よろしくおねがいします。
『ポーリュシカの家』
部屋の中には薬草の匂いが満ちていた。
ベッドへ横たわるマカロフは、未だ意識を取り戻していない。
その姿を見つめながら、ゼノは静かに口を開く。
ゼノ「……どうだ」
ポーリュシカ「最悪さね」
ポーリュシカは不機嫌そうに眉を寄せる。
ポーリュシカ「魔力をほとんど持っていかれてる」
ポーリュシカ「あのジジイ、歳を考えないにも程があるよ」
ゼノは何も言わない。
ただ、眠るマカロフを見つめていた。
ポーリュシカ「……珍しいね」
ポーリュシカ「アンタがそこまで気にするなんて」
ゼノは静かにマカロフを見る。
普段は騒がしく怒鳴り散らしている男が、今は小さく呼吸を繰り返しているだけだった。
ゼノ「……長いからな」
ゼノ「マカロフは、子供の頃から知っている」
短い言葉。
だが、その一言だけで流れた時間の長さが伝わってくる。
ポーリュシカ「……本当、嫌になるね」
ポーリュシカ「気付けば、みんな年寄りさ」
その時だった。
ゼノの視線が、ゆっくり窓の外へ向く。
ゼノ「……っ」
ノヴァ「どうした?」
空気が震える。
遠くから、異様な量の魔力が集まり始めていた。
ゼノ「……大量の魔力が集まっている」
ポーリュシカ「何だって?」
ゼノは静かに目を細める。
ゼノ「……ジョゼめ」
・・・
『マグノリア』
ズウゥン、ズウゥン
いきなりギルド内が揺れ始める。
「何だ!!?」
「外だーーー!!!」
フェアリーテイルのメンバーが全員外へ飛び出す。
「な...何だあれは...」
そこには――
六本の巨大な脚を生やし、街を踏み鳴らしながら迫ってくるファントムロード本部の姿があった。
「ギルドが歩いて...」
「ファントムか!?」
「想定外だ...こんな方法で攻めてくるとは...」
「どうする...」
「あいつら...何をする気だ...」
・・・
『ファントムロード本部』
ジョゼは眼下のフェアリーテイルを見下ろしながら、静かに命令を下す。
ジョゼ「魔導集束砲ジュピター用意」
その言葉と同時に、ギルド内部から巨大な砲台が姿を現した。
膨大な魔力が砲身へ集まり、大気が震える。
「ジュピターだ!!!」
「マズいぞ!!!」
ジョゼ「消し飛ばせ」
次の瞬間。
轟音と共に極太の魔力砲撃がフェアリーテイルへ向かって放たれた。
・・・
『フェアリーテイルギルド前』
「全員伏せろぉぉぉ!!!」
エルザが前へ飛び出す。
ナツ「エルザ!!!どうする気だ!!!」
無数の魔法陣が展開される。
エルザ「換装――」
エルザ「金剛の鎧!!!」
グレイ「まさか!!受け止める気か!!!」
ジュピターが直撃した。
凄まじい爆音。
衝撃波が周囲の建物を揺らし、爆煙が空へ吹き上がる。
「エルザー!!!」
砲撃の中心。
エルザは砕けた盾を構えたまま膝をついていた。
エルザ「ぐっ...ぁぁ......!!!」
金剛の鎧は砕け、全身から血が流れている。
それでも。
フェアリーテイルの誰一人として、後ろへ通してはいなかった。
「スゲェ...」
「あれを止めちまった...」
「助かった...」
だが。
エルザ自身は既に立ち上がることすら困難な状態だった。
エルザ「はぁ...はぁ......」
ルーシィ「エルザ......」
その時。
ファントム本部から巨大なスピーカーを通してジョゼの声が響き渡る。
ジョゼ『マカロフ、エルザ、戦闘不能……貴様らに勝機はねぇ』
