世は全て事もなし   作:エンギウック

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第16話

「…好きにどういじってもいいとは言ってませんよ?壊れてもあの台所は私の所有物です。私に声もかけずに触らないで下さい」

 

「そうですか。それは失礼。余計なことをしましたね」

 

「台所を直して下さるのは有難…」

 

…うん?まさかこの男。

 

「あの、干柿さん?」

 

「何です?」

 

「もしかして手ずから台所を修繕なさるつもり…なんてそんな筈ないですよね?ちゃんとその道の方に依頼して下さるんですよね?」

 

「最終的に使えるように直れば問題ないんでしょう?」

 

「結果は大事ですが過程もまた大事…」

 

「直りゃいいんでしょう?」

 

建築界隈舐めんなおい。

 

「あの…これ以上お忙しいあなたのお手を煩わせる訳には…」

 

「私の予定はあなたに関わりないことです。あなたの大事な台所を壊したことに対して、私なりに誠意を尽くさせて貰いましょう」

 

鬼鮫は、物凄く干柿鬼鮫らしく笑って私をじっと見た。

 

「そんな」

 

そんな半分脅迫めいた誠意は要らない。

 

「あなたが私にしたことへの誠意を見せてくれるというなら、こちらとしても誠意を見せないわけにはいかないでしょう?」

 

「…性格が…大変よろしいようで…」

 

「そうですか?初めて言われましたよ、そんなこと」

 

「でしょうね」

 

鬼鮫を見返しながら、溜め息を噛み殺す。

 

台所にあったのは食材に調理器具、冷蔵庫やオーブンレンジなんかの家電だ。他に何も置いてない。筈だ。

 

問題は居間。居間だ。

本に服…。あ、あっちの押し入れにも服があったな。後で確認しよう。

後は…何だ?うん?本…本と…あ、画材か。画材がある。何か改めて見るとあんまり物もってないな。私。

大事な書類系は寝室にあるし、大丈夫…か。

 

あっちを考えながら、こっちも考える。

 

この人が本気で台所を自力で何とかしようとしているなら、それは現実的じゃない。

私は干柿鬼鮫を読むためにナルトを読んでた邪道だからこの世界にそこまで詳しくはないが、それだって素人が台所を一から作り直すなんて、効率無視にも程がある。忍者は魔法使いじゃない。錬金術と忍術は違う。

 

「…干柿さん。私、手持ちが7万弱くらいあります」

 

通貨単位は両だった気がするが、あやふやなので嵩だけ示す。レートはほぼ同じだった筈。そうズレはないだろう。

 

「貧乏ですね」

 

うぬ。ストレートな奴め!

いや、銀行口座がどうなってるかわからないから、手持ちでしか話せないんだよ!そら口座の中身も金持ちじゃないけれど!

 

起きたらすぐ通帳がどうなってるか確認しとくべきだった。痛恨だ。

 

「今取り敢えずってことです。あの、これに限らず出来る限りある程度は出しますから、立て直しはその道の職人さんに頼んでくれませんか?」

 

「ふん?で、あなたの出来得る限りの残りは私が出す、と?」

 

「そこは筋…ていうか、相当遜って譲歩してますよ、私?」

 

「出来かねますね」

 

「あらま。何故です?」

 

「私もあなた同様貧乏ですからね」

 

「…う…」

 

「う?」

 

嘘吐けやこの鮫ェ!!!

 

ー飲み込む。

 

いや、もしかしたら暁自体が貧乏なのかも知れない。

だから報酬も少なく…て、そもそも資金源はどうなってるんだ、あの組織。

 

「う、何です?」

 

いやそこ追求する?

知りたがりと言うかと、逃さない感強いなこの人。

 

「う…ちと同じくらいあなたが貧乏かどうか、あなたにわかる筈もないでしょう?」

 

「ふん?総資産の見せ合いがしたい?」

 

「だーれもそんなこと言ってませんて。…あなた本当に極端なこと言いますね?」

 

皮肉が過ぎて0か100かみたいなことを言い出す。

 

ある種のサービス精神が発達してしまっているようにすら見えて逆に感心する。

 

「…あなた面白いですね」

 

「…あなたにだけは言われたくないですよ。風呂は窓を閉めて入りなさい。寝るときは家に鍵をかける。枕元に眼鏡を置かない。知らない人間を家に泊めない」

 

「それはそういう私の方が面白いってことですか?全く面白いとは思えないけど」

 

「そういうことをやる迂闊な人間に面白いなどと言われたくないということです。外でお湯を沸かしてますが?コーヒーは私が淹れればいいんですか?」

 

「は?いや、私が淹れますよ。私が淹れますけど」

 

わざわざお湯まで沸かしといてくれたのか。細やかな。

 

「あー…りがとうございます、ですかねここは?」

 

「…何で疑問形なんです?」

 

だってあなた、ちゃっかりコーヒー飲む気満々じゃ…。

 

「いや…いやいや。コーヒーお好きなんですね」

 

「別に。水の方が好きです」

 

な…。こいつめ。なら水飲んどけぇ?

 

 

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