荒廃したディストピア世界で元社畜のおっさんはのんびり傭兵生活がしたい   作:EAT

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第8話 闇深い

「急用なら仕方がない。ソウガがいないからって適当にするんじゃないぞ?」

 

「しないわよそんなこと。私が一番最初に統率者を見つけて先輩に褒めてもらうんだから」

 

「残念ながら父さんに褒められるのは俺たちだよ。残念だったねクレハ」

 

「そうよ! パパからのなでなではメアリーたちのものなのよ!」

 

 果たして、この個性豊かな色物集団とあのおっさんはどういう関係なんだろう。

 

 年齢バラバラ。扱う得物もバラバラ。なんなら自分よりも歳の低い()()までいる。

 そんな彼らの少ない共通点と言えば、黒のスーツを身に纏っていることと、異様なまでの隊長(ソウガ)への思い。

 

 ──これが本当に噂に名高いホウデンの第七部隊(セブンス)

 

 くりくりとした坊主頭がトレードマークの傭兵──アザマルが、薄らぼんやりとそんな疑問を抱いたのは当然の結果であった。

 

 何せ、企業所属の掃討者の情報(プロフィール)なんて、一介の傭兵がおいそれと閲覧できるモノではない。

 容姿や性別、扱う星痕(のうりょく)の詳細だけでも、高値で取引されることがあるのだ。

 

 それくらい、掃討者……それも汚染区域の深部を主戦場とする者たちはその知名度と裏腹に未知数なのだ。

 

 ──とんでもないことになってきたな……。

 

 極東の抹消者──ソウガ・カラナシの第九放棄区画移住。

 そして、第九放棄区画で起きている異変と、それを解決する為に連合(レギオン)の結成を提案してから翌日。

 アザマルは自らの判断で、朝早くから彼の拠点であるビルへと赴いていた。

 

 理由はソウガにとある頼みごとをする為であった。

 

 掃討者として学園を卒業し、就職に失敗してから早三年。

 最初は右も左も分からず、幾度となく死にかけて、同業者から騙され殺されそうになって、何度このクソみたいな傭兵稼業を辞めてやろうかと思った。

 

 それでも、このクソみたいな仕事にしがみつくしかなかったアザマルは今日まで、この第九放棄区画で紛いなりにも傭兵として食い扶持を繋いできていた。

 

 それは偏に、いつかはこの傭兵稼業で名乗りを上げて、大企業か連盟からヘッドハンティング。自分の部隊を率いて、長年宇宙(ソラ)の侵略者たちに好き勝手されている汚染区域を奪還して英雄になる。

 

 そんな野望を、この坊主頭の若造は抱いていたからだ。

 

 けれど、現実は一向にうだつの上がらない底辺傭兵生活。明日食う飯にあり付けるかも怪しい綱渡りな日々だ。

 

 アザマルの抱いた野望は夢のまた夢であったわけだが……そんな現状を脱却できるかもしれない幸運が彼の下に訪れた。

 まさか、たまたま己の自尊心を満たす為だけに声を掛けたおっさんが、あのソウガ・カラナシだとは思わなかったけれど、今は自分の愚行すらも誇らしかった。

 

 ──この人に教えを請えば強くなれるかもしれない。

 

 いや、絶対になってやるのだ。そんな自分本位で、実に浅ましい考えを腹に据えて、アザマルはかの英雄殿の下へと赴いたわけだ。

 

 結果として、この坊主頭の嘆願は聞き届けられ、

 

『それじゃあお試しで、みんなの調査に付いてってくれる? 本当は私が直接面倒を見たいんだけど、急用があってね──』

 

 こんな運びとなったわけである。

 

 ダメで元々、図々しいのは百も承知。

 押しかけセールスみたいな売り込みが功を奏したアザマルに文句を言う権利はないが……。

 

「あーはいはい。誰が褒めてもらうかを決めるより、みんなで頑張って、みんなで褒めてもらえばいいだろ」

 

 それぞれが異様な熱量の思いをあの中年に抱き、それを微塵も隠すことなく曝け出している光景は異様に映った。

 

 ──大丈夫かな、こいつら……。

 

 文句を言える立場ではないが、アザマルの不安は募るばかり。

 そんな坊主頭の不安を知ってか知らずか、この中で一番真面目であろう優男──レイジが声を掛けた。

 

「えーっと、アザマルくん……だっけ? 今日は僕と一緒に行動することになるからよろしくね」

 

「あ、はい……」

 

 思わず、いつもは荒々しく尊大な態度を気取っているアザマルは素で頷く。

 内心、謎の双子と赤いゴリラ女と同じじゃないことに安堵した。

 

「それじゃあ各々、割り当てられたエリアの探索と適宜、リンから指示された項目のチェックをよろしく。……一応、釘をさしておくけど、群れを見つけても単独で突っ込まないこと。ソウガに怒られても、僕は知らないからね」

 

「「「了解」」」

 

