目が覚めたら、いつもの天井が目に入った。
ちゃんと布団に入って、ちゃんと寝ている。
「…疲れた…」
いい夢を見たんだか悪い夢を見たんだかよくわからない。
兎に角疲れた。明晰夢は当分ごめんだ。折角の干柿鬼鮫がリアル過ぎて受け止めきれなかった。
まあ夢なんてこんなもんだ。自由にコントロール出来たら誰も悪夢はみない。
室内が何だか生臭い。
…昨日何か出しっぱなしで寝たか?生ものはしまったと思うんだけど、何だコレ、結構な生臭さだぞ。
布団を剥ごうとした手に目が留まる。
赤黒いものがこびり付いている。
「………」
そっと布団を持ち上げる。
あちこち赤黒い。
血が固まりかけたようなものが、布団に、私にへばりついている。
そっとTVの方を見る。
51型の帰還はない。レトロなTVがまだそこにいる。
「…あれ?え?あらやだ、やだやだ嘘でしょ?ちょっと?いやいやいやいや」
額を力任せにパンと叩く。我ながらいい
音がして額に痛みが走る。
立ち上がって、部屋の引き戸を開ける。
いい風が吹き付けて来て、ちょっと土埃が舞った。
台所は木っ端になって廃材の塊と化していた。
「…あれぇ…?」
血溜まりが幾つかある。
人影はない。
見回せば如何にも熊が出そうな川辺りの林の中。
私の家はこんな場所に建ってない。
振り向いた我が家は台所こそ欠損したものの、まあ、我が家である。
「…何だコレ…。また夢か?」
呟いて血塗れの手を見下ろす。
血塗れな自分を確認するうち、タンクトップにショートパンツというはしたない格好でいたことに今更ながら気付く。
何もかも血塗れで、ゴワゴワと固まった血液が付着しているせいで身体が痒い。
「…風呂って夢でも入れるのかな…」
呟きながら頭を搔いたら、髪も血で固まっている。
「………風呂もTVみたいにレトロになってなきゃいいけど…。五右衛門風呂なんか入り方知らないよ、私は」
幸い風呂はボイラーで普通に炊けたので、薪拾いはせずにすんだ。
もともとタイル張りのレトロな風呂だったからか、浴室には変わりがない。
うちは築年数のいった古い平屋の一軒家だから、そもそもあちこちがレトロだ。洗濯機もなーんの変哲もない洗って脱水するだけの昔ながらのただの洗濯機だったせいか、風呂場同様、変わりがない。
血塗れのタンクトップやショートパンツを予洗いし、湯船に浸かって開けた窓から表を眺める。
木立の上に広がる空が綺麗だ。雲が引き伸ばして慎重に割いた綿のよう、薄く白く靡いている。
家回りには針槐が咲き乱れ、桐や藤、朴ノ木、山桜に胡桃など、様々な樹木があるようだ。頗る環境が良い。
全然人気のない林の中の一軒家になってしまった我が家なら、こうして窓を開けて風呂に入ったところで誰の迷惑にもならないだろうと判断したものの、流石に身体を洗う段になって正気に返り、窓を閉めて垢すりに石鹸を擦りつける。
…液体石鹸は、牛乳石鹸になっていたのだ。
何某かの拘りを感じるメタモルフォーゼが細やかに展開しているらしい。
「おかしいな。どうなってるんだろう」
洗い流した身体から、髪から落ちた血の汚れが、薄茶色の渦を巻いて排水孔に吸い込まれていくのを見ていたら、急に気が焦ってきた。
「夢にしちゃ詳細すぎる」
いちいち全部の行動を詳細に拾って、普通に時間が流れていく夢なんかあるか?
「寝間着やら下着やら手洗いするとこなんか、まるっきりショートカット案件じゃない?それで良くない?」
洗ったところでもう着ないだろう服を見下ろし、首を捻る。