夜遅くのラウンジは、人も少なく静かだった。任務終わりの気怠さが艦内全体に漂っている。
その一角。
ソファにだらけるように座ったハヤテ・インメルマンが、炭酸の缶を傾けながらぼやいた。
「はぁ〜……疲れた」
「お疲れさん」
向かいでは、チャック・マスタングがナッツを摘んでいる。その横ではセスが缶コーヒー片手に煙草を弄っていた。
「ハヤテ君さぁ。今日また怒られてたね」
セスが笑う。
「うっさい」
「ミラージュ、怖かったなぁ」
「だからうっさいって」
チャックが吹き出す。
「でもお前、今日の編隊飛行で変な機動入れ過ぎだぜ」
「避けられたんだから良いだろ」
「良くねぇよ。後ろが死ぬ」
そんな他愛もない会話。だが不意にラウンジのスピーカーから曲が流れ始めた。
少し懐かしいメロディ。
セスが目を細める。
「あー……懐かしいな」
ハヤテが顔を上げる。
「知ってんの?」
「まぁね。昔よく聴いてた」
チャックがニヤリとする。
「へぇ、セスってどんなの聴くんだ?」
「んー?」
セスは少し考え込む。
「やっぱランカ・リーかなぁ」
ハヤテが意外そうな顔をした。
「え、ランカ?」
「意外かい?」
「いや……なんかもっと渋いの聴いてそう」
「失礼だなぁ」
セスは笑う。
「いいじゃん、“星間飛行”」
「おっさんがキラッ☆とか言ってんの想像するとキツいな」
「キラッ☆」
セスの渾身の決めポーズにチャックが腹を抱えて笑った。
セスは苦笑しながら缶コーヒーを傾ける。
「でもさ、あの子の歌って軽やかなのに前向きなんだよね。なんか、“生きてて良いんだ”って感じする」
その言い方が妙に優しくて、ハヤテは少しだけ不思議そうな顔をした。チャックがニヤニヤする。
「へぇ〜。セスってそういう趣味なんだ」
「チャック君は?」
「オレ? オレはやっぱ島の民謡系かなぁ。落ち着くし」
「あー、分かる」
「おっ、セス分かる?」
「波の音っぽいリズム好きなんだよね」
「意外と渋いじゃねぇか」
するとハヤテがソファに沈み込んだまま呟く。
「オレは別に、好きな歌手とかあんまねぇな」
「えー、若者っぽくない」
「うるせぇ」
セスが面白そうに笑う。
「じゃあワルキューレで誰派?」
「派閥あんの!?」
「あるある」
「あそこまで個性派揃いだとそれぞれにファンはつくよ」
チャックとセスがニヤニヤしながら視線を向ける。ハヤテは露骨に嫌そうな顔をした。
「おっさん共め。めんどくせぇ……」
「ちなみに俺はフレイアちゃんかな」
セスの発言にハヤテの目が細くなる。
「……へぇ」
「その顔は何かな~?」
「別に」
チャックが吹き出す。
「お前、分かりやすすぎだろ」
「だから何が!」
セスはけらけら笑っていた。
その笑い方が妙に自然で、ハヤテは少しだけ毒気を抜かれる。
ふと、ハヤテは聞いた。
「……なんでランカなんだよ。同じ時期ならシェリル・ノームも有名だろ?」
セスは少しだけ考える。それから、静かに答えた。
「優しく包み込むような感じだからかな。シェリルも好きだけどあの子は生命力を注ぎ込むような感じ。鎮静剤と興奮剤。どちらが優れているとかじゃなくて好みの問題だよ」
ラウンジが少し静かになる。
ハヤテは缶を傾けながら横目でセスを見る。その表情は穏やかだった。
けれど時々、この人は妙に遠くを見る。まるで今いる場所から少しだけ離れた所に立ってるみたいに。
だからハヤテはつい口を開いていた。
「……アンタさ」
「ん?」
「結構、寂しがりだよな」
セスが目を瞬かせる。
数秒後。
「はは」
困ったように笑った。
「君、たまに鋭いねぇ」