 先ほどまでの抜けきった雰囲気から一転、急にスイッチが入ったように、黒スーツの五人組の纏う覇気が肌を刺激した。

 

 アザマルは無意識に固唾を飲み、その温度差に別の不安を覚えるばかりだ。

 

 ──マジでなんなんだこいつら……。

 

 ・

 ・

 ・

 

 九番目に放棄された区画であるこの第九放棄区画は、他の放棄区画と比べて以前までは最も星異物の出現数が多く、様々な傭兵が活動拠点とするホームタウンだった。

 

 住民や傭兵らの有志で構築された防御膜(ドームフィルター)は、その影響もあってかかなりの大きさを誇っている。

 

 居住エリアと闇市と各傭兵御用達施設を覆ってもまだ少し余裕のある中立エリア。

 そこから一歩出てしまえば、そこはもう何の延命処置もなく、星の汚染に晒されて、半砂上化が著しく進行している荒廃した大地となる。

 

「ここには以前、大型の鳥獣種(ガルダ)が生息したと記録にあるけど、今は見る影もないな……」

 

 アザマルにとっては勝手知ったる庭。隣でまるで散歩をするかのように警戒心のないレイジより、三年もここにいる彼の方が、ここの地理に詳しいのは道理。

 

 自然と、何か気になる点や、事前に共有されていた現調資料の正否を確かめるように質問された。

 

「前まではどんな感じだったの?」

 

「……二大クランでも手に負えない大物で、今までは新人じゃない限り誰も寄り付かないエリアだった。上空から鳴き声がしたら、一目散に逃げろって言われるくらいには出鱈目な個体だったよ。俺も尻尾を巻いて逃げたことが何度もある」

 

「へぇ……かなりの大物だったんだな」

 

「魔境を平気で生き延びるアンタらからすれば、雑魚みたいなもんだろうさ」

 

 レイジの言葉に、アザマルは皮肉交じりに鼻で笑った。

 それをレイジは全く気にした様子もなく、朗らかに笑みを浮かべる。

 

「そうとも限らないさ。向こうだろうが、この放棄区画だろうがどんな掃討者でも死ぬときは呆気なく死ぬ。そこに貴賤はない。噂が独り歩きして、みんな僕たちをとんでもないバケモノ集団だと勘違いするけど、別にそんな大層なもんでもないよ。所詮は金魚の糞。僕たちが凄いんじゃなくて、ソウガが凄いんだ」

 

「……」

 

 冗談や謙遜などの雑念は一切ない。事実だけを滔々と語るようなレイジの眼は真剣そのものだった。

 

 やはり、(ソウガ)が絡むと雰囲気がガラリと変わる。

 その妙な違和感と、謙遜すれど、その一線を画したレイジの強者特有の安心感に、アザマルはつい口が緩んでしまった。

 

「その凄い奴に平気で付いてくアンタらも相当アレだけどな……。てか、ずっと気になってんだけどアンタらはどういう関係なんだ? ……いや、前いた会社の仲間ってのは何となく知ってるけど。繋がりというか、なんか──やけに仲良くね?」

 

 ずっと気になっていた素朴な疑問。

 

 アザマルから見ても、自分の三つ四つ上くらいにしか思えない若々しさのレイジ。

 見るからに勝ち気で華奢な容姿からは想像できない膂力を誇るクレハ。

 明らかに自分よりも歳下で、企業専属の掃討者をやっていたというジャックとメアリー。

 挨拶の時にほんの一瞬だけ姿を見た陰キャのリン。

 

 そのどれもがただの会社の仲間で済ませるには無理があるほど、アザマルの興味を惹いた。

 

「話すと長くなるから、詳しくは時間があるときに本人たちに聞くといいよ。けど、まあ、今後長い付き合いになるかもしれないし、簡単に概要だけ……ね」

 

 好奇心と期待に満ちたアザマルの視線を受けて、レイジはどこか気恥ずかしそうに頬を掻いて言葉を続けた。

 

「僕はソウガと同期でね。五人の中で一番付き合いが長いかな。昔は二人揃って『極東支部期待の新人!』なんて言われて、競い合ったものだよ。気が付けば、極東の英雄とただの平社員って感じで、信じられないくらい差がついちゃったけどね」

 

 自嘲気味に笑って話すレイジに嫌味は全くない。それどころか、本当に尊敬しているような敬意さえ感じられた。

 

「クレハも今はあんな感じで丸くなったけど、入社当時は生意気で敵意剥き出し、誰彼構わずに喧嘩を売る利かん坊だったんだよ。僕たちが二十六の時だったかな、すごい新人が来たもんだと思ったよ。当時のクレハは気に入らなかったら平気で上司をフルボッコにしたからね」

 

「それでよくクビにならなかったな……」

 

「あはは! 本当にね。そこは教育係のソウガの賜物かな。あっという間に、じゃじゃ馬の彼女の手綱を握って見せたからね。人を育てるのも上手い。だから、アザマルは運がいいよ。アイツは仕事以外で誰かの面倒を見ることは殆どないから……随分と気に入られたね」

