連れて来られた屋敷の門前で、ナルトの足がピタリと止まる。
それが結界の一種であることは分かったが、悪い気は感じない。前を行く少女も平然と門の中に入っていった。
泰明は急に歩みを止めたナルトを振り返ると、早く来いと無言の圧力をかけてくる。
促されるがまま門を通り抜けると途端に空気が変わり、思わず空を見上げ周囲を見渡した。まるで奥深い森林の中にでもいるような独特の木々や土の香りが鼻をくすぐる。いや、屋敷の敷地内というよりも森そのものだった。振り返ると、背後にまだ見えるはずの門や塀も消えている。
(時空間系の術……か)
敷地内に入るとすぐにナルトの手首にかけられていた術は解かれ、被せられていた布も取り払われた。
通された部屋で、ナルトはずっと気になって仕方がなかったことを尋ねた。
「あのさ。……『鬼』ってなんだよ。ずっと言われてるし、わけわかんねえんだけど」
その発言にその場にいた者の表情が固まる。ナルトとしてはおかしなことを聞いたつもりはない。あれだけ沢山の人に「鬼」と言われたのだから気にしないほうがおかしいというものだ。
「えーっと……とりあえず、こいつ寝かしてもいいか」
ナルトは部屋の隅にサスケを横たえながら苦しくないよう外套の留め具を外し、体に上にその外套を掛けた。そして、背を向けるようにナルトは腰を下ろす。
ナルトをこの屋敷まで連れてきた者たちも含め、その場には九名の人物が集っており、皆がナルトを見ていた。一人はあの少女だが、それ以外は全て男性だ。
彼らから表立った敵意は感じられず、ナルトもそれぞれの人物をじっと観察していた。また、それぞれが所謂イケメンだった。
(まさに天然の逆ハーレムの術だってばよ……。あの姉ちゃん何者だ?)
神子と言われていた少女は可愛らしいが、特別秀でて美しいというものでもない。どこにでもいるような普通の少女のように見える。
「ナルトさん、あの……その人は大丈夫ですか?」
少女はナルトの背後を気にしており、本気でサスケの容態を心配しているようだ。それも、ここに来るまでの道中でさえ全く目を覚ます気配がなかったからだろう。
「大丈夫だってばよ。力使いすぎて疲れてるだけで、怪我とかないからさ。しばらく休めばじきに目が覚める。……ありがとな」
ナルトがニカッと笑うと、少女もつられて微笑む。
「私は元宮あかねっていいます。あかねって呼んでください」
「あかね、さっきは囲まれてたとこ来てくれて助かったってばよ。全く話なんかできそうにない様子だったしな……」
ふと視線を感じた方を見ると、こちらを睨んでいる赤い髪の少年と目が合う。男たちの中でも特に若い。
「……お前、本当に鬼の一族を知らねえってのか」
「知らねーよ。だから聞いてんだ。……それに、金髪ならそっちにもいるだろ」
赤髪の少年の隣には彼と同じくらいの年頃に見える金髪碧眼の可愛らしい少年が座っており、急に話題が向けられ首をすくめていた。
「
ナルトの返事に気が立ったのか、イノリが立ち上がってナルトのもとに行こうとしたところを、近くにいた眼鏡をかけた青年はイノリの前に腕を出してその動きを制する。
「イノリ、落ち着きなさい」
「離せよ、
ナルトは自分の発言のどこに彼を怒らせる部分があったのかと首を傾げる。
そのやりとりを黙って見ていた泰明が口を開いた。
「鬼の一族とは、この都に仇なす者たちのことだ。その特徴は、金色の髪に青い目、白い肌、美しい容貌……」
「なら、オレは当てはまんねーよ。たしかに目と髪はそうだけど、肌はどっちかってぇと黒いほうだし。そもそも美形ではない」
ナルトの発言がよほどおかしかったのか、笑った者がいた。
「ははっ、その髪と、服装が目立ってたんだろ。たぶん。アンタ、ほんとに鬼のこと知らなさそうだな。俺は
どこか張り詰めていた空気が僅かに緩んだが、イノリはまだ膨れっ面をしていた。
「服装が目立つってのはわかってっから、どっかで調達しようとは考えてたんだけどなぁ……。変化の術ってのもアリか」
あの時、考えているところで行動する前に周囲が騒ぎ始めて、それどころではなくなった。ナルトは腕を組んでそんなことをぶつぶつ呟いていた。
