真・恋姫無双 華琳の兄は死神   作:八神刹那24

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第九話

Side:刹那

 

白い世界。身体の感覚がなく、なにも無い世界。

 

気がついた時にはそこにいた。

 

しばらくすると目の前に人影が見えてきた。

 

見おぼえがあった。懐かしい姿。

 

死んだ母だった。

 

母の顔がはっきりと見えた時、込み上げてきた涙があふれ出した。

 

私は泣き崩れた。

 

子供のように無く私の手を、母の温かい手が包んでくれる。

 

「どうして泣いているの、刹那?」

 

「わ、私は、母上の教えに背きました。母上の子である資格が無い」

 

身体を縮め泣き続ける私の背を、母は優しく撫でてくれた。

 

私は母に今まで自分がしてきたことを話した。

 

人を騙し、欺き、殺し、必要ならどんな卑劣なこともしてきた。

 

懺悔の様なものなのかもしれない。

 

母上の教えを、母上との約束を破り続けてきた。

 

「刹那、あなたは自分がしてきたことに後悔しているの?」

 

「後悔はしていません」

 

「なら、いいのよ。あなたが本当に必要だと思ってやったことなら構わないわ。

あなたが本当に優しい子だというのは私が一番知っている。

もう自分を責めなくていいの。許していいのよ。

あなたは人を愛して良いの。愛されていいのよ。

相手の好意に気がつかないふりをしなくてもいいの。自分の好意を騙さなくていいのよ。

誰が何と言おうと、あなたは私の誇りであり、自慢の息子です」

 

あの頃と同じように優しく、温かい言葉。

 

私は母の胸で泣き続けた。

 

 

 

 

 

眼が覚めた。

 

何処だここは?

 

「おはようございます、刹那様。ここは安道永の診療所です」

 

そばに月詠がいた。相変わらず変装していたが、すぐに分かる。

 

月詠が私が眠っている間のことを教えてくれた。

 

焔と瑠璃が自分をここまで連れて来てくれたこと。

街は呂布の助けもあり、守れたこと。

華琳達は無事に戻って来たこと。

 

「華琳達はどうしている?」

 

「皆、自分がやるべきことをやっていますよ」

 

「そうか」

 

立ち止まらず、前に進んでいる。本当に自慢の妹と仲間たちだ。

 

 

「なあ、月詠。母上に会ったよ。母上は私を許してくれた。誇りだと言ってくれた。

私は人を愛して良いと、愛されて良いと言ってくれた。

これから私は自分に正直に生きようと思う。己を偽るのはもう終わりだ」

 

 

 

 

今日、俺から私に戻った。

 

 

 

 

 

Side:―――

 

張喚は眼を覚ました。すぐ傍に曹進がいることに気がつく。

 

「お早うございます。張喚殿」

 

「おお、若様」

 

曹進の顔を見ると自然とかつての呼び方に戻っていた。

 

穏やかに笑う曹進の顔が昔の、幼い頃の顔に戻っていたからだろう。

 

「今回はお互いぼろぼろになりましたね」

 

苦笑いしながらそう言う曹進の顔はやはり昔の顔だった。

 

「先程、母上に会いました。母は私を責めませんでした。自慢の息子だと言ってくれました」

 

張喚は曹進の言葉に深く頷いた。

 

「実は私も無くなった妻に会いましてな。叱られてしまいました」

 

「ほう、奥方はなんと?」

 

「私との約束を破って勝手にくたばるんじゃない、と」

 

「約束ですか?」

 

「ええ。妻が死ぬ時約束したことは、若様の御子を見るまでは死ぬことは許さない、です」

 

「これはまた随分と難題ですね。私の子を生んでくれる女性がはたして現れるかどうか」

 

曹進は困った笑顔をする。

 

貴方が思っている以上に女性に好かれていると張喚は心の中で呟いた。

 

「……張喚殿」

 

「ええ。分かっております。自分の身体のことは私自身が一番。私は退役します。なに、これからは静かな老後でも楽しむことにします」

 

今回の怪我は深かった。年齢のこともあり、最早軍人としては潮時だった。

 

心配していた曹進も壁を乗り越えられ、思い残すことは無かった。

 

曹進は深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

診療所の前に一頭の黒い汗血馬がいた。曹進の愛馬である紅蓮だ。

 

曹進を運び込んでから三日、彼はそこを動かなかった。

 

秣(まぐさ)はおろか、水さえ飲むことは無かった。

 

ただひたすら主が現れるのを待ち続けた。

 

そしてついに彼の前に曹進が現れた。

 

公孫真も支えられ、近づいてきた。

 

曹進の手が紅蓮の身体を優しく撫でる。

 

「お前に命を救われた。お前は私の最高の戦友だ」

 

曹進と紅蓮が見つめ合う。

 

紅蓮の眼から光が消えた。

 

身体はとっくに死んでいたのだ。主の命が救われるのを確認するまで、死んでも生き続けた。

 

死してなお、雄々しく立ち続けるその姿は、どんな馬にも負けぬ曹進の誇りとして刻まれた。

 

 

 

 

少し離れた場所でその光景を見ていた若い一頭の馬がいた。紅蓮の子だ。

 

「あれがお前の父だ。そして今からお前が紅蓮だ」

 

傍についていたものが言う。

 

若い馬はただただ、父の姿を見つけていた。その雄々しい姿を目に焼き付けていた。

 

 




除州侵攻編終了。なんとか今月中に終わりました。

此処までで、過去の投稿済みは終了です。

次回からは三日(長くて一週間)に一話のペースで上げていきたいと思います。

次回投稿は日曜00時05分予定です。

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