 

「どう、何だろうな……?」

 

 懐かしむように笑うレイジの言葉に、アザマルはピンとこない。

 

 何せ、初対面ではかなりの失礼を働いて、軽く道案内をしただけだ。

 我ながらよく受け入れられたと思うし、今こうして彼の仲間と一緒に行動しているのも実のところしっくり来ていなかった。

 

「まあ、ソウガが気に入るのも何となくわかるかな。アザマルを見てると無性に懐かしくなる……歳は取りたくないもんだなあ」

 

「はぁ……?」

 

 一人納得したレイジにアザマルはざらついた頭を掻いて困惑するしかない。

 

「話を戻して、ジャックとメアリーは……これはアザマルが思ってるよりも複雑でね。僕から言えることはソウガとあの双子は家族ってことだけ。詳しいことは追々、あの二人と仲良くなったら聞いてみてよ」

 

「お、おう」

 

 口達者なレイジでも口ごもる内容。まだほんの僅かの付き合いであるが、その事実が含む意味を考えて、アザマルはぎこちなく頷くしかできない。

 

「最後にリンは……見ての通りとびきりのシャイでね。腕は確かだし、今でこそうちの頼れるオペレーターだけど、昔は本当に酷かった。無線越しでも声が小さすぎて何を言ってるかわからないし、一週間くらい姿を見せないこともざらだった。そんなんだから、腕は確かでもどこの部署にも馴染めなくてね。それを見かねたソウガが『自分の部隊に』って引っ張ってきて、ちょっとずつ打ち解けていったんだ。アザマルもあの子と仲良くなるのに時間が掛かると思うけど、長い目で見てあげてね? 歳も近いし、仲良くしてあげてよ」

 

「わ、わかった」

 

 切実なレイジの声音にアザマルはこくこくと頷くしかできない。

 

 ──……あれと?

 

 内心、そう思わないでもないが、己の野望を叶える為にはここで色々と覚えるのが一番だ。

 そういった打算的なことを考えると駄目で元々、やってみるだけやってみようと思う。

 

 そんなアザマルの思考整理を他所に、レイジは総括をした。

 

「結論、みんな何かしらソウガに思い入れとか恩があって、会社をクビになった今でも一緒に傭兵をやってるってわけ。こんな感じでどうかな?」

 

「本当にざっくりだけど、分かった……ような?」

 

「それはよかった」

 

 アザマルの煮え切らない返事を、レイジは満足げに受け取った。

 しかし、アザマルはまだ疑問が残るのか、次いでとばかりにこんな質問をした。

 

「最後に一つだけ。聞いていいもんかわかんないんだけど、どうしてアンタたちはホウデンをクビになったんだ? 今も傭兵を続けてるくらいだから、怪我ってわけでもなさそうだし……」

 

 その質問が彼らの地雷だったことを、アザマルは直後に知ることとなる。アザマルの何気ない質問を聞いたレイジはピクリと肩を揺らした。

 

「あー、それね──」

 

「ッ……!?」

 

 次いで、レイジから放たれる寒気と尋常ではない殺気にアザマルは恐怖から打ち震えた。

 

「ソウガはとある理由で掃討者として致命的な後遺症(ハンディキャップ)を負ってしまってね。それを受けて会社はアイツをクビにしたんだ。本人は納得してるみたいだけど、僕たちは会社の──上層部の奴らの考えがどうしても許せなくてさ。だってそうだろ? 今まで新卒から一生懸命会社のために働いて、なんならソウガは会社にとって莫大な利益と栄誉を齎した極東の英雄だ。それなのに、上層部のクソ共はアイツが使い物にならないと思ったらすぐに見切りを付けて……。確かに、企業としてその判断は間違っていないけどそうじゃないだろ。僕たちは体のいい捨て駒なのか? 今まで死ぬ気で頑張ってきた仕事に対する結果がその仕打ちなのか? 代用の利く人材でしかないのか? 違う。仮に、凡百の掃討者はそうだとしても、アイツだけは──ソウガだけは絶対に違う。本来なら引退を余儀なくされるハンディキャップを背負ったとしても、ソウガは違う。ソウガは未だ人類が成し遂げられない汚染区域の解放を成し遂げられる唯一の存在かもしれないんだ。世界から称賛され、未来永劫、その名を歴史に刻む英雄なんだ。だから、()()()()それを証明するために彼の手足となり、彼を見限った企業を見返してやるんだ。『愚かなお前たちの選択は間違っていた』ってね」

 

 ……果たして、レイジから長々と語られた答えは、アザマルにはその半分も理解できるものではなかった。

 

 けれど、そんな彼でも分かったことがある。

 

 ──これは……随分と闇が深そうだ……。

 

 自分がとんでもない奴らの巣窟に、足を踏み入れてしまったということを。

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