ジョゼ『ルーシィ・ハートフィリアを渡せ!!!今すぐにだ!!!』
怒号が街全体へ響く。
「ふざけるな!!!」
「仲間を差し出すギルドがどこにある!!!」
「ルーシィは仲間なんだ!!!」
フェアリーテイルの魔導士達が口々に叫ぶ。
しかしジョゼは。
ジョゼ『渡せ』
その一言しか返さなかった。
ルーシィ「...あたし......」
その時。
傷だらけのエルザが、ゆっくり顔を上げる。
エルザ「仲間を売るぐらいなら死んだ方がマシだ!!!!!」
傷だらけのまま、エルザがジョゼを睨みつける。
その隣で、ナツが拳を握り締めた。
ナツ「俺達の答えは何があっても変わらねぇ!!!!」
ナツ「お前達をぶっ潰してやる!!!!」
その言葉に、ルーシィの瞳から涙が零れる。
ジョゼ『......そうですか』
ジョゼ『ならば消えなさい』
ジョゼ『ジュピター第二射、発射準備』
「なっ......!!?」
「ま、まだ撃つ気かよ!!!」
「エルザはもう限界だぞ!!!」
再び巨大な砲台へ魔力が集まり始める。
フェアリーテイル側へ絶望が広がった。
そんな中。
エルザが震える身体で地面を這い、再び前へ出ようとする。
ナツ「やめろエルザ!!!」
エルザ「まだ......だ......」
エルザ「仲間を......守るんだ......!!」
しかし身体は既に限界だった。
立ち上がることすらできない。
それでも。
エルザは前へ進もうとしていた。
そして――
ゴォォォォ......
熱風が吹き抜ける。
「......え?」
空気が赤熱する。
次の瞬間。
ドンッ!!!
フェアリーテイルとジュピターの間へ、一人の影が着地した。
地面が砕け、周囲へ赤い魔力が広がる。
黒いロングコート。
そして。
ゆっくりと外される黒いグローブ。
ルーシィ「ゼノ......さん......?」
巨大な魔力が再び砲身へ収束していく。
空気が震える。
先程以上の圧力に、フェアリーテイルのメンバー達の表情が強張った。
「マズい......」
「今度こそ終わるぞ......!!」
ジョゼ『消えなさい』
ジョゼ『ジュピター第二射――発射』
轟音。
極太の魔力砲撃が再びフェアリーテイルへ向かって放たれた。
大地を抉りながら迫る破壊の奔流。
ルーシィ「ゼノさん!!!」
しかし。
ゼノは振り返らない。
静かに片腕を前へ出す。
ゼノ「……循環開始」
外されたグローブの隙間から、赤い紋様がゆっくりと浮かび上がる。
次の瞬間。
ジュピターがゼノへ直撃した。
「うおおおおお!!!?」
「直撃したぞ!!!」
爆音。
だが。
破壊は起きなかった。
凄まじい魔力の奔流が、ゼノの前で止まっていた。
いや――
吸い込まれている。
赤熱した魔力がゼノの腕へ流れ込み、周囲の地面へ無数の亀裂が走る。
熱量に耐えきれず、黒いロングコートの背中が裂けた。
露わになったのは、背中の上半分を覆うほど大きなFairy Tailの紋章。
そして、その紋章を斜めに裂くように刻まれた巨大な古傷だった。
ルーシィは息を呑む。
ギルドの紋章は、本来なら誇りの証だ。
けれどゼノの背にあるそれは、まるで巨大な爪で引き裂かれた跡と共に焼き付いているようだった。
赤熱した魔力が流れ込むたび、紋章と傷跡が脈打つように淡く赤く光る。
その光景は、美しいというよりあまりにも異様だった。
ジュピターの魔力が、徐々に小さくなっていく。
そして――
ドォンッ!!!
