ウィンダミア空中騎士団旗艦。
ブリーフィングルームの空気はどこか張り詰めていた。大型モニターには先日の戦闘データが映し出されている。
その中で何度も再生されている一機。
灰色の可変戦闘機。
YVF-22VG。
そして機首に描かれた――敬礼する鶏。
「……なんだあれは」
テオ・ユッシラが真顔で呟いた。
隣のザオ・ユッシラも腕を組む。
「鳥だよな…?」
「鶏だろう」
低く返したのはボーグ・コンファールトだった。彼は露骨に眉を顰めている。
「何故、戦闘機に鶏を描くんだ? もっとこう竜とか不死鳥とかあるだろ」
「しかも敬礼してるぞ」
「意味が分からん」
双子が首を傾げる。
モニターの中では、その“鶏野郎”が恐ろしい機動でドラケン隊を翻弄していた。
高機動。
だが型に嵌らない。
軍教本から逸脱した軌道。
「飛び方が気持ち悪い」
ボーグが吐き捨てる。
「動きに一貫性がない」
すると壁際で黙っていたキース・エアロ・ウィンダミアが静かに口を開いた。
「……いや」
全員が彼を見る。
キースは映像を見つめたまま言った。
「一貫している」
「殿下?」
「これは“人間の飛び方”だ」
部屋が静かになる。
映像の中でYVF-22VGが急減速。
普通なら失速するタイミング。
しかしそのまま半回転し、ドラケンの死角へ潜り込む。
ボーグが舌打ちした。
「臆病者め」
「そう思うか?」
キースは少しだけ目を細める。
「むしろ逆だ」
「…どういう事です?」
「死線を知っている飛び方だ」
その言葉にルースがモニターを拡大する。
機首の鶏が大映しになった。
「しかし…」
ヘルマン・クロースが髭を撫でる。
「異様な機体ですな」
「VF-22系列か」
「だが翼構造が違う」
キースは静かに頷く。
「実験機だろう。恐らく、相当癖が強い」
ボーグが鼻を鳴らす。
「乗り手も変人という訳か」
するとザオが急に笑い始めた。
「なぁ、異名付けようぜ!」
「異名?」
「ほら、敵エースにはあるだろ!」
テオも乗ってくる。
「灰色の死神とか?」
「カッコよすぎ。こいつにはもっとこう……」
二人はモニターを見た。
敬礼する鶏。
数秒の沈黙。
そして――
「「チキン野郎!!」」
部屋が静まり返る。
ボーグが吹き出しかけた。
「……ぷっ」
「ボーグ笑った!」
「笑ってない!」
だが口元が僅かに震えている。
ヘルマンは深々と溜息を吐いた。
「貴様ら……」
しかしキースは、意外にも小さく笑った。
「悪くない」
「殿下まで!?」
双子が嬉しそうに顔を見合わせる。
その時。
モニターの中でYVF-22VGがドラケン隊の包囲を抜けた。
誰よりも自由に。
誰よりも危うく。
キースはその機影を静かに見つめる。
「……妙だな」
「何がです?」
ヘルマンが問う。
キースは微動だにせず言葉を紡ぐ。
「あの機体」
「?」
「まるで、“死ぬ場所”を探して飛んでいるようだ」
その言葉に部屋の空気が少しだけ重くなった。
だが双子だけは気付いていない。
「よーし決定!」
「チキン野郎!」
「やめんか馬鹿者!!」
ヘルマンの怒声が響き、ブリーフィングルームに笑いが漏れた。