真・恋姫無双 華琳の兄は死神   作:八神刹那24

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第八話

Side:刹那

 

戦いの野に、激しい銅鑼の音が響き渡る。

 

「「「………」」」

 

……響き渡る銅鑼の音は、こちらの軍のもの。

でも響き渡る咆哮は、城門を開けて飛び出してきた盗賊達のもの。

 

「……桂花」

 

「はい」

 

「これも作戦のうちかしら?」

 

「いえ、……これは流石に想定外でした」

 

ふーん、想定外なのね。

 

「これが想定外?相手は唯の烏合の衆だぞ。戦いの礼儀なんて気にするわけない。この程度の数で自分達を潰せるなんて思っている俺達にお怒りなんだろうよ」

 

「……」

 

「桂花。お前は頭が凄く良い。その分、馬鹿のことをあまり分かっていないな」

 

キッ!と睨んでくるが無視。

 

「曹操さま!曹進さま!敵の軍勢、突っ込んできたよっ!」

 

おうおう、馬鹿は単純なだけに大胆だよな。五百程度の敵に全軍で攻めるなんてな。

 

「ふむ。……まぁいいわ。多少のずれはあったけれど、こちらは予定通りにするまで。総員、敵の攻撃は適当にいなして、撤退するわよ!」

 

 

 

Side:煉華

 

私達は敵の側面を付くために崖の上に潜伏中だ。

 

「報告!曹操様の本隊、後退して来ました!」

 

兵が報告する。予定より早いが別に問題ないだろう。

 

兵達にいつでも行けるように準備させる。

 

「やけに早いですね。…ひょっとして曹操様の御身に何かあったんですかね?」

 

「牛金。気にする必要はない。隊列は崩れていない。今回の敵は唯の馬鹿な烏合の衆だ。戦いの礼など知らん。大方、相手が血気に逸り突っ込んできたのだろう」

 

敵の盗賊団が見えてきた。

 

なんと醜い姿だ。隊列はおろか集団としての動き方を微塵も感じられん。

 

実戦に勝る訓練はないが、これでは訓練のほうがましだ。

 

あの程度の連中といくら戦おうと、私の胸には何も響かない。

 

「夏侯惇様じゃないですけど、こんな唯の暴徒の集団なら策なんて必要なかったんじゃないですか?」

 

「お前の言うことも分からなくもないが、何も考えのない突撃はただの無謀だ。勇気と蛮勇を間違えるなよ。策により少しでも被害が減るならそれに越したことはない」

 

「わかりました!」

 

……それにして無様な。伏兵の危惧などいっさいない、唯の突撃。無防備すぎる。

 

「しかし、これあれだけ無防備にされると、思いっきり殴りつけたくなる衝動が襲ってきますね。夏侯惇様、耐えられますかね?」

 

危惧することは同じか。

 

「そのあたりは秋蘭がうまく抑えてくれるだろう」

 

まぁ、あのバカが突撃しても大した問題ではないがな。

 

「曹仁様!後方の崖から夏侯惇様の旗と、矢の雨を確認!奇襲、成功です!」

 

「よし!総員攻撃用意!相手は唯の雑魚だ。一兵たりとも死ぬことは許さん!ここで死ぬことは恥だと思え!!

 

総員、突撃ぃぃぃ!!!!」

 

 

 

Side:刹那

 

結果は言うまでもなく、こちらの圧勝。

 

桂花は煉華、春蘭の二人に追撃を指示した。

 

「桂花。見事な作戦だったわ。負傷者もほとんどいないようだし、上出来よ」

 

俺としては相手が弱すぎたので力量を判断するには情報が少なかった。まぁ、桂花が並みの軍師ではないのは分かったので良しとしよう。

 

「だが、心残りは例の古文書が見つからなかったことだな」

 

「はい、大変用人の書ですね」

 

「……太平要術よ」

 

「「「「……」」」」

 

「言ったよな!わたし、そう言ったよな!」

 

「大丈夫よ、春蘭ちゃん。私はちゃんと聞いていたわ」

 

