「ー人柱力は生け捕りが絶対です。馬鹿な真似をするんじゃありませんよ」
「誰が人柱力をヤるっつった?」
飛段が首元の掛守りを弄りながら目を細めた。
「あちこち揉め始めりゃそれだけ儀式もし易くなンだろ?金稼ぎの殺しじゃのんねえんだよ」
「賞金稼ぎをしながら儀式をすれば手っ取り早いでしょう」
「あンま気がのんねえんだって言ってんだろ?賞金稼ぎはよ。俺の目的とは違ェンだよ」
「二尾狩りのついでに大人しく火の寺で坊主を殺してくればよかった。大首でしょう?地陸は」
「小南と角都が結構マジで土の野菜の出来高に興味があるらしくてよ。そっち優先。色々調べてるみてェなんだよ」
「調べる?」
「大蛇丸絡みだって話だぜ?」
「ー大蛇丸絡み?ヤマダとかいう人物が?」
「はっきりしねえから調べてる。そうなりゃ迂闊に手も出せねえからな。実際おめェの土行きが止められてたのもそこらへんがいまいちわかってねえからだ」
「そこまでして農業に首を突っ込みたい?」
「角都はそうみてェだな。何か色々考えてんぜ?」
「しかし大蛇丸絡みとあれば簡単な話ではないでしょう」
自然と眉根が寄る。
大蛇丸が絡んでいる?もし、もしも土にいる人物が思う相手なら、大蛇丸と絡む経緯がわからない。何故そうなった?
自問自答にすぐ答えが出た。
分不相応な術を霜に張らせたのは大蛇丸だったか。
「…成る程」
「あん?何がなるほどなんだよ?」
「いえ…」
二年越しの疑問が解消した気がした。
あの人が消えた、その訳。原因。
「ー大蛇丸でしたか」
「だから何だよおめェ。何が大蛇丸だってんだ?」
「叩きのめしてやらなけりゃならないようですね」
「大蛇丸をか?今表立ってアイツを刺激すんのはあんま頂けねえぞ?だから角都も慎重になってるわけで…」
「いずれぶつかる相手でしょう?今忖度したところで結果が変わるものではない」
「おい。余計なことして仕事増やすなよ」
「余計なことなぞしませんよ。私は任務を遂行するだけです」
四尾を狩る。ヤマダを確保する。
そう。確保だ。弑する理由はなくなった。そう思って妙に気が軽くなるのを感じて苦々しくなる。矛盾した自分の気持ちに整理がつかない。この二年ずっと。
「余計なことをするなはそれこそこっちの台詞ですよ。首を突っ込むんじゃありませんよ飛段」
改めて釘をさせば飛段は肩を竦めて鼻を鳴らした。
「俺が何をしようがおめェにとやかく言われる筋合いはねえ。まあ、お互い関係ねえんだからよ。おめェも俺のすることに首を突っ込むんじゃねえぞ」
「私の獲物に手を出すのであれば関係なくはない」
「…おめェの獲物じゃねえだろ?組織の獲物だ。勘違いすんなよ、鮫」
「何故そう絡みます?」
「おめェが嫌がるからよ。何でそう嫌がんだ?おめェこそ拘ってんよな?いっつも澄ました面したおめェが苛々してンのが面白ェ。そゆこと」
「趣味も性格も悪いことを言いますね。あなたらしい。残念ながらあなたが期待するようなことは何もありませんよ」
「ならそんな意固地になるこたねえだろうが」
「あなたがしつこいからこうなっている」
「ふん?で?土にはいつ発つんだ?」
「この流れであなたにそれを言うとでも?」
「はは。まあそりゃそうか。げははっ」
腹の立つ笑い声を残して飛段が立ち去る。それを見送りながら物思いした。
すぐにも土に発とう。今回はひとりで行かせて貰う。マンセルを組めばむしろ動き辛い。私自身にも探りたいこと、知りたいことがある。
イタチに単独で土に向かう旨を告げなければ。角都とも話しておきたい。
大蛇丸と関わっているというその話を聞きたい。それは大蛇丸の傘下にあるということなのか、ただ囲われているということなのか。どういう立場で大蛇丸と関わっているのだ、あの人は。
土にいるのがあの人だと、もう半ば決めてかかって考えていることに気が付いて苦笑いする。多分、そう思いたいのだ。
あの人を見つけたと、そう思いたいのだ。
手入れを終えたばかりの鮫肌の柄に触れる。
この鮫肌が騒いだ、あの人のあの異質な力。あれが大蛇丸の目に止まって囲われているのだとすれば厄介だ。自ら進んで大蛇丸に与しているとは思えない。人を害する為に大蛇丸の元にいるのではないだろう。そういう思考回路が元からない、あの人はそういう人だ。少なくとも二年前はそういう人だった。
人を傷つけるということの捉え方が生温く異質。いくら市井の人間とはいえ、忍びが各国で幅をきかせるこの政情から見れば温度差を感じる綺麗事のような他者重視の思考。
その温いあの人は、今どうなっているのだろう。
考えかけて止めた。
どうでもいい。まず顔が見たい。生きていることを確かめたい。話はそれからだ。