永遠なる時空の中で   作:冬乃菊

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力試し

 あかねの半ば強引な説得により、ナルトは藤原家の屋敷で武士団の一員として働くことはほぼ決定したようなものだ。

「ナルト殿、かなりの手練れとお見受けするが、念のため実力をみたい」

 一時であっても武士団の一員となるからには、その頭領たる頼久にはナルトの力量を見定める責務がある。

「こんなヤツのどこが手練れだよ。簡単に泰明の術にひっかかってたじゃねーか」

 余程ナルトのことが受け入れ難いのか、イノリはやけに突っかかってくる。その姿がどこか幼い頃の自分に重なり、ナルトはつい笑みを溢す。

「なに笑ってんだよ」

「なはは……」

 どこまで突っかかって来るんだと、ナルトは居た堪れず無意識に手を頭にやる。

「少し口を慎みたまえ。私も一応、帝に仕える武官だからね。頼久と同意見だ」

 イノリを嗜めたのは意外にもあの華やかな出立ちの男、友雅だった。こんななりの男が本当に武官なのか?とナルトは驚き目を見開く。

「適当なこと言ってんじゃねえよな」

「彼の動きと落ち着き払った態度を見ていると、自ずと分かるものなのだよ」

 へえ。案外見るとこ分かってんなと、ナルトの口角が上がる。

「んなら、そこで軽く手合わせすっか」

 ナルトはすっくと立ち上がり、部屋から見える庭を指差す。

「おい……」

 背後で声がし、ナルトが振り返ると身を起こしているサスケと目が合う。

「もういいのかよ」

 安心して頬が弛むナルトとは対照的に、サスケは冷ややかな目をしていた。

「黙って聞いていれば、また面倒事に首を突っ込んだな。オレの瞳力が戻るまで大人しく待っていればいいだろう」

 目覚めた途端に小言かよと、ナルトは眉を寄せる。

「目ぇ覚ましてんなら早く声かけろって。狸寝入りかよ」

「お前の五月蝿い声で目が覚めた。置かれている状況が掴めずそのまま横になっていただけだ。……得体の知れん奴らにのこのこついていったのか。バカか?」

「オマエが森でぶっ倒れてるの見つけてここまで運んだの、オレなんだけど」

「助けてほしいと言った覚えはない。……だが、元の世界に戻れる程の瞳力の回復には相当な時間がかかる。それまで世話になるのも一つの選択肢としてあり得る」

 これが、サスケの精一杯だった。

「もっとこう素直にありがとうとか、世話になったとか言えねえのかよ」

 ナルトは盛大にため息をつくが、サスケはそれを気にも留めない。

「そもそも助けてやったのはオレの方だ」

「そりゃそっか。……ありがとな。もう少しで木端微塵だったかもしんねえ」

 サスケの頬が僅かに緩んだ。

 

 あかねと八葉こと八人の男性は、端正な顔立ちをしているサスケの口から放たれる予想を遥かに上回る言葉の数々に閉口する。目を覚ますなり二人は喧嘩し始めたかと思えばそうでもないようでもあり、もう完全に完全に蚊帳の外だといった状態だ。

「頼久、ナルトの相手はオレだ。その方が手間が省けて都合がいいだろう」

 不意に声をかけられた頼久は、動きを止める。サスケの凍てつくような鋭利な目はナルトとは真逆だ。特に長い前髪から覗く深い紫色の瞳の異様さ。

 腰に携えていた草薙の刀を外し、庭に下りようとするサスケの肩をナルトが掴む。

「体はもういいのかよ」

「瞳力が戻りきっていないだけだ。素手でやり合うだけなら問題ない」

 そう一蹴しその手を払い除けると、サスケは庭に降りナルトを見据え、悠々と構える。細身の身体に風が吹き付け左袖が不自然に風に靡き、あかねたちは彼が隻腕であることに気がついた。

 

 二人の間合いは五メートル程で、手合いにしては遠すぎる。その間に審判はおらず、ナルトとサスケは黙って視線を交わした。

 次の瞬間、二人の距離はゼロ。サスケの右手がナルトの拳を受け止めていた。すかさず右脚がナルトの鳩尾に向かってくる。その下をくぐりサスケの軸足となっている左足を狙い蹴りを入れようとするが、サスケはそれとほぼ同時に地面に右手を着き、軸足で地面を蹴上がると同時にナルトを狙う。