「おお!紅!信じていたぞ!」

 

「完璧に大変用人って言っていたわよ」

 

「っ!?」

 

あ~あ、何も止め刺すことないのに。可哀想に石化したじゃないか。

 

「無知な盗賊に薪にでもされたか、落城の時に燃え落ちたのか。……まあ、代わりに桂花と季衣という得難い宝が手に入ったのだから、良しとしましょう」

 

この辺りを治めていた州牧が盗賊に恐れをなして逃げ出したらしい。そこで盗賊を退治した華琳が州牧の任を引き継き、この地を治めることになった。

 

今回の武功をもって華琳の親衛隊の隊長になった。

 

「さて。後は、桂花のことだけれども……」

 

「……はい」

 

「城を目の前にして言うのも何だけど、私……とてもお腹が空いているの

。分かる?」

 

「……はい」

 

結論からいえば賭けは桂花の負けだ。

糧食は昨日の晩で尽き、ここにいるだれもが朝飯を食べていない。

 

「ですが、曹操様。一つだけ言わせていただければ、それはこの季衣が……」

 

「にゃ?」

 

「確かに、一人で糧食を十倍食べる味方が行き成り加わるなんて予想できないですよね」

 

まぁ、俺もあのちっさい体の何処にあんなに入るのか不思議でしょうがない。

 

だが、‘一人で十倍’はなくても‘十人が軍に加わる’は予想できたはずだ。その理由は見苦しいぞ。

 

「不可抗力や予測できない事態が起こるのが、戦場の常よ。それを言い訳にするのは、適切な予測ができない、無能者のすることだと思うのだけれども?」

 

「そ、それはそうですが……、分かりました。最後の糧食の管理ができなかったのは、私の不始末。首を刎ねるなり、思うままにしてください。

 

ですが、せめて……最後は、この夏侯惇などではなく、曹操様の手で…!」

 

「とは言え、今回の遠征の功績を無視できないのもまた事実。……いいわ、死刑を減刑して、お仕置きだけで許してあげる」

 

「曹操様…っ!」

 

最初から殺すつもりなんてなかったくせに良く言う。あいつはこの程度の件で殺すのはあまりにも惜しい人材だ。

 

「それから、季衣と共に、私を華琳と呼ぶことを許しましょう。より一層、奮起して使えるように」

 

「あ…ありがとうございます。華琳様っ!」

 

「ふふっ、なら、桂花は城に戻ったら、私の部屋に来なさい。たっぷり……可愛がってあげる」

 

「はい…っ!」

 

「……むぅ」

 

「……いいなぁ」

 

喜ぶ桂花。複雑な秋蘭。羨ましい春蘭。

三者三様だな。

 

ちなみに煉華と紅は華琳の相手はしない。何やら好きな奴がいるとかいないとか。そこら辺はよく知らん。

 

「華琳が認めたことだし、二人とも俺のことも真名の刹那って呼んでいいぞ」

 

「わぁ!ありがとうございます。刹那様さま!」

 

「……ありがとうございます」

 

喜ぶ季衣。嫌そうな(?)桂花。

 

対照的だな。それにしても桂花。なんだその顔。そんなに嫌なのか!?

 

「それと、桂花。俺からの助言が一つあるが聞くか?」

 

「……なんでしょうか?」

 

「今回のお前の敗因は、華琳との間に、毎日三食必ず食べるっていう条件が暗黙の了解でついていたってことだ」

 

「にゃ?毎日三回ごはん食べるのは、当り前なんじゃないんですか?」

 

「いや、行軍中はほとんど食べない、なんてことは珍しいことじゃない。

今回も足りないのは一食分でこの程度別に問題ない」

 

「ねぇ、刹那さま!そんなことよりボクお腹がすきました!」

 

……俺の助言って‘そんなこと’か。

 

「ふー。分かった。街に帰ったらなんかうまいもん食わせてやるから、もう少し我慢しなさい」

 

「わ~い。やった!」

 

 


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