でもだがしかし。
「…干柿さん、あなたお忙しいのでは?」
こんなところで単に興味を満たす為だけに、変な相手に絡んでいる程この人は暇なのか?
「忙しいですね」
鬼鮫は素っ気なく答えて胃を押さえる私の手を見た。
それが嫌で私は手を下ろした。変に気にかけられたりしたくない。同情も引きたくない。
ただ胃の具合が悪いのかと思われるのすら嫌だ。
私は大丈夫だ。
哀れまれたりしたらまた泣いたり縋ったりしたくなるかも知れない。夕べそうしてしまったように。
「朝ご飯を作りますが、食べます?時間はありますか?」
鬼鮫が目を眇めた。
「ありますよ。少なくとも外套が洗い上がって乾くまではここにいます」
うぅわ。そうですか。なら夜の内に洗って乾かしといてくれよ…。まああのやたらバリっと立った形状の襟に糊付けしてこの人の身体に見合ったデカい外套にアイロンをかけるまでは帰りませんて言われるよりはいいか。ちらちらと几帳面な一面が覗くこの男なら言い出しかねない。
自分にそう言い聞かせて明るい面に目を向けようとして眉を顰めていると、鬼鮫がふっと薄笑いの混じった声をかけてきた。
「お時間をとらせて申し訳ありませんね。あなたも今日は忙しいんでしょう?」
…そう言えばそう言ったな。
でも今日は仕事探しより家の整理、把握だ。気が付いてないだけで多分色んなものが化けたり化けなかったりしている筈だ。
家の周りも見て歩かないと。
環境を把握しておかなければ、不便が続いてしまう。
それにしても何だよ?そのこっちを測るような言い方。腹立つな。そう思うならそう思うなりに振る舞ったらどうだ?嫌みなヤツめ。
「予定変更しました。今日は家の大掃除をします。壊れた台所の木っ端で家の中も散らかってしまったし、布団も洗わなけりゃならないし」
「表の台所の廃材ならまとめて置きました。使えそうなものは分けておきましたから確認をどうぞ」
…ん?
「それは…ありがとうございます…?」
勝手に家財に触った?
台所に何があったか考える。何かおかしなもの、鬼鮫の注意を引いてしまうようなものはなかったか。
私目線ではなく、鬼鮫目線で見ておかしなもの。
うまく何もかも化けていれば問題ないが、文字のもの、これがどうなるかわからない。
本がそのまま残ったように、例えば私の書いたメモとか…。
そう考えたら冷や汗が出た。干柿鬼鮫が夕べ過ごしたであろう居間に何かなかったか?どうだ?思い出せ。
「台所を何とかしろと言ったのはあなたでしょう?何か問題でも?」