スバル「せっかくなので死んだふりをしてみようと思う」   作:空見大

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1万回こすられたネタの1万1回目です。
シリーズものでゆるくやれたらと。
もう片方のリゼロのシリーズもまだまだ掲載予定なので、両方楽しんでいただけると幸いです。
もう片方のタイトル
スバル「強くてニューゲー…これ本当に強い?」

更新ある日は12時、20時更新予定です


スバル「せっかくなのでメィリィに死んだふりをしてみようと思う」

「何を言いだすかと思えば、バルスはついに頭がおかしくなったようね。エミリア様に見てもらうといいわよ」

 

心地の良い風が吹きつける屋敷の一画で突如としてスバルがつぶやいた言葉にラムは表情一つ変えずにそうつぶやいた。

大罪司教を討伐し、この世界が平和になってからどれほどの時が経っただろうか。

死というものが身近な物であったはずの世界においてもはや死はそれほど近くに有る物ではなくなってしまい、スバルの口にした言葉も冗談として受け入れられるに相応しい言葉にまで成り下がっていた。

だが言葉を発した当の本人は微笑を浮かべたままラムの言葉を受けても話を続ける。

 

「今度の避難訓練でやろうと思ってるんだ。平和になったとはいえまだまだ世界中が平和になったってわけじゃないし、危険はいつどこにでも潜んでいるって知るには丁度いいだろ?」

 

「余計なお世話よ。平和ボケしているのなんてこの城の中でバルスだけだわ」

 

スバルの言葉にラムは冷たくそう帰す。

二人の間に流れるのは何とも微妙な空気だ。

一秒、二秒、沈黙が続き外の喧騒が徐々に聞こえるようになってきたころ。

ラムが大きく息を吐きだした。

 

「……はぁ。分かったわ。そこまで言うなら好きにしなさい」

 

 ラムからの呆れ混じりの許可を取り付けたスバルは、内心でほくそ笑みながら足早に自室へと戻った。

 思い立ったが吉日。やると決めたからには徹底的にやらねば気が済まないのが、ナツキ・スバルという男の性分だ。

 

「やるからにはハリウッド顔負けの特殊メイクで驚かせてやる。俺の器用貧乏の底力、とくと見せてやるぜ」

 

 腕まくりをしたスバルは、すぐさま屋敷内での素材集めに奔走した。

 厨房に忍び込んで夕食用にと確保されていた豚の血をこっそり失敬し、自室の裁縫箱から大量の綿と不要になった端切れを引っ張り出す。針と糸を振るうその手つきは、かつて大精霊のぬいぐるみを作り上げた時と同等の、無駄に洗練された職人技だ。

 

 完成したのは、本物と見紛うばかりの赤黒いダミー臓物。

 それを腹部に巻き付け、ベッドのシーツを引き剥がし、椅子を蹴り倒して激しく争った形跡を偽装する。仕上げとばかりに床や壁へ派手に血糊を撒き散らせば、わずか数十分で自室は凄惨な猟奇殺人現場へと変貌を遂げていた。

 

「よしよし、我ながら完璧なセットアップだ。血なまぐさい匂いもバッチリ充満してる。あとは、誰かが来るのを待って横になるだけっと……」

 

 満足げに頷き、スバルはふと思い出したように懐へ手を入れた。

 取り出したのは、最近彼が肌身離さず持ち歩いている小さな小瓶だ。コルクの栓を抜き、中に入っている丸薬を一粒手に取ると、スバルは水も飲まずにそのまま喉の奥へと放り込んだ。

 

(死体役に使えるかと思って買ったけど、この薬本当に効くのか……?)

 

 舌の根を焼くような強烈な苦味が広がり、スバルはわずかに顔をしかめる。

 直後、指先から急速に熱が奪われ、体が鉛のように重く、動かしづらくなる感覚に襲われた。だが、それは命を奪うものではなく、あくまで体の機能を一時的に低下させる強力な麻酔のようなもの。回らない頭で、スバルはこの後の展開を想像し、悪戯心がひどく擽られるのを感じていた。

 

 準備は全て整った。

 スバルは血溜まりの中心に仰向けに倒れ込むと、ゆっくりと目を閉じ、意識して呼吸を浅くする。

 さあ、来い。第一村人は誰だ。エミリアたんか? ベア子か? それともオットーか?

