三つがけをつけた右手を見おろしながら笑う。握って、開いて、また握って左手で庇うように撫でる。こういう癖がついてしまった。嫌な癖だ。
それを見る大蛇丸の視線を感じる。薄っすら笑う気配も。
「で?結局土での成果は?」
トーンを変えて聞かれて、右手から左手を離す。
「今のところ悪くない。でも維持出来る形ではありません。土壌に合う植生を増やして土地を肥やすこともですが、岩雨が厄介です。…岩の欠片が降るってやっぱりおかしくないですかね?」
「おかしくたって降るんだから仕方ないでしょう。それを何とかしに来たんじゃないの?」
「岩の雨なんかどうにも出来ませんよ。防御するのがいっぱいいっぱいで…」
「岩をなくしたらいいわ」
「険しい岩山は国の守りだと言われればそれまでですよ。第一私にこの国の岩が何とか出来るとでも?」
「岩は門外漢だものねえ」
「岩に這いつく植物で固定出来たらいいんですがねえ。岩が砕けるほどぶつかり合うから岩片が生じる訳で、それを防げれば…」
飛段を拘束した岩絡みを思い浮かべる。あれは岩にも根を下ろすことが出来る強い植生だ。あの特性を伸ばせば岩をある程度固定出来ないだろうか。飛段を釘付けにしたように。
「…強い風も問題なんですよ。表土を吹き飛ばしてしまうから土壌に栄養素が蓄積しない。防砂林でも作ればいいんですかね」
「柔軟性のある植生は風が強すぎたら地生えみたいに這い蹲って伸び出すでしょう?まっすぐ伸びるものは風で折れる」
「松を植林すればとも思いましたが」
「防砂って発想がここじゃ温い。塞がなきゃならないのは砂じゃなく岩の欠片よ」
「松じゃ幹が傷付いて立ち枯れするか…」
「虫も付き易くなるわねえ。そうなればその手入れに人手が取られる」
「今のところワイヤーに蔦や蔓を這わせて岩雨を防いでいるんですが。岩雨のないときに屋根を上げて採光する恰好で」
「ワイヤーねえ」
「ワイヤーを編んで強化するのが手間ですね。蔦や蔓の重量に耐えられる強度にする為には撚り合わせなければならないけれど、ワイヤー自体の重量が増せば屋根を上げる作業が困難になる」
「面倒なことしてんのねえ」
「面倒でも農業従事者が自力で対応出来る形にしたいんですよ」
チャクラとか水遁とか火遁とか、そういうことじゃなく地に足をつけて頑張って頂きたい。いざというときにも自力で解決できる状況を敷いて去りたい。
「あんまり深入りするんじゃないわよ」
「え?」
「親身になれば甘えさせることになる。適当なところで突き放さなきゃ結局腐らせることになるに決まってる」
「決まってるんですか」
「決まってるわ」
「また極端な」
「アンタ、本気の慈善事業してる訳じゃないでしょ?」
「……」
確かにその通りだ。私にはそれなりの目的がある。
「目先のことに囚われて目的を見失ったら馬鹿をみる。上手く立ち回れないんじゃこっちもアンタを放置してはおけない。何もかも好きにしたいんなら指を置いて出てくことね」
「指を置いてはいけないですよ」
「今まで世話してやった恩返しだと思いなさいよ」
「また生えてくるんならいいですけどね。でなきゃ無理です」
「あら。そうなの?じゃ生やしてあげるからよこしなさい、右手の指を三本とも」
「本気ですか」
「本気で三本」
「いや、また指を生やせるって話」
「出来なくはないわよ」
「出来なくはない…。そうですか。本当に次があるなら差し上げますよ。三本」
「…え?」
「また生えるんでしょう」
「他人の指を接ぐことになるかも知れないけど」
「それはちょっと…かなり抵抗あるな…」
「いや…アンタ自身の指を返すことも出来る。ちょっと時間がかかるけど」
「細胞培養するとかそういうんですよね?前に失敗してませんでした?」
「指自体は出来たのよ。使い道が継承されなかっただけで」
「使い道継承されなくても自分の指が問題なく使えたら構いませんよ、私は。本当言ったら生えてきてくれるのが一番いいけど」
「アンタ自身にそこまでの素養がないでしょ?チャクラ皆無の一般人」
「チャクラがあったら生えてくる?」
「さあ…でもまあ、絶対無理とも言わないわ」
「便利ですねえ、チャクラ」
「アンタには関係ないものだけどね」
この二年、大蛇丸は様々なことを教えてくれたが、チャクラに関してはけして触れなかった。多分チャクラなしで発現する力を追求したいからだろう。
「…アンタの指を貰ったところでそれがただの指じゃ意味ないのよね」
培養された指がただの指だったように、切り落とした私の指がただの指では意味がない。
それを確認する為にも指を落としたがっているのだろうと思う。落とした指ではなく、接がれた新しい指にまた力が宿れば、それは力のありどころが指ではなく私の中の何かということの証左になる。
大蛇丸が私を消費しきらず泳がせる理由はそこにあるのだろう。でなければとっくに死ぬか廃人にされているかだったかも知れない。免れているものが大きいのは自覚している。