荒廃したディストピア世界で元社畜のおっさんはのんびり傭兵生活がしたい   作:EAT

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第4話 ご近所探索

 極東の抹消者(イレイザー)──ソウガ・カラナシが先日の旧日本海奪還作戦で後遺症を負った。

 

 そして、掃討者(スイーパー)として欠陥品の烙印を押されて、そのままホウデン・インダストリーから契約解除(クビ)にされたという話は、すぐさま業界中に知れ渡った。

 

 いつ、その生存区域を星異物たちに侵攻され蹂躙されてもおかしくなかった極東が、今もこうして健在なのは少なからず彼のお陰である。

 

 世界でも片手で数えられるほどしか存在しない【抹消者】の称号を最年少で手に入れ、その実力から極東では英雄的存在であったソウガの前線引退の報せは、業界各所を震撼させるには十分なビッグニュース。

 

 その衝撃的な内容に、「本当にあの戦闘狂が引退を?」と半信半疑な声も多い中、世界の星伐事業を牽引する企業は即座に動き出していた。

 

 何の為に?

 

 もちろん、極東唯一の抹消者──ソウガ・カラナシを自分たちの陣営に引き込む為である。

 

「──予想以上に長文の返事が来て、おじさんビックリ……」

 

「え、えへへ……た、隊長ぉ、クラン用のアドレス宛にも、たた、たくさん、来てるよぉ……」

 

 図らずも会社の()部下たちを率いて、傭兵稼業をすることになった直後のソウガの下には、気が付けば尋常ではないほどの勧誘(スカウト)メールが届いていた。

 

 その中には自分から送ったものはもちろんのこと、全く身に覚えのない、面識があるかも怪しい企業や研究所のアドレスも混じっていた。

 

「ノザマにAIDIVN(エイディヴン)、星印開発に他にも有名どころがエトセトラエトセトラ……流石は先輩。引く手あまたですね」

 

 隣からリンのパソコンモニターを覗き込んで興奮した様子のクレハに、ソウガは苦笑を浮かべた。

 

 そのメールの内容はどれもが熱烈な勧誘であり、期待していた今後の仕事に繋がりそうなものは極僅かだった。

 

「今更、こんな使い物にならなくなったおっさん捕まえて何させようってんだか……」

 

 この業界では、常にある程度の実績を持った掃討者というのは奪い合いである。

 

 それだけ、強い掃討者というのは雇用主にとって有益で与える恩恵が大きい。

 武力はもちろんのこと、多くの現場を経験して、仕事を完遂させてきた信頼度というのはなにものにも代えがたい。

 

 だから、掃討者として致命的な欠陥品の烙印を押されたとはいえ、業界でそれなりに有名なソウガともなれば、それでも欲しいと言ってくれる企業は一定数いる。

 

 まあ、その殆どが中小企業の駆け出しなのだが。

 

「どど、どうする、の? 返事……」

 

「評価してくれたことは素直に嬉しいけど、どこの話も受ける気はないよ。みんな、野次馬根性でちょっかい掛けてきてるだけだろうし」

 

 どこか不安げに尋ねてくるリンに、ソウガはキッパリそう言い切る。

 

 他企業はソウガにまだ使い道があると判断して、今回のようにお誘いをくれている。

 だが、誘われている張本人であるソウガからすれば、それは買い被りでしかなかった。

 

 自分のことは自分が一番わかっている。もう周囲が求めている、あの頃のような輝かしい活躍は出来ない。

 

 ──もうそういうのは十分だ。

 

 これからの新しい可能性が、自分よりも素晴らしい結果をこの世界にもたらしてくれるだろう。

 

 自分はもう終わった存在だ。その事実に悲観することは今更ないし、仕方のないことだと割り切っている。

 

 人間とは何れ老いて朽ちていく生き物なのだから。

 

「ふむ……」

 

 なんて達観した気分になりながら、無数に送られてきたメールの中から、目的であった仕事の依頼にいくつか当たりを付ける。

 

「リン。今、そっちにいくつかメールを転送した。どれも仕事の依頼みたいだから、ちょっと先方とやり取りしてくれるかな?」

 