「私は
この中では最も年長に見える。ナルトが人に囲まれていたところにもいた派手な格好の美丈夫だ。纏う着物には牡丹の花が薄く咲いている。牡丹の花が似合う男はそうはいないだろう。
「どこって……。うーん、木ノ葉隠れの里?っつっても、この世界にはたぶんない場所だ」
「ふむ。……泰明殿は、どう思われる」
にわかに信じがたい話であるが故に、友雅はその浮ついた容貌に似つかわしくない深妙な表情をしていた。
「恐らく、この者の言っていることに嘘はない。この世ではないどこか……。神子たちのいた世ともまた、違うのだろう」
「ナルトさん、僕もあかねちゃんも天真先輩もこの世界の人間じゃないんです。同じですね」
ナルトと同じ色の髪と目を持つ少年がそう言った。
「なんかよくある話、みたいな感じになってっけど……」
「常ならばあり得ぬ話だ」
泰明は間髪を入れずにそれを否定した。
「だよなー。オレもなんでこんなところに来ちまったのかわかんねえんだ。……ところで、その……相談だけどさ、コイツが目ぇ覚ますまで元の世界に帰れねえんだけど、なんか仕事ねえかな。例えば……用心棒とか護衛とか警備とかさ、そういうのなら得意だってばよ」
しかし、ナルトの容姿はこの都では目立ちすぎる。そのことに気がついたナルトは慌てて付け加えた。
「髪とか目の色はどうにでもなるからさ!」
ポンッと音がしたと思えば、ナルトの髪と目の色が黒に変化していた。もちろんこの世界には変化の術なんてものは存在せず、当然その場は騒然とした。
「やっぱり鬼じゃねーか!」
イノリがナルトを指さし叫ぶ。
「えっ?えっ?これダメかってばよ?!」
他の者はそんな二人を呆れ顔で見ていた。
「そのような術があるのだな。鬼の用いる術とはまた別のもののようだが、お前の世ではよくあるのか」
鬼の術とは違うものだと言い切る泰明の言葉と冷静な態度がナルトが鬼ではないことを物語っており、イノリは声を上げるのをやめた。
「よくあること……だな。ただ、普通は衝撃とかで解けちまうけど、オレのはそう簡単には解けねえ。……そういや泰明も変な術使ってたろ。何だよ、あれ」
「私は陰陽師だ。ゆえに、陰陽術を用いる」
「オンミョー術?聞いたことねえけど、なんか凄そうだな……。あ、いや、陰陽遁となんか関係あんのか……?」
腕を組み、ブツブツと独りごちているナルトをよそに、あかねはナルトの仕事をどうするか、住む場所はどうするか、彼女なりに何やら考えていた。
「ナルトさんがここでやっていけるように、武士団に入れてもらえないかなあ。警護とか用心棒が得意って、ちょうどいいと思うんだけど。頼久さん、お願いしますっ!」
彼女の声に、庭に一人控えていた長身の青年がすぐさま応える。ナルトに代わって気を失っているサスケを運ぼうと名乗り出た青年だった。
「神子殿……確かに私は藤原家の武士団を取りまとめる役目を預かっておりますが、得体の知れぬ者を雇う権限はありません」
「私から藤姫ちゃんにお願いするから大丈夫だよ。要するに、武士団で働けるように頼久さんに取り計らってほしいの。天真くんの時みたいに」
あかね、天真、詩紋は泰明の言うように元々こちらの人間ではない。この世界に来てから、あかねの友人ということで天真も詩紋も藤原家の屋敷で過ごすことを許されていた。天真に関しては働きつつ武士団の棟で寝泊まりすることを選択したのだが。
「天真は
「じゃあ……ナルトさんが私の力になってくれるなら、いいんですね」
あかねは言い出したら引かないところがある。その真剣な眼差しに頼久はたじろいだ。あかねはナルトを振り返る。
「ナルトさん、私に協力してもらえませんか。私の目的は、この都の穢れを払うことです。鬼の一族とはおそらく……戦うことになります」
ナルトにこの世界で人助けをする義理はない。それに鬼の一族についてもよくわからない。だが、この世界に来て初めてナルトに手を差し伸べたのは彼女だ。
「おう。よくわかんねえけどさ、あかねがいいヤツってのはわかる。よろしくな」
あかねはナルトの竹を割ったような返事に満足し微笑んだ。
友雅の中の人がカカシ先生と同じなのです…