真・恋姫無双 華琳の兄は死神   作:八神刹那24

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第八話

Side:―――

 

敵が刹那と華琳に襲いかかるが、その間に瑠璃が現れた。

 

瑠璃は両腕を素早く動かした。迫りくる敵兵の首や腕が斬り裂かれた。

 

瑠璃は両手の指で、眼で辛うじてみえる銀糸を使っていた。

 

五人の兵が突然刻まれたことに敵は驚き、動きを止める。

 

そこにすかさず曹操親衛隊が駆けつけてきた。

 

瑠璃は刹那の腕を糸で縛り、止血した。いとも容易く人間を斬り裂く糸も瑠璃の腕なら絶妙な加減ができた。

 

華琳は刹那の胸にしがみつき泣いていた。

 

自身の一時の感情に任せた愚かな行為。

周りの反対を押しのけた結果の敗戦。

生涯で初めての失敗。

何より大切に思っている兄の死の危機。

 

様々なことが少女の頭を駆け廻り、彼女は錯乱していた。

 

今の華琳は兄の胸にしがみつき泣き叫ぶ唯のか弱い少女だった。

 

刹那は残った右腕に持っていた刀を捨てると、華琳に手を伸ばした。

 

誰もが思っただろう。刹那が華琳の頭を優しく撫でる姿を、優しく言葉をかける姿を。

 

しかし刹那は泣いている華琳を無理やり、自分から引き剥がした。

 

「泣くな!!」

 

刹那が怒鳴り声をあげる。

 

怒られた華琳は眼を丸くし、茫然としていた。

 

刹那は普段、あまり怒ることはない。怒ったときは言葉は減り、沈黙で周囲に示していた。

 

周りの近しいものは勿論、華琳も刹那が怒鳴るところなど初めて見たのだ。

 

「戦場では決して心を乱すなと教えたはずだ!それが例え、誰が死んででもだ!お前は誰だ!華琳、お前は一体何だ!?上に立つ者が心を乱せば、曹操軍そのものが乱れる。それを決して忘れるな!お前が今する事は泣くことじゃないはずだ!」

 

華琳は一度、天を仰ぎ、腕で涙を拭いた。

 

華琳は刹那から離れ、何時もの凛とした声で指示を飛ばした。

 

華琳は心を鎮めた。

 

刹那は何時ものように凛々しい姿で指揮を執る、出来すぎた妹の姿を微笑みながら見詰めた

 

最愛の妹の姿見ながら、刹那の意識は無くなり、馬から落ちた。

 

 

 

 

崩れ落ちる刹那を焔が滑り込むようにして受け止めた。

 

愛紗の部隊も加わり、残りの兵を蹴散らしていく。

 

奇襲が失敗し、張飛も敗走したため、敵の戦意はなくなり、逃げ出していった。

 

春蘭達は逃げる敵を容赦なく追撃した。

 

焔は手早く応急処置をし、刹那を紅蓮の背に乗せ、瑠璃が銀糸で縛りつけた。

 

真夜が四頭の馬を連れて駆けつけてきた。

 

「良馬を選んだ。交互に乗れ、それで長く持つはずだ」

 

「おう、姉貴。任せてくれ!」

 

焔の言葉に真夜は頷いた。

 

「紅蓮。兄さんのこと頼んだわ」

 

華琳は紅蓮の鼻面を撫でながら言った。

 

紅蓮はまるで任せろ、と言うように華琳を見つめた。

 

 

 

 

 

荒野をひたすら駆けた。休むことなく、駆け続けていた。

 

本来、全力で駆けさせれば馬はあっという間に潰れてしまう。しかし五頭の馬は駆け続けていた。

 

先頭を走る紅蓮に引っ張られるように、後ろの四頭も走り続けていた。

 

 

とある馬がいた。

 

その馬は一際身体が大きく、気性も荒かった。

 

生まれた牧では人間はおろか他の馬も近づけさせなかった。

 

いつも孤独だったが、ある日、一人の青年が現れた。

 

馬は青年が気になり、じっと青年の気配をうかがった。

 

青年はほとんどためらうことなく、馬に近づき、下から手を出して挨拶した。

 

馬はかすかに身体を震わせた。

 

自分に乗る人間を見つけた。馬はそう感じた。

 

「初めまして、刹那だ。よろしくな。まだ未熟だが、お前が恥ずかしくない、乗り方をするつもりでいる」

 

その日、馬は刹那から紅蓮と言う名を与えられた。

 

 

 

 

二度、敵に見つかったが、紅蓮達の速さに追い付けず、かわせた。

 

しかし今度の敵は上手く、紅蓮達の進路をふさいできた。

 

五十騎ほどだった。

 

進路を変えれば交わせるだろうが、時間がかかる。今は一刻も早く刹那を安道永の元に届けなければならない。

 

紅蓮は頭で考えた訳ではないが、はっきりと理解していた。

 

敵は逃げ道を塞ごうと、広く包み込むように広がった。

 

紅蓮は躊躇なく五十騎の中央目指し、駆けた。

 

敵にぶつかる前、紅蓮は速度を落とした。疲れや恐怖から来た訳ではなかった。

 

焔と瑠璃が紅蓮の前に出てきた。二人は遮ろうとする敵を次々に討ち倒していった。

 

二人が討ちもらした敵の剣が紅蓮に迫る。

 

紅蓮は身体をずらし、敵の剣を避ける。

 

紅蓮の行動は唯の本能ではない。

 

例え乗り手である主に意識がなかろうと、何千、何万とくり返してきたことだ。

 

優れた軍馬は馬自体が、戦い方を、戦場での動きを知っている。

 

なんなく、敵を突破し、すぐさま紅蓮が先頭に戻る。

 

駆ける、駆ける、駆け続ける。

 

とっくに潰れていても可笑しくない。否、潰れていなくてはならない。

 

しかし五頭の馬は駆け続けていく。

 

城が見えた。敵の姿はない。

 

城門が開き、紅蓮達は駆けこんだ。

 

診療所に辿り着き、紅蓮が止まる。

 

後ろの四頭が同時に崩れ落ちた。

 

四頭も死んでいた。

 

焔と瑠璃は感謝と謝罪を込め、頭をさげた。

 

刹那を紅蓮から下ろしていると、診療所から安道永が飛び出してきた。

 

 

 

 

曹進様の左腕の傷口には晒(さらし)の布が当てられていたが、むくんでしまい、右腕と比べると二倍以上の太さがあった。

 

全身の状態は良くなかった。腕の傷口から入った毒が、全身に回り始めていた。熱もこのせいだ。

 

ただ、本当に酷いのは左腕だけだった。

 

身体に入った毒と戦う力は、以上に強い。普通の人間ならとうに死んでいただろう。

 

助けなければならない。何が何でもこの人を助けなければならない。

 

本人の生きようとする力が凄まじいのは知っている。あとは自分の仕事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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