Side:―――
休むことなく攻撃は続いていた。ただ数を頼んでの単純な攻めだった。
この程度の攻撃なら耐えられる。向こうが先に疲れるからだ。
しかし張喚は胸騒ぎがした。
張邈だけならこのような愚かな攻撃になっていても可笑しくはない。
だがこの状況を演出したものが裏にいる。
蛟をもってしてもなかなか尻尾を掴めさせないほどに慎重なものが、この程度の攻撃で満足するはずが無い。
何かある。何か仕掛けてくるはずだ。
「おやおや、随分と辛気臭い顔しているわね」
「朱嫂か。こんなところで何をしている?勇士の民間人は怪我人の手当てや荷物の運搬などの後方支援を頼んでいるはずだ」
「なに、老い先短い老人が死に急ぎしそうだと思って釘をさしに来たのさ」
「なんだと?」
「あんたのことだからどうせ命に代えても、とか思っているんでしょう。だけどねあんたが死ねばあの子は自分のせいだと思うよ。あんた、あの子にこれ以上重荷を背負わせる気かい?」
朱嫂の言葉に張喚は何も答えなかった。
朱嫂の言っていることは痛いほどよく分かっている。
彼は責任感が強い。そして優し過ぎる。
曹操軍の上層部は若者ばかりだ。最年長であり、皆の心の支えである曹進でさえ、張喚達からすれば子供のようなものだ。
助けあい、支え合っている。しかし本当の意味で曹進が弱さを見せられるものはほとんどいなかった。
張喚は曹進のことを思うと迷いが出てきたが、それを振り払うように兵士達を見た。
おかしい、と張喚は思った。
盾を持った兵と、剣を持った兵が入り混じっている。
戦場ではありえないことではないが、張喚の直感が警告する。
四、五十人のその一隊は、隊列を組んで正面の出入口に向かっている。
張喚は駆けだした。少し遅れて傍にいた兵達も付いてくる。
例の一隊は出入り口を守っていた部隊をいきなり殺していった。
出入り口の門は内側からも容易くは開けられないようにしていたが、敵が壊し始めた。
張喚は剣を抜き放った。
気がついた敵がこちらに構えた。一人を斬り倒し、もう一人を突いた。出入り口は更に壊され、分厚い門の扉が見え始めている。
ここから敵が侵入してくれば、どうにもならない。敵がなだれこみ、あっという間に壊滅させられるだろう。
門が開いた。敵の歩兵の集団が見えた。
張喚は雄叫びをあげ、歩兵の集団に飛び込んだ。
斬って、突いて、叫び声をあげ続けた。
門の外に出た。味方の兵も後に続いてきた。
敵の圧力は凄まじい。二千か、三千か。更にその後方にも続いている。
「門を閉めろ!」
長官は叫んだ。
「俺達に構わず、門を閉めろ!」
矢が射られてきた。張喚はそれを剣で払ったが、二、三本が胸などに刺さった。
「門を閉めろ、命令だ!己の務めを果たせ!」
力の限り叫んだ。味方の兵も次々に討たれていく。
門が閉まっていく。張喚はそれを眼の端で捉えた。
敵が押し寄せてくる。大地を全て埋め尽くしているように、敵が押し寄せてくる。
斬っても、斬っても、際限が無かった。
下腹を、何かが突き通した。槍。柄を叩き斬った。突いてきた者も、同時に両断した。
既に味方は全員倒れていた。
敵の槍が迫ってくるのが見える。剣で槍を弾こうと思っても身体が動かない。
張喚は死を覚悟した。
敵は真っ二つに両断された。
目の前に何者かが現れた。
深紅の髪の若い女性。呂布だ。
突然現れたものに戸惑いつつも敵は押し寄せてくる。
呂布は瞬時に二、三十人の敵を斬り倒した。
敵の勢いが止まる。
城壁の上から戦場を振るわせるような動物の遠吠えが聞こえた。
城壁には赤兎と陳宮がいた。
止まっていた敵が再び勢いよく襲ってきた。
呂布ははらの底から雄叫びをあげ、敵に中に飛び込んだ。
方天画戟の一振りで三、四人斬りたおした。
雪崩のように敵が押し寄せ来る。
殺しても、殺して敵は尽きることはない。
攻撃が続いた。息を吸う暇もないほどだった。浅傷を、いくつか受けた。
息が上がっていた。しかし、眼が眩むほどではない。
辺りに転がった死体が流した血で、地は赤く染まっていた。
一人で百人以上を殺した呂布の姿に怯え、敵の動きが再び止まる。
「恋殿――!扉の修復は十分なのです。お戻りを!」
呂布は陳宮に頷き、門によりかかっていた張喚を抱え、敵の梯子を身軽に駆けのぼった。
場内の味方から歓声が上がった。