深夜の格納庫。
整備用ライトだけが、灰色のYVF-22VGを照らしていた。
静かな時間。工具音だけが小さく響く。
その機体の足元で、マキナ・中島が端末を覗き込んでいた。
「んん〜……」
難しい顔。
「やっぱこの子ヘン」
「失礼だなぁ」
セスが笑う。
パイロットスーツの上半身だけ脱ぎ、
棒キャンディーを咥えて機体へ寄りかかっていた。
マキナは真顔で言う。
「褒めてるの」
「なら良し」
「普通こんな制御バランスしないよぉ」
YVF-22VGのデータが浮かぶ。
VF-22系特有のピーキーさ。
そこへVG翼仕様。
しかも個人改修。
結果、かなり気難しい機体になっていた。
マキナは首を傾げる。
「よくこんなの乗れるねぇ」
「慣れだよ」
「いや絶対違う」
即否定。
セスは笑った。
マキナは機体を見上げる。
「でも不思議〜」
「ん?」
「この子、セス君の時だけ嬉しそう」
「機械に感情はないよ」
「あるよぉ」
マキナはさらっと返す。
「少なくともクセはある」
セスは少し目を細める。
それは否定しきれなかった。
YVF-22VGは、確かに他人が乗ると露骨に扱いづらくなる。
逆にセスだと、嘘みたいに応答性が安定する。
「最初はさ……別にコイツ欲しかったわけじゃないんだ」
セスがぽつりと言う。
「え?」
マキナが振り向く。
セスは機体を見る。
灰色の翼。
少し懐かしそうな目だった。
「退役する時に見つけてね」
「うん」
「処分待ちだった」
マキナが少し眉を下げる。
YVF-22VG。
評価失敗。
量産計画凍結。
用途不明。
普通ならスクラップか博物館行き。
「なんか他人事に見えなくて」
セスは苦笑した。
「用済み同士って感じ?」
その言い方が妙に軽くて、逆に寂しかった。
マキナは少し黙る。
セスは続けた。
「僕も軍でさ、最後の頃はボロボロだったし」
「……」
「飛び方も荒れてた」
それは病気の兆候だった。
腕の異変。
感覚異常。
死へ向かう身体。
当然、軍も気付いていた。
でもセスは、そこをあえて軽く話す。
「だから丁度よかったんだよ」
「この子と?」
「うん」
セスはYVF-22VGの装甲を軽く叩く。
「欠陥機と欠陥パイロット」
「むー」
マキナが不満そうな顔をした。
「その言い方キライ」
セスが少し驚く。マキナは頬を膨らませる。
「この子、ちゃんと飛んでるもん」
「……」
「セス君も」
格納庫が静かになる。
セスは新しい棒キャンディーを取り出す。しかし、改めて咥える事はしなかった。
マキナは機体を見上げる。
「ねぇ」
「ん?」
「今は好き?」
セスは少し笑う。
「誰を?」
「この子」
数秒。
セスはYVF-22VGを見る。
初めて出会った時は、ただの残骸みたいだった。
誰にも期待されない翼。
でも今は違う。
空へ上がる度、ちゃんと応えてくれる。
風を掴む。
無茶へ付き合う。
帰って来る。
まるで、自分をまだ飛ばそうとしてくれているみたいに。
セスは小さく笑った。
「……過去最高の相棒だよ」
マキナが嬉しそうに笑う。
「えへへ〜」
「何その顔」
「嬉しいから」
マキナは機体をぽんぽん叩く。
「よかったねぇ22ちゃん」
「名前みたいに言うな
「だって嬉しそうだもん」
セスは苦笑する。でも否定しなかった。
少し前まで、自分はもう終わった人間だと思っていた。
でもこの機体と出会って。
デルタ小隊と出会って。
ミラージュと再会して。
気付けば、まだ空を飛んでいる。
人生って本当に分からない。
セスはYVF-22VGを見上げる。
「……なぁ」
「んー?」
「コイツ拾った時さ」
「うん」
「まさか恋まで拾うとは思わなかった」
マキナが一瞬固まる。
次の瞬間。
「えっっっっっ!?!?」
格納庫へ盛大な悲鳴が響いた。