「わ、わかった。任せてよ、た、隊長……」

 

「うん、よろしくね──」

 

 おどおど、びくびく。けれどその瞳に宿した光は爛々と、自信に満ちたリンにソウガは満足する。

 

 そして、次いで彼は今まで手持ち無沙汰にリビングで寛いでいた他のメンツを見遣った。

 

「依頼の選定はリンに任せるとして……話が纏まるまで、私たちは周辺の哨戒と同業の方々に挨拶でもしに行こうか。ご近所付き合いは大事だしね」

 

 ソウガの慣れた様子に、他の四人は待っていましたと顔を上げてすぐに立ち上がる。

 

 外に出る準備は既にできていた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 現在、世界は三つの区域に分けられている。

 

 一つは人類が今のところ安全に活動・生存することができる【生存区域】。

 

 星力技術で作り出した人類の防衛機構──半球状の防御膜(ドームフィルター)が周囲を覆うように張り巡らされており、これによって星異物の侵攻や大地の砂上化を食い止めていた。

 

 二つ目が強力な星導力によって、大地が汚染され銀の砂上と化し、星異物たちが跳梁跋扈する【汚染区域】。

 

 世界の七割以上がこの【汚染区域】に該当し、今もなお星異物たちは侵攻範囲を広げ、世界を汚染し続けている。

 

 そして最後が、【放棄区画】である。

 

【生存区域】と【汚染区域】の狭間……かつては防御膜(ドームフィルター)の範囲内だったそこは、長年の汚染侵攻により砂上化が強制的に進み、やむなく星異物の侵入を許してしまった区域だった。

 

 完全に汚染されて人が住み着けなくなったわけではなく、今もその建造物や生活インフラの一部は生き残っている。

 しかし、それと同時に常に星異物の脅威に晒され続け、死と隣合わせの状況を強いられる場所でもあった。

 

 けれど、未だにこの区域にはそれなりの人が生活していた。

 

 何故か? 理由は簡単だ。

 

 彼らは【生存区域】で暮らせるほどの金と地位を持ち合わせていないからである。

 

 誰もかれもが平等に平和を享受できる時代は既に終わりを告げた。

 生きていくための資源(リソース)は有限で、選ばれた権力と能力のある人間がまず何よりその恩恵を得た。

 

 この【放棄区画】に住み着いた人々には、その何もかもがないのである。

 

 ……もちろん、例外は存在する。それこそ、ソウガたちのような掃討者だ。

 

 星異物を殲滅できる掃討者はハッキリ言って金になる。

 

 大地を汚染し、人体を蝕むばかりであった星の力に適応した一部の新人類。

 今や人類のエネルギー動力源の殆どが、星異物や汚染区域で採取できる星の力に依存している。

 

 星異物との戦闘は命がけなのだから当然……この【放棄区画】というのは、企業や連盟に所属できない所謂、〈傭兵〉たちにとっては手頃な狩場であった。

 

 出現する星異物の数は汚染区域と比べて少なく、脅威度もあまり高くはない。

 

 それなりに人が住み着いていて、生存区域と違って力があれば大抵のことがまかり通る。

 荒くれ者や爪弾き者の多い傭兵たちにとって拠点にするには都合がよかった。

 

 新人や掃討者になるしかなかった半端者にとっては、ここで活動しない選択肢はない。

 

 だから、【生存区域】の周辺に点在するいくつかの【放棄区画】は、そこに住み着いた掃討者たちによってある種の縄張り意識というものが強く──

 

「おうおうおう! テメェら見ない(ツラ)だなぁ? ここが誰の縄張りか分かってぶらついてんのか? あぁッ!?」

 

 このように、お山の大将気取りのチンピラもどきがよく絡んでくる。

 

 周辺の地理や出現する星異物の種類を把握するのは、掃討者としての必須作業。

 手分けして拠点周辺を哨戒することにしたソウガは、クレハと一緒に行動していた最中にそれと出会った。

 

「とうッ!!」

 

 頭上──無数のビル群の一棟から突如として響き渡る声。

 