巨大な爆発音と共に、ジュピターそのものが霧散した。
静寂。
誰も言葉を失っていた。
ゼノはゆっくりと腕を下ろす。
外したグローブを握ったまま、静かにファントム本部を見上げた。
「滅竜魔導士......!?」
「ドラゴンスレイヤーだって......!!?」
ルーシィ「ゼノさんが......?」
ミラ「ゼノはFairy Tail最古参の滅竜魔導士よ」
ミラ「普段は滅多にその力を使わないけどね」
ミラの視線が、ゼノの外されたグローブへ向く。
ミラ「あのグローブを外す時は、本当に危険な時だけ」
ナツ「へへっ……」
ナツ「だから言っただろ」
ナツ「ゼノはスゲェんだ」
ジョゼ『バカな......』
ジョゼ『ジュピターを受け止めただと......!?』
ゼノは静かに目を細める。
ゼノ「……ジョゼ」
赤い魔力がゆっくりと周囲へ漏れ出す。
ゼノ「ギルドごと消し飛ぶ覚悟があるなら――」
ゼノ「かかってこい」
ジョゼ『ふざけるなァァァ!!!』
ジョゼ『たかが一人の魔導士がァ!!!』
大きく傾いたファントム本部が軋みを上げる。
しかしジョゼは怒りに顔を歪めながら、なお叫んだ。
ジョゼ『いいでしょう!!!』
ジョゼ『15分後!!!』
ジョゼ『特大ジュピターで貴様らまとめて消し飛ばしてやりますよォ!!!』
その宣言と同時に、ギルド内部へ再び膨大な魔力が集まり始める。
「まだ撃つ気かよ!!」
「嘘だろ……!!」
「今度こそ街ごと消し飛ぶぞ……!!」
フェアリーテイル側へ再び緊張が走る。
しかし。
ゼノは静かにファントム本部を見上げていた。
外したままのグローブ。
赤熱した紋章。
そして静かに揺れる暗赤色の瞳。
ノヴァ「……加減しろよ」
ゼノ「……分かっている」
次の瞬間。
ゼノ「赤龍の――」
ゼノ「咆哮」
轟音。
青白く輝く超高密度の魔力奔流が一直線に放たれた。
放たれた瞬間、周囲の水面が一気に蒸発する。
白い蒸気を撒き散らしながら、その奔流はファントム本部の脚へ直撃した。
爆発。
巨大な脚が数本まとめて吹き飛び、ギルド全体が大きく傾いた。
「うおおおおお!!!?」
「脚が吹き飛んだ!!!」
ジョゼ『き、貴様ァァァ!!!』
ジョゼ『ギルドの脚を!!!』
大きく傾いたファントム本部が軋みを上げる。
その時。
ナツが前へ出る。
ナツ「ゼノ!!」
ゼノ「……行ってこい」
ゼノは振り返らない。
短い言葉。
だが、その声には確かな信頼があった。
ゼノ「15分あれば十分だろう」
ナツ「……へっ」
ナツが口元を吊り上げる。
グレイ「言われなくてもそのつもりだ」
ルーシィ「みんな……」
エルザ「私も行く......!!」
震える身体で立ち上がろうとするエルザ。
しかし。
ゼノ「……座っていろ」
エルザ「だが......!!」
ゼノ「……よく守った」
その言葉に、エルザが僅かに目を見開く。
ゼノ「少し休め」
静かな声だった。
だが、不思議と逆らえない重みがあった。
エルザ「......っ」
悔しそうに唇を噛みながらも、エルザはゆっくり拳を下ろした。
エルザ「頼んだぞ……ナツ……」
ゼノは静かに前へ出る。
ゼノ「ここは、私が止める」
赤い魔力がゆっくりと周囲へ広がっていく。
その背中を見ながら、ナツ達はファントム本部を睨みつけた。
15分。
それが、フェアリーテイルに残された時間だった。
そして――
反撃が始まる。
読んでいただきありがとうございます。
今回はジュピター戦からゼノの本格介入まででした。
原作のエルザの名シーンを残しつつ、
ゼノの立ち位置は「守る側」「時間を稼ぐ側」として描いています。
感想とかありましたらよろしくおねがいします。