新統合軍・辺境宙域補給基地。
薄暗い格納庫には、長年使われなくなった機体達が並んでいた。
旧式VF。
部品取り待ちの機体。
解体予定のフレーム。
その一角でセスは足を止める。
「……」
灰色の巨体に鋭い機首。独特の可変翼を持つ機体。
YVF-22VG。
まるで、時代に置いていかれた猛禽類みたいだった。
整備主任が端末を見ながら言う。
「そいつか?」
セスは機体から目を離さない。
「VG仕様なんですね」
「試験機だよ」
主任は肩を竦める。
「柔軟外板の代わりに可変後退翼を使った廉価モデルだ」
「結果は?」
「ボロ負け」
即答だった。
「従来型22の方が性能は上。ステルス性も負け。維持費改善も微妙」
主任は鼻を鳴らす。
「お偉方は19改修計画に夢中だしな。こっちは打ち切りさ。作った奴も浮かばれねぇだろうよ」
セスはゆっくり機体へ近付く。
指先で装甲を軽く撫でた。
冷たい。でも、不思議と嫌じゃなかった。
「処分待ちですか?」
「博物館送りか解体だな」
「……」
「興味あるのか?」
セスは少し笑う。
「いやぁ」
「うん?」
「なんか他人事に思えなくて…」
主任が片眉を上げる。
セスはYVF-22VGを見上げた。
“優秀な兄弟機には勝てない”
“時代遅れ”
“扱いづらい”
そんな評価が妙に自分へ刺さる。軍を辞める自分と少し似ていた。
セスはコックピットハッチを見る。
「乗れます?」
主任は呆れた顔をした。
「まだ飛ばす気か」
「最後くらいお願いします」
数十分後。格納庫にて、YVF-22VGのエンジンが唸る。
整備員達がざわついていた。
「マジで飛ばすのか」
「退役前日に?」
「好きだねぇ」
コックピットの中でセスは静かに操縦桿を握る。
古い癖で自然と深呼吸した。
『システムオールグリーン』
機械音声。
セスは小さく笑う。
「よろしく。セス・バルザック、行きます!」
発進。
YVF-22VGが滑走路を駆ける。
加速し、機体が浮く。
その瞬間だった。
「……っ」
セスの目が見開かれる。
軽い。
反応が鋭い。
だが同時に、どこか不安定。
操縦者へ“考える余地”を求めてくる飛び方。
教本通りでは応えてくれない。
まるで、パイロット自身を試しているみたいだった。
セスは自然と笑っていた。
「ははっ……!」
機体が空へ跳ね上がる。
ロール。
急旋回。
YVF-22VGが獰猛に空を裂く。
管制が慌てた声を飛ばす。
『セス中尉! 許可外機動は――』
「退役するんで勘弁してくださ~い」
『おい!!』
セスは笑う。
久しぶりだった。
心の底から、ただ飛ぶ事が楽しいと思えたのは。
数分後。何事もなく機体は着陸。
ハッチが開き、セスが姿を現す。
整備員達が呆然としていた。
主任が煙草を咥えながら近付く。
「……気に入ったか?」
セスは機体を見上げながら静かに言った。
「この機体…俺にください」
主任が吹き出した。
「無茶言うな」
「退職金代わりに」
「機密の塊だぞコイツ」
「知ってます」
「個人所有なんて前例ねぇよ」
セスは少し黙る。
それから困ったように笑った。
「……こいつ、多分」
YVF-22VGを見上げる。
「まだ飛びたがってる」
格納庫が静かになる。
主任はしばらくセスを見ていた。
退役寸前のパイロット。
どこか疲れた目。
それなのに今だけは妙に生き生きしている。
主任は深々と溜息を吐いた。
「……本社に頭下げるの俺なんだが」
「お願いします」
「面倒臭ぇ奴拾ったなぁ」
ぼやきながらも主任は少し笑っていた。
その時、セスはまだ知らない。
この機体が、自分の“最後の居場所”になる事を。