大蛇丸と関わっている。
それはどういう影響をあの人に与えているのか。思えばイタチが何より厚く感情を向けるうちはサスケもまた大蛇丸の近くに居て関わっている。
大蛇丸は毒だ。強すぎて薬と誤認される毒。扱いに依れば実際薬にもなろうが、その扱いが容易ではない為にただ毒でしかない毒。
そして暁にとっては、目障りで煙たく、厄介な差し障り。
「大蛇丸と緊密に関わっているとすれば扱いをどう考えています?」
この一事に関心を寄せていることを気取られたくない。立ったまま腕組みし、表情を殺して角都を見た。飛段が気になる。まさか土に向かってはいないだろうと思いたいが。
「扱い?」
底の見えた赤い墨汁の墨壺へ腹立たし気に筆を擦り付けていた角都がこめかみに青筋を浮かべて、苛立ちの籠った一瞥をよこした。短気な長老がいよいよ腹を立て始めている。
「下らないことを聞くな。摩擦を避けて穏便に攫って来い」
「後難に関しては問わないということでいいんですかね」
「大蛇丸に関わるものを掠め取るなら後難は当然ある。それに表立つ口実を与えぬよう立ち回る必要がある」
人目に立たず、直接大蛇丸とは関わらない恰好で密かに攫えということだ。
大蛇丸が身近くいなければ、隙をつくことは出来る。土の護衛がついていることも考えられるがその護衛がどれだけのものかが読めないのは面倒、とは言えいずれ四尾を狩る身でその程度のことを気にするものではない。
摩擦は起きる。むしろ起こす為に今動いている。だがヤマダに関する摩擦はまた毛色が違うということだ。
今ある混乱ではなく、この先の安定の為に手中にしたいものであれば判断を分けて動く必要がある。
土とぶつかるのは構わない。大蛇丸を表立って刺激しない。明らかに暁が関わっていると提示する痕跡は残さない。
匂わすことになるのは避けられない。四尾を狩ることと同時にヤマダを攫うのであれば、そこは止むを得ないだろう。
成る程。しかしそんなことは皆どうでもいい。
もしヤマダがあの人であるならばその生殺与奪の権利は私のものだ。
そう言うだけのものが私の中にある。大蛇丸だろうが暁だろうが、渡し得るものではない。
暁に囲うことが都合よく意に敵うものであるならばそれもいい。だがあの人に干渉する権利は渡さない。
「わかりましたよ。ただ首尾よく進めたいならあなたの考えなしの相方を足止めしておいて下さいよ」
「飛段を?」
「土に行きたがってますから。暇潰しに」
「潰せる程の暇を与えていない筈だが。あいつにはビンゴブックの中首を狩って小銭を稼ぐよう言い付けてある」
「全く頭に入ってないみたいですよ、その言い付けは」
「全くあの馬鹿」
角都が苛々と帳簿を閉じて目を細めた。
「仕方ない。赤の墨汁でも買いに行かせるか」
「…ああ…。いいんじゃないですか」
「…赤の墨汁ならデイダラが山ほど持っている」
不意にイタチが口を挟んで来た。
「破裂した際血飛沫のように巻き散る猟奇的な爆弾を作って小銭稼ぎする気でいる」
「デイダラが?小銭を稼いで何をする気でいるんです?」
「経費の分配に不満があるようだ。小南の起爆札に莫大な経費が注ぎ込まれているだろう?あれが気にいらないという話…」
手元の本を書棚に戻し、また別の本を引き出しながらイタチは淡々と続けた。
「ー俺は意外に情報通なのだ。団子を食いながら瞑想する俺をお前たちはその場にいないものとして好き勝手な話をする。そうなると俺は耳年増にならざるを得ない…」
「ちゃんと耳を澄ましている時点でお前のそれは耳年増ではなく聞き耳頭巾だ。そもそも耳年増というの使い方を間違えているぞ、イタチ。それこそそこらの辞典で意味を調べ直しておけ。しかしお前、思ったより俗に生きているようだな。悪くない。今後も金の無駄使いに関する情報は漏れなく俺にリークするように。その都度団子を奢ってやる」
「団子で仲間を売る俺と思ってか、角都よ?」
「今ただで仲間を売ったばかりの口で何を言う」
「…成る程…」
「情報ひとつにつき団子ひと串。十串分貯めたら十一串提供してやる。二十串なら二十三串。三十串なら三十五串。貯めれば貯めるほど団子が増える。五十串貯めたら六十串、百串貯めたあかつきには百五十串の団子と更に羊羹をひと棹付ける」
「……!」
イタチが目を見開いて角都を見た。
「…そんなに…そんなに食っていいのか、甘物を…」
「好きに食うがいい。お前の働きに対する正当な報酬だ。誰に恥じることなく血液を糖分で染め上げるがいい」
「…今までそんな風に言ってくれた者は家族にも友にもいなかった…」
「…それはあなたの身体を気遣ってくれていたからじゃないですかね?」
堪りかねて口出しすると、イタチが冷たい一瞥をくれてよこした。
「お前には俺の気持ちはわかるまい」
「まあ…。私は取り立てて甘いものへの執着はありませんからね」
「ならば黙っていろ」
「マンセルを組んでいる身の上としてはあなたにこれ以上身体を損なわれても困るんですがね」
「黙れフカヒレ」
「…ちょっと何でそこまで言われなきゃならないのかよくわからないんですが」
「わからないなら黙っていろ。これは俺と角都の話だ。お前には関係のないこと」
「関係ありますよ。マンセル組んでるから身体を損なわれても迷惑するって言ってるんですが?」
「誰が身体を損なうと言った?」
「…損なわないと言い張れば壊れないとでも思ってるんですか?」
「…意思の力…」
「正気になって下さい。心と身体は別物です」
「鮫の話など気にするな。イタチよ、世の中には一心同体という言葉がある」
角都に言われてまたイタチが目を見開く。
「一心同体…。正に…」
「…イタチさん。耳年増のついでに一心同体の意味も調べてみた方がいいですよ?」