、優しく涙を拭ってくれた。

 

私は兄の胸に飛び込み、泣き叫んだ。

 

私が落ち着くまで兄は私を抱きしめてくれていた。

 

兄は何も聞かず、言わなくていいと言った。

 

私を背負い、兄は街に向かって歩きはじめた。

 

兄の背中は温かく、落ち着く。

 

私は兄が傍にいる安堵から眠っていた。

 

街に入り、眼が覚めた私に兄は家で何が起きても何も言うなと言う。

 

私は兄の言う事の意味がわからなかった。

 

家に帰ってからの展開は私を困惑させた。

 

母が怒鳴り散らしている。

 

勝手に出ていった私を怒っているのではない。

 

‘私を連れ出した兄’を怒鳴っていた。

 

私には何が何だかまるで理解できなかった。

 

周りの大人たちも兄を非難していた。

 

私は違う!と叫ぼうとした時、肩に手を置かれた。

 

兄さんとおば様の身の回りの世話をしている朱嫂だった。

 

朱嫂は私の眼をみて首を振った。

 

ここで私が何を言っても、兄に言わされているという事になり、余計に兄の立場を悪くすると。

 

そして私は気付いた。

 

母は私のことをみていない。大丈夫?と声を掛けることもなく、ひたすら兄を非難していた。

 

唯一、母を止められる父は近くの街に出かけていたのでいなかった。

 

兄は棒打ち十回の後、三日間牢に入れられた。

 

三日後、私は兄とおば様に謝る為、二人が住んでいる離れに向かった。

 

兄はおば様に頭を下げていた。

 

「申し訳ありません、母上。母上にも辛い思いをさせてしまいました」

 

「謝ることなど何もないわ、刹那。それとも貴方は自分がしたことが間違っていたとおもうの?」

 

「いえ。華琳が無事で良かったと思っています。華琳は大切な私の妹ですから」

 

兄の言葉におば様は頬笑み、頷いていた。

 

私は嬉しくて涙込み上げてきた。

 

身体が自然に動き、兄の胸に飛び込んでいた。

 

兄は優しく私の頭を撫でてくれ、おば様は優しくほほ笑んでくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何度も見てきた兄の背中。

 

しかし何処かおかしい。

 

顔が水で濡れる。

 

 

かおが……からだが……ぬれていく

 

なまあたたかい…みずが……ぬらしていく

 

あにのせなかのいわかんがわかった

 

あるものがなかった

 

あるはずのものがなかったのだ

 

あにのひだりうでが……なくなっていた

 

 

 

いや……いや……いや……いや…いや…いやいやいやいやいや

 

 

いやーーーーーーーーーー!!!!

 

 

 

 

 

 


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