「それが何か?」
「…そういうところですよ、干柿さん…」
馬刺は大切な足でもある。道中何とか乗りこなせるようにならなければ。それに道。瞬身なんかで移動された日には、町への道筋もわからないままになってしまう。ここに戻って来たときの為に、少しでも土地勘をつけておきたい。
瞬身での移動は速くて楽そうではあるけれど、現実的に考えて私や馬刺が多分死ぬ。脳貧血であっと言う間に意識を失い、摩擦熱で服や髪は焼けて全身重度の火傷を負い、内臓破裂して首がもげる。…どうなってるんだ、忍者の身体は?チャクラか?不思議の国のチートアイテムチャクラがそこらへんも解決しているのか?
鬼鮫を改めて眺める。
目を眇めて見返してくるのをマジマジと見る。
確かこの人は大層な量のチャクラとやらを持っていた筈。あの背中の鮫肌とかいう半分生き物らしき物騒な刀はチャクラが大好物、チャクラには不自由しない身の上なんだよな。
だとすれば私と馬刺を抱えてー本人が言い出したくらいだから出来るのだろう、多分ー私たちもチャクラで守りながら高速移動することも可能かも知れない。
今提案する気はないけれど、時期を見て話してみよう。本人から提案がないということは、当たり前に無意識にやってしまっていることなのかも知れないし、もしかしたらチャクラは高速移動のリスク回避に関係ないのかも知れない。…いや、でもじゃあどうしてるんだ?絶対無理だぞ。普通に死ぬって。
不思議な生き物だな。忍って。
「…何をジロジロ見てるんです?」
耐えかねたように鬼鮫が渋い顔で言う。
ああ、失礼。何だかしみじみ不思議になってしまって。現実感のなさがまだ全然拭えていないんだと再認識した。
嫌な顔をされても、何だか目を離せなくてまだ鬼鮫を見てしまう。
デカくて胡乱。皮肉で頭の回転が速い。合理的に見えて非合理に物事に拘る。つまり、意外に情がある。多分。優しくなくはない。仕方なさそうに渋々と、だけど確かに人を気遣う。
面倒くさくて興味深い。
いずれ非業の最期を迎えると知っているからか、いやに愛おしい。このまま、この人らしく、もっと長く生きて欲しい。穏やかに幸せであれ。その為に何か出来たらいいけれど。何が出来るかわからない。
それに、兎に角私も生きなければ。何となく薄ぼんやりしていても生きてはいけない。
今はデレてる場合じゃないってことだ。
眠気が膜のように身体を覆っている。けれど意識を失う程ではない。何か慣れたのかな。それともアドレナリンでオーバードーズしてる?
大蛇丸はこの三指を慣れて使いこなせと言っていた。確かにそれしかないだろう。慣れて、使えるようにならないと日常生活に支障を来す。
触れれば植物が反応する。緑の指だ。チトみたいに使えるようにならなければ。大砲に花を咲かせる気はないけれど。
ーいや、それ多分出来ないな。ないところに植物を派生させるような奇跡の力じゃない、これは。植物に由来して始めて具現化するものだ。
革手袋は羊に化けていないから、植物のみに反応する。手拭い…これはどうなんだろう。綿で出来てる筈だけど、別に発芽しなかった。工程を経て原型から遠ざかっているものだから?そういうことなのかな。なら紙も触っても構わないな。
後で試してみないと。
「…何を考え込んでるんです?」
「は?」
「人を見たまま考え事するのは止めて下さい。気持ち悪い」
「ああ、すいません」
見ながら目に入ってなかった。目の焦点の合わないものに凝視されたらそりゃ気持ち悪いだろう。申し訳ない。
「考え事するにしてももう少し隠した方がいい。分かり易過ぎです、あなたは」
呆れ顔で言って、鬼鮫が何の気なしに私の頭をポンと叩いて脇をすり抜けて行った。洗濯機から内衣を出しているらしい音が聞こえる。
そう言えば内衣が乾くまで私は動かないみたいなこと言ってなかったか?それが今度は早く出るぞと来たもんだ。
思ったより重い鞄をたすき掛けにして、眼鏡を忘れていたことに気付く。やばいやばい。眼鏡は大事だ。寝室に戻って眼鏡を持ち、ふと思い立って薄荷油の小瓶も鞄に突っ込んだ。虫よけにも気付けにもなる。持ってって悪いことはない。…とは言え、何か荷物を減らした方がいいような気もしてきた。
丁度寝室の前を濡れた内衣を来て不快そうな鬼鮫が通りがかった。
「干柿さん。あなた湯呑は要ります?」
「…は?」
「要らなきゃ置いていきますが」
鞄の中から湯呑を二つ出して見せたら、鬼鮫が変な顔をした。
「二つあったんですか」
「実は四つあります」
「はあ。まあ幾つあったって構いませんが」
いやにまじまじと二つの湯呑を見て、鬼鮫はますます変な顔をした。
「あなたもそれを使うんですか」