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張飛は目の前の光景が信じられなかった。
確実に曹操の首をとれるはずだった。
しかし目の前の男によって阻止された。
男の名は曹進。
自分が敬愛する北郷一刀が敵意を抱いている男だ。
張飛の曹進に対する評価はただの狡賢い男だった。
武においても小細工を多用し、相手の隙をつくしかできない男。
しかしそんな男が自分と対等に渡り合っていることが信じられなかった。
静止した馬上での一騎打ち。
純粋な力と力のぶつけ合い。小細工など出来るはずもない。
純粋な力では自身の相手になどならないはずの相手だ。
まして曹進は自分に左腕を切り飛ばされている。
腕を切られた激痛は、一時的に麻痺や興奮で感じないこともある。しかし片腕で自分と互角に戦えるはずがない。
だが、現にこうして自分と渡りあっている。
張飛が理解できないのも無理はないかもしれない。
彼女は強すぎた。
自分と同等の相手、ましてそれ以上の相手との戦いなど呂布との一戦だけだ。
そして命を掛け、死力を振り絞る戦いなど経験したことがなった。
自分の命を掛けて守りたい。否、守らなければない。
たった一人の、かけがえのない最愛の妹を守る為、曹進は己の限界を超えた力を発揮していた。
張飛は曹進の気迫に押される自分を叱咤し、更に気合を入れ攻撃しようとする。
だが彼女は攻撃をやめ、直ぐにその場から離れた。
とてつもない憎悪が、憤怒が彼女に死の恐怖を与えたのだ。
赤い鬼が真直ぐに自分目掛けて突進してきていた。
赤い鬼を遮ろうと兵が襲いかかるが、一瞬にして切り殺される。
自分を覆う恐怖をはねのけるように馬を駆けさせる。
赤い鬼が馬から飛びあがり、襲いかかってきた。
鬼の一撃を辛うじてかわしたと思ったが、左腕を縦に斬られた。
腕に痛みが走るがそれほど深くはないようで、直ぐに縫えば問題ないだろう。
張飛は逃げるようにその場から離れていった。
戦場から離れても張飛の身体は震えていた。
近くに寄ってきた兵に指摘され、初めて自分の顔が額から頬にかけ傷をおっていることに気がついた。
何時斬られたのか初めは分からなかったが直ぐに答えは出た。
曹進だ。
曹進が乱入してきた時の刃が僅かに届いていたのだ。
張飛は更に背筋が凍りついた。
殺せなかったが、助かったのだ。
あと一歩曹進が来るのが遅れていたら曹操の首は取れた。しかし次の瞬間には自分の首が飛んでいた。
張飛は恐怖と恐れている自分への苛立ちで、血が滲みでるほど強く手を握りしめた。。