 誰の悲鳴がこの屋敷に響き渡るのかと、スバルが内心でワクワクしながら待ち構えていた、その時だった。

 

「おにいさーん、さっきメイドの怖いお姉さんが……って、あらぁ?」

 

 廊下からパタパタと軽い足音が近づき、遠慮のない動作で扉が開かれた。

 聞こえてきたのは、緊張感の欠片もない間延びした声音。

 第一村人は、メィリィだ。

 彼女の悲鳴が辺りに響くのを予見し、吹き出しそうになるのを必死に堪えるスバル。だが、数秒が経過しても、期待した悲鳴が鼓膜を揺らすことはなかった。

 怪訝に思い、気付かれないよう薄く目を開いたスバルの視界。そこには、真っ黒な瞳を限界まで見開き、微動だにせずこちらを見下ろしているメィリィの姿があった。

 

(―――――っ)

 

 背筋が粟立った。

 底知れない漆黒の瞳。その奥で、ぞっとするほどのどす黒い感情が渦巻いているのがわかった。まるで、姿なき外敵を即座に探し出し、その命を刈り取ろうとするような剥き出しの気配。

 それは、幼い少女の容貌とは裏腹な本物の暗殺者としての異質な殺気だった。

 

 スバルを物のように見定め、一歩も動かない永遠にも似た沈黙。

 だが、唐突に彼女はその丸い瞳に光を戻すと、いつものほんわかした笑みを浮かべてスバルの傍らへと歩み寄ってきた。

 そしてそのまましゃがみ込むと、一切の躊躇なしにスバルが作ったダミーの臓物に手を伸ばす。

 ぐじゅぐじゅと嫌な音を鳴らし、時折感触を確かめるように握りしめながら、メィリィはスバルの顔を見ることもなく口を開いた。

 

「うーん、お部屋の散らかし方は百点満点だけどぉ、散らばってる腸の太さが均一すぎて不自然だわぁ」

 

 そう言いながら、メィリィは容赦なく腸を引っ張る。

 当然スバルと繋がっている物ではないため、あっけなく腸はポロリと外れた。

 

「それにぃ、血の色も鮮やかすぎるわあ。時間が経てばもっと黒ずむはずだしぃ、何より血の匂いじゃなくて、厨房の豚肉の匂いがプンプンするものお」

 

 そこに悲鳴も驚きもなく、ただ純粋な、プロの暗殺者による容赦ない死体の品評が下される。

 いまだ手足の痺れが継続しているスバルは、黙ってまな板の上の鯉のように評価されるほかなかった。

 

「あ、それとぉ。お薬で誤魔化しているみたいだけれど、死んだ後特有の筋肉の硬直もないしぃ。ちょっとおにいさん、お仕事が雑よぉ」

 

 息継ぎの隙すら与えない、完璧な技術的ダメ出しの連打。

 これだけの時間をかけて作り上げたスバルの大作は、わずか数秒で木っ端微塵に粉砕されたのだった。

 そうこうしているうちに多少は体の自由が利くようになり、ここまで完全にバレているのであれば仕方ないと、スバルは不満げな表情を作ってメィリィに顔を向ける。

 

「……わーったよ、降参だ。結構本格的にやったつもりだったんだけどな」

 

「ふふっ、私を騙すならもうちょっと本気出さないとだめよお」

 

 そう言って、メィリィはくすくすといつも通りの笑みを浮かべる。

 だが、一瞬の間をおいて。寝転ぶスバルの両頬に、彼女はそっと冷たい手を添えた。

 至近距離から覗き込んでくる丸い瞳が、スバルの視界をいっぱいに埋め尽くす。

 

「死んだふりなんて悪趣味なことしてるとぉ、本当に動物さんたちの餌にしちゃうわよお?」

 

 かくして、スバルの突拍子もない悪ふざけの第一回戦は、あっけない終わりを迎えるのであった。

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