世は全て事もなし   作:エンギウック

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第63話

飛段と角都、無駄に寿命の長い二人から土の話を聞いてから二か月。

 

人柱のないまま野生化していた三尾の回収に思いがけず手間がかかった。木の葉や大蛇丸も三尾を狙って動いていた為に三尾の追跡と同時に木の葉と大蛇丸の動向を伺う偵察に手間を割かねばならなくなり、更には二尾の封印に縛り付けられた。

 

遺憾ながら角都の言う資金の底上げと言う考え方に同意せざるを得ない部分が出てきたように思える。状況を動かせば人も動く。人が動けば面倒が増える。面倒が増えれば時がかかり、かかる金も嵩んでいく。

 

折に触れふと、ほんの僅かな間でも土に行ってみようかと思わないでもなかった。霜の国のあの家、馬刺の様子を見に行くように。

だが、相も変わらず脆弱な霜の国へ赴くのと、中央政権を敷き、規律と結束力が強固な軍事国家土に赴くのとでは危険の度合いが違う。

増して辺鄙な山奥と、人の行き来が見込まれる農地とあれば、訪うにも気構えが変わってくる。

 

それに。

 

引っ掛かりが空振りに終わったときの、自分の無様さが予測出来て足が鈍った。

個人的に何かに突き動かされている、そういう自分を認めたくない気持ちがある。

 

いずれ必ずあの人は家に戻る。それは確信していた。これまで戻らないのは、戻れない事情があるからだ。そう思えば居た堪れなくなるが、忙しくて何かを、誰かを探すような時間が取れない。

正直、最悪の事態に陥って既に何をしても意味がない状況になっているのであれば、それを直視するのを先延ばしにしたい脆弱な感情があることを否定出来ない。それがまた足を鈍らせる。

 

無様だ。その無様さに拘るそれ自体が更に無様。

 

頭を抱えたくなる。これもまた無様。あんな女と会わなければ良かった。言葉を交わす前に、名前を知る前に、弑してしまえば良かった。

 

それを本気で考えている自分が情けない。平静を保てないことに我慢ならない未熟さが腹立たしい。

 

「よォ鬼鮫ェ」

 

…また出た。

気怠げに腹を搔きながら近付いて来た飛段を見、一気に気分が落ちる。

 

「土に行くんだろ?」

 

二か月前からずっとそう言っているが?

 

「手が足りねえときゃ行ってやっからな?遠慮なく声をかけてくれて構わねえよ」

 

「文字通り手が引き千切れて数が足りなくなってもあなたを呼ぶようなことはないでしょうねぇ」

 

「まァたまた。気にすんなって」

 

「何一つ気にしていませんからお気遣いなく」

 

「遠慮すんなって」

 

「…いい加減しつこいですよ?角都も納得した上の土行きです。絡むのは止めてくれませんかね」

 

「何かぽかっと暇になっちまってよ」

 

「…寝てりゃいいじゃないですか。寝ていなさい。身体を休めて大人しくしていなさい。それが何より一番、誰も彼もの為になります」

 

「寝てばっかじゃ体が鈍ンだろうが」

 

「ならずっと走っていればいい。アジトの周りを永遠に自己駆動していなさい」

 

「走るだけって何か意味あるか?セーサンセイがねえじゃん?」

 

「…生産性?」

 

「そォソレ。セーサンセイ」

 

「あなたに生産性などハナからないでしょう。殺しが教義の信仰をしておきながら何を言い出すんです。面白い人ですねえ」

 

「ぎゃはは。おめぇはなーんもわかってねェな。ジャシン様はァ、捧げるほどセーサンセイが増すんだよ」

 

「ああ。視点を変えれば相対的にそうなるかも知れませんね。生産性があると言っていいかどうかは疑問が残るところですが何かしらが増すという意味では強ち間違いではない」

 

「そう。間違いではない」

 

「文字通り言葉尻を捉えて話していますね?」

 

「俺はおめェの尻になんざ興味ねェよ。気持ち悪ィこと言うな」

 

「…こっちの台詞ですよ。死にたいんですか?」

 

「俺ァ死なねェって何回言やわかんだ、バカ」

 

「やってみなけりゃわかりませんよ?散り散りの肉片になっても生きていられるかどうか、それでも生きているとすればどんなものなのか、試してみますか?ふ。そそられますねえ。私もそうなったあなたがどうなるのか、興味なくもない」

 

「その前に鮫のミンチの一丁上がりだ。いい気になんなよ?おめェこそ死にてェのか?」

 

面白い。良い憂さ晴らしの機会、一瞬そう思って口角が上がったが、ひと息呑んで腹に収める。

 

「今は仲間割れの折ではない。話せば揉めるからあっちへ行って下さい」

 

「あっちもどっちもねェよ。おめェがそっち行けや」

 

「…そっちとは?」

 

「そっちはそっちだ。てめェこそあっちってどっちだよ?あ?」

 

「ここじゃない何処かなら何処もかしこもあっちでどっちです」

 

「おめェ…」

 

嫌な笑いを浮かべた飛段が、ふと笑いを収めて不思議そうな顔をした。

 

「…何です?」

 

気味悪さに思わず問うと、今度はえらく嬉しそうな、楽しそうな笑みを浮かべた。

 

 

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