改めて目の前の女をジロジロ眺める。頭巾は顔を隠す為に被っていた訳ではなさそうだ。岩石雨避けの頭巾か。引き剝がされても慌てて被り直すような素振りもなく、まともにこっちを見返してくる。
ピシピシぶつかってくる岩の欠片が痛いのか、盛大に顔を顰めている。あれ、もしかして俺と話したくなくてヤな顔してんのか?はは、いいねえ。いいじゃねえか。
細身の体に纏った蓬色のとんびみてえな外套、その中から薄く黒みがかった青い内衣の徳利首が覗く。墨色の脚衣に頑丈そうな編み上げの革靴、全く色気も素っ気もない恰好だ。何より暑苦しい。
まあ石礫が飛んでくる強風の中ならこんな恰好が丁度いいんだろうが、染みみてえな地味臭さ。黒一色の方がまだこう、洒落てていいよな。
「アンタ地味だなあ」
思わず口をついて出た。
「余計なお世話だ」
間髪入れず硬い声が返って来る。
「やっぱ農業系のお仕事してると汚れが気になってそういう感じのカッコになっちゃうワケ?」
「私はヤマダじゃありません」
「別にアンタがヤマダだなんて言ってねえよ?あれ、俺、"土"のヤマダが農業系のヒトって話したっけ?」
のんびり突っ込むと、女が口を開きかけ、引き結んだ。
「アンタ地元のヤマダは山ほど知ってても"土"のヤマダは知らねえって言ったよな?」
口籠る女に、身内がうずうずするような快感が湧く。獲物をじわじわ追い詰めて口に咥え込む悦び。
「なあ?」
また腰を屈めて顔を覗き込む。黒い目が見返してくる。
何だよ、まだ見返してくるか。案外気が強ェな。
「嘘吐いたのか?」
「畑だ野菜だって話した後にヤマダさんを探していると言われれば、そりゃそっち関係の人かなと思いますよ」
「ふーん?」
腰を伸ばして、辺りを見回す。
「ま、いいや。ここらに飯食えそうなとこあるか?」
「…それこそ町場へどうぞ。あっちへ走ればあなたの足ならあっと言う間に着きますよ」
さっき指差した方をまた雑に指し示し、女が頭巾を被り直す。
「そろそろおやつ時だ」
「まあ…そうですね」
「アンタ、甘いモンは好きか?」
「あんまり」
「辛党?」
「多分どちらかと言えば…」
「自分のことなのに多分てこたないだろよ」
「そうですね。甘いものよりお酒が好きです」
「じゃ飲みに行こうぜ」
「は?」
「もうちょっとお話聞かせて頂戴な。ねえ、ヤマダちゃん?」
「私はヤマダじゃありません」
「じゃあ何て呼べばいんだ?アンタ名前を言わねえじゃねえか」
「関わり合いになる気がないので、名乗るつもりもありません」
女は両の手を突き出し、掌を立てて後退した。
「私、黒地に紅い雲の外套を着た方々とは関わり合いにならないことに決めているんです。どうぞお引き取りを」
「お。何だやっぱ暁を知ってんのか?」
「知っているというか…知った気になっているというか…」
「あん?」
訳の分からないことを言う。
「何ソレ結局どういうことよ?」
「ほぼ知りません」
「ちっとは知ってんだな?アンタ忍?全然チャクラなさそうだけど」
「ご察しの通り私はチャクラなど皆無の一般人です。ですからあまり一般的ではないあなた方とは接触を控えさせて頂きたい…」
「かったいこと言うなって。折角遊びに来たのによー」
「遊びに来る場所を間違えてますよ。ここはあなたが遊びに来ていいところじゃないでしょう?」
女が呆れた様子でちょっと笑った。
「遊びたければよそへどうぞ。…息抜き出来る場所を探すのも難儀でしょうが、この国は遊び向きじゃない」
「遊び方にも色々あってよ」
ぐっと身を乗り出して女の腰を抱き抱える。
「ぅわッ、ちょ…、止め…」
「俺が楽しいなと思えば何でも遊びになんだよ、コレが」
暴れる女を抱え上げて元来た道を走り出す。
「ば…、止めろバカ!い…いだだだだだ…ッ」
吹きつける岩石の雨に女が声を上げ両腕を顔の前で交差した。
「頭巾を下ろして下ァ向いてろォ。もっと走るぜ。目を開けるな」
「下ろせバカ!い…、痛い痛いいだだだだッ!止めろ下ろせ!ちょ、マジいだだだだだッ」
「口も閉じてろ。石が歯に当たったら砕けんぞォ?」
「…ぁが…ッ」
女が腕の中で頭を仰け反らせた。
おっと。手遅れか。
「おい。大丈夫か?何処に当たった?」
足を止めて下ろしてやれば口を押えて顔を上げない。ぼたぼたと荒れた土の上に血が滴り落ちた。
「あら。マジ?歯、いったか?」
それとも口周りか。
さすがにちょっと申し訳ない気になって顔を覗き込んだら、引っ叩かれた。
「…ぉおう…。やるねえ」
打たれた頬を押さえて口元を血だらけの手で押さえる女を見返したら、どうしようもなく興奮してきた。