独自設定・オリジナル展開あり。
よろしくお願いします。
赤龍の帰還
ガルナ島での依頼を終え、しばらく経ったある日。
Fairy Tailのギルドは、今日も朝から騒がしかった。
朝だというのに酒を飲んでいる者。
依頼書の取り合いをしている者。
突然喧嘩を始める者。
そして――飛び交う椅子。
ルーシィ「危なぁっ!?」
顔の横を椅子が通り過ぎ、ルーシィは慌てて身を引く。
その直後。
ギルド中央でナツとグレイが正面からぶつかった。
ナツ「オレの火の方が強ぇって言ってんだろ!!」
グレイ「うるせぇ燃え猿!!」
ナツ「あぁ!?」
バゴォンッ!!と机が吹き飛ぶ。
ルーシィ「朝から何やってんのよあんた達ぃ!?」
ハッピー「いつものことだよ!」
ハッピーは焼き魚を齧りながら呑気に笑っていた。
その横ではエルフマンが机を叩きながら叫ぶ。
エルフマン「男なら朝から全力だぁぁぁ!!」
ルーシィ「意味分かんないから!!」
さらに別の方向ではカナが酒樽を抱えたまま笑っている。
カナ「がははっ!今日も平和だねぇ!」
ルーシィ「これ平和って言う!?」
ギルドの床には既に壊れた椅子の残骸が転がっていた。
ルーシィは額を押さえながら深くため息を吐く。
ルーシィ「ほんと、毎日毎日騒がしいんだから……」
するとカウンターの奥から、ミラがくすりと笑った。
ミラ「ふふ、でも最近は少し静かな方よ?」
ルーシィ「これで!?」
ミラ「S級魔導士の人達が揃うともっと凄いから」
ルーシィ「S級魔導士……」
ガルナ島での件を思い出す。
普通の依頼ですら命懸けだった。
それよりさらに危険な依頼を受ける魔導士。
ルーシィにはまだ実感が湧かなかった。
ルーシィ「そういえば、依頼ってどこまで種類があるの?」
ミラ「基本は通常依頼ね。その上に上級依頼、さらにS級依頼があるの」
ルーシィ「S級って、エルザさん達が受けてるやつよね?」
ミラ「ええ。普通の魔導士じゃまず生きて帰れないような依頼ばかりよ」
ルーシィ「うっ……」
ガルナ島のことを思い出し、ルーシィが少し顔を引き攣らせる。
ミラ「そのさらに上が10年クエスト」
ルーシィ「10年クエスト……」
ミラ「十年以上誰も達成できていない超高難易度依頼。生還率もかなり低いわ」
ルーシィ「聞くだけで怖いんだけど……」
ハッピー「しかもその上に100年クエストもあるよ!」
ルーシィ「まだ上あるの!?」
思わず叫ぶ。
もはや意味が分からない。
ミラ「今ギルドにいるS級魔導士は、エルザ、ラクサス、ミストガン、ギルダーツ……」
ルーシィ「ギルダーツ?」
ナツ「すっげぇ強いぞ!!」
グレイ「化け物みてぇな奴だ」
エルザ「Fairy Tail最強候補の一人だな」
ルーシィ「最強候補……」
エルザがそう言う時点で、相当なのだろう。
ハッピー「でも今は100年クエストに行ってるんだよね」
ルーシィ「100年クエスト……」
カナ「ギルダーツは昔から無茶苦茶だからねぇ」
カナが笑いながら酒を飲む。
その時。
ミラが少しだけ視線を横へ流した。
ミラ「あと、一人いるんだけど……」
ルーシィ「?」
ミラ「その人は一年半くらい前から10年クエストへ行ってるの」
ルーシィ「10年クエスト!?」
ナツ「ゼノなら大丈夫だろ」
グレイ「あいつが死ぬ姿とか想像できねぇな」
エルザ「……まあ、そうだな」
エルザまで普通に頷いている。
ルーシィ「ゼノって、そんなに凄い人なの?」
すると周囲の空気が少しだけ変わった。
ナツ達は顔を見合わせる。
カナは笑みを浮かべ、ミラはどこか懐かしそうに目を細めていた。
ミラ「強いわよ」
カナ「めちゃくちゃね」
グレイ「ただまあ……」
ナツ「怖ぇぞ」
ルーシィ「どっちなのよ」
ハッピー「あい、どっちも!」
その瞬間だった。
――ギィ……
ギルドの扉がゆっくり開く。
瞬間。
騒がしかった空気が、ぴたりと止まった。
ルーシィ「……え?」
ついさっきまで喧嘩していたナツとグレイですら動きを止める。
ギルド中の視線が、一斉に入口へ向いた。
「あれ……」
「おい……」
「まさか……」
「ゼノが帰ってきたぞ……」
「何年ぶりだ?」
ざわめきが広がっていく。
入口に立っていたのは、一人の女性だった。
黒を基調とした長いコート。
少し和風の意匠が入った落ち着いた服装。
長い黒髪。
そして、暗赤色の瞳。
静かなのに、妙に目を離せない。
ギルド中が騒いでいるはずなのに、その周囲だけ妙に静かだった。
ルーシィ(この人が……ゼノ?)
