ゼネラルギャラクシー社・統合航空技術開発局。
巨大モニターに一機のVFが映っていた。
灰色。
可変後退翼。
YVF-22VG。
会議室には重苦しい沈黙が流れている。
映像の中でYVF-22VGが敵機編隊へ突入した。
急制動。
慣性を無視したような反転。
失速寸前の機首制御。
普通ならスピンする。
だが機体は墜ちない。
まるで風へ引っ掛かるように、あり得ない軌道で滑っていく。
技術主任が眉を顰めた。
「……今の何だ」
誰も答えられない。
別角度映像。
YVF-22VGがデブリ帯を抜ける。
回避軌道が異常だった。
コンピューター推奨ルートを完全無視。
なのに被弾ゼロ。
副主任が端末を確認する。
「姿勢制御補助、途中で切ってます」
「は?」
「マニュアル制御へ移行」
「戦闘中に?」
ざわめき。
映像内のセスはまるで機体を“滑らせて”いた。
推力だけじゃない。
空気流。
慣性。
微細振動。
全部を感覚で繋いでいる。
解析班が困惑した声を上げる。
「この機動、再現不能です」
「シミュレータ結果は?」
「再現率12%以下」
「低過ぎるだろ」
「というか普通は墜落します」
別の技術者が呻く。
「YVF-22VGにこんな挙動余裕ないぞ…」
そこへ、老技術顧問がぽつりと言った。
「いや」
全員が振り向く。
老人は映像を見つめたまま呟く。
「機体側が応えてる」
沈黙。
若手社員が怪訝そうに聞く。
「……どういう意味です?」
老人は腕を組む。
「22系は元々そうだ」
「?」
「乗り手を選ぶ」
モニター内。
YVF-22VGが限界旋回。
翼が悲鳴みたいに震える。
普通なら空中分解してもおかしくない。
しかし、その瞬間だけ機体が“粘る”。
副主任が唸った。
「機体特性限界値を越えてる…」
「違う」
老人が首を振る。
「越えてない」
「え?」
「限界の“使い方”を知ってる」
会議室が静まり返る。
再生。
停止。
再生。
技術者達は何度も映像を確認する。
だが分からない。
理論が見えない。
ある若手が苛立ったように言う。
「こんなの偶然ですよ」
間髪入れずに老人が低く返した。
「偶然で空戦は生き残れん」
再び空気が重くなる。
そこへ別モニターが起動。
セスのプロフィール。
元新統合軍中尉。
辺境勤務。
実戦回数多数。
現在フリー契約。
死亡率の高い宙域で異常な生還率。
若手社員が顔を引き攣らせた。
「…なんですかこの戦歴」
「生き残り過ぎだろ」
「しかも全部旧式機運用?」
老人は静かに笑った。
「“空に好かれてる”タイプだな」
誰かがぼそっと呟く。
「イサム系ですか?」
即座に別人が否定する。
「いや違う」
「もっと危うい」
モニターの中でYVF-22VGが敵機を撃墜する。
その飛び方はどこか綺麗だった。
でも同時に
副主任が低く言った。
「……このパイロット」
「?」
「死ぬ事を怖がってないとか?」
会議室が静かになる。
老人だけが、じっと映像を見ていた。
やがてぽつりと呟く。
「少し違うな」
「え?」
「死に場所を探して飛んでるのだ」
その言葉に誰も反論できなかった。
数秒後。
開発局長が口を開く。
「確保しろ」
全員が顔を上げる。
局長は続けた。
「YVF-22VGは失敗作じゃない」
「……」
「“乗り手が居なかっただけ”だ。これなら勝てる。新星インダストリー社に勝てるぞ!!」
そしてモニターの中では、灰色のVFがまるで生き物みたいに空を裂いていた。