世は全て事もなし   作:エンギウック

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第13話

目が覚めた。

 

夢もみないでぐっすり眠った。

 

時計を目で探す。

6時15分。身体がルーティンを遵守している。

…小さめだけれどシンプルで気に入っていた電波時計は変な鳩時計になっていた。

 

横たわったまま、PCと携帯を置いていた折り畳み式のデスクを見る。

黒電話と、メモスタンドと、辞典と辞書が並んでいた。

 

「…あながち間違った解釈じゃない…。いっそ仕事が丁寧だ…」

 

もう腹も立たない。

 

ぼんやり血腥い。

ちゃんと布団に入っている。無意識に這いずって入ったのか、干柿鬼鮫が移動してくれたのか。だとすれば…何か嫌だ。

 

まあどっちみち、また洗濯と風呂だ。

布団は…布団も洗うしかない。カバーだけで済めばいいけれど、少なくとも敷き布団は本体も血を吸っていそうだ。この状態で買い替えは現実的じゃない。

 

外で野鳥が鳴いている。

黒鶫、黄鶲、不如帰、鶯、雉鳩、大瑠璃。

 

私と、もしかしたらまだいるかも知れない干柿鬼鮫しか聴くものがないのに、大勢で鳴き過ぎだ。

サービス過多、多勢に無勢、過ぎたるは及ばざるが如し。風情もへったくれもない。

今の精神状態では、野鳥の鳴き声も騒音に等しい。

 

頭を掻きながら起き上がる。着慣れない着物の前がはだけて、着物が着物の役割を果たしていない。

 

「…えーと…。まず何からしたらいいんだ?」

 

テーブルの上の煙草をとって、火を点けながら呟き、ヒーターが反射式のストーブに化けているのに気付く。

何故か薬缶がのっている。サービスのつもりか?

でもまあ助かる。薬缶は何かと役に立つ。

 

昨日小さなコッヘルでお湯を沸かしたことを思い出し、頷く。

薬缶は正解だ。よしよし、やっとすこーし良いことがあった…ことにしておこう。

 

コーヒーが飲みたいところだが、干柿鬼鮫がいたらと思うと躊躇われる。

先に風呂、と思いかけ、干柿鬼鮫がいたらと思って止める。

 

…やり辛い。

帰ってるだろうか。

流石に帰ってるか。

 

兎に角いるかいないかを確認しないと落ち着いて動けない。

 

仕方なく、はだけた着物を着直して襖戸を開けたらそこに干柿鬼鮫がいた。

 

「……おはようございます…」

 

朝からデカいな…。

いたのか、まだ。いや、いきなり消えられても台所の件が不安だから困るけれども、それでもあっさり民泊するとは思わなんだ。

 

「よく眠れたようですね。死んでるみたいでしたよ」

 

皮肉げに言う鬼鮫はタンクトップにカーゴパンツ擬き、鎖帷子というラフだか何だかよくわからない格好をしている。

 

外套を脱いだんだな。

 

変な格好…と呟きかけたら、洗濯機が回る音が聞こえてきた。

パチンと目が冴えた。

 

…コイツ…。外套を洗濯してやがる…。

 

「勝手にすみませんね。申し訳ありませんが、血は早めに落としておきたいので」

 

「…そうですか…。まあそうですよね」

 

ならひと声かけて欲しかった。そしたら血塗れの布団カバーとシーツも一緒に洗ったのに。

血塗れのものは血塗れのものでまとめて洗いたかったなぁ。

 

そこではたと昨日洗ったタンクトップやショートパンツ、下着の類のことを思い出した。

…洗濯機の中に洗い終わったまんまにしてなかったか?

 

恐る恐る見上げると、鬼鮫は渋い顔で目を逸らした。

 

「…先に洗ってあったものは、洗い直して外に干してますが?」

 

ぎゃーーー!!!!!!!

 

「だ…ッ、なッ、あ…、な…ななな何してくれてんだアンタは⁉こ…このデリカ死…ッ!!!」

 

「洗い終わったらすぐ干さないと雑菌が繁殖しますよ?…血が付いた衣服なら尚更です」

 

「…どこから突っ込んで欲しくてそんなこと言ってんですか?」

 

「用途が何であれ洗濯物は全部布ですよ。何を気にしてるんです?」

 

「馬鹿かアンタは!そういう問題じゃない!!最悪だ!出てけ馬鹿!!!」

 

「痴女に言われたくないですね」

 

「…痴女の概念があるんだ?」

 

「?いきなり抱きついてくるのは痴漢や痴女でしょう?」

 

「ルールがわからない!もう少し都合を考えて欲しい!」

 

「…また何を言ってるんです、あなたは?ルール?都合?おかしなことを言いますねえ」

 

 

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