さらに視線を引いたのは、その肩に乗る黒猫だった。
赤い瞳を持つ、不思議な猫。
しかし、その猫もまた異様なほど落ち着いている。
女性――ゼノは周囲の視線など気にする様子もなく、真っ直ぐマカロフの方へ歩き始めた。
その姿を見ながら、ルーシィは小さく息を飲む。
ルーシィ(なんだろう……エルザさん達とも違う)
強い。
それは分かる。
だが、ゼノから感じるのは“強い魔導士”というより――もっと別の何かだった。
まるで長い年月を生きてきた怪物のような、そんな静かな圧力。
だが。
ナツ「ゼノォォォォ!!」
その空気をぶち壊すようにナツが飛び出した。
ナツ「帰ってたのかぁぁぁ!!」
ハッピー「あい!」
ナツ「勝負だぁぁぁ!!」
ルーシィ「ちょ、ちょっと!?」
炎を纏った拳を振り上げ、ナツが一直線に突っ込む。
だが。
ゼノは慌てる様子すらなかった。
ただ、一瞬だけナツを見る。
次の瞬間。
ドゴォォォンッ!!
ナツ「ぶべぇっ!!?」
ナツの身体が一直線に吹き飛び、ギルドの壁へ突き刺さった。
壁に大きなヒビが入る。
ルーシィ「えぇぇぇぇぇぇ!?」
ハッピー「あーあ」
グレイ「相変わらずだな」
カナ「久々に見たねぇ」
エルザ「むしろ軽い方だ」
ルーシィ「軽いの!?」
ナツは壁に埋まったままピクピクしていた。
ナツ「いっっっでぇ……」
ゼノ「……不意打ちするなら、せめて殺気を消せ」
ナツ「無茶言うな!!」
ギルド内に笑いが起こる。
どうやらこのやり取りも珍しくないらしい。
ゼノは何事もなかったように歩き続ける。
その途中。
エルザ「無事で何よりだ」
エルザが静かに声を掛けた。
ゼノは足を止め、少しだけエルザを見る。
ゼノ「……お前も変わらんな」
エルザ「それは褒め言葉として受け取っておこう」
短いやり取り。
だが、それだけで二人が互いを信頼しているのが分かった。
やがてゼノはマカロフの前で立ち止まる。
ゼノ「……終わった」
マカロフ「うむ」
ゼノ「……だが、なかなか堪える依頼だった」
ゼノは小さく息を吐く。
ゼノ「ああいう依頼は私へ回した方がいい。死人が出かねない」
マカロフ「……やはり危険だったか」
ゼノ「依頼書より酷かった」
ゼノは静かに続ける。
ゼノ「魔獣の群れだけではない。土地そのものが魔力汚染を起こしていた」
ルーシィ「魔力汚染……?」
グレイ「そんな状態で一年半かよ……」
ゼノ「放置していれば街が一つ消えていた」
さらりと告げられた言葉に、ルーシィは息を呑む。
街が消える。
そんなものを相手にしていたのか、この人は。
マカロフ「……ご苦労だったのう」
マカロフは静かに頷く。
すると。
カウンターからミラが優しく笑った。
ミラ「おかえりなさい、ゼノ」
ゼノ「……ああ」
短い返事。
だが、その声音は少しだけ柔らかかった。
カナ「これで少しは安心だねぇ」
グレイ「まあな」
ギルドの皆も、どこか安心したような顔をしている。
ルーシィ(怖い人なのかと思ったけど……)
その時だった。
ノヴァ「見すぎだ」
ルーシィ「ひゃっ!?」
肩の黒猫――ノヴァが、こちらを見ていた。
ルーシィ「しゃ、しゃべったぁ!?」
ハッピー「同じエクシードだよ!」
ルーシィ「エクシードって喋る猫いっぱいいるの!?」
ノヴァ「猫ではない」
ノヴァは呆れたようにため息を吐く。
ノヴァ「ゼノ・ジーヴェル。Fairy TailのS級魔導士だ」
ルーシィ「ジーヴェル……」
ノヴァ「昔からこのギルドにいる」
ルーシィ「昔から?」
ノヴァ「長いぞ」
ルーシィ「?」
意味が分からず首を傾げる。
その時。
ゼノがこちらを振り返った。
暗赤色の瞳と目が合う。
一瞬だけ、息が詰まりそうになる。
だが。
ゼノ「……ゼノだ。よろしく」
その声は静かで、思ったより優しかった。
それだけ言うと、ゼノはそのままギルド奥へ歩いていく。
ルーシィ「え、あ……よろしく?」
去っていく背中を見送りながら、ルーシィは呆然と立ち尽くしていた。
――自分は今、とんでもない人物と出会ったのかもしれない。
そんな予感だけが、不思議と胸に残っていた。
読んでいただきありがとうございます。
これから少しずつ更新していきます。