 視線を向ければ、そこには迷彩柄のジャケットに防弾チョッキを着こんだ坊主の青年が勇ましく跳躍していた。

 

 ──なんだか、こういうのも久しぶりだなぁ。

 

 いきり立つ丸刈り青年の姿に、ソウガは懐かしさすら覚えていた。

 

 学生の頃は、よく実地訓練と称して外に出ては色んな星異物を狩って、それと同じくらい色んな傭兵(チンピラ)に絡まれたものだ。

 

 会社勤めとなってからは、基本的に社用車での移動が基本だったし、外は外でも汚染区域の深部が主な仕事場だった為、メッキリこういった手合いと関わることが少なくなってしまった。

 

 そう思うと、ソウガは自分が若かりし学生時代にタイムスリップしたような気分に陥っていた。

 そんな彼とは裏腹に、隣の赤毛の部下はどうやら雰囲気が一味違うようだが。

 

「わはははっ! このオレ様の並々ならぬバトルオーラに恐怖して言葉も出ないか!? それなら今すぐこの危険極まりない戦場から退くことをお勧めするぜ、おっさん!!」

 

 推定十数メートルの半壊したビルから華麗に着地。肩にぶら下げた短機関銃を勇ましく構え、坊主頭は高笑いをする。

 

 その随分と鼻につく台詞と、何よりも敬愛する我らがリーダーに無礼極まりない坊主の態度を、クレハは当然見過ごせはしなかった。

 

「なんだあの坊主野郎……先輩、どうしますか? とりあえず、あの生意気な口が二度と聞けなくなるくらいにぶち殺しますか?」

 

 今にも自分の身の丈よりも大きな戦斧を、頭上の坊主に投げ飛ばそうと振りかぶるクレハ。そんな彼女を慣れた様子でソウガが止める。

 

「──うん、やめようね。別に私は気にしていないし、放棄区域(ここ)ではあの手合いは別に珍しくもない。いちいち目くじらを立てていたらキリがないよ」

 

「先輩がそう言うんだったら……わかりました」

 

 普段は天真爛漫で礼儀正しい彼女であるが、こと仕事場となると一気に血の気が多くなり、暴力的な面が露出する。

 

 その一因として、「大好きな先輩を侮辱するアホを絶対に許さない」といった、なんとも強火な感情も含まれているのだが、矢印の矛先であるソウガは全くそれに気が付いていない。

 

「ご忠告どうもありがとう。実はつい先日、傭兵になったばかりでね。ここの地理や情勢、出現する星異物がどんなものなのか調べていたところなんだ。──この【第九放棄区画】を拠点にしている同業者……それも随分と歴戦の猛者とお見受けする。よければ、この中年に一つここのイロハをご教授いただけないだろうか?」

 

「お、おお……随分と礼儀正しいおっさんだな。どうやら、()()にしては見る目があるらしい。そう! オレ様こそが、この第九で抹消者(イレイザー)──に一番近いと言われている男! (マダラ)のアザマルだ!!」

 

 坊主男──アザマルと名乗った──はソウガの下手に出てきた態度に一瞬きょとんと呆けるが、すぐに気分を良くしたように意気揚々と名乗りを上げた。

 

「仕方がないから特別にこのオレ様が、ここの事を手取り足取りで教えてやろう! しっかりついてくるんだぜ?」

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

「──はぁ、うざ……」

 

 サムズアップしてさらに鼻の穴を膨らませるアザマルに、二者二様の反応を見せる。

 

 クレハは明らかにアザマルの態度に嫌悪感を示していた。けれど、ソウガとしてはここは少し我慢してほしかった。

 

 やはり、自分たちで実地調査というのも大事ではあるが、もともとその狩場を主戦場としている先人から、話を聞けるのならばそれに勝るものはない。

 

 それを思えば、眼前のこのお調子者な坊主頭は実にちょうど良くて、ソウガたちからしてみればノーリスクな情報源であった。

 

「そうだな、まずはオレがよく狩場にしてるここの事を教えてやろう!」

 

 上機嫌に歩き出したアザマルの背中を、のんびりとした歩みでソウガたちはついて行くことにした。

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