ーーーパシッ

 その蹴りさえナルトは見切って掌で受け止め、二人は再度間合いをとった。その展開はあまりにも速い。

 本当に二人の力は互角なのか、勝敗が結する気配はない。何度となく拳と脚がぶつかり合う。

「すっげえ」

 その明らかに人間業とは思えない二人の動きに、イノリは目を輝かせていた。泰明は表情を変えずに見ていたが、その他の者たちは開いた口が塞がらないでいる。

 しかし、サスケの方がわずかに劣勢気味だ。なにせ先程までずっと気を失っており尚且つ隻腕でもあり当然ともいえる。

「もらったぁ!」

 サスケの軸足が安定せずわずかに動きが遅れたのを見逃さず、頬にナルトの拳が入る。

 その光景に皆が息を飲む。

ーーーカラン

 ナルトの拳の先にはサスケの姿はなく、サスケが手合いの前に置いていった草薙の刀がナルトの足先に音を立てて落ちた。

「オレが負けだ」

 あかねと八葉は背後から聞こえる声に後ろを振り返った。そこには先程までナルトと手合わせをしていたはずのサスケの姿があり、その目を疑う。

「……勝った気がしねぇ」

 ナルトの一撃が決まる寸前に、サスケは輪廻眼の瞳力を用いて愛刀と自分の身体の位置を入れ換えたのだ。

 ナルトはパタパタと服を叩き、地面に転がるサスケの愛刀を拾い上げる。

「ほらよ」

 ナルトはサスケに向かって刀をぐいと差し出す。

「……ありがとう」

「っサスケがありがとうってぶっ」

「騒ぐな」

 拳骨がナルトの頭に落ちた。

 両者共に一勝一敗。

 

 分かったことは、ナルトとサスケの身体能力が桁外れだということだった。手合いの最中にも後にも息一つ上がった様子はない。正直、武士団ではこの二人の力をもて余すことになるだろうと、頼久は頭を抱えた。

 彼の黒い外套の下には、不自然に風になびく袖と、しなやかな肢体が隠されていた。ナルトとの手合いで見せた素早く無駄のない動きは、隻腕であることを忘れさせ見るものを圧倒した。

「その腕……ケガしたのか」

 イノリは皆が聞きたくても聞けないことを深く考えずに口にした。

 途切れた左腕に視線をやったサスケの口角がわずかに上がる。

「ナルトに、やられた」

 衝撃の告白だった。皆の視線がナルトに注がれる。

「ちょ、サスケそれは誤解を招かねえか?!」

「本当のことだろう。このオレに痕が残る程の傷を付けたのは、お前だけだ」

「それはオレも同じだってばよ。言っとくけど、オレも右腕は義手だからな!……傷とかすぐ治っけど、腕が切れたぶんは治んねえし」

 ナルトの右腕はどう見ても人のそれで、彼らにとっては「義手」という技術があること自体が理解できないだろう。別の世界から来たというあかね、天真、詩紋は理解できているようだが、それでもなんとも釈然としない表情をしていた。

「腕持ってかれる状況ってなんだよ……」

 天真は二人の会話に若干引き気味だ。

「昔、ナルトとは喧嘩していた」

「いや、どんな喧嘩だよそれ!」

 天真はすかさずツッコミをいれるが、サスケは構わず言葉を続ける。

「あの時は、本気だった。……この腕は、戒めのようなものだ」

「サスケ……」

 ナルトは、自分と同じように義手を着ければ暮らしも楽になるに違いないと幾度となくサスケに義手を勧めたが、その度にサスケは頑なに拒否していたことを思い出す。その理由を聞いたのは初めてで、ナルトはその端正な横顔を見つめた。

 二人の事情がどうであれ、腕をもぎあった二人がこう仲良く同じ空間にいることに違和感はない。彼らにしか分からないことがあるのだろう。これ以上の詮索は無用だった。

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