「例えば挽肉になっても、後で復活出来たり…しますよね?」
こっちの考えてることをあっちも考えてたらしい。
「知るか!やったことねえのにそんなんわかるか!」
「新しい可能性の扉が開きますねえ…」
「…おめェマジ次会ったら覚えとけよ」
「そりゃこっちの台詞だ」
溜め息を吐いて口元を撫でた女が、眉根を寄せてこっちを見た。
「と、言って私があなたに何か出来る訳でもないから、もう会いたくないとしか言いようがないなあ…」
「次があるかって?あるに決まってら。そンときゃ歯の一本二本じゃすまねえからなァ?」
「ちょっと非対称過ぎませんか?私はあなたを拘束しただけ、あなたは私を攫いかけて歯を折った上に殺しにきましたよね?」
「歯は俺が折ったんじゃねえだろ。恨むならおめェの歯にぶつかった石っころを恨めよ」
「あなたがあんなことしなけりゃ折れなかったんです。原因はあなたでしょうが」
「おめェの歯が弱すぎなんだよ。カルシウム摂れ。煮干しを食え」
「はいはい。これからそうします。じゃ、私はもう行きますね」
「待て!待て待て待て!これを何とかしやがれこの!何なんだよコレは!」
「何って…岩絡みです。紫陽花の仲間ですよ。こういう荒れた岩場で岩に根を張って頑張る健気な植物です。白くて可愛い花が咲きますが…咲いてた方が慰めになります?それなら咲かせていきますよ?」
「要るかバカヤロウ!!」
「そうですか。じゃあ私はこれで」
「おめェやっぱヤマダだな?」
植物に干渉する妙なこの力、土の農業生産を上げたのはコイツだ。絶対そうだろ。謀りやがってこのクソ女。
「…そう呼ぶ人もいますが、私は本当にヤマダじゃないんです。些細な食い違いがそのまま名前になってしまったというか、軽弾みな自己紹介の自業自得というか…」
頭巾を被り直して女は苦笑いした。
「まあ、そう呼びたければヤマダと呼んで下さい。でなければ名無しと呼んで下さればいい。もう会いたくはありませんが、いずれ万が一会ってしまったときはそのように。もう名前は聞かないで下さいよ」
「おいコラ待て!」
「待てって言って待つ人は不思議とあまりいない。言葉って無力ですねえ…」
どうでもいいことを言い置いて、女は背を向けて歩き出した。
あ、ムカつく。いやムカつく。くッそムカつく。
「ヤマダァア!!」
大声で呼べばだからヤマダじゃねえっつってんだろってな顔が振り向く。
「よォし、こっち向いたな!おめェはヤマダで決定だァ!!」
ならそれでいいっつってんじゃんって顔が可笑しそうに笑った。
「面白いゾンビ」
「ちょ待てゴラ。おめェにゾンビ呼ばわりされる覚えはねぇぞ」
「そうですね。私はそういう現場を見てはいないから、決めつけられない」
女改めヤマダが真顔で頷いた。
「ホント知った気になってるだけで世話がない。下らないったらない」
苦々しげに言って、ヤマダは三つがけを右手にはめ直した。
「ーあなたは本当に何しにここへ?」
「おめェに会いにだよ」
「老紫さんに用があったのではなく?」
「四尾に用があるのは俺じゃねェよ」
「そうですか。ではいずれ用のある方がここに来るということですね」
ぐっと口を引き結び、ヤマダは何処か痛んだような顔をした。
「ならあなたも大丈夫ですね。その人に拘束を解いて貰えるでしょう?お仲間なんですから」
「…おめェ俺らの関係を甘くみんなよ?何ならトドメ刺されかねねえぞ、俺は」
「そうかぁ…。それはご愁傷様です…。何かごめんなさいね、そうなったら」
「おい」
「でもほら、あなたは死なないんでしょう?それはそれで気の毒な気もしますが」
岩雨の降る青い空を上目で見上げ、ヤマダは凄く変な顔をした。泣きそうな、笑いそうな、痛そうな、辛そうな、何だかわからないごちゃごちゃな顔つきだ。
「まあ、お互い頑張りましょうね。お身体お大事に」
一際強い風が吹いて、ヤマダのトンビの裾が大きく翻った。身体を持っていかれかけたヤマダが足を踏ん張ってトンビの端を掻き寄せた。
「さよなら」
「あ、おい!」
声をかけてもヤマダはもう振り向かなかった。大股でガシガシ歩いて、振り向かない。
「…何だアレ…」
呆気にとられて呟いて、ふと自分の状況がひとつも変わっていないことに気付く。気色悪い小枝が細い根を風に揺らせて纏わり付いている。
「ちょ、ヤマダァア!!これ何とかしてからサヨナラしろ、バカッタレー!!!」
岩雨に攫われて四散する叫び声が我ながら虚しい。何だってこんなことに、と思ったら笑いが込み上げて来た。
ムカつくヤマダが。マジ覚えてやがれ。
ふと思いついて、あ、と手を打ちたくなった。
鬼鮫の名前を出してやりゃ良かった。もし知り合いならどんな顔をしやがったか。しくじった。
だがまあ、それもお楽しみだ。このままですますと思うなよ。ヤマダ。